桜の奇跡 作:海苔弁
枯れ葉を踏みながら、美麗は牧場を馬達と駆け回っていた。
「あんまりはしゃぐと、転ぶぞー!」
「平気!」
動物小屋を愁と掃除していた秋羅は、走り回る美麗を注意した。
数ヶ月間、しっかりと身体を休めたおかげで、美麗は牧場を駆け回るほど回復した。
山積みになっている落葉に、美麗は飛び込んだ。舞い上がる落葉の中に埋まった彼女を、一緒に走っていた紅蓮は加え出した。頭に乗っている葉っぱを、振り落とした美麗は寄せてきた紅蓮の頬を撫でた。
「すっかり元気になったな、美麗の奴」
『でも、まだ夜中飛び起きる。泣きながら』
「それは時間が解決してくれるのを、待つしか無い」
『……?
秋羅、お客さん』
「?」
玄関の方に目を向けると、門を開け中へと入ってくる2つの人影が見えた。
「誰だ?
出迎えてくるから、ここ頼んだ」
『分かった』
去って行く秋羅の背中に、美麗は愁の元へ駆け寄った。
『お客さん来たから、中に入ろう』
「誰来たの?」
『さぁ……』
討伐隊本部……
会議室に集まる、幸人達。資料を読み上げ終えた大地を前に、一同は深く息を吐いた。
「以上が、西領域で起きた事」
「何か、知らない間にそんな壮大なことをしていたなんて」
「驚きです」
「牛魔王復活の際に、美麗の力を使ったって書いているけど……
その力って」
「そこには書いていないけど……
闇の力よ」
「……」
「現在、この日本で黒いオーラを纏った妖怪の目撃情報がいくつもあるの知ってるでしょ?
普通の妖怪とは異なり、狂暴化で敵味方関係無しに殺戮を楽しむ妖怪」
「バーサーカー状態ッスね」
「その狂暴化した妖怪と闇の力、何が関係してるの?」
「してるにはしてるけど……まだ詳しいことは」
「そう……」
「幸人、今美麗はどういう状態だ?」
「体力は回復して、今頃走り回ってるだろうよ」
「あら、やっと起きたの?」
「まぁな。
けど、夜泣きが酷い……」
「何だ?赤ちゃん返りか?」
「んな訳ねぇだろう。
傷がまだ癒えてねぇんだよ、心の」
「それは可哀想に」
「確かに、ここ数ヶ月のデータに『夜泣き有り』って、記載されてるわ」
「時間が解決してくれるのを、待つしか無いという事か?」
「だろうな……
陽介、煙草良いか?」
「構わん」
「そんじゃ俺も」
「2人に続いて!」
換気のために、陽介は窓を開けそれと同時に幸人と創一郞、迦楼羅は煙草を吹かした。
「本当、煙草好きだね」
「早死にするわよ?」
「ほっとけ」
「そういえば、愁君は?少しはマシになったかしら?」
「普通だ。
その辺にいる成人男性と変わらない」
「あら?じゃあもう、1人で生活できるの?」
「そこまではまだ無理だ。
まぁ、買い物と留守番くらいは出来るようになったかな」
「随分と成長しましたね」
「一度は会ってみたいのぉ」
そう言いながら、会議室に蘭丸と梗介が入ってきた。陽介と大地、席から立ち上がった幸人は敬礼した。
「来るのであれば、迎えに行きましたのに」
「何、たまたまこっちに用があって、そのついでに寄ったんじゃ。
大地、今幸人が話しておった愁と言う者の写真はあるのか?」
「え、えぇ。ありますよ」
書類の中から、愁が写った数枚の写真とデータを、大地は蘭丸に見せた。
愁の顔写真を最初に、彼の写真には美麗が一緒に写っていた。写る彼女の表情に、蘭丸は薄らと微笑を浮かべた。
(まるで、晃さんと写っているみたいじゃな)
「なぁ蘭丸、アンタは闇の力を知ってるか?」
「闇の力?
