桜の奇跡   作:海苔弁

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『美麗!

お菓子が焼けたから、一緒に食べよう!』


心地良い風と共に、その優しい声が聞こえた。ゆっくりと目を覚ます紫苑。

体を起こし、向こうを見るとそこに黒い人影が手を振っていた。

近付こうとしたその時、木の枝に座っていた紫苑はそこから落ちてしまった。


紫苑の名前

「痛て!」

 

 

ベッドから転げ落ちた紫苑は、そこで目を覚ました。

 

 

「……夢?」

 

 

ぶつけた箇所を撫でながら、紫苑は起き上がった。床で眠っていた紅蓮は、彼女に寄り顔を擦り寄せた。

 

 

「あらそうなの……今日、幸人さんいないの」

 

 

下から聞こえた声に、紫苑は部屋から出て廊下に付けられた柵から下を覗き見た。

 

 

下から見える所には、椅子に座る女性が一人いた。

 

 

「えぇ。

 

昨日引き取ってきた子供について、調べたいって言って今朝早く」

 

「子供?」

 

「上から言われたんです。

 

白髪に赤い目をした子供を保護しろって」

 

「あらまぁ。

 

で、そのお子さんは?」

 

「まだ部屋で寝てますよ。

 

昨日来て、疲れたんでしょう」

 

「じゃあ、次来た時には会えるかしら?」

 

「恐らく。運が良ければ!」

 

「フフ。それじゃあ、次を楽しみに」

 

 

そう言って、女性は家を出て行った。出て行ったのを確認すると、紫苑は紅蓮と共に階段を降りた。

 

 

「あれ?紫苑、起きたのか?」

 

「……誰?」

 

「え?

 

さっきの、人か?」

 

「うん」

 

「お客さんだよ。

 

時々薬を取りに来るんだ。うちは薬屋だからな」

 

「……」

 

「ほら、さっさと着替えて飯食えよ。

 

お前には、色々教えとけって幸人に言われてんだ」

 

 

 

数分後……

 

 

動きやすい服に身を包んだ、紫苑は嫌そうな顔をしながら、服の襟や裾を弄った。

 

 

「キツいのか?」

 

「こういう服、あんまり……着たこと無い」

 

「じゃあ慣れろ。

 

紫苑は、動物小屋の掃除頼む。俺は畑の方をやるから」

 

「小屋?」

 

「そこの三軒の小屋。

 

右は鶏、真ん中は牛、左は馬小屋だ。

 

馬と牛は、掃除してる間外に出して平気だ。そんじゃ」

 

 

そう言って、秋羅は畑へ向かった。

 

紫苑は紅蓮と共に、馬小屋へ行き戸を開けた。中には、三頭の馬がいた。

 

 

「……紅蓮、待ってて」

 

 

中に入り、紫苑は柵になっていた棒を取り、馬達を外へ出した。

 

 

 

お昼過ぎ……

 

 

籠に大量の野菜を盛った秋羅は、動物小屋にやって来た。馬達は大人しく野原におり草を食べたり、辺りを走っていた。小屋付近には、紅蓮がな座り辺りを見張っていた。

 

 

「見張り台か……紫苑!」

 

 

小屋の中へ入り、紫苑を探すが彼女の姿はどこにも無かった。小屋はきっちりと掃除されており、餌場には餌も補充されていた。

 

 

「……教えた覚えないのに、何で……

 

紫苑!紫苑!」

 

 

その時、小屋の裏に広がっていた森から、傷だらけになった紫苑と彼女に抱えられた仔牛が出て来た。

 

 

「紫苑!?ど、どうした?!」

 

「……逃げた。

 

森で、妖怪と出会した」

 

「(また、この牛か……)

 

と、とりあえず傷の手当てだ!」

 

「ほっとけば治る」

 

「そういう問題じゃねぇ!」

 

 

手当てを終えた後、柵に凭り掛かり秋羅は紫苑と一緒に昼食を取っていた。

 

 

「しっかしお前、教えてないのによく餌置き場分かったな?」

 

「……教えてくれたから」

 

「教えた?誰が?」

 

 

指差す方向には、白い馬がおり馬は彼女の元へ駆け寄って来た。

 

 

「……動物の言葉でも、分かるのか?」

 

「ううん。

 

引っ張られて、それで」

 

「……」

 

 

馬は額を彼女の頬に擦り寄らせた。紫苑が馬の頭を撫でていると、傍で寝ていた紅蓮が起き上がり、彼女の膝に頭を乗せた。

 

 

「好かれるんだな。動物に」

 

「……」

 

 

その時、別の馬の鳴き声が聞こえ、紫苑と秋羅は鳴き声の方向に目を向けた。

 

そこでは、庭に入ってきた妖怪から馬達は逃げ回っていた。

 

 

「結界破られた!!

