桜の奇跡   作:海苔弁

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翌日……


スーツに身を包む秋羅と幸人……ネクタイを締めながら、幸人は部屋から出て行き美麗達が眠る部屋へ向かった。


「ファ~……眠い」

「俺が起こさなかったら、何時まで寝てたつもりだ?」

「さぁな」

「あのなぁ」



気持ち良く眠る美麗に、スーツに着替えていた愁は毛布を掛けてやった。


「愁、着替えたか?」


ネクタイに手間取っている愁の元へ、秋羅は部屋の戸を開けた。


『秋羅、これいらない』

「いらないじゃ無くて、締めなきゃ駄目なんだよ。

ほら、貸してみろ」


秋羅が愁のネクタイを締めていると、美麗はスッと目を開け起き上がった。


「あれ?どっか行くの?」

「(ヤベ!起きちまった)

会議があってな。それに出るんだよ」

「……愁も?」

「あぁ。部隊長の人達も出るから、こいつを知らせておかないとって事で」

「……」

「会議中は、俺が一緒に居るんで大丈夫手ですよ!」


ヒョッコリと顔を出しながら、梗介は部屋の中へ入ってきた。


「……」

「そんな嫌な顔するな!」

「園庭行きます?そこなら、君が飼い慣らしてる黒狼やグリフォンがいますし」

「……うん」

「何か、曾祖父ちゃんと同じくらい頑固だな」


「誰が頑固じゃ」


突然の声に梗介は、恐る恐る振り返った。そこにいたのは、蘭丸と陽介だった。


「ひ、曾祖父ちゃん!?な、何で?!」

「儂が会議に出ちゃいかんのか?」


駆け寄ってきた美麗を、蘭丸は頭を撫でると抱き上げた。


「監察官も出るのか?」

「まぁな」

「出る必要が無ければ、儂が面倒を見る予定だったが……

元帥が出ろと言ってきたからのぉ」

「……なぁ、何で梗介は出ないんだ?」

「少尉以上しか、今回の会議には出席できない」

「要するに、まだこいつは青っぱなって事か」

「俺一応、伍長に昇進しました!」

「この討伐隊は、伍長までは簡単に上がれる」

「先輩~!」

「事実だ」


小隊長

会議室……

 

 

席に座り身構える祓い屋達の向かい席に、10人の男女が鋭い目付きで睨んだ。

 

 

「……何か、凄い睨まれてるんですけど」

 

「気に入らないんじゃないの?私達が」

 

「まぁ、そうだろうね。

 

祓い屋は好き勝手やっておきながら、本部に来ること滅多に無いからね」

 

「こうやって全部隊の隊長にお目に掛かるの何て、一生に1度あるかないかだ」

 

 

会議室のドアが開き、外から幸人と秋羅、愁が入ってきた。

 

 

「……随分と、偉くなったもんだな?天海」

 

「今は月影だ。名前間違えるな」

 

「やる気の無さそうな顔は、相変わらずね。

 

 

同じ施設出身の、大空と雲雀と1つ下の藤風は立派になったのに」

 

「一緒にするな、あいつ等と」

 

「おぉー、怖い怖い。

 

祓い屋になると、キレやすくなるんですね」

 

「……馬鹿に付き合ってられねぇ」

 

「あぁ!?」

 

「その歳にもなって、まだ小隊長止まりですか」

 

「っ」

 

「君等が自慢気に話していた3人とも、地位は凄い高いよね?

 

 

なのに、同期の君等全然じゃん」

 

「ちょっと、余計な口挟まないでよ!」

 

「大口叩く前に、彼等を超えれば?

 

超えられればの話だけどね」

 

「この女!!」

 

「小隊の隊長さんなのに、売られた喧嘩は買うんだ……」

 

「ガキは黙ってろ!!」

 

「ガキじゃないし!!祓い屋の弟子だし!!」

 

 

奈々が席を立ち刃向かっていた時、会議室のドアが開き陽介と大地、翔が入ってきた。

 

 

「ちょっと何?騒々しいわよ?」

 

「この人達が、さっきからアタシ達の悪口ばかり言ってくる!」

 

「このガキ!!」

 

「貴様等、立場を弁え」

 

「っ」

 

「妖怪を討伐しているもの同士だ。

 

争うな」

 

「……ケッ、偉そうに」

 

「少将になったからって、いい気にならないでよ」

 

「人を妬む暇があるなら、妖怪の群れ1つでも破滅させろ」

 

「脱退したアンタに言われたくないんだけど!!」

 

「いい加減にしろ!!」

 

 

陽介の怒鳴り声に、一同は身を縮込ませた。席を立っていた奈々は、半怯えながら保奈美に抱き着いた。

 

 

「陽介、少し落ち着きなさい」

 

「……」

 

(久し振りだわ……陽君の怒鳴り声)

 

