桜の奇跡 作:海苔弁
傷の手当てをして貰った幸人達は、彼女の家へと戻った。陽咲はあるものを、彼等に見せた。
「これって……」
「写真?」
写真に写る3人の男女……1人の男を中心に両脇に立つ2人の10歳くらいの男女が、桜の木をバックに写っていた。
「その写真は、曾祖父が12歳、美麗が10歳、晃が24歳の時に撮ったものだと聞きました」
「……確かに、言われてみれば美麗と晃さんだ」
「美麗ちゃん、何かちょっと大人びてるわね?」
「……?
なぁ、美麗の左腕……痣ねぇか?今出てる同じものが」
七分袖のワンピースを着た美麗の左腕には、今出ている痣と同じような痣が刻まれていた。
「本当だ……」
「この時にはあって、今まで消えてて……また復活?
訳分かんねぇ」
「あの、1つ質問良いですか?」
写真をジッと見ていた秋羅は、それを見ながら質問した。
「はい、私に分かることでしたら」
「この写真に写ってる、桜の木はどこにあるかご存知ですか?」
「さぁ……曾祖父の話では、2人の家近くの森の中だと言っていましたが……
多分、その桜はもう無いかと思います」
「黒いオーラの噴火が原因?」
「はい。
今残っている桜はこの辺りにはもう無いかと……
ごめんなさい……ここに長く住んでいるんですが、桜を一度も見たことが無いので」
「いいえ、大丈夫ですよ。
今回は、貴重なお話をして頂きありがとうございます」
「こちらこそ、聞いて頂きありがとうございます。
それから、美麗を連れて来てくれてありがとうございます。お目にかかれて光栄でした」
馬車の中……美麗は不機嫌顔で外を眺めていた。
「そんな不機嫌な顔すんな」
「だって……北西の森、行けなかったんだもん」
「仕様が無いだろう。
その痣が何なのか、調べなきゃいけなくなっちまったんだから」
「痛くもないし痒くも無いんだから、別に調べなくていい!!」
「今は良くても、後々から何かあったらしゃれにならねぇだろうが!!」
「いいもん!北西の森には、地狐達がいるから」
「お前なぁ」
「簡単な検査だ。大人しくしていろ」
「……」
頬を膨らませながら、美麗は幸人と陽介に背を向けた。隣に座っていた愁は、心配そうに彼女と幸人達を交互に見た。
馬の蹄と馬車の写輪の音が鳴り響いていた……暇そうに外を眺めていた美麗は、何かを見たのかゆっくりと窓から離れ、フードを深く被り隣に座っている愁の腕にしがみついた。
『美麗?』
不思議に思っていた愁だったが、何かの気配を感じたのかしがみつく美麗を自身に抱き寄せた。
2人の行為より前に、幸人と陽介は懐にしまっている銃に手を掛けながら、目だけで外を見ながら小声で話した。
「……奴等か?」
「あぁ……ザッと20はいる」
その時、馬車を引いていた馬の足下に爆竹が投げられ爆発した。爆発に驚いた馬は、鳴き声を上げて暴れ出し勢い良く走り出した。停まらせようと御者は慌てて綱を引くが止まることなく、馬は木を避けたが幸人達が乗る馬車は避けきれずそのまま木に当たった。
先を歩いていた馬車を止め、中にいた葵達は出ると彼等の元へ駆け寄ろうとしたが、目の前に黒い装束に身を包んだ者達が彼等の首に刃を向けて降り立った。
「少しでも動けば、命は無い」
動けなくなっていると、前で倒れている馬車の中に向けて銃弾を放つ者達がそこに立っていた。
「幸人!!陽介!!」
「動くな!」
葵達が心配で見守る中、馬車近くにいた敵が突然倒れた。手銃を構えた幸人と陽介が、美麗と愁を支えながら外へ出てきた。
「あ~くそ、いきなり撃つな。
怪我するだろうが」
「既に怪我人は出たがな」
馬車から降りた幸人と美麗は、周りを囲う黒装束の者達を睨んだ。頭から血を流す愁は陽介に支えられながら、馬車から降りた。
「幸人!!美麗!!愁!!」
「この森は、討伐隊の配下にあるものだ!
