桜の奇跡 作:海苔弁
「つまり、今回のこの妖怪騒動は……
私の家と息子が原因だと」
「はっきり言って、そうです」
「どうすれば解決する?」
「まずは、家から立ち去って下さい。
この町に空き家が数軒ありますよね?そこに住み移って下さい。
それから、息子さんを連れて俺達で森に行きます」
「森に?何故?」
「この町の奥にある森は、動物達の物。
あの森には、森を維持するための湖があります……
一昨日、仲間と一緒に森を調べてみたら……湖があったと思われる場所は、枯れていた。
湖が無くなった事により、動物達の住み家が消えた。そして、動物がいなくなったことにより、妖怪達が襲うようになった……」
「……」
「今夜にでも、息子さんを連れて行きます。
では」
一礼して、幸人は応接間を出て行き家を後にした。
病院へ来た幸人は、中へ入り紅蓮がいる病室に入った。
「あ、幸人」
中にいた紫苑は、振り返りながら秋羅が剥いた林檎を口にしていた。ベッドにいた紅蓮は、既に起き上がっており皮ごと林檎を食べていた。
「何だ?もう起きて平気なのか?」
『平気だ』
「傷口はまだだけど、体力的にはもう平気だそうだ。
食欲もあるし、明日には退院出来るとさ」
「そうか」
「森行くの?」
「あぁ。森を戻さない限り、この町が妖怪の手から逃れられないからなぁ」
「……」
「紫苑、一つ聞いていいか?」
「何?」
「お前がここに住んでた頃、湖がどうなってたか覚えてるか?」
「湖?
池なら見たことある」
「池?」
「広い場所で、そこに池が。
あの時は何とも思わなかったけど……あの池があった場所、不釣り合いだった」
「……紫苑がいた頃には、まだ湖は生きていたって事か」
「森にいる主が言ってた。
あの家が森を壊したって」
「……」
その時、室内に何かが放り込まれた。次の瞬間、病室に赤い煙が広がった。
「な、何だ!?」
「……!?
唐辛子!?ゲホゲホ!!」
咽せる一同……すると、外から何者かが入り咽せている紫苑の手を掴み引きずり出した。そしてエルの背中に投げ乗せると、自身も飛び乗った。エルは鳴き声を上げると、翼を羽ばたかせて飛び出した。
羽ばたいた事により風が吹き、部屋の煙を振り払った。
涙を拭きながら、目を開ける秋羅達……紅蓮は傍にいたはずの紫苑がいなくなっていることに、いち早く気付いた。
『紫苑の奴が消えた!!』
「!?」
「さっき煙で、連れ去られたんだ!
エルの奴をいなくなってる!!」
『すぐに追い駆けるぞ!!』
「紅蓮!傷は?!」
『平気だ!』
管を全て抜くと、紅蓮は狼の姿となり窓から外へ出ると、においを辿りながらエル達を追い駆けていき、その後を秋羅達はついて行った。
空を飛ぶエル……彼の背中に乗っていた紫苑は、ようやく煙の効果が切れてきたのか、瞑っていた目をゆっくりと開けた。
「……何で……」
「変な真似するなよ?」
「?!」
後ろから聞こえる声……紫苑は素早く後ろを振り返った。そこにいたのは、手にナイフを持った柚人だった。
「……何が目的?」
「森に棲み着いた妖怪に、テメェを生け贄としてやるんだよ……
本に書いてあった。妖怪は生身の人間を捧げれば、大人しくなるって」
「それは昔の話。
今はそんなの」
「黙れ!!」
怒鳴った瞬間、柚人は紫苑の腕にナイフを突き刺した。刺された箇所を抑えながら、彼女は柚人を睨んだ。
「祓い屋なんだ!!
来たって何も役に立ってねぇじゃねぇか!!
売り飛ばして、精々惨めな人生送ってるかと思えば、何だよ!!祓い屋に引き取られやがって!!」
「……」
「いつもそうだよ……
俺だって普通の子なのに……町長の息子だから何だとか、勝手なことばかり言いやがって!!
俺に頼めば、全部通る?ふざけるな!!俺は道具じゃねぇ!!
