桜の奇跡 作:海苔弁
体重計から降りた美麗は、水輝の方を振り向きながら質問した。
「検査終わったから、良いよ」
『俺、連れて行く』
扉の前に立つ愁の元へ駆け寄った美麗は、彼と共に研究室を出て行き庭園へ向かった。
「仲の良さは、変わらないようね」
「それが1番」
「とっとと記録書書きなぁ。
私も、アゲハ達の所に行って来るから」
「ちょっと水輝、ずるいわよ!!」
「庭園には、暗輝がいるので行く目的はあります」
「キー!」
「先輩、アゲハの鳴き声の真似しなくて良いんで、早く記録書書き直して下さいッス」
庭園で寛ぐエル達……紅蓮の手当てをしていた暗輝が一息吐いた時、扉が開く音がした。振り返ると、そこには愁と美麗が立っていた。
「あれ?愁、何で……?
そいつ……まさか」
『?
美麗』
「ミーちゃんだよぉ!暗輝」
あとからやってきた水輝は、美麗の肩に手をのせながら笑顔で言った。固まっている暗輝とポカーンとしている秋羅は、美麗から目を離させずにいた。
2人の目線を気にすることなく、美麗は擦り寄ってきた紅蓮を撫でながら駆け寄ってきたエルの頬を撫でた。その様子を、2人は目で追いながらもう一度水輝の方に目を向けた。
「あれが……」
「美麗?」
「身長は、20cmも伸びてました」
「完全な大人じゃん!!」
「100引けば、美麗は17歳だ」
「そうそう。奈々と同期なんだよ」
「100足してください」
エルに頬を舐められる美麗を、木の陰からアゲハは恐る恐る見ていた。舐めてくるエルの顔を抑え嘴を撫でると、木の場所まで行き隠れているアゲハを見た。
「……アゲハ?」
『キー?』
鳴き声を発したアゲハに、美麗は微笑を浮かべながら触覚を撫でた。撫でられたアゲハは、嬉しそうに美麗に飛び付いた。
「アゲハ!お前、自分の大きさを考えろ!」
彼女達の元へ秋羅は慌てて駆け寄り、美麗に乗っかるアゲハを退かそうと持ち上げた。起き上がった彼女は、自身の膝に頭を乗せるアゲハを撫でてやった。
「アゲハの問題は、解決したみてぇだな」
夕方……
庭園のドアが突如開き、外から梗介と陽介に支えられた蘭丸が入ってきた。
「監察官」
「そのままでよい。
それより、美麗は?」
「あそこで、アゲハ達と遊んでます」
ブランコに座り軽く揺らしながら、美麗はアゲハ達と遊んでいた。2人から離れた蘭丸は、ゆっくりと彼女の元へ歩み寄った。歩み寄ってくる彼に美麗は気付くと遊ぶのをやめ、共に遊んでいたアゲハ達は美麗から少し離れたところへ行った。
「……蘭丸?」
「無事で何よりじゃ、美麗。
ほれ、これを返しとく」
そう言いながら、蘭丸は懐から鞘に収まっている短刀を差し出した。美麗は、短刀と蘭丸を交互に見ながらそれを受け取り、鞘から抜き刃を見た。
「天花の小太刀だ……でも、折れたんじゃ」
「先程、知り合いの鍛冶屋で打ち直してもらったんじゃ。
折れてしまって、所々欠けていたから元の小太刀に戻すことはできず少し小さくなってしまったが……
気に入ったかの?」
「……気に入った!
蘭丸、ありがとう!」
嬉しそうに礼を言いながら、美麗は蘭丸に飛び付いた。嬉しそうにする美麗に、蘭丸は微笑みながら飛びついた彼女を優しく抱きしめた。
その日の夜だった……幸人達が目を覚ましたのは。
幸人の傍で心配していた秋羅は、目を覚まし体を起こす彼に手を貸した。
「秋羅……何日経ったんだ?」
「まだ一日しか経ってねぇ。それより、体の方は大丈夫か?」
「何とか……美麗は?!」
「無事だよ。今、水輝さん達と一緒に庭園に」
その時、ドアが開き外から水輝と彼女につられてやって来た美麗が、中へと入ってきた。
「……水輝、その女性どなた?」
「やっぱり、そういう反応になるのか」
「秋羅、まさか」
「本来の姿に戻った、美麗です」
「……ハァ?!」
「これが美麗!?」
「めちゃめちゃ美人じゃねぇか!!」
皆が騒ぐ中、葵は彼女を見つめたまま固まっていた。次第に彼は息を乱していき、胸を押さえながら咳き込んでしまった。
「師匠?大丈夫ですか?」
「だ、大丈…ゲホゲホ!」
「葵、大丈夫か?」
「葵?」
「……翠」
「分かった」
「奈々、一緒に行ってあげて」
「はい」
「美麗!庭園行こう!」
「え?でも……」
「大きくなったアゲハ、見せてよ!美麗!」
「うん!」
奈々と翠と共に、美麗は部屋を去って行った。水輝と一緒にいた暗輝は彼女とアイコンタクトを取ると、何かを察したのか互いに頷いた。暗輝は立ち止まっていた愁と共に美麗達の後を追い、水輝は葵の元へ行った。
「葵、ゆっくり息を吐いて。そのまま横になって」
水輝に言われるがまま、葵はゆっくりと息を吐きながら体を丸めて横になった。保奈美は水が入った吸い飲みを持って行き、それを水輝に渡し彼女から受け取った吸い飲みを、葵の口に入れた。
「葵、ゆっくり飲んで。ゆっくり」
水輝が葵の対応をしている頃、美麗は庭園で奈々にアゲハを見せていた。アゲハはご機嫌なのか宙を舞い、奈々の周りを飛び回った。
「アゲハ、凄いご機嫌!」
「さっきまで、凄い落ち込んでたのに。
奈々が怖がらなかったから、嬉しいんだね」
「大きくなっても、アゲハはアゲハだもん。
それに、ここの触覚のふわふわがもっとふわふわで気持ちいい!」
アゲハの触覚を嬉しそうに触る奈々につられて、美麗は笑った。
『来て』
小さな子供の声が、美麗の耳に聞こえた。声の主を探す様にして辺りを見回すが、庭園にいるのは愁と奈々、紅蓮達だけだった。
(気のせい?)
