桜の奇跡 作:海苔弁
こちらを見た明依の肩を掴みながら、大地は怒鳴った。
「そんなの、日本にいる俺等だって一緒なんだよ!!
毎日毎日、一分一秒に妖怪に殺される人がいんだよ!!
仲間達の家族が犠牲になったかもしれねぇ……討伐隊の隊員の家族が犠牲になったかもしれねぇ。
家族の敵討ちのために、討伐隊に入った奴等なんざごまんといる……
そいつ等のために、死人が出ず平和を取り戻すために、俺等研究員が総出でいつも夜遅くまで妖怪達を調べて、今起きている騒動を鎮めようと懸命に動いてるんだよ!!研究してるんだよ!!
総大将の子供見つかった時なんざ、研究員全員歓声上げての大喜びして、朝方まで飲みまくったくらいだわ!!
明依!テメェが日本に半年滞在してた時、言ってたよな!?
『妖怪化した人を救いたい』って……あれは嘘か!?
こんなクソみてぇな妖怪に騙されて……人を犠牲にして……研究員として、恥ずかしくねぇのか!?」
「……アタシはただ……仁を……救いたくて」
『うるさいっすね……
人って』
如意真仙のその声と共に、明依の体が一瞬揺らいだ。下を見ると、背後から突かれた槍が腹を貫通していた。
「明依!!」
「明依ちゃん!!」
「な、何で……」
『もう用済みっすよ。
皆、よく働いてくれたっす。
これでようやく、兄君が復活ですよ』
揺れる建物、封じられていた経文が破け目を瞑っていた牛魔王がカッと目を開き覚ましたかのようにして、立ち上がり雄叫びを上げた。
「そんな!!」
「花琳!!何とかならないか!?」
「今やる!!
梨白、行くわよ!!」
「はい!」
「ランス、立てるか?」
「な、何とか」
『腕を見せて下さい』
駆け寄ってきた猪八戒は、血塗れになったランスの腕を見るなり、手から気功を出し彼の腕に当て傷の手当てをした。
「貴様、どういう真似だ」
『どうもこうも……三蔵が蘇れないのであれば、僕等はもう君等に用はないんですよ』
「僕等って……」
『念には念を。
僕等、裏切りが出ないように互いの体に盗聴器を付けて、それを互いに聞かれるようにしていたんですよ』
「……まさか」
『えぇ……
そろそろ来ますよ、僕の仲間達が』
“バーン”
飛ばされるドア……外から、幸人と秋羅を連れた悟空と沙悟浄が入ってきた。
『チッ……遅かったか』
『目覚めたばかりで、まだ完全とは言えません。
オマケに……
彼女から、まだ力を抜いています』
『……八戒、ここを任せる』
『片付いたらすぐに加勢します』
『悟浄、行くぞ』
『応よ!』
口笛で筋斗雲を呼び、それに飛び乗った悟空と沙悟浄は武器を手にして、まだ目覚めたばかりの牛魔王に攻撃した。2人に続いて、花琳に梨白、幸人も加勢した。
機械の前に立った猪八戒は、機械を操作し電源を落とした。美麗の体を纏っていた電気が消え、彼女は疲れ切ったかのようにして、息を切らしていた。
「美麗!!」
「秋羅!!美麗を頼む!」
「分かった!」
駆け寄る秋羅の後に、猪八戒は駆け寄り気功でベルトと全ての枷を外した。外した瞬間、美麗は手に氷の刃を作り上げそれを、猪八戒目掛けて刺し掛かった。
刺さる寸前、彼の前に秋羅は立ち腕で氷の刃を受け止めた。刺された秋羅は、美麗の目を見て驚いた……彼女の目は、青くなっており怯えきった表情を浮かべていた。
『どうして……目の色が赤から青に?』
「嫌だ……帰る……」
「あぁ、帰るよ。
もう大丈夫だから。な?」
差し伸べる秋羅の手に、美麗は怯え後ろへ下がり身を縮込ませた。
「嫌だ……嫌だ!!」
「美麗!
