桜の奇跡 作:海苔弁
大地の部屋に置かれたテーブルに伏せる水輝……疲れ切っている彼女に、大地は珈琲が入ったマグカップをテーブルに置いた。
「ちょっと水輝、アンタ大丈夫?」
「眠い……疲れた……暗輝は?」
「俺、お前の隣にずっと居るぞ」
「昨日の徹夜で仕事を終わらせ、最終便の列車に乗った……凄い体力っすね」
「本部からの連絡と同時に、所長から連絡があったのよ……『あなたが来ないと、研究と検査が進まない』ってね」
「所長、そんなものを」
「大地、ベッド貸して。寝たい」
「羽毛布団の心地良い寝床へ、どうぞ」
「ワーイ」
「テメェ、男の部屋で堂々と寝るのやめろ」
夕方……
本部の庭先に竜とドラゴンが降り立った。竜達から降りた花琳達は、歩み寄ってきた陽介と幸人の方を向いた。
「随分と遅いご到着で」
「任務中に呼び出したのは、どこの誰よ」
「マリウスと一緒だったのか?」
「私の任務を手伝って貰っていたのよ」
「ですから、同じ時間に来たんではありませんか」
「ヘイヘイ」
「ところで、竜達はここで良いのかしら?」
「園庭の方に回してくれ。
天窓は開けておく」
「分かったわ」
「月影、美麗はどうしたんですか?」
「アイツなら今寝てる」
「昼寝?」
「いや、昨日からだ」
「まだ寝てるんですか?」
「まぁ、色々とな」
「フーン……」
2日後……
「いやぁ、よく寝たよく寝た!
気分絶好調だよ!」
肩を回しながら、水輝は暗輝と共に奏歌の研究室に入った。少しキレた顔で、奏歌は入ってきたご機嫌な彼女を睨んだ。
「随分と上機嫌のようね?星野研究員?」
「えぇ。沢山睡眠を取りましたからね!
徹夜明けだったので」
「良いわよね。あなたは面倒な患者がいなくて」
「いますよ?
薬に文句を言ってくる奴、待ち時間が長い、診察が雑、獣臭がするってね……
その中、私は患者に1番ベストな治療と診察をしてきたので、お得意様がわんさか居るんですよ」
「言葉の通じる人だからでしょ?
こっちは、言葉の通じない化け物相手よ?」
「化け物はどっちかな?」
「水輝!!」
「先輩!!」
「それで、夜山美麗の診察は進んでいるのかしら?」
「……」
ベッドに座る愁の足に頭を乗せ、美麗は横になっていた。扉が開く音が聞こえると、彼女はすぐに布団の中に潜り込んだ。
「まだ機嫌が治らないのか?」
入ってきて早々奏歌は、布団を剝がそうと手を伸ばすがその手を、愁は止めるようにして握った。
「何だ?一体」
『……』
「そうやって、無理矢理やろうとするから言う事聞かなくなるんですよ?」
一緒に入ってきた水輝を見ると、愁は手を離した。
「さぁ所長、夜山美麗のカルテを貸して下さい。
残っている診察、全て引き受けますから」
「研究室に連れて行かなくて良いのかしら?」
「機嫌が治り次第、雲雀の研究室に連れて行きます」
「じゃあ、お願いするわね」
手に持っていた資料を水輝に渡すと、奏歌は部屋を出て行った。
「ミーちゃん、お布団から顔出そうか?」
ゴソゴソと布団の中で動くと、美麗はムクッと起き上がった。
「ミーちゃん、昨日一日中寝てたんだって?」
「うん……凄い眠かったし、何か凄い疲れてて」
「そっか」
「庭園行きたい」
「診察したら、行こうね」
昼過ぎ……
本部へ到着した迦楼羅と翠は、庭園へとやって来た。そこでは、アリサと梨白がドラゴンと竜の世話をしていた。世話する竜の尻尾で、美麗は遊んでいた。
「あれ?超ご機嫌斜めって聞いたけど?」
「普通に機嫌良いですね」
「朝ご飯食べて、ずっとここであの子等が遊び相手になってくれてたからね」
資料を見ながら、水輝は2人に話し掛けてきた。
「ずっと……昼ご飯は?」
「今、愁が持ってきてくれるよ」
「……あれ?
