桜の奇跡 作:海苔弁
『ほら、泣かないよ。
悟空、私はちゃんとあなたの元へ行きますよ。
どんな姿形になろうと、必ず……』
また会えるか?2人にも……
『えぇ、必ず……
彼等は、先に行きました。私も先に行きます。
ちゃんと、良い子にして待っているんですよ』
揺れる城……天井から次々と瓦礫が落ちてきた。
「ヤバい!崩れるぞ!!」
「一旦この部屋から出ろ!!」
攻撃の手を止めた秋羅は、愁を支えながら歩き部屋を出て行き、陽介とランス、幸人も攻撃を止めて外へ出た。
「大地、出ろ!!崩れるぞ!」
「先に行け!とどめを刺してから行く」
腹から血を出し倒れる如意真仙は、軽く笑いながら大地を見上げた。
『人って、やっぱり強いっすね。
何百年も前に、同じ事をやったのに……
兄君と戦ってるあいつ等に、邪魔されて……今度も同じように』
「……」
『まぁ、これでようやく……この地に少しは平和になりますよ。
でも、本当の平和が来るのいつなんでしょうね』
「さぁな。
その平和を作るのは、俺等人間次第だからな」
『そうっすね……』
如意真仙は最後の力を振り絞るようにして、如意鉤を大地目掛けて突いてきた。
如意鉤の先端が、大地の胸辺りで留まった……彼が突いたナイフが、如意真仙の首を刺しており傷口から血が溢れ出ていた。
『が……は……』
如意鉤を手から落とし、如意真仙は力尽きた様にして倒れた。首ならナイフを抜いた大地は、血を振り払いながら部屋を出て行った。
全員がいなくなったのを確認した悟空達は、力をさらに開放するかのようにして、各々の武器を光らせ牛魔王にとどめを刺した。
崩れゆく城内を、幸人達は駆け抜けていた。その時、外から竜の鳴き声が聞こえ外を見ると、花琳達が竜を達を連れて城の窓付近へ寄ってきた。
「竜を寄せるから、全員乗って!」
寄ってきた花琳の竜にランスと陽介は乗り、プラダに水輝と愁が乗り、梨白が乗る竜に秋羅が乗り、ネロの背中に紅蓮と幸人、美麗が乗った。
「幸人、大地は?!」
「後から来る!先に離れろ!!」
崩れる城から、竜達はすぐに離れて行った。すると、エルが鳴き声を発しながら城へ戻った。崩れかけているバルコニーへ行くと、エルの背中に駆け付けた大地が飛び乗った。
「大地!?」
「野生の勘か?エルの奴」
崩れゆく城……辺りを燃やしていた炎が徐々に消えていった。城が崩れ跡地となった場所に、月の光と共に三蔵法師が現れた。瓦礫の下敷きになった悟空達を見付けると、彼等の近くに立ち微笑んだ。
『良く、頑張りましたね』
『三蔵……俺等……』
『えぇ……もう行けますよ。
その為に、迎えに来たんですから』
光の玉に包み込まれる悟空達……ボロボロの体のまま、三蔵の元に引き寄らされた。
『やっと……行けるのか』
『長かったですね……』
『さぁ、行きましょう。
天界で、皆が君等を待っていますよ』
悟空達の光の玉を先に天界へと行かせた三蔵法師は、消滅した牛魔王と如意真仙の魂も天界へと送り、最後に残った明依の魂を包むようにして手を添えた。
『さぁ、あなたは私と共に行き魂を洗い流しましょう。新たな魂としてまた生き返れますよ。
あなたの弟さん、姿形が変わっていますがまだ理性が残っています。あなたが生まれ変わり、迎えに来ることを心より待っていますよ』
そう言うと、明依の魂は天へと旅立っていった。
『今日は、満月の夜ですね。
そういえば……最初の牛魔王を倒した時も、満月でしたね。
(そしてあの日も……)』
フラッシュバックする記憶……三蔵法師は、しばらくの間空を見上げ月を眺めると、月の光と共にその場から姿を消した。
数日後……
明依の森で羽を休める竜達……幸人と陽介、花琳は明依の家の中の遺品を整理していた。
「凄い書物の数だな……これ」
「流石研究員ね」
「陽介、これ全部本部に持って帰るのか?」
「後程手配した部隊に、貨物用の船を用意させて全て持ち帰る。
所長と元帥からの命令だからな」
「やっぱりあの2人か」
「ねぇ、そういえば大地は?」
「3日も寝込んだ奴なら、今外にいる。すぐに戻ってくるだろうよ」
「なら良いけど」
木々の隙間から太陽の光が溢れる広場……そこに建てられた墓石の前に、花を持った大地が立っていた。
(……明依ちゃん、僕チンは日本へ帰っても研究を続けるよ。
君がずっと調べていた人から妖怪へ変わってしまう事も、僕チンが引き継ぐよ。
だから、安らかに眠っててね)
赤い薔薇を大地は、墓石の前に置きそこを去って行った。
心地良い風が吹き、窓に掛かるレースのカーテンがヒラヒラと揺らいだ。窓の傍らに置かれたベッドに、美麗は静かに眠っていた。眠る彼女の傍に置かれた椅子に、秋羅は座り看病をしていた。
その時、水輝が部屋の中へ入り様子を見に来た。
「水輝さん……」
「ミーちゃんの様子は?」
「時々目を覚ますんですが、すぐにまた」
「そっか……」
枕に顔を埋め、気持ち良さそうに美麗の寝顔に、水輝は微笑みながら彼女の頭を撫でた。
「これだけ気持ち良さそうに寝てるんだ。大丈夫だよ」
「……
あ、そういえば愁は?」
「まだ抜糸してないから、もう少し掛かるかな。
今は起きて、ネロ達の傍にいるよ。じゃないと、彼等ここへ来る勢いだったから」
「やっぱり……」
ドアを軽く叩く音が聞こえ、その音と共にランスが部屋へ入ってきた。
「ランスさん」
「傷の方は良いみたいだね、ランス」
「はい、お蔭様で」
「すみません、部屋を借りてしまって」
「良いよ良いよ。
教会だから、部屋が余ってるんだよ。
それに、あの宿に泊まるより君等が自由に出入りできる、こっちの方が都合が良いでしょ」
「確かに」
「私はともかく、目が覚めて花琳がいたら騒ぎ出す可能性は高いね。ミーちゃん」
「ハハハ……」
明依の墓場……
そこへ、近寄る影……供えられた薔薇を毛深い手で撫でると、墓を守るようにしてそこに座り丸くなった。
その様子を、紅蓮は眺めていた。しばらく見守ると振り返りそこから去って行った。