桜の奇跡   作:海苔弁

214 / 228
青く生い茂っていた木々が、赤や橙色、黄色へと変わっていく頃……


枯れ葉を踏みながら、美麗は牧場を馬達と駆け回っていた。


「あんまりはしゃぐと、転ぶぞー!」

「平気!」


動物小屋を愁と掃除していた秋羅は、走り回る美麗を注意した。


数ヶ月間、しっかりと身体を休めたおかげで、美麗は牧場を駆け回るほど回復した。

山積みになっている落葉に、美麗は飛び込んだ。舞い上がる落葉の中に埋まった彼女を、一緒に走っていた紅蓮は加え出した。頭に乗っている葉っぱを、振り落とした美麗は寄せてきた紅蓮の頬を撫でた。


「すっかり元気になったな、美麗の奴」

『でも、まだ夜中飛び起きる。泣きながら』

「それは時間が解決してくれるのを、待つしか無い」

『……?


秋羅、お客さん』

「?」


玄関の方に目を向けると、門を開け中へと入ってくる2つの人影が見えた。


「誰だ?

出迎えてくるから、ここ頼んだ」

『分かった』


去って行く秋羅の背中に、美麗は愁の元へ駆け寄った。


『お客さん来たから、中に入ろう』

「誰来たの?」

『さぁ……』


闇の力

討伐隊本部……

 

 

会議室に集まる、幸人達。資料を読み上げ終えた大地を前に、一同は深く息を吐いた。

 

 

「以上が、西領域で起きた事」

 

「何か、知らない間にそんな壮大なことをしていたなんて」

 

「驚きです」

 

「牛魔王復活の際に、美麗の力を使ったって書いているけど……

 

 

その力って」

 

「そこには書いていないけど……

 

 

闇の力よ」

 

「……」

 

「現在、この日本で黒いオーラを纏った妖怪の目撃情報がいくつもあるの知ってるでしょ?

 

 

普通の妖怪とは異なり、狂暴化で敵味方関係無しに殺戮を楽しむ妖怪」

 

「バーサーカー状態ッスね」

 

「その狂暴化した妖怪と闇の力、何が関係してるの?」

 

「してるにはしてるけど……まだ詳しいことは」

 

「そう……」

 

「幸人、今美麗はどういう状態だ?」

 

「体力は回復して、今頃走り回ってるだろうよ」

 

「あら、やっと起きたの?」

 

「まぁな。

 

けど、夜泣きが酷い……」

 

「何だ?赤ちゃん返りか?」

 

「んな訳ねぇだろう。

 

傷がまだ癒えてねぇんだよ、心の」

 

「それは可哀想に」

 

「確かに、ここ数ヶ月のデータに『夜泣き有り』って、記載されてるわ」

 

「時間が解決してくれるのを、待つしか無いという事か?」

 

「だろうな……

 

陽介、煙草良いか?」

 

「構わん」

 

「そんじゃ俺も」

 

「2人に続いて!」

 

 

換気のために、陽介は窓を開けそれと同時に幸人と創一郞、迦楼羅は煙草を吹かした。

 

 

「本当、煙草好きだね」

 

「早死にするわよ?」

 

「ほっとけ」

 

「そういえば、愁君は?少しはマシになったかしら?」

 

「普通だ。

 

その辺にいる成人男性と変わらない」

 

「あら?じゃあもう、1人で生活できるの?」

 

「そこまではまだ無理だ。

 

まぁ、買い物と留守番くらいは出来るようになったかな」

 

「随分と成長しましたね」

 

 

 

「一度は会ってみたいのぉ」

 

 

そう言いながら、会議室に蘭丸と梗介が入ってきた。陽介と大地、席から立ち上がった幸人は敬礼した。

 

 

「来るのであれば、迎えに行きましたのに」

 

「何、たまたまこっちに用があって、そのついでに寄ったんじゃ。

 

大地、今幸人が話しておった愁と言う者の写真はあるのか?」

 

「え、えぇ。ありますよ」

 

 

書類の中から、愁が写った数枚の写真とデータを、大地は蘭丸に見せた。

 

愁の顔写真を最初に、彼の写真には美麗が一緒に写っていた。写る彼女の表情に、蘭丸は薄らと微笑を浮かべた。

 

 

(まるで、晃さんと写っているみたいじゃな)

 

「なぁ蘭丸、アンタは闇の力を知ってるか?」

 

「闇の力?

