桜の奇跡 作:海苔弁
「……えっと」
「動かない方が身のためだぜ。
地面に落ちたくなきゃな」
白い鱗に覆われた竜に乗った、黒いマントを羽織った男は、手綱を引きながらそう言った。
彼女を取り戻そうとしているのか、竜のすぐ傍にはエルが共に飛んでいた。
遡ること、数時間前……
買い出しに来ていた紫苑と紅蓮。薬が入った袋を手に持って店から出ると、不意に声を掛けられ振り返った。
『この辺りに、月影幸人って方の家を知りませんか?』
『幸人?
幸人が、どうかした?』
『少し用があってね。
この辺りに住んでるって、聞いたんだけど……知ってる?』
『……誰?』
『北の都で祓い屋をやっている、水影葵って言うんだけど』
『祓い屋……』
『やっぱり、疑わしいよねぇ』
『師匠、こんな子に構ってないで早く探しましょう!』
『いやいや。
水星の導きで、君は幸人の家族だろう?』
『……』
『師匠?』
『……ついてきて』
傍にいた紅蓮の背中に乗り、2人に警戒しながらも紫苑は彼等を案内した。
数時間後……家に着くと、紫苑は紅蓮から降りると畑の方へ行った。
しばらくすると、紫苑は秋羅を連れてきて2人を指差した。
『幸人の知人なんだけど、彼はいるかな?』
『ちょっと、呼んできます』
そう言って、秋羅は家の中へ入った。紫苑は2人を見つめると、牧場から抜け出してきたエルの方へ行き、彼の嘴を撫でた。
『その子、西洋の妖怪よね?どうしたの?』
『……引き取った』
『引き取った?誰から?』
『……』
『時雨、やめなさい。
質問攻めは、君の悪い癖だよ』
『……はーい』
『話着いたんで、どうぞ中へ』
そう言って、秋羅は2人を家の中へと入れた。リビングへ案内し、ソファーに座らせた。すぐに幸人が、頭を掻きながらリビングに入ってきた。
『面倒な奴が来た……』
『やぁ、幸人久し振りだね。元気にしてた?』
『テメェが来なきゃ、もっと元気だったかもな』
『相変わらずだね』
『……?
何だ。弟子とったのか?』
『まぁね。僕自身歳も歳だから、そろそろ良いかなぁって思って』
『フーン』
『……ちょっとおじさん!』
『おじ……』
『師匠に向かって、その口の利き方は何なの?!
この方は、この世に仕える』
『君は黙ってて』
立ち上がっていた時雨を、無理矢理座らせ咳払いをした。
『で、話って何だ?』
『依頼を少し、手伝って貰いたくて……
ここから、北東に聳え立つ山を三つ越えた先にある、竜の里から依頼を貰ったんだ。
内容は、強大な妖怪を退治して欲しいとの事。僕等二人じゃ、少々無理だと思ってね』
『他の奴等に頼まなかったのか?
月影は、お前等の中では下級なんだろ?』
『僕はそう思ってないよ。
確かに彼等は、性になぞられてその力を使える……でも、君の所はその力の上のものを持っているんだと思うよ』
『……相変わらず、何でも見通してるような言い方をしやがって』
『そう言われると、嬉しい!』
『褒めてねぇよ』
『それで、引き受けてくれるの?
報酬はもちろん、払うけど』
『どれくらいだ?』
『今回の半分プラス手数料』
『それプラス、そこの女の悪口料も寄こせ』
『なっ!!』
『オッケー。良いよ』
『師匠!!』
『秋羅、準備しろ!
紫苑!お前も準備しろ!』
外へと出る五人……葵は地面に陣を描くと、首に掛けていたオカリナを手に取ると、それを吹き出した。清らかに奏でられるオカリナの音色に、反応して陣が輝きだし地面から水が噴き出し、五人を包み込んだ。
そして、外の景色が次々に変わっていき、着いた先は雪が積もった山の麓だった。
『はい。移動完了』
『お前の能力、本当欲しい』
『やっぱ、北に来ると雪だけだな』
『まぁ、別名冬国ですから』
『今日は吹雪いてなくてよかったよ』
『さて、数時間歩けば、竜の里に着くよ』
『里前に連れてけよ』
『結界が張ってあるから、そこまで行けないんだよ。
ほら、行こう』
先に歩き出した葵に続き、幸人は溜息を吐きながらも彼について行った。二人の後を時雨、紫苑、秋羅と歩いて行った。
しばらく歩いていた時だった。エルが歩くのをやめ空を見上げて、鳴き声を上げた。
『エル?どうしたの?』
『何だ?どうかしたのか?』
『分かんない……?』
突然止む風に、皆は辺りを警戒始めた。その時だった……空から何かが急降下してきたかと思いきや、幸人達に当たる寸前で、風を起こし急上昇した。
『な、何だ?』
『さぁ……』
『ビックリしたぁ……
あれ?紫苑?!』
先程までそこにいたはずの、紫苑が突如いなくなっていた……彼女に続いて、傍にいたエルも姿を消していた。
そして、紫苑は現在に至る。
寒くなり、紫苑は降ろしていたマスクを上げ、首に巻いていたマフラーに顔を埋めた。
その頃、幸人達は……
「どこ行った!?」
「まさか、さっきの風に」
「ちょっと待ってて!」
バックから鏡を取り出た葵は、呪文を唱えた。すると鏡に、紫苑と彼女を銜えている生き物が映った。
「何です?この生き物……」
「竜だね……
飛んでいった方向を見ると、竜の里がある所だ」
「何で紫苑が連れて行かれたんだ!!」
「し、知らないよ!」
「とにかく、竜の里へ行きましょう!
そこへ行けば、紫苑だっけ?あの子も無事かも知れません」
「だな。紅蓮!
って、あいつまでいなくなってる!!」
「多分、紫苑追い駆けていったんだな……」
渓谷に降り立つ竜……
地面に降りると、口に銜えていた紫苑を下ろした。下ろされた紫苑は、辺りを見ながら立ち上がった。そこへ、ついてきていたエルが降り立ち彼女に駆け寄ると、周りを歩きそして頬摺りした。
「やれやれ。西洋の妖怪がついてくるとは、意外だなったな」
そう言いながら、竜から降りた者は被っていたフードを取り、綺麗に束ねた髪を揺らしながら前髪を整えた。
「……」
「そんな警戒しなくても良いだろう?
まぁ、いきなり連れてきたのは悪かったけど」
「……誰?」
「俺は竜也。
この竜の里長の息子だ」
「……幸人達に用があるんじゃないの?」
「まぁ、そうだけど……
お前から、面白いにおいがしたから」
「……
幸人達の所に、帰る」
「は?」
そう言って、紫苑はエルの背中に飛び乗った。エルが、翼を羽ばたかせようと広げた……その時だった。突然エルの翼に、錘が着けられ翼を羽ばたかせなくなってしまった。錘に驚いたエルは、地面に膝をつきその衝撃で紫苑は地面に放り飛ばされた。
「エル!」
「行かせないぜ。
ま、あいつ等が着くまでの間、俺と一緒にしばらくここにいようぜ」
「今すぐ外して!!」
「そんな怒るなって。
この辺り歩こうぜ。な?」
「嫌だ!!」
怒りに達した紫苑に反応するかのようにして、手に着けていたブレスレットが光り出し、辺りに氷の柱を作り出した。
「な、何だ!?」
エルの胴に顔を埋めていた紫苑は、後ろを振り返りビビっている竜也を見た。
「……わ、分かった……
里に行こう……な?」
「……うん」
(こ、怖っ……このガキ)