ユッキーは?」
「陽介達と今、会議に使う報告書を作成中。
秋羅はその付き合い」
「うわ、それはまた」
「その間、美麗はほったらかしって訳ですか」
「そういう事。
で、何用でここに?」
「ユッキー達がここにいるかと思ったから」
「私はただ、美麗に会いに来ただけです!
美麗!」
名前を叫びながら駆け寄る翠に、美麗は尻尾から降りると嬉しそうに彼女へ飛び付いた。
「何か、何年かぶりに再会した姉妹に見えるな……」
「とりあえず、写真撮っとこ」
その時、庭園のドアが開き外から御飯を乗せたおぼんを手に持った愁と彼の後に大地と翔が入ってきた。
「……何でアンタ達が?」
「所長からの伝言です……
『とっとと資料、持って来い』と」
「相変わらずせっかちな人だ……
まぁ、愁も戻ってきたし……持ってくから、アンタ達付き合いなさい!」
「えっ!?ちょっと!!」
「ぼ、僕チンはぬらちゃんに用が!!」
「用はこっちが済んでからねー」
騒ぐ声にドラゴンの尻尾で遊んでいた美麗は、庭園から出て行く水輝達に目を向けた。尻尾から降りた美麗の元に、愁と迦楼羅が歩み寄ってきた。
「水輝は?」
「資料を所長の所に持ってんだよ。すぐに戻ってくる」
「……ねぇ、幸人達まだ仕事終わらないの?」
「まだやってるって聞いた」
愁からご飯が乗ったおぼんを受け取ると、美麗は美味しそうに頬張った。
夕方……
机に伏せる幸人と秋羅、ソファーに腰を掛け背もたれに寄り掛かる葵と時雨……疲れ切っている2人に、水輝と暗輝、陽介は呆れ顔になっていた。
「大変だったな、ここまでの報告書作成」
「全く、俺と葵達がが目撃していたから良かったものの……
これが、貴様1人だったらどうなっていたことか……」
「さっき、丁度良く保奈美達が到着したみたいだぞ」
「これで、祓い屋全員集結したって訳か」
「ユッキー……もう終わった?」
疲れ切った様にフラフラで、迦楼羅は陽介の部屋に入ってきた。
「何で貴様が疲れ切っている?」
「美麗の遊び相手してたら、疲れた……」
「そりゃまた、ご苦労なことで」
「何で他人事のように言うんだよ!
お前、父親だろうが!!」
「誰が父親だ!!」
庭園でブランコに揺られながら美麗は愁の膝に座り、あくびをしてウトウトとしていた。そこへ幸人と秋羅が、庭園に入ってきた。2人の姿に気付くと、ウトウトとしていた彼女は目を擦りながら愁の膝からから降り、歩み寄ってくる彼等に駆け寄った。
「随分と迦楼羅に遊んで貰ってたみたいだな?」
「もう仕事終わったの?」
「まぁな……」
「美麗!」
声の方に目を向けると、奈々と保奈美が自分達に歩み寄ってきた。
「あ!奈々!」
寄ってきた奈々の元へ美麗は駆け寄り、彼女の手を引き竜達の元へ行った。
「あらあら、もう連れて行かれちゃった」
「任務中だったか?」
「終わって帰ろうとした所よ。
それより、また随分幼くなったわね」
「……」
「幼くなればなるほど、妖怪達には都合が良いのかもね。
純粋無垢な彼女を連れ回すのなら、あのくらいの大きさが丁度良いのかしら」
「連れ回すって……」
「妖怪にとっては、あの子お姫様でしょ?」
「……」
夜……
『え?俺が会議に?』
園庭で眠ってしまった美麗を抱いた愁に、幸人は陽介達と共に明日の会議について話した。
「今回の会議は、かなりの大型だ。
全部隊の隊長に、貴様の存在を知らせるには会議に出て貰った方が良いと、大将からのご命令でな」
『……会議に、美麗は?』
「出させないつもりだ。
今の状態で出ても、ガキみてぇな事をするだけだ。
会議中彼女の相手は、誰も出来ない。弟子である秋羅達も今回出るから無理だ」
『その間、美麗はどうするの?』
「会議中は、俺が面倒を見るつもりです。ご心配なく」
陽介の隣に立っていた梗介は、敬礼しながら愁に言った。
「そういう事だ。
会議は明日朝10時からだ。
寝坊するなよ?幸人」
「ヘイヘイ、寝坊しませんよ」