町長の子供だから、それくらいのことは出来て当然?出来るわけねぇだろ!!俺は父様とは違う!!違うんだ!!」
怒鳴り息を切らす柚人……その時、後ろから何かが放たれた。危ないと思った紫苑は柚人の頭を下げさせ自身の肩に、攻撃を当てさせた。飛んできたのは矢だった……
「し、紫苑……」
「痛……
エル、どこでもいいから降りて」
エルは返事するようにして鳴き、森の中へと降下し地面へ着地した。紫苑は先に降り辺りを見回し、誰もいないことを確認すると、柚人を降ろしエルの手綱を手に持った。
降り立った場所は、涸れた湖の跡地だった。
「ここ……」
「……柚人、あまり私から離れないで」
「え?」
「デカい妖気を感じる……
エル、皆をここに誘導してきて。お願い」
嘴を撫で手綱を離すと、エルは助走を付けて飛び出した。
彼を見送ると、紫苑は柚人を自身の後ろへ行かせ、小太刀の束を握り辺りを見ながら警戒した。
微かに聞こえてくる茂みがざわつく音……そこから出て来たのは、昨夜紫苑達が相手にした妖怪の仲間だった。
荒く息を吐き、二人を睨む妖怪……紫苑は立ち構えながら、小太刀を抜いた。それを合図にか、妖怪は紫苑に飛び掛かった。柚人を押し倒した紫苑は、転がり避けるとすぐに立ち上がり、妖怪の体に小太刀を突き刺した。
彼女の攻撃に怯まず、妖怪は鋭い爪を紫苑目掛けて振り下ろした。間一髪避ける紫苑だが、彼女の足に掠った。
足から血を出す紫苑を見て、柚人はオロオロし出した。その時、何かの視線を感じ彼は恐る恐る顔を上げた。
自身を睨む妖怪……その目に、柚人は震えながらナイフを構えた。それを見た紫苑は、彼の手を握りナイフを落とさせ、妖怪の気を自身に引き寄せると、素早く陣を書きその中心に立った。
「悲しき氷の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !!」
光り出す陣……辺りの空気が寒くなった。状況が把握できない柚人は、陣の中心に立つ紫苑を見た。
「大気に満ちる空気よ……凍り、氷の刃となり敵を切り刻め!!」
手から放たれた無数の鋭い氷の針が、妖怪に当たった。妖怪は咆哮を上げると、血塗れとなった体を動かして、紫苑に攻撃しようとした。
その時、茂みから飛び出した紅蓮は、攻撃しようとした妖怪の手に噛み付いた。彼に続いて茂みから出て来たのは、エルに乗った秋羅と幸人だった。
「陣を書け!!封印する!!」
「了解!
紫苑!奴の気を引け!」
「分かった…紅蓮!」
陣を描いた紫苑は、紅蓮を陣の中心へ行かせ立たせた。
「悲しき火の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !!」
赤く光り出した陣から炎が舞い上がり、中心に立っていた紅蓮の体を覆った。
「我が盟約に従い炎の精霊よ……集え、猛る灼熱の炎よ、全てを焼き尽くし喰らいつくせ!」
炎竜の姿となった紅蓮は、口から炎を吐き妖怪に攻撃した。火傷を負いながらも、妖怪は咆哮を上げて紅蓮と紫苑を睨んだ。
その時、首に鎖が絡まった。それを合図に次々と鎖が、妖怪の体に巻き付き動きを封じ込めた。
「さぁ!テメェは、寝んねの時間だ!!」
その声に応えるかのようにして、陣の中心に置かれていた小さな壺が、動き出し妖怪を吸収しようと風を起こした。吹き荒れる風の中、妖怪は何かに捕まろうと暴れ出した。
妖怪に足を掴まれかけた柚人を、紫苑は自身の後ろへ行かせ伸ばしてきた手に、小太刀を突き刺した。痛みで力が弱まった妖怪はそのまま吸われるがままに、壺の中へと吸い込まれた。
完全に吸い込まれると、幸人はすぐに蓋を置き厳重に鎖を巻き四方に札を貼った。
「フー……いっちょ上がり」
「つ、疲れたぁ……」