桜の奇跡 作:海苔弁
目を開ける紫苑……目が覚めた場所は、紅蓮の腕の中だった。
「……紅蓮?」
『あ、起きたか』
「……どこ?」
『エルの背中』
「もう少ししたら、施設に着くぞ」
「……」
『どうした?ボーッとして』
「……夢見た」
『夢?』
「あまり覚えてないんだけど……
誰かに花あげた……凍り付けにした紫苑を」
そう言いながら、紫苑は体を起こし紅蓮の膝の上に座った。紅蓮は治すようにして、彼女の頬に出来ていた傷を舐めた。
園内の庭に降り立つエル……そこへ駆け寄った水輝は、エルの手綱を持ち大人しくさせた。
「シーちゃん、大丈夫?」
「結構怪我してます!
傷の手当て、お願いします」
「いいよ!」
先に降りた秋羅は、紅蓮から紫苑を貰うと彼女を水輝に渡した。紫苑を受け取った水輝は、医務室へと行き二人の後を紅蓮は追い駆けた。
手当てが終えた紫苑は、体中に包帯を巻きそれが邪魔にならないか腕を軽く回していた。
「手当てはしたけど、あんまり暴れるとまた傷口が開いちゃうから、そこだけ気を付けてね」
「分かった……」
「あと、若干熱があるから帰るまでの間、少し寝ておくといいよ」
「え?熱?」
「多分、まだ完全に治りきってなかったんだよ。そこに薬あるから、それを飲んで寝ときな。
職員の人には言っといたから、そこのベッドで。紅蓮、後は任せたよ!」
そう言って、水輝は部屋を出て行った。
台に置かれていた薬を飲むと、紫苑はベッドに横たわった。すると一気に眠気に襲われそのまま、深い眠りに付いた。彼女の体に、紅蓮は布団を掛け頭を撫でると、狼姿へとなり床で伏せ眠りに付いた。
屋根の補強をする秋羅。その間、水輝は子供達と遊びながら勉強を教えていた。
「すみませーん!」
「?」
塀壁の上を歩いていた秋羅を、下から呼ぶ声が聞こえ彼は下を見た。そこにいたのは、若い夫婦だった。
(誰だ?あいつ等)
「門を開けてくれない?!
ここの院長に話があるの!」
「今連れてきますので、少々お待ち」
「入れろって言ってんのが、分かんないの?!」
「(な、何だ?)
自分はここの者でありません!ですから、院長に話をしてからこちらへ来ますので!」
そう言って、秋羅は屋根から降り院長室へ入った。先程の話をすると、院長室は席を立ち外へ出た。
秋羅は気になり、塀壁を駆け上り外を見た。
何かを言い争う院長と夫婦……院長に怒鳴ると、夫婦は帰って行った。
溜息を吐く院長……秋羅は塀壁から飛び降りると、院長の下へ歩み寄った。
「さっきの方々は?」
「時々いるんですよ。
自分達は、ここの子供の親になりたいから、引き取りに来たと」
「引き取ってどうするんです……
自分達の子でもないのに」
「国からのお金目当てですよ。
養子を引き取ると、いくらかお金が貰えるんです」
「あぁ、聞いたことあります」
「それで時々来るんですよ。
ああいう人達が」
「……」
「けど、引き取る際には証明書を持ってこなければなりません。
それがない限り、お渡しすることも会わせることも出来ないように、なっています」
「……」
医務室のベッドで眠る紫苑と床で眠る紅蓮。
そこへ、様子を見に来た水輝は、ソッとカーテンを開け二人を見た。
(……よく眠ってる。
熱は……だいたい下がったね。
それにしても……寝顔が、天使!)
出しそうになる叫び声を、水輝は口を手で抑え堪えた。
「マ……」
「?」
寝返りを打った紫苑は、自然と水輝の方へ顔を向けた。微かだが、泣いた跡があった……水輝は、目に残っていた彼女の涙を拭き、布団を掛けカーテンを閉めた。
丁度そこへ、紫苑を心配した純玲が彼女の様子を見に来た。
「あれ?純玲ちゃん」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。今、お薬飲んで寝てるから」
「……お姉ちゃん、言ってたの。
ママとパパの記憶がないって」
「……そう」
「だから、どっち似か分からないって」
「……」
「お姉ちゃんのママとパパは、どこにいるの?
純玲のママとパパと同じ、空の上?」
「分からないよ。
先生達も、それ知りたいよ」
「……」
「さぁ、教室戻ろう」
「うん」
水輝の手を繋ぎ、純玲は部屋を出た。二人が出て行ってからしばらくした後、紫苑は目を開けた。彼女と同じくして、紅蓮も目を開け大きくあくびした。そして起き上がると、まだ横になっている紫苑の頬を舐めた。
「……秋羅達は?」
『外だろう。
もう起きて、平気か?』
「大丈夫……秋羅の所に行こう」
医務室を出る2人……外へ出た時だった。目の前に、妖怪が現れたのは。
「……!
