桜の奇跡 作:海苔弁
雪山にある森の四方に杭を埋める秋羅と時雨。各二人の傍には紫苑と紅蓮が着き、辺りを見ていた。
「フゥ……こんなもんか。
紫苑、どうだ?気配感じるか?」
「まだいない」
「そうか……」
「……時雨、気にしてるのか?」
紫苑の言葉に、秋羅はカァっと顔を赤くしてその場に膝を付いた。
「秋羅?」
「き、きき、気にしてねぇし!!あんな野郎!」
「……意地っ張り」
「うるせぇ!!」
「昨日の、謝った方が良いよ。
あとで後悔するより」
「お前に説教食らうとは、思わなかった……」
「……夢見た」
「え?夢?」
「誰かに、氷付けにした花を渡した」
「花?何の?」
「紫苑の」
「……記憶……とかじゃねぇのか?」
「分かんない。
でも、凄い懐かしく感じた」
「……昔のお前のことを、知ってる奴がいれば良いのにな」
「……」
「……なぁ、紫苑」
「?」
「もし……もしもの話……
両親見つかったら、お前どうする?」
「……秋羅達の所にいる」
「え……」
「現れても分かんないもん。
私には、二人の記憶無いし。知らない人の所に行くより、秋羅や幸人、水輝や暗輝がいる所に留まりたい」
「……そっかぁ」
「何で聞いたの?」
「あ……ち、ちょっとな」
杭を全て付け終えた秋羅達は、山を下り麓にある小屋の中へ入った。中では、幸人と葵が矢に札を巻き一本一本並べていた。
「結界の杭、張り終えたぜ」
「ご苦労さん。外の様子は」
「まだあいつの気配無い」
「なら、まだいけるね」
「秋羅、頼む」
「分かった」
「やり方は俺の見てやれ」
「了解」
返事をして、秋羅は幸人の隣に座り矢に札を巻いていった。
吹雪く音に紛れて、何かの音を聞いたのか紫苑と紅蓮は、窓の方を見た。
「どうしたの?」
「……来た」
「来たって?」
その時、外から妖怪の鳴き声が響いてきた。
「な、何……」
「まさか、近くに……」
「そう遠くない……幸人」
「結界の方に追い込め。
やり終えたらすぐ行く」
「分かった。
紅蓮、行くよ!」
マスクを上げ紫苑は紅蓮と共に、紫苑は外へ出た。外に出た紫苑は、紅蓮の背中に跨がると、彼を走らせ吹雪の中へ姿を消した。
その様子を窓から見ていた時雨は、心配そうに幸人に言った。
「良いんですか?
一人で行かせて」
「紅蓮が一緒だから、大丈夫だろう」
「いや、そういう問題じゃ」
「じゃあ、着いてけば?
どうせ、足手まといになると思うが」
「何よ!!その言い方!!」
「時雨!
喧嘩は後。こっちを手伝って」
「……はい」
「お前もゴタゴタ起こすな」
「起こしてねぇよ!」
森の中を走る紅蓮……すると左右の草むらから、黒狼が姿を現した。
『後ろから追い駆けてきてる!』
「奥の方に結界が張ってある!
そこに誘導して!」
『分かった』
紫苑の元へ走り寄ってきた黒狼の頭を、彼女は一撫でした。撫でられた黒狼は、追い駆けてくる妖怪の後ろへと回った。もう一匹の黒狼は、茂みの中へと入って行った。
森を抜け、広場へと出て来た紫苑は紅蓮から飛び降りると、小太刀を抜き中心に立った。
「幸人達の案内お願い!」
『応!』
返事をして、紅蓮は茂みの中へと姿を消した。
同時に、森の中から妖怪が姿を現した……真っ白な毛に覆われ、そこから見えるのは獲物を捕らえたかのようにギラギラに光らせた赤黒い目。
後ろからついていた黒狼は、妖怪の横を通り過ぎ紫苑の傍へ寄った。
(……幸人達が来るまで、何とか足止めしなきゃ)
妖怪が咆哮を上げたのを合図に、紫苑は黒狼に指示を出すと、小太刀で妖怪の腕を刺した。
鳴き声を上げた妖怪は、彼女に向かって氷の礫を投げ付けた。礫を頬に食らった紫苑は、地面へ落ちそして素早く妖怪の攻撃を避けると、後ろへ下がり地面に陣を描いた。
「悲しき火の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !」
陣から炎が燃え上がり、炎は形を変えながら紫苑の周りに広がった。