「君の怒鳴り声で、弟子達が怯えしまったよ」

 

 

宥めるように言う葵の傍には、怯えた表情で自身を見る時雨と、ポカーンとしている敬と邦立、驚いた表情のまま固まってしまったアリサと梨白、火那瑪、そして心配そうにして見る秋羅の姿が、陽介の目に映った。

 

 

「……すまない。

 

少々声を荒げてしまった」

 

「い、いえ……大丈夫です。

 

(ここに美麗がいたら、絶対大泣きだ)」

 

 

 

庭園……

 

 

顔を擦り寄せる竜の頬を、美麗は嬉しそうに撫でていた。

 

 

(何か今、先輩の怒鳴り声が聞こえたような気が……)

 

「良い遊び相手がいて良かった……」

 

「曾祖父さん、ここにいていいの?

 

大空先輩、先に行っちゃいましたけど」

 

「そろそろ行くわい。

 

梗介、これを渡しておく」

 

 

そう言って、蘭丸はスケッチブックとクレヨン、2冊の絵本を差し出した。

 

 

「……小さい子の玩具じゃねぇか。

 

って、この絵本俺が子供の頃曾祖父ちゃんに読んで貰った」

 

「今は紅蓮達が相手しておるが、彼等にも限界はある。

 

その間のものじゃよ。

 

 

絵本は読んでやれ」

 

「……え?!俺が!?」

 

「他に誰がおる」

 

 

少々呆れながら、蘭丸は園庭を出て行った。出て行く蘭丸の後ろ姿を見た美麗は、竜から離れると彼の後を追い駆けた。庭園から出ようとした彼女を、梗介は慌てて引き留めた。

 

 

「あ!駄目ですよ!」

 

「蘭丸、どこ行ったの?」

 

「会議ですよ。

 

大事な。終わるまで俺がここにいますから」

 

「……」

 

 

不安そうにする美麗に、歩み寄ってきたエルは彼女を加え自身の背中に乗せると翼を広げ飛び立った。

 

 

「俺より……あいつ等の方が、面倒見るの上手くね?」

 

 

突っ立っている梗介を、紅蓮はチラッと見るとあくびをして彼の傍に寝そべった。

 

 

 

ゴロゴロと雷を鳴らしながら、黒い雲は空を覆いポツポツと雨が降り始めた。

 

 

硝子張りの天井に当たる雨に、絵を描いていた美麗は天井を見上げた。

 

 

「雨だ……(ぬらりひょんの子供が本部に来る時って、必ず雨降るなぁ)

 

?」

 

 

竜達の傍にいた美麗は、スケッチブックを手にして梗介の元へ歩み寄った。傍に座り込むと再び絵を描き始め、彼女を追い駆けてきたアゲハは背中に留まった。

 

 

「……あっちにいなくていいのか?」

 

「いい」

 

「何描いてるんですか?」

 

「竜達……

 

 

ねぇ、会議っていつ頃終わるの?」

 

「予定だと、12時には終わるけど……

 

正直、分からない」

 

 

 

会議室……

 

淡々と喋る幸人と葵、陽介……資料を見ながら、付け加えるようにして読み上げていった。

 

 

「以上が、我々が目撃した状況だ」

 

「ワー、天海が作ったには良く出来た資料」

 

「私語を慎め!」

 

「っ!」

 

「……あの一つよろしいでしょうか?」

 

「?」

 

「ぬらりひょんの子供……夜山美麗の左腕に現れた痣が、妖怪を呼び寄せたと仰っていましたが、元々持っていたものなんですか?」

 

「痣が現れたのを見ると、おそらく……」

 

「その痣に関して、2つ目に配った資料にまとめたものがある」

 

 

奏歌の言葉に、小隊長達はファイリングされた2つ目の資料をペラペラと捲りながら、中を読んだ。

 

 

「……総大将の」

 

「証?」

 

「あの痣が?」

 

「夜山晃の父・夜山輝陽(ヨヤマテルハル)が作成した妖怪辞典の中に、この痣のことが書かれていた」

 

「?!」

 

「え?妖怪辞典って、夜山晃さんが書いたんじゃないの?」

 

「以前まではそう思っていたけど……違ったのよ。

 

 

現在、妖怪辞典は5冊確認されているけど、あと1冊あったのよ。それが、輝陽が作成したと思われる妖怪辞典第1巻」

 

「つまり、晃は父親の仕事を受け継いでいたという事か」

 

「この1冊の本は、妖怪の能力や技等が書かれていた。

 

痣については、先程月影達が話した内容と同じ事が、書かれていたわ」

 

「これを読む限り、あの痣は元々あったという事でよろしいでしょうか?」

 

「そう捉えて良いわ」




土砂降りの中、宙に浮かび本部を見下ろす1人の者……


その者は姿を消し、建物内へ入って行った。
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