桜の奇跡 作:海苔弁
カーテンから差し込む夕陽が顔に当たった美麗は、目を擦りながら目を覚まし、陽に背を向けた。
「眩しい……
?
あれ?幸人…秋羅…愁」
部屋を見回しながら、美麗はベッドから降りた。だが足に上手く力が入らず、その場に尻を着いた彼女はベッドに手を付けながら、フラフラと立ち上がった。
「力……入らない……
紅蓮!」
その声に、反応するかのようにしてドアが開き、外から秋羅が入ってきた。
「美麗!起きたか?!」
「秋羅……
足に力入らない」
「そりゃそうだ、5日も寝っぱなしだったんだから」
「……あいつ等は?」
不安がる美麗を、秋羅はベッドに座らせた。
「もういないよ。全部片付いた」
「……
ここ、どこ?」
「ランスさんの教会。
お前、あの時からずっと寝っぱなしだったんだ」
「……
愁達は?」
「皆森の方にいるよ」
「愁の所に行きたい!」
「もう少し休んでからの方が」
「嫌だ、行く!」
「分かったから、立とうとするな!」
立とうとした美麗を背負い、秋羅は外へ出て行った。
「フゥー、やっと半分終わった」
息を吐きながら幸人は懐から煙草を取り出し吸い、彼の隣で、陽介と大地も同じく煙草を吸い出した。花琳は少々嫌な顔をしながら、彼等から少し離れた場所で休んだ、
「明依ちゃん、資料多過ぎ」
「てか、整理しなさすぎ」
「……お前、本性はどっちなんだ?」
「こっちに決まってるでしょ。
あっちは、精神的に疲れるから嫌なのよ」
「……二重人格って云うの?」
「まぁ、そうね。
2つの人格を持ってるから」
「あっちの人格は、自分は元アサシンだって言ってたけど?」
「事実よ。
僕チンと翔、元々同じ組織にいた子供なの」
「え?翔が?」
「初耳だ、その話」
「当たり前よ。
保護された時、別々の所に送られてその後アスル・ロサに来たのよ」
「全然気付かなかったわ……」
「俺は薄々気付いていた」
「え?!」
「言っとくが、俺もだ」
「何でアンタ達兄弟は、こうも勘が良いのかしら?」
眉をピクピクさせながら、花琳は2人を交互に見た。
「翔の奴、施設に来た頃……ずっと大地の周囲に必ずいたし」
「甘えるでも嫌いでもなく、大地の目に入る範囲に必ずいた」
同期達と楽しそうに話す幼い頃の大地の姿……その周囲に必ず、幼い翔がいた。その光景を幸人と陽介は思い出していた。
「そりゃそうよ。物心ついた頃から……いいえ……
つく前から、彼とは一緒だもの。任務をやる時も御飯を食べる時も寝る時も……」
思い出す過去……暗い部屋に灯る蝋燭の火で、書物を読む大地の傍ら、彼に寄り掛かるようにして翔は眠っていた。
「もう1人の貴様は、どういう経緯で目覚めるんだ?」
「さぁね。
ずっと薬で抑えてるから、分からないわ。
発動するならば……今回みたいに、戦える者が周りにいなくなった時かしら」
「……あら?」
何かに気付いた花琳は、声を上げながら前を見た。
美麗を背負い森へ秋羅は、彼女を降ろした。2人の姿に幸人は煙草を消し、彼等の所へ行った。
「起きたのか」
「今さっき。
愁の所に行くって聞かなくて」
「愁は?」
「抜糸するために、さっき水輝と一緒に病院に行った」
「……いないの?」
「すぐ戻ってくる」
「……!
紅蓮!」
美麗の元へ駆け寄ってきた紅蓮は、体を彼女に擦り寄らせ頬を舐めた。
「あの様子だと美麗、体の方は平気みたいね」
「まだ完全じゃないわ」
「え?」
「足下、フラフラよ。
おそらく、起き上がれる程度の回復でしょうね」
「見ただけで分かるなんて、流石ね」
「水輝達から送られてくるデータと映像資料、毎回目を通せばだいたい分かるわよ」
紅蓮の背中に乗り、体を伏せていたネロの元へ美麗は行った。ネロは彼女の気配に気付くと、体を起こして顔を寄せ頬摺りした。
ネロに続いて、エルにゴルド、プラダ、アゲハも美麗の元へ寄り頬を舐めたり体を擦り寄らせた。
「すっかり美麗に甘えちまって……」
美麗をジッと見つめる大地……彼は隣にいる陽介に言うようにして話した。
「陽君、僕チンからも2人にはお願いしてみるけど……
ぬらちゃんをこっち(討伐隊本部)で引き取る話、無しして貰うわ」
「……どういう風の吹き回しだ?」
「明依ちゃんの資料の一部に、あったの。
各国の妖怪達が持つ闇の力は全て、大将が保持するって」
「……」
「その事に関して、翔と極秘に調査するつもりよ。
もしそれが本当なら、ぬらちゃんにとって今の生活が1番闇の力を抑えられている……維持できているの。
もっと詳しく分かれば、最近出て来た黒いオーラを纏った妖怪の対処方法が分かるかも知れないわ」
「……」
数時間後……
水輝と共に明依の家へ帰ってきた愁。騒がしいネロ達の姿を見て、愁は一目散に駆け出した。
「愁!!そんなに激しく動かすと、傷口開くよ!!」
帰ってきた愁の元に、エルは駆け寄り出迎えた。エルの様子に、美麗は紅蓮に支えられながら立ち上がり振り返った。
「……!
愁!」
駆け付けた愁に美麗は抱き着いた。愁は抱き着いてきた彼女を、傷がないか探るようにして、頬や頭、腕などを触り見た。
その様子を伺いながら、水輝は2人の元へ行き離れた場所にいた幸人と秋羅も行った。
「一応、傷口は塞がって抜糸はしたけど……
激し動くのは禁止。1週間は絶対安静」
「分かった。
当分の間は、仕事は俺と秋羅でやるつもりだ」
「その方が良い。
起きてからのミーちゃんの様子は?」
「足に力が入らないみたいで、上手く歩けないって……
それ以外は特に」
「足に力が入らない……」
気になった水輝は、美麗達の元へ歩み寄った。歩み寄る彼女の後を、幸人と秋羅はついて行った。
「愁、ちょっとごめんね」
『?』
「ミーちゃん、私の腕に捕まりながらで良いから、立ってみて」
足に力を入れ立ち上がる美麗……ふらつき倒れ掛けた彼女に紅蓮は助け船を出そうとしたが、愁がそれを阻止し立とうとする美麗を見守った。
「多分、まだ体が回復しきってないから、立てないんだと思うよ」
「やっぱりですか」
「今起きてるのも、やっとだと……」
水輝が説明している傍から、眠くなったのかあくびをしながら美麗は目を擦った。
「言ってる傍から」
眠たそうにする美麗を、愁は自身の足を枕に寝かせた。撫でる彼の手を美麗は軽く握りながら、眠りに付いた。
その様子を頬杖をつきながら、大地は見ていた。
(……ぬらちゃんにも、2つの人格があるのかしら……
闇の力を発揮した時のぬらちゃんと……
自分の妖力を発揮した時のぬらちゃん……
どっちが先に目覚めたのかしら)