桜の奇跡 作:海苔弁
でも、いつか出来ると俺は信じてる。
出来もしないことを……夢みたいな事を言っている暇があるなら、大将になる修業をしろ。
だから言っただろう……人を信じるなと……
愚弟が……
北西の森を抜け、北地区に入りとある町に馬車は止まった。
馬車から降りた葵は、荷馬車から降りた秋羅と時雨に歩み寄った。
「今日はこの町に泊まるよ。
馬達を休ませないとね」
「そういえば師匠、私達このまま討伐隊本部に行くんですか?」
「あぁ。
というより、緊急会議が入るみたいだからね」
「……
美麗の……痣ですか?」
「それもあるよ」
葵に続いて幸人は、眠っている美麗を抱きながら馬車から降りた。
「美麗ちゃん、寝ちゃったんですか?」
「馬車乗って、しばらくしたらね。
昼間の力で、予想以上に体力が消費したんだろうね」
美麗に抱かれていたアゲハは、彼女の腕から出ると頭を軽く振り秋羅の肩に飛び移った。自身の肩に移ったアゲハを、秋羅は撫でてやった。
闇は決して消えない……
その者が消えても、闇は消えず次に引き継がれる……
例えその人が、闇を持っていなくとも。
目を覚ます美麗……寝起きでしばらくボーッとしていた彼女は、布団から出ると部屋のドアをソッと開け外へ出た。
宿の外では、幸人と陽介、葵、暗輝は宿の前にある広場の煙草を吹かしていた。
「暗輝、愁の容態はどうだ?」
「今の所、大人しく眠ってるよ。
薬が効いてるみたいだ」
「なら良いが……?」
玄関口が開く音に、幸人は振り返った。中から出て来たのは、美麗だった。
「美麗?」
「おや?起きたのかい?」
煙草の火を消した幸人は、寄ってきた美麗を抱き上げベンチに座った。
「美麗の奴、何か幼くなってないか?」
「妖力の影響じゃないかな?」
「何か、色んな歳を行き来してるな?美麗って」
「……言われてみれば、そうだね。
僕が初めて会った時の美麗は、10歳に満たない子かと思ってましたよ。
小柄な上に、まだ幼さが残るその顔立ちで……
とても、114歳には見えませんでしたよ」
「俺もだ。
というより会った当初、紅蓮に噛み付かれかけた」
「その顔だからじゃねぇの?」
「暗輝、貴様のこめかみをぶち抜くぞ?」
「すみません……もう言わないので、銃を下ろして下さい」
幸人に抱かれていた美麗は、左腕に巻かれていた包帯の留め具の上に、貼ってある札を外そうとした。
「おいコラ、外そうとするな」
「痒い」
「我慢しろ。変に力が発動して、訳の分からねぇ妖怪達が集まったら大変だ」
「ウ~」
「かなり不機嫌だな……」
「お前……眠いんだろう?」
「眠くない」
「だったら、服の裾を離せ」
「嫌だ」
降ろされても尚、美麗は幸人の隣に座り、彼の服の裾を掴み抱き着いた。
「ガキみてぇな行為だな」
「眠くなると、親から離れなくなるって聞きますね」
「テメェ……」
「ねぇ、愁は?」
「薬飲んで、今寝てるよ」
「傷、治らないの?」
「ちょっと深いからな。
鎮痛剤入の水飲まして、寝かした。
寝かすまで、かなり苦戦したけどな」
「それはまたご苦労なことで」
「他人事だと思って!
起きてる間、血ィ流してんのに『美麗の所行く』って聞かなくて、大変だったんだからな!!
人が手当てしてる最中に動くから、傷口縫おうとしてもズレるし……」
「……君、確か獣医だよね?」
「外科と内科の知識も携わってるよ。
死んだ親父から、ガキの頃から叩き込まれたからな」
「あ、そう……」
「言っとくが、水輝もだ。
つか、部門が違えど2人で同じ知識持ってるから、自分達で開業できたんだよ」
「言われてみればそうだね」
「小せぇ病院の割に、お得意様がゴロゴロいるもんな」
「小さいは余計だ!小さいは!
あ」
「?」
目を擦りながら、美麗は大きくあくびをした。眠くなってきている彼女の頭を撫でながら、幸人は自身の膝に寝かせた。
寝かされた美麗は、重くなっていた瞼を閉じ眠ってしまった。
「眠りましたね?」
「ひとまず、明日の朝まではこれで眠ってくれる」
「寝てる時が1番可愛いと言いますけど、本当ですね」
「お前は母親か」
「弟子1人育てていれば、母性ならぬ父性が芽生えますよ。
君みたいにね」
「俺は父性なんざ、芽生えてねぇよ」
「それはどうでしょう」
「葵」
「冗談ですよ。
さぁ、僕等ももう寝ましょう。明日も早いですし」
「そうだな」
眠った美麗を抱き上げ、幸人は暗輝達と共に宿へ戻った。
翌朝……
愁の傷の具合を診る暗輝……彼は、傷口にガーゼを当て包帯を巻きながら、一緒に居る幸人に話した。
「流石妖怪だな……
傷口はもう塞がってる」
「マジか」
「でも頭掠ってるから、やっぱり大地達に診て貰った方が良い」
「その方が良いだろう」
『……暗輝、美麗は?』
「今エル達を、小屋から出してる」
「さてと、そろそろ外に出るぞ」
暗輝に支えられながら、愁は宿の外へ出た。
外では、既に荷馬車と馬車の準備が完了しており、馬車を引く馬達を美麗はエル達と一緒に撫でていた。
「相変わらず、動物に好かれることで」
愁達に気付いたのか、美麗は顔を上げ自分達の方を見てきた。そして、嬉しそうに駆け寄り前に出て来た愁に飛び付いた。愁は暗輝から手を離し、飛び付いてきた彼女の頭を撫でた。
しばらくして、幸人達を乗せた荷馬車と馬車は出発した。何事も無く、青天下の中馬車と荷馬車は道筋を走らせていた。
「随分と平和な移動だね」
「このまま、何事も無ければ良いんだが……」
「確かにそうだね」
「……ねぇ、今美麗がいないからちょっとばかし、僕が調べたぬらりひょんの話聞いて貰っても良いかな?」
「ぬらりひょんの話?」
「妖怪は大昔からいることは、承知しているよね?」
「まぁな。
古い書物に、数多くの妖怪の絵が描かれているから」
「それがどうかしたのか?」
「どの妖怪にも、出生記録というか何故生まれたのかという書物はある……無くても、妖怪自身が知っていたり語りで伝わる者もある。
けど、ぬらりひょんには何も無いんだよ」
「……」
「夜山晃が作成した妖怪辞典は、彼に会った後から書いたもの。
じゃあ、その前のぬらりひょんは?」
「……確かに、書物もそう言った記録も何も無いな」
「妖狐達が見せてくれた過去の記憶は、ある日突然の事。
じゃあ、彼等はどこで生まれてどうやってここへ来たのか……そして、何故彼が総大将になったのか」
「少し、謎だな」
「闇の力とぬらりひょんは、何か関係があるんじゃ無いかな?
僕はそう思っているよ」