桜の奇跡   作:海苔弁

23 / 228
一段落する一同……


その時、茂みから物音がした。出て来たのは、あの大鹿だった。


「鹿?」

『……あいつを倒したか』

「封印しただけ」


立ち上がり、大鹿の目を見ながら紫苑はそう言った。大鹿は彼女の目を見て、鼻で笑った。


「湖なら、私が蘇らせる」

「?!」

『だろうな。

そう言ってくれるのを、待っていた』

「皆少し離れて」


蘇る湖

涸れた地面に大きな陣を描く紫苑。描き終えると、ポーチから青い瓶を出し、蓋を開けると中に入っていた液体を陣の上に垂らした。

 

 

液体は生きているかのようにして、陣の線に馴染んだ。

 

 

「悲しき水の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !!」

 

 

青く光り出す陣……紫苑は、水の入った瓶の蓋を取り、中身を出した。中身は球体となり、宙に浮いた。

 

 

「清らかなる水よ、それは天の恩恵なり、天より雨を降らし給え!」

 

 

球体は空へと上がると、雨雲を引き寄せた。雷を鳴らしながら広がる雨雲から、やがて雨が大量に降り出した。

 

 

「命の源、天の恩恵よ、我が手に集え!」

 

 

降り出した雨の一部が、天に上げた紫苑の手に集まった。集まると彼女は、集まった水を湖の跡地に叩き付けた。

 

空から落ちた水は、穴にスッポリと填まり反動で波が立った。

 

波は、枯れた木々に触れ、水に触れた木々達は次々に青々しくなっていった。

 

 

 

離れた場所で、その光景を見ていた秋羅達は驚きのあまり口を開けていた。すると、後ろで大人しくしていたエルが、緩んでいた幸人の手から離れ、そこから駆け出した。彼に続いて、紅蓮も駆け出し湖となった場所へ寄った。

 

 

水から顔を出した紫苑は、咳き込みながら泳ぎ岸へ上がった。上がった彼女の元へ、二匹は駆け寄り体を擦り寄せ、頬を舐めた。

 

 

「お疲れさん」

 

 

二匹の後についてきた秋羅は、座り込んでいる紫苑に手を差し出した。その手を彼女は、躊躇しながらも掴み彼の手を借りて立った。

 

 

「見違えるほど、戻ったな」

 

「森全体に雨降らせたから……」

 

「大手柄だ」

 

『流石だな』

 

 

歩み寄る大鹿は、仲間達を引き連れながらそう言った。

 

 

『やはり、あの者に似ている』

 

「あの者?」

 

「誰のことだ?」

 

『妖怪の総大将と言われている者……

 

 

全ての精霊を操り、妖怪と人の間に立ち妖怪の秩序を守っていた者だ』

 

「そいつ、今は?」

 

『とうの昔に亡くなった。

 

妖怪達が凶暴化したのも、それが原因だ』

 

「……」

 

「名前とかはあったの?」

 

『通り名としてはこう呼ばれていた……

 

 

魑魅魍魎の主……ぬらりひょんと』

 

 

ぬらりひょん……

 

その名を聞いた紫苑は、何気なく後ろを振り返った。何も変わらない風景……その様子に、紅蓮は寄り話し掛けた。

 

 

『どうした?』

 

「……何でも無い……大丈夫」

 

 

紅蓮の頭を撫でながら、紫苑はそう言った。

 

大鹿と別れた後、幸人達は森を出て行き柚人の家へと帰った。

 

 

 

数日後……

 

 

新しい家で、荷物を出す柚人達。幸人が父親と話をしている間、秋羅と紫苑は家の手伝いをしていた。

 

新しくなった菊乃の部屋に、物を飾っていく紫苑に菊乃は動かしていた手を止め、彼女に飛び付いた。

 

 

「手動かさないと、片付かないよ」

 

「紫苑がいるから平気!

 

ねぇ、紫苑の部屋はどこ?」

 

「ここには無いよ」

 

「え?」

 

「依頼が終われば、私は幸人達と帰るから」

 

「……嫌だ!!

 

紫苑、どっか行っちゃ駄目!」

 

 

そう怒鳴って、菊乃は紫苑に抱き着いた。彼女は持っていた籠を落として、その場に立ち尽くした。

 

 

「嫌だ嫌だ!!

 

ねぇ、また一緒に暮らそう!ねぇ!」

 

「……」

 

「エルも紅蓮も一緒にいていいから!ねぇ!

 

パパに言えば、紫苑のお部屋だって!」

 

「……気持ちは嬉しいよ」

 

「じゃあ!」

 

「でも、今は幸人達の傍にいたいの」

 

「……そこにいて、紫苑幸せ?」

 

「……うん」

 

 

嬉しそうに微笑みながら、紫苑は答えた。その笑みを見て、菊乃は彼女から離れ涙を拭いた。

 

 

「遊びに来てくれる?」

 

「うん……またいつか、ここへ来るよ」

 

「約束だよ?」

 

「うん、約束」

 

 

 

片付けが一段落付き、休憩しようと紫苑は外へ出た。

 

しばらく町を歩くと、噴水のある広場に着いた。紫苑は噴水の縁に座り、軽く息を吐いた。一緒に来ていた紅蓮は、縁に前足を置き噴水の水を飲んだ。

 

 

その時、自分に歩み寄ってきた柚人の姿が目に映った。彼の気配に紅蓮は、縁から足を下ろし紫苑の前に行くと唸り声を上げて、攻撃態勢に入った。

 

 

「紅蓮、大丈夫だから」

 

 

そう言いながら、紫苑は彼の頭を撫で後ろへ行かせた。

 

 

向かい合う柚人と紫苑……

 

 

「……凄いんだな」

 

「?」

 

「あれだけ、精霊を使いこなして……

 

妖怪を退治して……湖まで蘇らせて……凄えよ」

 

「……」

 

「前から思ったんだけど……

 

何で、そのブレスレット嵌めてんだ?」

 

「……大事な物だから」

 

「誰かから貰ったのか?」

 

「覚えてない……けど、そうだといいな」

 

 

そう言いながら、紫苑は笑った。その顔を見て、柚人は頬を少し赤く染めると、見られないようそっぽを向いた。

 

 

「……お前、笑うように……なったんだな」

 

「え?」

 

「な、何でも無い!

 

また、来てくれるか?この町に」

 

「依頼があればね」

 

「色々悪かった。

 

今回は、ありがとうな」

 

 

頭を下げ、そして手を差し出しながら柚人は言った。紫苑は、一瞬後ろにいる紅蓮を見ると、柚人の手を握り互いに握手を交わした。




夕方……


馬車を動かすエルの手綱を引く幸人とその隣に座る秋羅。

中では、座りながら眠る紅蓮と、彼の膝に頭を乗せた紫苑が眠っていた。


「よく眠ってるなぁ」

「色々あったから、疲れたんだろ。

今回は、結構働いたからな」

「紫苑様々だな」

「早く帰って、眠りたい」

「着いたら起こしてくれ。寝る」

「俺を寝かせろ!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。