桜の奇跡 作:海苔弁
葵……
「時雨が、財閥のお嬢様って」
「南にある大きな町の財閥嬢だったんだ。
町を仕切る父と母。その間に彼女は生まれ幸せに暮らしていた……
ところがある日……その幸せは壊れてしまった」
「……」
「財閥と言っても、財団から見ればちっぽけな者。
ご両親は貧しい暮らしをしたくないが為に、人を騙したんだ」
「騙した?
誰を?」
「……町の人達全員を」
「……」
「町の人達の全財産を奪った後、娘と家を置いて町から姿を消したんだよ。
それが8年前事」
「……何で、娘である時雨を」
「邪魔だったんだろうね。
逃げる際、子供は邪魔だから。
けど、ご両親は逃げて僅か半年後に亡くなったよ。
事故でね」
「……」
「その町の施設に預けられた時雨だったけど……
まぁ、詐欺師の娘だと酷い扱いを受けていた。
詐欺師の娘だ……
親の金を取った泥棒娘だ……
未来を奪った女だ……
ここに置いて貰うだけでも、有り難いと思え……
彼女も彼女で、相当親に恨みを持っていた……
そして6年前……僕が時雨を出会ったのは。
時雨が住んでいた町に、妖怪が棲み着いてね……妖怪を宥めるための贄に、あの子が選ばれた。
念のために呼ばれた僕は、彼女を連れて妖怪を退治した。
でも、あの子泣いたんだよね」
「泣いた?」
「倒した途端、その場に泣き崩れて……
訳を聞いたら、『生きていたって、辛いだけ……
ここで死にたかった』って。
今でも覚えてるよ……彼女のあの、絶望に満ちた目から流れていた涙を」
「……」
「帰り際、報酬を払わない代わりにあの子を引き取ったんだよ。
名前を『時雨』に変えて」
「あいつ、本名じゃなかったのか」
「うん。
前の名前を呼ばれると、嫌な事を思い出すから別の名前を付けて欲しいって言われてね」
「……」
話を聞いた秋羅は、一瞬昔のことを思い出すと、手を強く握った。傍で聞いていた紅蓮は、大あくびをしながら頭を伏せ目を閉じた。
幸人……
頭を乗り出し、自分に甘えるエルの嘴を、紫苑は撫でた。その様子を遠くから見ていた幸人は、煙草を吸いながら口を開いた。
「あいつが俺の所に来たのは、もう11年前だ。
当時、俺はまだ駆け出しの祓い屋だった」
「駆け出しって……師匠は?」
「秋羅に会う2年前に、病死した。
心臓を長年患っててな。
亡くなってから、しばらく旅をしていたんだ。弟子捜しと自分探しの。
そして、東にある都市に足を運んだ……そして、道端にゴミのように捨てられていた、秋羅を見つけたんだ」
「……何で、捨てられていたの?」
「……俺が来る2年前、町にある湖に遊びに行った際、一緒に来ていた町長だった父親が妖怪に殺されたんだ……
秋羅がいる目の前で」
「そんな……」
「それが原因で、町の奴等から迫害を受けた……秋羅だけじゃない。母親も妹もだ」
「……何で……
迫害する意味が分からない……町長の家族なのに何で責められなきゃ」
「知らねぇよ……
その事が原因で、秋羅は家族に捨てられたんだ……
行く当ても無い……外に出れば、妖怪の山。どこに行けば良いのか分からず、町を彷徨っていた」
「……どうやって、会ったの?」
「町で妖怪退治の依頼を受けて、妖怪を倒したんだ。
倒す際に、秋羅に助けて貰ったんだ……才能あると思って、奴を引き取った」
「……」
黙り込む時雨……
一緒に聞いていた紫苑は、一瞬腕に痛みを感じ長袖を上げ腕を見た。塞がっているが、無数にある小さな傷痕……
頭を下げた紫苑を気に掛けたのか、エルは彼女の顔に嘴を当てながら、擦り寄った。
夜……
眠る秋羅達……隣の部屋で寝ていた時雨は、物音で目を覚ました。向かいの布団で寝ていた紫苑が、身支度を調えると紅蓮と共に部屋を出て行った。
気になり、彼女も服を着てコートを手に外へ出た。紫苑の後を追い駆けていくと、彼女は里の裏口から外へ出ると、連れていたエルの背中に乗ると、崖をの軽々と登っていった。
「嘘……登れない」
登ることが出来ず、時雨は諦めて部屋へ戻った。
森を抜けため池に来た紫苑……すると、茂みから赤い目を光らせたものが浮き上がってきた。
「……やっぱり」
『水葉、出て来い』
紅蓮の声に、茂みから大黒狼が現れ出てきた。
「水葉!」
エルから降りた紫苑は、水葉に駆け寄り抱き着いた。水葉は彼女の頬を舐めると、顔を擦り寄せた。その様子を見た紅蓮は、二人の元へ歩み寄り口を開いた。
『変わり無さそうだな?』
『おかげさまで』
『……話は分かってるか?』
『だいたい予想は付く。
妖怪の探索だろ?』
『分かってんじゃねぇか』
『あの妖怪、我々にも被害がありましたからね。
今回は、お前達に手を貸す』
『宜しく頼む』
『さぁ、紅蓮のとこにお帰り』
水葉に抱き着いていた紫苑は、水葉の鼻を撫でると離れ紅蓮の元へ帰った。水葉は遠吠えすると、茂みにいた仲間達と共にその場を去って行った。
「森の方に誘導すれば、倒せるよね?」
『あぁ』
「……帰ろう」
『あぁ。
乗るか?』
「大丈夫。エルに乗るから」
『まぁ、その方が安全か』
先を歩く紅蓮に続きエルは、森の中を歩いて行き崖を降りて行き里へ戻った。
人物紹介3
名前:水影葵(ミズカゲアオイ)
年齢:34歳
容姿:水色の長髪を毛先で結っている。目の色は緑色。右腕に肩から肘に掛けて、大きな傷痕がある。
名前:水影時雨(ミズカゲシグレ)
年齢:18歳
容姿:肩上まで伸びた青髪に、星の髪留めを着けている。目の色は銀色。
葵の弟子。