俺だ……秋羅だ」
「知らない……お前なんか、知らない!!」
「美麗……
アンタ、何かしたのか?彼女に」
『一時的に記憶を封じたくらいです。
それ以外は何も』
「記憶を封じたって……」
『八戒!!避けろ!!』
悟空の声に振り向くと、目の前に牛魔王の攻撃が迫っていた。当たる寸前、目の前に無数の経文が3人を囲い攻撃を防いだ。
『経文……まさか』
放たれている経文の方を見ると、美麗の前に現れた銀髪の長い髪を耳下で1つに結った者が、指で印を結び立っていた。
「だ、誰だ?」
『やはり、蘇りましたか。
藤閒の曾孫、苦しめてしまい申し訳ありません。
すぐに元に戻しますよ』
額に手を置き、その者はお経を唱えた。すると美麗の目の色が青から赤へと変わり、彼女は少々怯えているが元に戻っていた。
「み、美麗?大丈夫か?」
「……秋羅?
秋羅!!」
泣きながら美麗は、秋羅に抱き着いた。抱き着いてきた彼女を、秋羅は怪我をしていない腕で抱き締めた。
『猪八戒……良く、彼女の面倒を見てくれましたね。
やはり、子供の面倒を見るのはあなたが一番上手ですね』
『そんな事は……』
筋斗雲で猪八戒の元へ戻ってきた悟空と沙悟浄は、目の前にいる人物を見て驚きの顔を隠せないでいた。
『何で……だって、蘇るはず』
『何言っているんですか……あなた方を置いて、この私が1人で天界へ行くとでも思ったんですか?』
『……』
不意に流す、3人の涙……悟空達は流しながらその者…三蔵の前に膝を付き頭を下げた。
『さぁ、力を解放して牛魔王を倒しなさい。
さすれば、あなた方3人の罪は消え天界へ行けますよ』
そう言って、三蔵は3つの光る玉を悟空、沙悟浄、猪八戒と各々に与えた。与えると三蔵はそこからスウッと消えてしまった。
力を解放したかのようにして、辺りに風が吹き荒れた。
3人は姿を変えて、筋斗雲に乗り牛魔王に突っ込んでいった。
「今の内に、ここから逃げるぞ!」
「は、はい!」
台の上から降りようとした美麗を、支えようとした時だった。
『逃がしはしないッスよ』
その声と共に、美麗の体に電気が流れた。足元を見ると外したはずの枷が着けられ、そこから彼女の力を吸い取っていた。
『最高級の餌を、そう簡単には逃がさないっすよ』
「牛魔王復活してんだろ!!もう美麗の力は必要ねぇだろう!!」
『まだ必要っすよ。
今の兄君は、まだ完全ではないっす。そうですね……20%くらいの力しか出てないっす』
「嘘だろう……」
咄嗟に外そうと手を掛ける秋羅だが、枷には鍵穴どころか閉めている錠すらなかった。
『普通の人間が外すのは無理っすよ。
その枷は、猪八戒の気功じゃないと開かないようになっているんすよ』
「そんな……」
『だから、彼がここへ来ないと助ける事なんざ、出来ないっすよ?』
電気を纏った美麗は、徐々に弱まっていき台の上に倒れ込んでしまった。
「美麗!!」
『凄い量っすね。闇の力……
ぬらりひょんは、相変わらず凄い闇の量を持っているっすね。
こんな小さいのに、もう闇の力を持っているとは……ある意味驚きっす』
筋斗雲で牛魔王に攻撃していた猪八戒は、美麗達の方に目を向けた。美麗から未だに力を吸い取っているのを見た彼は、悟空と沙悟浄に指で合図した。彼等は頷くと、牛魔王の意識を自分達に移させ、猪八戒はその隙に彼女達の元へ向かった。
腹から血を流しながら明依は、大地の腕の中で横になっていた。
「結局……アタシは、彼の道具に過ぎなかったんだ……」
「明依ちゃん、それ以上喋ったら傷に障るわ」
「もういいよ大ちゃん……血の量と傷口からして、アタシ助からないから」
「……」
俯く大地の頬を、明依は力無しに手を挙げ撫でた。自身の頬を撫でる彼女の手を、大地は握った。
「アタシね……仁を人に戻したら……
大ちゃんに、伝えたいことがあったの……
でも、今伝えないと……二度と」
「明依ちゃん、もう良いわよ」
「ううん……言わないと、アタシが後悔する」
「……」
「……大ちゃん……
大好き……」
力無く、大地の手からすり落ちる明依の手……
大地は、生気の無い目を開けたままになった彼女の目を手で閉じ、大粒の涙を流して彼女を抱き締めた。
「馬鹿……そう言うのは、男の俺の役目だろう……
……俺も……
……俺も……
大好きだ……
明依」