桜の奇跡 作:海苔弁
竜の里の外へ出た幸人達。
「じゃあな!お前等!達者でな!」
「またな!」
『次人の主さらったら、竜の首を噛み砕くからな』
「だから、悪かったって!!」
「こいつの悪戯は、あとで私がきっちりお灸を添えておきます」
「親父!!」
「では、また何かありましたらご依頼を」
「うむ」
行きと同様に、水に包まれ一同は幸人の家へと辿り着いた。突然現れた彼等に、洗濯物を干していた瞬火は、驚き持っていた籠を危うく落とし掛けた。
「ただいま、瞬火」
『……い、いきなり現れて、ビックリするわい!!』
「ごめんごめん!
ほれ、お前の大好きな木天蓼だぞ?」
『おぉ!有り難く、貰うぞ!』
(偉そうな猫……)
「それじゃあ幸人。
あとでお金は送るね」
「忘れたら速攻で、お前の家に火点けるからな」
「はーい」
「師匠!!危機感持って!!」
その便りが来たのは、竜の里から帰ってきて一月後だった。
生い茂っていた青葉達が色を変える頃、紫苑は紅蓮と一緒に、家の裏に畑で野菜を収穫していた。
その間に、ある二人の客が幸人に尋ねていた。
「いや~、葵の依頼を聞いたって聞いたから、俺等も是非と思ってね!
なぁ!火那瑪(カナメ)」
「……」
「火那瑪ぇ!!答えてぇ!!」
「弟子になめられてどうすんだ?迦楼羅……」
「最近火那瑪の奴、全然俺に構ってくれないんだ……」
「頼むから人ん家の椅子を囓るな」
「アンタ、面倒臭いんだよ」
「酷ぇ!!」
「無駄な話は良いんで、さっさと用件言って仕事に行きましょう」
「はい……」
(完全に尻に敷かれてるな……)
椅子に座っていた迦楼羅は、懐から一通の手紙を出した。
「俺達は東の祓い屋。
その地方から、依頼が届いた。町の名前はケレフト」
「ケレフト?」
「!」
「そ!
何か、数が多いみたいだから、手伝ってくれ!」
「丁重にお断りします」
「即答やめて!
葵の願い聞いたんだから、俺のお願い聞いたっていいじゃん!ねぇ、幸人~!」
「気色悪い声出すな」
「ユッキ~!」
「変な呼び方するな!!」
喧嘩する二人を見て、火那瑪は軽く溜息を吐いた。そんな彼に、秋羅はお茶を渡した。
「お前んとこ、大変だな?」
「毎日気が滅入る。
ところで、ケレフトという町を知っているのか?少し反応していたみたいだが」
「ま、まぁな……」
「……」
その時、裏口の戸が開き外から籠を持った紅蓮と紫苑が入ってきた。
「あれ?幸人、また弟子取ったの?」
「取っちゃ悪いか?」
「い~や……
お前まさか、その女に変な」
言い掛けた瞬間、幸人は彼の顔に蹴りを入れた。蹴りをもろに食らった迦楼羅は、椅子ごとひっくり返った。
「フゥ……紅蓮」
『問題無い。耳は塞いどいた』
「紅蓮、どうかした?」
『何でも無い。
何か、嫌な音が聞こえたからそれで』
「……?
何であの人、倒れてるの?」
「勝手に倒れた」
鼻栓をし、お茶を啜りながら迦楼羅は話した。
「なぁ、頼むって!」
「断る。
ただでさえ、ここんとこ依頼続きだったんだ……しばらくは、のんびりしたい」
「そんなぁ……
じゃあ、そののんびりが終わるまでここにいさせて貰うよ」
「何でそうなんだよ……」
「だって、お前等連れてきてから依頼は受けるって、ケレフトの町長に言ってきちゃったんだもん」
「あのなぁ」
「ねぇ!お嬢ちゃん!
