桜の奇跡 作:海苔弁
幸人達はようやく、竜の里の入口付近に着いた。入口には、里の者が出向いており彼等をすぐに案内した。
案内された里は、絶壁に囲まれた里だった。絶壁の間に空いた空間に、建物が建てられており、左右の移動は掛けられた橋か、竜に乗って民は生活をしていた。
「凄え……竜だらけだ」
「本当……」
「こちらです。
長、葵様がお見えになりました」
そう言って、大広間へ案内された。部屋には、先に着いていた紅蓮が、口に枷を付けられその場に伏せていた。
「あいつ、先に着いてたのか……」
「あの犬、何で枷を?」
「大方、手当たり次第に襲ったんだろうな」
そう言って、秋羅は紅蓮の元へ歩み寄り傍にいた見張りに訳を話し、口の枷を外させた。頭を軽く振ると、紅蓮は秋羅の後ろへ行き、大あくびをした。
「何事も無かったかのようにしやがって……何様のつもりだ」
『紫苑は?』
「まだ見つかってねぇよ……てか、話を聞け!」
「そちらの黒狼は、あなた方のお連れでしたか」
そう言って、奥から出て来たのは白髪を結った男だった。葵と幸人はすぐに礼をし、二人に続いて秋羅と時雨も礼をした。
「堅くならなくても良い。
長旅、ご苦労であった」
「いえいえ。
まぁ、途中から吹雪いたのとあなた様のお仲間が、もう一人の連れをさらってしまったこと以外は、全く問題無いです」
(サラッと言ったよ……この人)
(師匠……)
「申し訳ないです……」
(自覚あったのか……)
絶壁を降りる紫苑と竜也……エルの手綱を引きながら、紫苑は岩場から岩場へと飛びながら、先頭を歩く竜也の後について行っていた。
「……ねぇ!」
「ん?」
「本当にここ降りてけば、里に着くの?」
「あぁ!」
返事をすると、竜也は岩場を一段飛び降りた。彼の姿を見て、紫苑は飛び降りようとしたが、それをエルが襟を銜え阻止し、いつものように勢いを付けて自身の背中に乗せると、岩場を飛び降りた。
「お前の相棒、中々やるな?」
「誰のせいで、飛べないと思ってんの?」
「ヘイヘイ……!
ほれ、見てみろ!」
「?」
竜也が指差す方向には、松明の明かりが見えていた。
「あの明かりは、里の裏口だ!」
「……」
最後の岩場を降りると、竜也は手招きをしながら洞窟となっている裏口の中へ、二人を案内した。少し歩くと、すぐ明かりが差し込み、再び外へと出た。
「ようこそ!我が、竜の里へ」
「……」
「何だよ!!その疑いの目は!?
本当にここが竜の里だ!」
「何を騒いでおる」
声が聞こえ振り返ると、そこにいたのはあの白髪を結った長だった。
「お、親父……ビックリさせんなよ」
「何がビックリだ……?
そちらの子は?」
「あぁ、こいつは……!!」
説明しようとした竜也の溝に、紫苑は拳で殴った。蹲った彼を背に、エルの翼に付いている錘を彼女は指差した。
「これ、外して」
「あ、あぁ……」
引き攣った顔をしながら、長は呪文を唱え翼に付いた錘を外させた。錘が無くなったエルは、翼を羽ばたかせると、そのまま宙を一回りすると紫苑の元へ寄り、嘴を擦り寄せた。
「全く、溝打ちされて当然だ」
「そ、そん……な」
「さぁ、この馬鹿息子をほっといて、中へ入りましょう。
浅間、この子(エル)を小屋の方へ」
「は、はい」
紫苑から手綱を受け取ると、浅間はエルを小屋へ誘導した。男に誘導され、紫苑は中へと入り彼女に続いて、まだ痛む腹を抑えながら、竜也も中へ入った。
「紫苑!」
広間に置かれていた椅子に座っていた秋羅は、紫苑の姿を見ると一目散に駆け寄ろうとしたが、彼より先に紅蓮が駆け寄り、体を擦り寄せ彼女の脇に顔を入れた。
「平気みたいだな……んで、そこにいる男は誰だ?」
「あぁ、俺は」
「私をさらった犯人」
「撃ち殺す」
「刺し殺す」
どこからか出した銃を、幸人は竜也に向け彼と同様に秋羅も、腰ケースから槍を取り出し構えた。
「待て待て!!話聞いてくれ!!