 

って、紫苑!?」

 

 

鞘から小太刀を抜き、紫苑は柵を跳び越えて妖怪に向かって突進した。

 

 

妖怪の胸を突き刺し小太刀を抜くと、紫苑は跳び上がり妖怪から離れると、彼女の後ろから現れた紅蓮が口から炎を吹き出した。

 

妖怪は悲鳴を上げながら、跡形も無く消え去った。

 

 

「す、凄え……(誰に習ったんだ?)」

 

 

 

夜……

 

 

夕食を終えた紫苑は、部屋に置かれていた本を興味深く読んでいた。

 

 

「紫苑、本好きなのか?」

 

「……」

 

「紫苑!」

 

「!

 

何?」

 

「……お前、自分の名前分かるか?」

 

「……うん。

 

紫苑……だよ」

 

 

その時、玄関のドアが開き外から幸人が入ってきた。

 

 

「お帰り、幸人」

 

「あぁ、ただいま」

 

「飯、食べる?」

 

「あぁ、くれ。

 

腹が空いて死にそうだ」

 

 

ソファーに深く腰掛けた幸人は、首に巻いていたネクタイを緩めた。

 

 

「何読んでんだ?紫苑は」

 

「本棚にあった植物図鑑」

 

「……?

 

おい、紫苑」

 

「……?」

 

「頬、どうした?

 

絆創膏貼ってるけど」

 

「……えっと」

 

「昼間妖怪と戦って、そん時に」

 

「何だ?あの結界を破ったのか?」

 

「そうだ」

 

「そんじゃ、もう少し強めの張っとくか」

 

 

本を読んでいた紫苑に、傍で横になっていた紅蓮は起き上がり、軽く頭を振ると彼女の脇に頭を入れ擦り寄った。

 

 

「紅蓮は本当に、紫苑に懐くなぁ」

 

 

本を傍に置き、紫苑は紅蓮の頭を撫でた。紅蓮は気持ち良さそうにし、尻尾を振った。

 

 

「狼というより……犬だな」

 

「だな……?」

 

 

眠くなったのか、紫苑はあくびをして目を擦った。

 

 

「ガキは寝んねの時間だな」

 

「今日も妖怪退治したからな。

 

紫苑、部屋行こう」

 

「……」

 

「オイ、紫苑?」

 

「……!」

 

 

眠い目を擦りながら、紫苑は階段から立ち上がり秋羅の手を掴んで一緒に二階へ上がった。

 

 

「紫苑眠ったぞ~」

 

 

階段を降りてきた秋羅は、そう言いながら戻ってきた。

 

幸人はローテーブルに資料を広げながら、煙草を吸っていた。

 

 

「あれ?その資料、紫苑の?」

 

「あぁ。

 

あのオーナー脅して、貰ってきた」

 

「脅しって……

 

あれ?俺等以外の奴に、引き取られたことあんのか?」

 

「随分前にな。

 

けど、子供が紅蓮に噛まれたからって言って、戻ってきたらしい」

 

「噛まれたって……

 

どうせ、紅蓮に悪戯でもしたんだろう?

 

 

 

 

なぁ、幸人」

 

「?」

 

「紫苑の名前……横に『(仮)』って、書かれてるけど、これって」

 

「本名じゃないらいしい。紫苑っていう名前は」

 

「え?」

 

「前の家の子供と一緒に見ていた、花の図鑑に載ってた名から取ったらしい」

 

「じゃあ、本名は」

 

「不明だ」

 

「……道理で、名前を呼んでも鈍いわけだ」

 

「ま、無いよりはマシだ」

 

「……あれ?

 

あいつ、女なの?」

 

「今頃かよ!」




人物紹介


名前:月影秋羅(ツキカゲアキラ)
年齢:19歳
容姿:赤茶色の髪に茶色の目。
左腕に火傷の跡がある。


名前:月影幸人(ツキカゲユキヒト)
年齢:34歳
容姿:灰色の髪にオッドアイで右眼が黒、左目が青。
背中に大きな傷痕がある。


名前:紫苑(仮)
年齢:14歳
容姿:腰まである白い髪に赤い目。
手首に桜のブレスレットをしている。
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