この人、説得して!」
「……」
「お嬢ちゃーん!」
「秋羅、お前どうする?」
「俺は正直行きたくない」
「そんじゃあ俺も」
「何でそうなんの!?」
それから数時間、男は三人を説得し続けた。その結果、報酬の倍の額を払うことで、交渉成立となった。
「だぁ~~~……説得するだけで、こんな時間になるとは」
「今日はもう遅いですし、明日出発って事で良いですよね?」
「うん……幸人~」
「今晩だけは泊めてやる」
「オッシャー!!」
夜……
風呂から上がった迦楼羅は、髪を拭きながらソファーに座り本を読んでいた紫苑の手を掴んだ。
「珍しいブレスレットだな?
誰から貰ったんだ?」
「……」
「……あれ?この花の真ん中の石、どっかで……」
良く見ようと、腕を掴みあげた瞬間、狼姿の紅蓮が彼の手に噛み付いた。痛みで紫苑の腕を離し、離された瞬間彼女は素早くそこから離れ二階へ駆け上った。噛み付いた紅蓮は、紫苑の後を追い駆けて、二階へ駆け上った。
噛み付かれた手を押さえ、そこに蹲っていた迦楼羅を、仕事部屋から出てきた幸人は、不思議そうに見ながら話し掛けた。
「何蹲ってんだ?お前」
「お、狼に……狼に噛み付か…れた」
「あっそ」
「少しは心配しろよ!!」
「それだけ元気なら、問題無い」
「お前なぁ!
つか、狼の躾が成ってないぞ!!」
「あれは紫苑の狼だ」
「紫苑?誰だ?」
「さっきの女だ」
「へー、紫苑って言うのか。あのお嬢ちゃん。
歳いくつ?」
「多分15になる」
「歳の割に、結構幼く見えるが……」
「育ちが育ちだからな」
「?どういう事?」
「これ以上のことは、黙秘する」
「幸人~!」
「とっとと寝ろ」
「ブー……
あ!そうだ……なぁ、紫苑が着けてるブレスレットの石、何だ?」
「はぁ?石?」
「桜の花の真ん中、珍しい石が填まってたんだ」
「さぁな。あんま、気にしたことねぇから。
それがどうかしたのか?」
「こないだ見た石の図鑑に、似たようなのがあったんだけど……このご時世にあるのは、極めて珍しい」
「フーン……」
「知りたい?」
「陽介に頼めば、俺はそういう事全部深いところまで、知ることが出来るからいい」
「くー!!良いよなぁ!
妖討伐隊に知り合いがいるなんて!しかも、二人」
「一人は変人だ。そいつと付き合いたいなら紹介してやっても良いが?」
「え、遠慮しときます」
翌朝……
汽笛を鳴らしながら、汽車は線路を走っていた。走る汽車を追い駆けるようにして、空からエルが飛び彼の背中には紫苑と紅蓮が乗っていた。
「予定だと、明日の昼過ぎに駅に着いて、そこから歩くから……
ケレフトに着くのは明日の夕方が夜だね」
「あ~あ、遠ぉ」
「文句言うな!
あれ?そういえば、秋羅は?」
「風に当たるって言って、外に出てる」
「フーン……ところで、ケレフトには行ったことあんのか?」
「……一度だけな」
「いつ?」
「12年前だ……丁度、秋羅を引き取った時期だったかな」
「……
なるほど……だから、反応したのか」
「……
今回の依頼には、別に来なくて良いって言ったが、俺に紫苑を任せるのは怖いって言いやがって、ついて来てんだ」
「少し辛いことでもあったの?あいつ」
「かなり辛いことがな……トラウマになってなきゃ良いんだけど」
『アンタよ!!アンタのせいで、あの人は死んだのよ!!』
『二度と私の前に顔を出さないで!!』
『引き取りたければ引き取って構いません。
私は、この子の顔はもう見たくないんです』
鳥の鳴き声に、ハッと我に返った秋羅。深く息を吐くと体を伸ばすと、服の下に隠していた首飾りを取り出した。
それは紅色に染まった菱形のペンダントだった。