「炎の精霊よ、我が手に集い来たれ、敵を貫け!」
炎は弓矢の形に変化し、炎の矢を紫苑は妖怪に向けて放った。矢は妖怪の目に当たり、妖怪は悲痛な咆哮を上げると、尻尾を振り紫苑を攻撃した。尾に当たった彼女は、吹っ飛ばされ木に体をぶつけた。痛みで蹲っていた時、妖怪の気配に気付きハッと顔を上げた。
目の前に立つ目を焼かれた妖怪が、ジッと紫苑を睨んでいた。逃げようと体を動かした瞬間、妖怪の巨大な手が彼女の体の上に乗り、動きを封じた。
その時、茂みから紫苑を助けに来た黒狼達が、次々と現れ妖怪に攻撃していった。だが、黒狼達の攻撃は妖怪に全く通用しなく、尻尾と空いているもう片方の手で次々と、妖怪は襲ってくる黒狼達を払い飛ばしていった。
「だ、ダメ……
やめて……これ以上……攻撃は」
その時、妖怪の手で払われた黒狼が目に映った……
それは、水葉だった……水葉は口から血を出し、当たった木からずり落ちるようにして、その場に倒れた。
「……み、水葉!!」
一瞬妖怪の手が緩んだ隙を狙い、紫苑は自由になった右腕を動かし、握っていた小太刀を妖怪の手の甲に刺した。痛みで手を離した妖怪から紫苑は、素早くそこから離れ水葉の元へ駆け寄った。
まだ息はあった……ふと、雪に染まった血が紫苑の目に入った……
次の瞬間、激しい頭痛が紫苑を襲った。
「!!
うっ…!!」
手に付けていたブレスレットの鎖が切れた……その瞬間、彼女の額からあの雪の結晶の模様が光り出し、体全体に広がった。
痛みが引き、妖怪は振り返り紫苑を見た。座っていた紫苑は、スッと立ち上がると振り返った。
不意に吹いた冷たい風が、紫苑の髪を靡かせた……鋭く光らせた青い目で睨むと、彼女は妖怪に向かって雄叫びを上げた。
「?」
雪山を走っていた紅蓮は、その雄叫びに足を止め森の方を見た。
(……何だ……この、胸騒ぎは……
紫苑)
森を気にしながらも、紅蓮は先を急いだ。
その声は、小屋にいた秋羅達の耳にも届いていた。全ての矢に札を貼り終え、筒の中に矢を入れている最中、秋羅は手を止め森の方を見た。
「何だ?さっきの声は……」
「あの森から聞こえたみたいだけど……」
「早く行った方が良いんじゃ!」
「行きたくとも、俺達には姿が見えねぇんだから、危険だ!」
「そんなの分かってるわよ!!
エルに乗って、それで彼女の所に行けば」
「それで攻撃食らったらどうすんだ」
「……そ、それは……」
「……」
その時、大人しくしていたエルが、突然鳴き声を放った。すると崖から紅蓮が駆け上り、時雨の前に立つと全身に付いた雪を振り落とし、秋羅の元へ駆け寄った。
時雨が何か文句言い掛けたのを、葵は慌てて口を手で抑え止めた。
『結界の中に追い込んだ。後はその矢だ』
「分かった。
そこまで案内頼む」
『分かった。
秋羅、お前は俺の背中に乗れ』
「え?良いのか?」
『振り落とされるな』
「は、はい……」
何かを察したのか、エルは体を屈め幸人達を背中に乗せた。秋羅が紅蓮の背中に乗ったのを気に、エルは翼を広げ空を飛び出し、紅蓮は崖を落ちるようにして下り、崖を蹴りその勢いで森の中を走り出した。紅蓮の後をエルは、身を低くしてついて行った。
半妖……
100年前は、当たり前の存在だった人間と妖怪の間に産まれた子供。
妖怪特有の妖力を使うが、至って普通の人間であった。
だが、ぬらりひょんが亡くなった後から突如として、妖怪達が凶暴化し、人を襲うようになった。それ以降、人と妖怪の恋は禁断となり、間に産まれた子供は“禁忌の子”として、扱われた。
半妖を最後に確認が取れたのは、南国に住むとある男だったが、50年前にこの世を去った。
それ以降は、半妖はいなくなったがその血を継いだ、クォーターがいる。だが、彼等の中に妖力を受け継いだ者はいなく、人として生きている模様。
ここ最近得た情報によると、半妖は妖怪と同様に400年500年は普通に生きると言われている。また半妖の血を浴びた者は、100年200年は生きられるという事が分かった。