桜の奇跡 作:海苔弁
でも違う……あの子を、あんな風にしてしまったのは……俺達のせいだ。
『その子は、今どうしているの?』
分からない……あれ以来、会っていないし見ても無い。
また会えるなら、謝りたいよ。
あの時、守れなくてごめんって……
過去を知る者
幸人が本部の会議に行ってから数日後……
「え?美麗に会いたい人?」
本部から幸人と一緒にやって来た葵の言葉を、秋羅は繰り返しながら彼にお茶を出した。
「依頼かな?
以前、北西に行っただろう?
その時に、擦れ違い様に彼女を見掛けて……」
「是非会いたいと……
そいつ、何者なんだ?」
「さぁ……
僕も詳しく聞こうと思ったんだけど、依頼人がどうしても美麗に会ってからって」
「そういえば、美麗ちゃんと愁は?」
「美麗なら、今愁と一緒に牧場で馬達の世話。
多分そろそろ」
裏口の戸が開く音が聞こえた。外から、美麗と愁が入ってきた。
「あ!時雨と葵だ!」
「やぁ、美麗。元気そうだね」
「どうしたの?
また幸人に依頼?」
「そうだよ。
美麗、君に会いたいって人がいるんだ」
「私に会いたい?」
不思議そうに言葉を繰り返しながら、美麗は幸人の方を見た。
「前に北西の森行っただろう?」
「うん」
「その時通った町で、お前を見掛けた人が会いたいって葵の所に依頼できたんだ」
「何で私に?」
「さぁな」
「その依頼、引き受けてくれるかな?」
「……良いよ!
北西の森、行きたいし!」
「それじゃあ決まりだね」
「出発は明日にしてくれ。
会議で疲れた」
「良いよ。
僕等、今晩泊まっても良いかな?」
「構わん」
すると、牧場からエルの鳴き声が聞こえ、愁は美麗と一緒に外へ出た。
「愁にベッタリね。美麗ちゃん」
「美麗の気持ちが落ち着くだろうから、なるべく一緒に居させてんだよ」
「そんなに酷いの?夜泣き」
「仕事に響くレベルだ」
「それはそれは……」
「会議行ってる間は?」
「昼寝してた時に1度だけ。
でも、そっからは愁がずっと添い寝してたから、夜泣きはしてない」
「おや?
幸人が会議で話した内容と、少し違うね」
「愁が添い寝するようになってから、夜泣きはなくなってますね」
「いない間に、状況が変わってるみたいだね」
「今度報告する。
水輝達の所に行ってくるから、秋羅後任せた」
「分かった」
そう言って、傍に置いていたバックとコートを手に取ると、幸人は家を後にした。
翌日……
汽車に乗る幸人達。美麗は座席の上で愁の足を枕代わりに頭を置き眠っており、愁も窓に寄り掛かるようにして寝息を立てていた。
「朝早くの汽車に乗っても、着くのが夜になるだなんて……結構掛かるのね」
「そうだな。前回はネロ達に乗って行ったからすぐだったけど……」
「何事も無く、安全に着いて欲しいわ」
「それは言えてる」
「……それにしても、よく寝るわね。
2人共」
「朝早かったし、また美麗の奴が寝なかったみたいだし。
多分、その寝不足だろう」
そう言いながら、秋羅は大きくあくびをした。それに釣られて、時雨もあくびをし2人はそのまま眠りに入った。
その頃、別の席にいた幸人達は他愛のない話をしていた。
「そういえば、幸人達はいつ振りなの?北西に行くのは」
「4ヶ月か5ヶ月ぶりだ」
「もうそんな経つのか」
「北西の森に連れてけ連れてけって、美麗の奴がうるさかったからな。ここ数ヶ月」
「故郷に1度戻ると、やっぱり何回も行きたくなるもんだよ」
「俺は初めてだなぁ。美麗の故郷」
「前回行ったのは、水輝だったもんな」
「アイツから話は聞いたけど……何か、凄かったって事は分かった」
引き攣った表情をした暗輝を見て、幸人達は全員察したのか、それ以上の質問はしなかった。
「は、話は変わるけど……
美麗に会いたい人って、どういう人なんだ?」
