桜の奇跡 作:海苔弁
いていい存在だ。それに、あの子は総大将を継ぐ者だ。
『彼女は総大将になれない』
『彼女は消されていった総大将に成れなかった器の怨念の他に、多くの闇を抱えている』
多くの闇?何で、美麗に?
『生かしたからだ』
『産声を上げる前に、殺せばいいものをあの男は生かした』
あの男って……先代の総大将?
『それに、彼女はもう無理だ』
『時間が迫っている』
時間?何の?
『もうじき、闇が蘇る』
『蘇れば、あの子は柱となる』
『食い止められるのは、9人の贄』
そんなことさせない。必ず、俺が闇を消す。
『無理な話だ』
『桜の守がいようと、彼女の闇は消せはしない』
『何せ、あの子は……』
『……』
目を覚ます愁……窓から差し込む太陽の日差しに、目を細めながら体を起こした。ふとベットの方を見ると頭から布団を被った美麗が、自身の手を握っていた。
『美麗、どこにも行かないから手ぇ離して』
「……」
『……離したくないなら、離さなくていいよ。
その代わり、顔を出して。今は俺しかいないから』
「……」
布団から顔を出した美麗は、起き上がりベッドの上でアヒル座りをした。俯く彼女の頬を、愁は撫でながら微笑んだ。
『髪の毛、梳かす?』
「……あとでいい」
『どっか痛い?』
「痛くない」
『……』
「……あれは何だったの?」
震える声で、美麗は愁の手を強く握りながら質問した。
『正直、俺も分からない』
「あれが言ってた……私は、いらない存在だって。
だから、晃は私を『人』に会わせなかったの?」
『美麗』
「天狐達も、その為に私を」
『違うよ』
「じゃあ何で……」
『それは美麗が、大事だったからだよ』
「……」
『晃と天狐達は、美麗を大事にしてた。大事に大事にしてたらそうなっちゃっただけ。
美麗が悪いわけじゃないよ。晃は、美麗が自身でコントロール出来ない力で、他人を傷付けさせない様にしていたら、そういう行動をとっちゃっただけだよ』
「コントロール出来ない力?」
『美麗は大事なものを守ろうとした時、そういう力が出てきて時々我を失って力が暴走しちゃう時があるんだよ』
「……それって、知らない間に戦闘が終わってたのと関係があるの?」
『うん』
「じゃあママが死んじゃったのは、私の力の暴走のせい?」
『それは違うよ。
美優さんは、病気だったんだよ。晃が言ってたよ。美麗が生まれる前から、月に何回かは寝ていたって』
「……」
『美麗は自分の事、責めなくていいよ。
誰のせいでもない。美麗がいらない存在だなんて、誰も思ってない』
「……」
『……それが怖かったから、ずっと布団の中に籠ってたの?』
「うん……
いっぱい力使って、建物壊しちゃって……パパは倒れちゃったし、頭の中グチャグチャになっちゃって。
でも一人になるのが嫌で、ずっと水輝に」
『少し落ち着いたら、皆に顔出そう。心配してるから』
「うん」
休憩室……ソファーに座り大あくびをする大地に、水輝はコーヒーが入ったマグカップを渡した。
「毎度毎度、よく徹夜するね。ここの研究員は」
「下にはするなって言ってるけど、調べが進むとついね」
「ハイハイ」
「水輝、ぬらちゃんの様子は?」
「ミーちゃん、今愁と一緒だよ。
だいぶ落ち着いたみたいでね。さっき、私が行ったら顔出してて」
そう言いながら、水輝は写真を見せた。そこに写っていたのは、愁に髪の毛を結ってもらう白い肌に白髪を伸ばした、綺麗な女性だった。
「……え、誰?」
「ミーちゃんですけど。
まぁ、驚くのも無理ないね。私もさっき驚き過ぎて連写しまくってたから」
「ちょっと、これ1枚頂戴」
「どうしようかなぁ」
「水輝!!」
「朝っぱらから、何やってるんですか?」
ファイルを手にした翔は、少々呆れた様子で研究室に入ってきた。
「成長したぬらちゃんの写真を見てたのよ」
「成長?