確か、妖怪の世界では禁忌の力だと聞いたことがあるが……」
「やっぱり、そこまでか……」
「闇の力についての資料、昔はありましたか?」
「いや……
儂が若い頃、それについて調べようとした研究員は、何人かいたが……それ以降、発展は何も」
「本当に資料がないのね、そうなると」
場所は変わり、幸人達の家……
ソファーの上で眠る美麗に、愁は毛布を掛け頭を撫でた。彼の肩に留まっていたアゲハは、彼女に寄り添うようにして傍に降り、眠りに付いた。
「じゃあ愁、夕飯前には帰ってくるからあと頼んだ」
『分かった』
そう言って、秋羅は仕事道具を持って家を出た。出て行った後、愁は外から聞こえてきた馬達の鳴き声が気になり外へ出た。
しばらく馬達を宥めていた時、家の方から美麗の泣き声が響き、愁は慌てて戻った。中へ飛び込むと、ソファーの上に座り込み涙を流し泣き喚く美麗と、彼女を宥めようと必死にアゲハが周りを飛び回っていた。
『美麗、俺ここにいるよ』
そう言いながら、愁は美麗の隣に座り彼女を抱き寄せ背中を擦った。擦られた彼女は、徐々に落ち着きを戻していき、しゃくり上げながら愁にしがみつき肩に顔を埋めた。
『キー?』
『美麗、少し外出る?』
「……うん」
鼻を啜りながら、美麗は愁の手を握りながら表へ出た。牧場で馬達を見ていた紅蓮は、彼女に気付くと駆け寄り体を擦り寄せた。
「愁、秋羅は?」
『仕事で出てる。夕飯前には帰ってくるって。
もう少し落ち着いたら、買い物行こう』
「うん」
微風が吹き、草木や愁達の髪や紅蓮達の毛を靡かせた。気持ち良さそうにする美麗が着けている妖魔石が、一瞬光を放ったがまた暗くなり、元の色に戻った。
夕方……
街灯に明かりが灯る町の中を、愁は美麗と歩いていた。買い物袋を抱える愁の服の裾を掴み歩く美麗は、紙を見ながら袋を見た。
見ながら歩いていた時、何かに気付いた美麗は顔を上げ前方を見た。体を伸ばしながら歩いてくる、秋羅の姿があった。
「あ!秋羅!」
「?
あれ?お前等」
駆け寄ってきた美麗を受け止めた秋羅は、彼女の頭を撫でながら愁から買い物袋を1つ受け取り帰路を歩き出した。
町を離れ草木に囲まれた道を、アゲハと遊びながら美麗は秋羅達の先を歩いていた。
「そっか……また泣いたのか」
『でも、俺が来たらすぐ泣き止んだ』
「それは夜中でもそうだろう?
俺や幸人が来たら、すぐに泣き止むし……
やっぱ、ちゃんとした所で診て貰った方が良いのかなぁ」
『診る?
水輝達、診てるよ?』
「違う違う。
心の傷を治す医者に、診せるんだよ。
水輝さんは体に出来た傷を治す医者で、暗輝さんは動物の傷を治す医者。
心は専門外」
『こころ?
こころって、何?目に見えないの?』
「目には見えないな。
そうだなぁ……
愁はさ、美麗と一緒に居る時どういう感じになる?」
『……不安じゃなくなる。
安心するし、この辺りが軽い』
そう言いながら、愁は自分の胸辺りに手を置いた。
「それが心だよ。
嬉しかったり悲しかったり、怒ったり泣いたり……
感情や知識、精神のことを心って言うんだ」
『……俺にも、心あるのか?』
「あるだろう。
お前、美麗が危険な身になったりいなくなったりすると、幸人や俺達の意見無視して速効で助けに行こうとするじゃねぇか。
西領域の時だって、悟空達にさらわれた美麗助けに行こうとしただろ?」
『だって、美麗を危険な目に遭わせちゃいけないって……』
「そういう気持ちがある限り、心は存在するよ」
アゲハを追いかけ回す美麗の、楽しそうな表情に秋羅は微笑んだ。同じように見ていた愁は、一瞬別の者が映った。
小物妖怪と駆け回る、1人の女性……笑う口元が見えるが、目元が見えなかった。そんな彼女の元へ、1人の男が歩み寄り女は彼の元へ駆け寄った。振り返った2人は、自分に向かって手招きをした。
目に見えた光景はそこで途絶え、気付くと美麗がアゲハと共に、自分と秋羅の元へ駆け寄ってきた。
(……今の、何だ?)
「愁?大丈夫?」
『うん……平気』
空いていた手で、愁は出していた美麗の手を握り帰路を歩いていった。
闇の力……
またの名を負の力。
妖怪にとって闇の力は、禁忌の力。
その力を手に入れたら最後、二度と元には戻らない。
破壊と殺戮を糧にして、この地を滅ぼす妖怪と化する。
そして、それを止められるのは、神の領域の力を手に入れた者のみ。