貴様等は、不法侵入及び密猟・密輸で今この場で逮捕するぞ!」
「……出来るものならやってみろ」
「?」
刀を構えていた1人がスッと消えたかと思うと、幸人の背後に周り刀を振り下ろした。その攻撃を、陽介は腰に挿していた脇差で防いだ。
「陽介!」
「美麗!下がれ!!」
言われた矢先に、四方から敵が一斉に攻撃してきた。触れられる寸前、目の前に桜の花弁が美麗を包み込むようにして舞い上がった。
『美麗には……指一本、触れさせない』
紅い目を光らせながら、愁は美麗の前に立った。だが、それ虚しく彼に敵は攻撃した。血を流し倒れる愁に、彼女は駆け寄った。更に攻撃をしようとした敵に、美麗は氷の刃を放ち小太刀で攻撃した。
小太刀を構え自分を囲う敵達を、美麗は怒りに満ちた目で鋭く睨んだ。睨む彼女の感情に共鳴するかのようにして、左腕の痣が光った。
「な、何だ!?」
「美麗の痣が……光ってる?」
「……」
「光に怯むな!!撃て!!」
「こちら側も撃て!!」
敵が撃ったと同時に、討伐隊の隊員も陽介の声に従い撃ち出した。
“バーン”
突然空から何かが落ち、弾を全て焼き尽くした……
巨大な音にビックリした美麗は、尻を着き目の前に立つ者を見た。
「……ら、雷神?」
両手に雷を放つ雷神が、美麗の前に立っていた。彼に続いて、森の奥から2本の尾を揺らしながら、大黒狼が姿を現した。
「リル……何で?」
「大黒狼の主だ!!」
「雷使う妖怪がいるなんて、聞いてねぇぞ!!」
「チッ!
一旦引け!!」
「させるか!!」
幸人と陽介は逃げようとする敵達の足に、弾を撃ち放ち動きを封じた。身動きが取れるようになった秋羅達は、自分達を囲う敵に容赦なく攻撃した。
全ての敵を拘束する、討伐隊の隊員達……別の馬車に乗せると彼等は一足先に本部へと向かった。
「これで、闇市場の情報でも吐けばいいんだがな」
「とか言って、凄え尋問すんだろ?」
「当たり前だ」
「容赦ねぇ」
「それより……何故ここにいる」
振り返った先には、暗輝から手当てを受ける愁に美麗は心配そうに見ていた。そんな彼女を宥めるようにして、雷神は頭に手を置き撫でた。
「さぁな……どういう経緯で来たかは、全く分からん」
「……あの痣と関係しているのか?」
「可能性は高い」
手際よく愁の頭に、暗輝は包帯を巻いた。鎮痛剤を打たれた彼を、暗輝は折り畳み枕代わりとなっていたタオルに頭を乗せ横にさせた。
「一応、応急処置はした。
あとは、本部の方で見て貰った方が良い」
「そんなに酷いの?」
「銃弾が頭に掠ってるからな、2発も」
「……」
『不安な顔せずとも、桜の守は死にはしないよ』
安心させるようにして、傍にいたリルは美麗に頬摺りした。それに合わせて、雷神も彼女の頭を撫でた。すると、茂みから紅蓮が現れその後からエルとアゲハが姿を現した。
「エル!アゲハ!」
『キー!』
『森にはまだ、あいつ等の仲間が彷徨いている』
『人の住処に、ノコノコと……
紅蓮、お前はこのまま美麗の傍にいておやり』
『分かった』
立ち上がったリルは、迎えに来ていた2頭の黒狼と共に森の中へと消えていった。同じように立ち上がった雷神は、美麗の頭をもう一度撫でると稲妻を起こし姿を消した。
「大空少将!
荷馬車と馬車の準備が出来ました!」
「分かった。
暗輝、愁は動かせるか?」
「一応な。
でも、なるべく寝かした方が良い」
「じゃあ、暗輝と秋羅達はそのまま荷馬車の方に乗ってくれ」
「分かった」
「俺と幸人、葵、美麗は馬車の方に。
その他の隊員は、外側の警備だ」
「はっ!」
陽介が命令を下す中、意識朦朧としている愁は美麗の服を軽く引っ張った。不安がっていた彼女は振り返り、自身の方を見た。
微笑みを浮かべながら、腕に力を入れて手を挙げ、美麗の頬を軽く撫でた。
こちらの大将はいないと聞いたが……
いるではないか。
だが、まだ幼い……?
何だ?妖魔石で、力を封じているのか……
流石だな、藤閒の子孫よ。