うわっ!!何こいつ?!滅茶苦茶美人じゃないっすか?!
え?!あのチビが、これなんですか?!」
「そうよ。身長と体重測らないと」
「そういえば、所長は?」
「まだ元帥を看てるわよ。
未だに、彼だけ目を覚まさないから」
「蘭丸さんは目を覚ましたの?」
「明け方目を覚ましましたよ。
今、梗介が看てます」
「それは良かった。
さてと、私ミーちゃんの所に行ってくるから」
「待って!僕チンも行くわ」
「来てもいいけど、変なことしないでね」
「あれ?水輝、どうしたの?」
部屋で窓辺の台座に座っていた美麗は、部屋に入ってくる水輝達の方に体を向けた。
(うわ……本当に美女だわ)
「体調の方は、もう大丈夫?」
「うん、平気」
「ならよかった。
ちょっと、一緒に来て貰える?」
「え?」
『何するの?』
「身長と体重を測るんだよ。ずいぶん変わってるからね」
「……注射しない?」
「しないしない!
今後ろにいる、この馬鹿は私についてきただけだから」
「水輝!馬鹿って何よ!!」
「とりあえず、研究室行こうか!」
研究室では、あくびをしながら書類を見る翔が椅子の背もたれに寄りかかりながら読んでいた。ドアが開く音に彼はマグカップを口に付けながら、振り向いた。
「あれ?先輩、何……って、その美女ってまさか?!」
「はい、妖界の絶世の美女事、ぬらちゃんです」
「……」
フリーズする翔を無視して、水輝は身長計に彼女を立たせた。
「ミーちゃん、顎引いて。
160cm」
「凄い……12cmも伸びてる」
「発見当時は、142cm
1年後は140cm
1年半後は143cm
2年後は145cm
そんで、今年の4月頃に測った時は148cm」
「そんで、妖力を使い過ぎ縮んだ時の身長は、120cm~130cmの間」
「凄い速度の成長ですね」
「それか、これが本来の身長なのかもしれないわね」
「妖魔石で抑えられていた妖力が開放されたからかもね」
トレイに置かれている粉々になった妖魔石の欠片を、美麗はソッと触れた。妖魔石は修復不可能なくらい、粉々になっていた。
「粉々だ……
ねぇ、天花の小太刀は?」
「あれなら、今蘭丸さんが持ってるよ。少し預からせてくれって言われてね」
「……壊したから、蘭丸怒ってた?」
「全然。むしろ、天花さんがミーちゃんを守ってくれたって喜んでたよ」
自身のベットで眠る梗介の頭を、目を覚ましていた蘭丸は愛おしく撫でた。膝元に置かれたトレイには真っ二つに折れた美麗の小太刀が乗っていた。
(役目を果たしたんですね……先輩)
『先輩、よかったんですか?』
蘇る記憶……遠征中、武器の手入れをしている天花に蘭丸は話しかけた。
『何がだ?』
『あの小太刀、美麗に挙げて本当によかったんですか?
あれって、亡くなった父上の』
『別にいい。
父の遺品など、実家に帰ればゴロゴロある。
それに、あれには私の意思を吹き込んだ。必ず守ってくれるはずだ……私がいなくとも』
『……』
『まぁ、もし私達のどちらかが長生きした時、あの小太刀があった方が会いに行きやすいだろ?』
『会いに行くって、行けるんですか?』
『全部片付いたらだ。
討伐隊が解散され、妖怪に怯えることのない世界になった時、会いに行けるだろ?』
『……そうですね!先輩!』
懐かしき記憶に浸りながら、蘭丸は小太刀を撫でた。
※いつも読んでいただきありがとうございます。
この場を借りてご報告があります。今年から社会人となるため、執筆時間が取れなくなるおそれがございます。今まで通り、毎週とは行きませんが不定期で更新させていただきますので、今後とも宜しくお願いします。