桜の奇跡   作:海苔弁

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裏庭へ来た純玲は、半べそを掻きながら雑草を抜いていた。傍にいた紫苑は、彼女に何と言葉を掛ければ良いかが分からず、共に雑草を抜いていた。


そこへ、外で待たせていたエルが、壁を飛び越え降り立ち紫苑に擦り寄った。


「エル……

待ってなきゃ駄目だよ。ここの子達怖がるから」


そう言いながら、紫苑はエルの嘴を撫でた。エルは嬉しそうに、鳴きながら彼女の頬を舐めた。


「……何?それ」

「グリフィンって言う、西洋の妖怪。

襲わないから、大丈夫だよ」

「……」


立ち上がり紫苑に駆け寄った純玲は、エルを見た。エルは彼女を見ると、嘴で彼女を軽く押した。倒れかけた純玲を、紫苑は支え振り返った彼女に笑みを見せた。


「受け入れられたって事だよ」


その言葉に、純玲はパァっと明るくなりエルの嘴を撫でた。


赤い菫

水輝達にお茶を出した職員は、向かいに座りながら話した。

 

 

「水城純玲……あの子は、二週間前にここへ来た子でした。

 

 

父親は、彼女が二歳の時に事故で亡くなり、母親は一ヶ月前に病気で」

 

「ケレフトって、東の外れにある村ですよね?

 

何故そこの子がここへ?」

 

「……何でも、悪い噂が漂っていたらしくて……村にある施設では引き取りたくないと」

 

「噂?」

 

「真実かどうかは分かりません。

 

母親が、禁忌の子供の子では無いかと」

 

「……」

 

「……禁忌の子供は、絶滅したと言われていますが……

 

その血を引いた子供……クォーターはまだ生きてますからね」

 

「可能性としては、あるって事か」

 

「その噂があったために、あまり良くして貰えなかったらしいんです。

 

 

純玲ちゃん、ここへ来る前に親戚の方に引き取られたみたいなんですが……そこで、虐待を」

 

「……」

 

「見掛けた人が、警務の方に伝えてそれで虐待されていることを知り、彼女を保護。

 

そして、ここへ来たんです」

 

「……だから、微かに痣とかが残っていたのか」

 

「え?」

 

「いや、少し気になってたんだ。

 

 

もう治りかけてはいるけど……火傷の跡に叩かれた跡が体中の至る所にあったんだ」

 

「そうだったんだ……」

 

「そのせいもあるのか、中々ここに馴染めないらしくて……

 

人数不足のために、我々もそこまで目が届かないもので」

 

「……」

 

 

 

話し終えた二人は、庭へ出た。すると庭で遊んでいた子供達が、何やら騒いでいるのが聞こえ、その場所へ駆け寄った。

 

そこでは、子供達が空を見上げており一人の男の子に、秋羅は話し掛けた。

 

 

「何かあったのか?」

 

「純玲ちゃんとお姉ちゃん、飛んでっちゃった!」

 

「飛んでった?!」

 

「大きな馬に乗って!」

 

「馬?」

 

『二人なら、エルに乗ってしばらくここいら散歩してくるって』

 

「……紫苑」

 

「段々、幸人に似てきたねぇ!」

 

 

ため池に来たエル……降り立つと、紫苑が先に降り次に純玲を降ろした。エルは首を振ると、池の水を飲んだ。

 

 

「凄ぉい……お姉ちゃん、動物使い!?」

 

「違うよ……

 

 

純玲のママは、紫色の髪なんだね」

 

「……うん」

 

 

頷いた純玲は、掛けていたポシェットから一枚の写真を取り出した。そこには、紫色の髪を生やした女性と彼女に抱かれた小さい頃の純玲が、幸せそうに写っていた。

 

 

「純玲を抱いてるのが、ママ。

 

似てないって言うけど……純玲の髪は、パパ似なの!」

 

「……パパは、赤かったの?」

 

「うん……ママが、純玲の髪を梳かしてる時、いつも言ってた……『純玲は、パパに似て綺麗な赤い髪ね』って」

 

「……」

 

「お姉ちゃんは、どっち似なの?」

 

「え?私?」

 

「うん!」

 