お前も疑いを呼ぶような言い方をするな!!」
「……紅蓮、噛み付け」
「そんな犬っころに、俺が……うわっ!!」
竜也を押し倒し、紅蓮は彼の腕を噛んだ。痛みに叫び声を上げながら竜也は暴れまくり、気が済んだ紅蓮は牙を離し軽く頭を振ると、紫苑の元へ駆け寄り尻尾を振った。
「あの犬ぅ!!」
「犬じゃないし、狼だし」
「一緒じゃねぇか!!」
「やめんか!!竜也!!」
「うっ」
「申し訳ないです。うちの馬鹿息子が、失礼なことを」
竜也の頭を無理矢理下げさせながら、長は深々と頭を下げた。
「……帰る」
「え?!」
「ちょ、紫苑」
「帰る!
あんな奴と一緒にいたくない!」
帰ろうとする紫苑と紅蓮を、幸人と秋羅は懸命に説得した。数時間後、何とか紫苑達を止めた二人は全ての力を使い果たしたかのように、椅子に座り机に伏せっていた。
「まだ一日目なのに、何なの?この、疲労感は」
「何か、先が楽しみだね」
「笑顔で言う事じゃありません!!」
翌日……
竜に飛び乗る秋羅達。
「乗れるわけ無いじゃない!!あんなデカ物に!!」
「時雨」
「師匠達は男だからまだ良いですけど、私は女です!!色々問題があるんです!!」
「単なる、竜怖がってるだけだろ?」
「そ、そんなこと無いわよ!!」
「じゃあ乗れよ」
「だから!それは……?
あの子は乗らないの?竜に」
「紫苑はエルに乗るんだよ」
「エル?」
首を傾げる時雨に、秋羅は紫苑を指差した。彼女の手には手綱が握られており、その手綱の先にはエルが翼を羽ばたかせ飛ぶ準備をしていた。
「……な、何ですか?
あの、熊に鷹を合体させた生き物は」
「グリフォン。西洋の妖怪だ」
「あれに乗るの?あの子」
「そうだけど?」
「……私もあっちに乗る!」
「え?やめた方が」
「紫苑ちゃん!私もそっちに乗せて!」
そう言って、時雨はエルの背中に乗ろうと足を掛けるが、嫌がったエルは彼女を振り下ろすと、紫苑を銜え勢いを付けて自身の背中に乗せた。傍にいた紅蓮は人の姿となり、見送りに出ていた長から、コートを借り腕を通すと、エルの背中に飛び乗った。
「え?誰?
てか、何で私は駄目なのよ!!」
『テメェみてぇな女、乗った瞬間下ろせの連発に決まってる』
「何よ!!てか、アンタ誰よ!」
『幸人、先に行ってる』
「応」
「話を聞きなさい!!」
騒ぐ時雨を無視して、紫苑は軽くエルの体を蹴った。エルは鳴き声を発しながら、翼を羽ばたかせ飛び出し、宙で彼等が来るのを待機した。
「……時雨、諦めて竜の背中に乗って」
「……はい」
空を飛ぶ竜と竜の横を飛ぶエル……
「さ、寒い……」
「今年は自棄に雪が凄いですね!
季節はまだ夏なのに」
「季節外れの大雪だ!
今年は特に酷いからな……あそこだ!」
竜也は目の前にある山を指差すと、麓に竜を着地させた。少し遅れて、エルもそこへ降り立つと上機嫌に辺りを歩き回り、紫苑達を降ろした。
降りた紅蓮は、狼の姿へとなりコートを首に巻き、紫苑の傍に立った。
「この辺りか?大型の妖怪が現れるのは」
「あぁ。
いつもなら、降りた瞬間に攻撃してくるんだけど……」
「……いなさそうね」
「……?!」
何かの気配を感じた紫苑は、辺りを警戒しだした。彼女と同じように、エルも何かに気付き辺りを見ながら、鳴き声を上げた。
「な、何?どうしたの?」
「何かいる……気を付けて」
「気を付けろって……」
「……!!」
何かに気付いたのか、紫苑は歩み寄ってきた竜也を押し倒した。雪の上に倒れた彼は、文句を言おうと起き上がったが、目の前の光景を見て、言葉を失った。
祓い屋……
大昔、妖怪の総大将が自我を失った時、9人の祓い屋がそれぞれの力を合わせて、総大将を止めた……
そして、それは伝説上の物語として、祓い屋や人々に伝わっていた。