「依頼状が来ただけだから、まだどういう人かは……
あぁそうだ。美麗がいないから、今話しちゃうね。
実はその会いたい人、彼女の過去を知っているみたいなんだ」
「……は?!」
「やっぱ驚くよね。僕も驚いたよ」
「その人、半妖か?」
「まさか」
「行ってみなきゃ、分からないよ。
依頼人、何にも教えてくれないんだもの。本人が来るまで」
「そいつもそいつで怪しいな」
夕方……
“キー”
「うわっ!」
「キャ!」
突然急ブレーキが掛かる列車……席に座っていた秋羅と時雨は、停まった衝撃で滑り落ち床に尻を着いた。向に座っていた美麗は、落ち掛けたが肘掛けを掴んだ愁が彼女を抱き寄せ抑えた。
「な、何だ?」
「さ、さぁ」
立ち上がった秋羅は、引き戸を開け外を見た。すると廊下を歩く幸人達が、彼等の元へ駆け寄ってきた。
「秋羅、すぐに外出ろ」
「何かあったの?」
「線路に獣妖怪がいるらしくて、それを退治して欲しいって」
「さっき、車掌さんが頼みに来たんだよ」
「……暗輝さん、頭大丈夫ですか?」
「でっかいタンコブ!」
「急ブレーキ掛かった時に、向かいの席の背もたれに額ぶつけたんだよ、勢い良く」
「うわぁ、痛そう」
「秋羅行くぞ」
「あ、あぁ」
「時雨、君も」
「は、はい」
「私も行く!」
『あ、美麗』
「お父さーん、娘がそっちに行きますよー」
外に出ると、線路の上には巨大な身体と角を持った鹿が倒れていた。
「デケぇ……」
「紅蓮達と比べると、デカいな」
「祓い屋さん、何とかして下さい!
このままでは、列車を動かせません!」
「そう言われましても……」
「悪さをしてるわけじゃねぇしなぁ」
「封印でも何でもお願いします!」
「流石に悪さをしていない妖怪を、封印するのはちょっと……」
人混みの間から見ていた美麗は、愁に耳打ちをした。彼は頷くと、貨物車の方へ行き扉を開いた。
その間に、美麗は人混みをかき分けて前へ出た。被っていたフードを取りながら、鹿に近付いた。
「ちょ、ちょっと!子供が!」
「少し静かにしてて下さい」
「え?」
近寄る美麗……鹿はスッと目を開けると、寄ってくる彼女に顔を上げ立ち上がろうとした。
「あぁ!立ち上がらなくて良いよ!
そのまま」
鹿に寄った美麗は、鹿の頬を撫でた。鹿は落ち着いたのか立ち上がらず頭を下げ、深く息を吐いた。
「……暗輝」
「分かってる」
器具が入ったバックを手に、暗輝は美麗の元へ歩み寄った。美麗は彼が寄ってきたのを気にしながら、警戒する鹿の喉下を撫でた。
「後ろ足、怪我してるみたい」
「やっぱりか……
立ち上がろうとした時、後ろ足を庇ってたからな」
「手当てできる?」
「大丈夫だ。
それより、そいつを抑えててくれ」
「うん」
背後へ回った暗輝は、後ろ足に出来ていた傷をすぐに治療した。するとそこへ、紅蓮を連れた愁が人混みから現れ、美麗の元へ駆け寄った。
「紅蓮、この子の手当て終わったら森に」
『分かった』
「そのまま、先に北西の森に行ってて」
『あぁ。気を付けろよ』
自身の頭を撫でる美麗に、紅蓮は体を擦り寄せた。
数分後……手当てを終えた暗輝は、器具を持ちながら美麗の方へ行った。
「ほら、もう立てるよ」
頬を撫でられた鹿は、怪我をした足を庇うようにして立ち上がった。手当てをして貰った足を引きずりながら、鹿は暗輝に頭を寄せた。
ビックリした暗輝だったが、すぐに鹿の額を撫でてやった。撫でられた鹿は、頭を振ると足を引きずりながら先導する紅蓮の後をついて行き、森の中へと帰って行った。
「ほれ、線路開いたぞ」
「……あ、ありがとうございます!」
笛を鳴らしながら、車掌は外に出ている乗客を列車に乗せた。汽笛が鳴る音に、森の方を見ていた美麗は遠くで待っている幸人達の元へ駆け寄り、一緒に列車へ戻った。