 

確か、妖怪の世界では禁忌の力だと聞いたことがあるが……」

 

「やっぱり、そこまでか……」

 

「闇の力についての資料、昔はありましたか?」

 

「いや……

 

儂が若い頃、それについて調べようとした研究員は、何人かいたが……それ以降、発展は何も」

 

「本当に資料がないのね、そうなると」

 

 

 

 

場所は変わり、幸人達の家……

 

 

ソファーの上で眠る美麗に、愁は毛布を掛け頭を撫でた。彼の肩に留まっていたアゲハは、彼女に寄り添うようにして傍に降り、眠りに付いた。

 

 

「じゃあ愁、夕飯前には帰ってくるからあと頼んだ」

 

『分かった』

 

 

そう言って、秋羅は仕事道具を持って家を出た。出て行った後、愁は外から聞こえてきた馬達の鳴き声が気になり外へ出た。

 

 

しばらく馬達を宥めていた時、家の方から美麗の泣き声が響き、愁は慌てて戻った。中へ飛び込むと、ソファーの上に座り込み涙を流し泣き喚く美麗と、彼女を宥めようと必死にアゲハが周りを飛び回っていた。

 

 

『美麗、俺ここにいるよ』

 

 

そう言いながら、愁は美麗の隣に座り彼女を抱き寄せ背中を擦った。擦られた彼女は、徐々に落ち着きを戻していき、しゃくり上げながら愁にしがみつき肩に顔を埋めた。

 

 

『キー?』

 

『美麗、少し外出る?』

 

「……うん」

 

 

鼻を啜りながら、美麗は愁の手を握りながら表へ出た。牧場で馬達を見ていた紅蓮は、彼女に気付くと駆け寄り体を擦り寄せた。

 

 

「愁、秋羅は?」

 

『仕事で出てる。夕飯前には帰ってくるって。

 

もう少し落ち着いたら、買い物行こう』

 

「うん」

 

 

微風が吹き、草木や愁達の髪や紅蓮達の毛を靡かせた。気持ち良さそうにする美麗が着けている妖魔石が、一瞬光を放ったがまた暗くなり、元の色に戻った。

 

 

 

夕方……

 

街灯に明かりが灯る町の中を、愁は美麗と歩いていた。買い物袋を抱える愁の服の裾を掴み歩く美麗は、紙を見ながら袋を見た。

 

見ながら歩いていた時、何かに気付いた美麗は顔を上げ前方を見た。体を伸ばしながら歩いてくる、秋羅の姿があった。

 

 

「あ!秋羅!」

 

「?

 

あれ?お前等」

 

 

駆け寄ってきた美麗を受け止めた秋羅は、彼女の頭を撫でながら愁から買い物袋を1つ受け取り帰路を歩き出した。

 

町を離れ草木に囲まれた道を、アゲハと遊びながら美麗は秋羅達の先を歩いていた。

 

 

「そっか……また泣いたのか」

 

『でも、俺が来たらすぐ泣き止んだ』

 

「それは夜中でもそうだろう?

 

俺や幸人が来たら、すぐに泣き止むし……

 

 

やっぱ、ちゃんとした所で診て貰った方が良いのかなぁ」

 

『診る?

 

水輝達、診てるよ?』

 

「違う違う。

 

心の傷を治す医者に、診せるんだよ。

 

 

水輝さんは体に出来た傷を治す医者で、暗輝さんは動物の傷を治す医者。

 

心は専門外」

 

『こころ?

 

こころって、何?目に見えないの?』

 

「目には見えないな。

 

そうだなぁ……

 

 

愁はさ、美麗と一緒に居る時どういう感じになる?」

 

『……不安じゃなくなる。

 

安心するし、この辺りが軽い』

 

 

そう言いながら、愁は自分の胸辺りに手を置いた。

 

 

「それが心だよ。

 

嬉しかったり悲しかったり、怒ったり泣いたり……

 

 

感情や知識、精神のことを心って言うんだ」

 

『……俺にも、心あるのか?』

 

「あるだろう。

 

お前、美麗が危険な身になったりいなくなったりすると、幸人や俺達の意見無視して速効で助けに行こうとするじゃねぇか。

 

 

西領域の時だって、悟空達にさらわれた美麗助けに行こうとしただろ?」

 

『だって、美麗を危険な目に遭わせちゃいけないって……』

 

「そういう気持ちがある限り、心は存在するよ」

 

 

アゲハを追いかけ回す美麗の、楽しそうな表情に秋羅は微笑んだ。同じように見ていた愁は、一瞬別の者が映った。

 

小物妖怪と駆け回る、1人の女性……笑う口元が見えるが、目元が見えなかった。そんな彼女の元へ、1人の男が歩み寄り女は彼の元へ駆け寄った。振り返った2人は、自分に向かって手招きをした。

 

目に見えた光景はそこで途絶え、気付くと美麗がアゲハと共に、自分と秋羅の元へ駆け寄ってきた。

 

 

(……今の、何だ?)

 

「愁?大丈夫?」

 

『うん……平気』

 

 

空いていた手で、愁は出していた美麗の手を握り帰路を歩いていった。




闇の力……

またの名を負の力。


妖怪にとって闇の力は、禁忌の力。

その力を手に入れたら最後、二度と元には戻らない。

破壊と殺戮を糧にして、この地を滅ぼす妖怪と化する。

そして、それを止められるのは、神の領域の力を手に入れた者のみ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。