紅蓮!秋羅を呼んできて!」
そう叫んだ瞬間、紫苑は妖怪に叩き飛ばされた。
『紫苑!!』
大きな音に、外にいた秋羅は動かしていた手を止め、音の方へ駆けて行った。
そこへ辿り着こうとした時、突如飛ばされてきた紫苑と、彼女を追い駆けてきた妖怪が攻撃しようと、手を上げた。
「紫苑!!」
攻撃しようとした妖怪に、エルは嘴で反撃し怯んだ隙を狙い、紫苑を銜え秋羅の元へ連れて行った。
「紫苑、無事か?!」
「平気」
「封印する準備するから、奴の気を引いてくれ!」
「分かった…紅蓮!」
人から狼姿へと変わった紅蓮は、口から炎を出し攻撃した。
騒ぎに気付いた子供達と職員達は、窓にへばり付き外を見た。
「先生!何か、さっきのお兄ちゃんとお姉ちゃんが、大きな妖怪と戦ってるよ!」
「それじゃあ、先生も参戦してくるから、皆は私達の応援してね!」
「ハーイ!」
職員に頷き水輝は外へ出ていった。彼女の後を、純玲は職員の目を盗みついて行った。
外へ出た水輝は、封印陣を書く秋羅の元へ駆け寄ると、いつの間にか持ってきていた、彼のバックから瓶を取り出すと、それを陣の上へ置いた。
「準備出来た!水輝さん、瓶を抑えていて下さい!」
「了解!」
「紫苑!離れろ!」
秋羅の声に、紫苑は妖怪にダメージを与えると、そこから跳び上がり後ろへ下がった。いなくなると、秋羅は数珠を手に巻き合わせると、お経を唱え始めた。
お経に気付いた妖怪は、咆哮を上げると紫苑に攻撃した。叩き飛ばされた彼女の元へ、水輝の後を追い駆けてきた純玲が、駆け寄ってきた。
妖怪は純玲の姿を見ると、彼女目掛けて攻撃してきた。
「危ない!!」
「紫苑!!純玲ちゃん!!」
攻撃してくる中、紫苑は咄嗟に純玲を自身の後ろへ行かせ、攻撃を小太刀で受け止めた。
「お姉ちゃん!!」
「早く逃げて!紅蓮!」
狼から人へと変わりながら、紅蓮は純玲を抱き上げその場から離れさせた。いなくなると、受け止めていた攻撃を受け流し、紫苑は秋羅の元へ行った
追い駆けようとしたその時だった……妖怪の首に鎖が絡まった。それを合図に次々と鎖が、妖怪の体に巻き付き動きを封じ込めた。
「さぁ!眠れ!!」
その声に応えるかのようにして、陣の中心に置かれていた小さな壺が、動き出し妖怪を吸収しようと風を起こした。吹き荒れる風の中、妖怪は何かに捕まろうと暴れ出した。
数個の遊具を壊し、妖怪はそのまま吸われるがままに、瓶の中へと吸い込まれた。
地面に座り込む秋羅達……そこへ、純玲が駆け寄り泣きながら、紫苑に抱き着き謝った。
紫苑は大丈夫だと言いながら、彼女を宥めた。その様子を見て、秋羅と水輝はホッと息を吐いた。
夕方……遊具の修理を一通り終えた秋羅。最後に園内に置かれた結界の杭を確かめ、異常がないことを確認すると、院長室へ行き院長に全てが終わったことを伝えた。
「色々、ありがとうございました。
助かります」
「いえいえ。それではまた、何かありましたら幸人の所へ」
「はい!本当に、ありがとうございました」
見送りに来た園児達……紫苑に抱き着いた純玲は、泣きながら別れるのを拒んでいた。
「絶対だよ!絶対また来てよ!」
「わ、分かったから……そろそろ離して」
「完全に気に入られたな」
「と言うわけで、次の健康診断もシーちゃん連れて行くね!」
「その辺りは、幸人に話しつけて下さい」
「そうだ!お姉ちゃんにこれあげる!」
そう言って、純玲はピンク色の折り紙で折った桜の花を出した。
「……これ」
「さっき折ったの!
桜のお花!」
「桜……」
『僕は待ってるよ……』
「?」
『約束する……
あそこで、君を待ってるから……』
「……お姉ちゃん?大丈夫?」
「!
だ、大丈夫。
ありがとう。大事にするね」
「うん!」
帰路を歩く三人……エルの手綱を引きながら、紫苑は純玲から貰った桜の折り紙を眺めていた。
(……あの声、誰なんだろう……
約束……)
とぼとぼと歩く紫苑を、歩いていたエルは嘴で銜えると、勢いを付けて彼女を投げ自身の背中に乗せた。そして翼を羽ばたかせると、空へと飛んでいった。
「あ~りゃ、また連れて行かれた」
「アーン!シーちゃん!」
「紅蓮は行かなくていいのか?」
『今回は疲れたから良い』
「あっそ」
空を飛ぶエル……紫苑は、下を眺めながらエルに頬を擦り寄せた。
「……ありがとう、エル」
エルを撫でる彼女の手に付けられていたブレスレットが、一瞬光った。