「……分かんない」

 

「え?何で?」

 

「……私、親のこと何も覚えてないんだ。

 

だから、どっち似なのか……」

 

「……お姉ちゃんは、『きんき(禁忌)』と『いたん(異端)』って意味、分かる?」

 

「……何で、そんな言葉を?」

 

「施設に来る前、おじさん達が言ってたの……

 

ママは、きんきの子供。その血を引いた純玲は、いたん(異端)だって……

 

純玲は、他の子と違うの?」

 

「違わないよ」

 

「本当に?」

 

「本当」

 

 

『君は普通だよ』

 

 

「?」

 

 

ふと聞こえた声……紫苑は、後ろを振り返った。

 

 

「お姉ちゃん、どうかした?」

 

「……う、ううん……何でも無い……

 

 

?!」

 

 

強い気配を感じた紫苑は、隣に座っていた純玲を抱き寄せ、辺りを警戒した。水を飲んでいたエルも、その気配を感じ頭を上げると、二人の傍へ行き耳を澄ませた。

 

 

「な、何?」

 

「……何か来る」

 

 

身を低くしたエルの背に、純玲を乗せた時だった……森の茂みから出て来た何かが、紫苑を突き飛ばした。

 

 

「お姉ちゃん!!」

 

 

木に当たった紫苑は、痛みから体を埋めた……自身に何かの影が覆った時、紫苑はハッと顔を上げた。

 

そこにいたのは、四つの目を光らせた妖怪だった……

 

 

「……!!

 

エル!飛んで!!」

 

 

その言葉に、エルは鳴き声を上げて飛び出した。追い駆けようとした妖怪に、紫苑は小太刀を突き刺した。痛がった妖怪は、咆哮を上げると彼女の足を掴み、投げ飛ばした。

 

投げ飛ばされた紫苑は、近くに生えていた木に足で勢いを止めると、素早く地面に陣を描いた。

 

 

「悲しき雷の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !!」

 

 

陣は黄色く光り、そこから雷の帯が紫苑の手に集まった。

 

 

「天より神の裁きを、汝の体に貫け!!」

 

 

槍の形へと変わった雷を、紫苑は妖怪に向かって投げ飛ばした。胸を貫かれる妖怪……一瞬倒れたが、目に光りを灯すと紫苑の体を貫こうと、爪を構え突進してきた。

 

その爪を、紫苑は氷を放ち凍らせると、小太刀で妖怪の手の甲を突き刺した。素早く引き抜くと、妖怪の首を切り、そして胸を刺した。

 

 

倒れる妖怪……紫苑は息を切らしながら、その場に倒れた。

 

 

(……疲れた……

 

3日も寝てたから、鈍っちゃった……

 

 

?)

 

 

寝転んだ地面に咲く、赤い菫……その花を、紫苑は撫でた。

 

 

(……名前……何で、覚えてないんだろう。

 

 

紫苑って名前は、何となく身に覚えがあった……)

 

 

重くなってきた瞼を、ゆっくりと閉じ紫苑は眠った。不意に吹いた風が、彼女の前髪と草花を揺らした。




園内に降り立つエル……そこへ秋羅は駆け寄り、エルの手綱を持った。水輝は、エルの背中に乗っていた純玲を、抱きながら降ろした。


「あれ?紫苑は?」

「妖怪が現れて、今……」

「!!

水輝さん!お願いします!」

「オッケー!」

『エル!道案内頼む!』


秋羅と紅蓮が飛び乗ると、エルは駆け出し翼を広げて飛び出した。


水輝に抱かれた純玲は、心配そうにエルを見ていた。


「大丈夫だよ!秋羅と紫苑ちゃんは、ああ見えて」
「お姉ちゃん、寂しい目してた」

「え?」

「自分の本当の名前が、分からないって言った時……」

「……」

「純玲ね……名前、嫌いじゃないの。

ママが言ってたの。純玲の目の色は黄色だから、ママが大好きな花の名前を付けたんだって」

「そっかぁ……」

「髪の色じゃないもん……目の色だもん……」


目に涙を溜めながら、純玲は水輝にしがみついた。自身にしがみついた彼女を、水輝は撫でながらしばらくそこにいた。
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