『こっち』
また聞こえた声の方を向くと、庭園の前に長い黒髪に白いワンピースを着た少女が手招きをしていた。少女は彼女を手招きしながら、庭園の外へと出て行きその少女につられるようにして、美麗は立ち上がり庭園から出て行った。
『?
美麗?』
出て行く彼女の姿を見た愁は、紅蓮と共に庭園の外を出て追い駆けて行った。
その頃、水を飲み落ち着いた葵は深く息を吐き心配そうに背中を擦る時雨に、薄く笑みを浮かべながら礼を言った。
「落ち着いたみたいだね。
どう?少し楽になった?」
「何とか……すまないね、見苦しい所を見せて」
「別にいいって。長い付き合いでしょ」
「どうした?美麗見て、惚れて過呼吸になったか?」
冗談交じりに発言した迦楼羅の頭を、幸人と創一朗は拳骨を食らわせた。二つの大きなたんこぶを作った迦楼羅は、涙目になりながら後ろへ下がった。
「何があったか話してみろ」
「……同じだったんだよ」
「?」
「美麗が、僕の家に火を点けた妖怪と」
「……」
「み、見間違えとかじゃ」
「はっきり分かるよ。
燃え盛る炎の中、蒼空と母さんがいてその前に二人を見下ろすようにして立っていた、白髪の女の姿をした妖怪が美麗と瓜二つなんだ」
「……」
「可能性はあるな」
「幸人」
「創一朗と迦楼羅には以前にも話しただろう。
美麗は100年間眠っていたと天狐達は言っていた。けど、それが本当かどうかはまだ分からない」
「じゃあ、師匠の家族を殺したのが……美麗ちゃんってこと?」
「決定付けるのはまだ早い」
「そういう考えは、あっていいと思うよ」
突然聞こえた声に、幸人達は辺りを見回した。すると、幸人が寝ていたベットの上に地狐と天狐、脇に置かれていた椅子に空狐が座っていた。
「い、いつの間に」
「あれだけ強力な妖力を感じたら、すっ飛んでくる」
「まぁ、そうですね」
「姉君、そろそろ話してもいいんじゃないか?」
「……」
「美麗がもう、あの時と同じ容姿になっている。
話して、これからの対策を考えるのが筋ではないか?」
「そうだな。
もう話しても、害はないだろう」
「美麗の過去って事か?」
「それも話すが、その前に少し知っておいてほしい。
私達、妖怪について」
「……」
「空狐から、歴代のぬらりひょんたちの過去を見せて貰っただろう?」
「あぁ」
「その前に話がまだあるんだ」
「え?」
「私達妖狐一族は、ぬらりひょん達より遥か昔からこの地に存在している。
ぬらりひょんがこの地に来た時も、覚えている。だが……その前に、彼等……
いや……藤間はこの地に来る前、ある場所に住んでいた。むろん私達もだ」
「どこに住んでたの?」
「妖の世界とか?異空間というか、異世界というか」
「まぁ、そう捉えていい。
その世界は、私達妖しか住んでいない世界だった。藤間は、その世界を治めている長の4番目の子供。
藤間は、私達妖怪と人間が共に過ごせることを夢に見て、私達の世界からこの世界へと出てきた」
「見張り役として、僕達3人がこの世界へ来たんだよ」
「その世界から、俺等の世界って見えてんのか?」
「もちろん。
特殊な力を持った水があってね。そこからこの世界を見ることが出来るんだ」
「だからあの妖怪、美麗の事分かってたのか」
「でも麗桜の奴、アイツの事知ってたみたいだったけど」
「甲間は度々、この世界に来ては藤間とその親族の様子を見に来ていた。
だから、麗桜も知っていた」
「そうだったのか」
「なぁ、質問」
「?」
「甲間って妖怪?あいつが言ってたんだけど……
美麗が望まない後継者とか、居てはならぬ存在とかって……どういう意味か分かるか?」
「……まだ、信じていたとは」
「信じてた?」
「私達の世界で、ある言い伝えがあってな」
「言い伝え?」
「闇の力は、男より女の方が倍の力を発揮すると言われている。
闇の力を吸い取る者として、女が生まれた際産後すぐに殺される」
「え?嘘……」
「妖怪の世界にも、男女があったのか」
「まぁね。
ちなみに、藤間が生まれるまでの間に3人の女の子が生まれたけど、全員殺されたよ」
「……」
「美麗が生まれた当初、甲間は彼女を殺そうとした。
でも、麗桜は美麗の未来を信じて生かした」
「けどまさか、信じていた人間に自分達が裏切られるとは思わなかっただろうね」