桜の奇跡 作:海苔弁
翌日の昼過ぎ……
目的地の駅へ着いた幸人達は、汽車を降り荷物を持った。外へ出ると、丁度そこへエルが降り立ち、紫苑と紅蓮を下ろしていた。紅蓮は人から狼の姿へとなると、隣に降りた紫苑に擦り寄った。
「あれ?
何か、さっきそこにいた人が昨日俺の手を噛み付いた、狼の姿になったような」
「見たままだ」
「え?何……
お前、黒狼飼い慣らしてたの?」
「慣らしてんのは紫苑だ。
それより、さっさと行こうぜ。着くの夕方なんだろ?」
「そうだな。行くか!
火那瑪!行こう!」
「とっとと先歩いて下さい。あなたの隣を歩きたくないんで」
「幸人~!!」
「いい大人が泣くな!」
前でグスングスンと泣きながら歩く迦楼羅と、彼を呆れた目で見ながら歩く幸人。その後ろに師のだらしない姿を見て、火那瑪は軽く溜息を吐いた。
「お前んとこも、結構大変だろう?」
「はっきり言って、静かな日がありません」
「だろうな……」
「そちらはどうなんですか?」
「幸人は騒ぐ方じゃないからなぁ……
どちらかと言うと、だらしない。
俺と瞬火が掃除をしなければ、一週間でゴミ屋敷になること確定」
「……そちらもそちらで、苦労してるんですね。師には」
夕方……
「迷子になったぁ!!」
「阿呆!!」
森の中で立ち往生する迦楼羅を、幸人は殴り怒鳴った。辺りを見ても、同じ景色しか広がっておらず、彼等は完全に迷っていた。
「クソ……早く町に行かねぇと、野宿になるぞ」
「右か左かも分からないよ?」
「誰のせいで迷ったと思ってんだ!!」
「うわーん!幸人が怒る!
火那瑪、ヘルプ!」
「自分で処理して下さい!」
「友も冷たければ、弟子も冷たい」
「本当、昔から面倒な奴だ」
「……?
あの、お嬢さんがいないんですけど」
「え?
あ!エルの奴がいなくなってる!!」
「また持って行かれたな」
「俺等も持ってけよ……」
その時、空からエルが舞い降り、身を低くして鳴き声を放った。一同は見合いながらも、背中へ飛び乗った。全員を乗せると、エルは飛び立ち紫苑の元へ舞い降りた。
エルから降りた幸人に、ある方向を紫苑は指差した。明かりが灯る町が、目の前に広がっていた。
「わぉ!ケレフトの町だ!」
「でかしたぞ!紫苑」
「早く、市長さんのところへ行きましょう」
「だな!
でも、こいつ等どうする?いくら飼い主がいても、流石に町でこの妖怪を歩かせるのは……」
「だったら、町の奥にある湖に行くと良い」
「湖?」
「今は多分、町の奴等は出入り禁止になってるから、そいつがいても平気のはずだ」
「そうするか……」
「紅蓮、エルの傍にいて」
『分かった』
狼から人の姿へとなった紅蓮は、紫苑からエルの手綱を受け取ると、エルの背中へ乗り秋羅が指差す方向へ飛んでいった。
町へ入り、岡の上にある屋敷へ幸人達は入った。中から出てきた使用人に案内された部屋で、彼等は腰を下ろした。
町長が来るまでの間、火那瑪は壁に飾られた歴代の町長達の写真を眺めていた。
その中に、気になる人物がいた。
「……秋羅さん」
「ん?
何だ?」
「この人、あなたに似てませんか?」
「……」
飾られた写真に写っていたのは、黒い目に赤茶色の髪を
オールバックにした男だった。その姿を見た秋羅は、顔を下げると、首に巻いていたスカーフで顔を隠した。
「お待たせしました」
中へ入ってきた市長は、背広を整えながら幸人達の前に立ち話した。
「夕方頃に着くとお伺いしていたので……」
「こいつが道に迷ったもんで」
「すいません……」
「町までの道は、結構入り組んでいるんで、迷う人もいますから」
「はぁ……」
「今日はもう遅いですし、話は明日でよろしいでしょうか?」
「構いません」
「では、お部屋の方へ案内します」
「あの、一つ聞いていいですか?」
今まで黙っていた秋羅が口を開き、町長に話し掛けた。
「……葉月家って、今はどうしていますか?」
「葉月?
あぁ……もしかして、紅葉ちゃん達のところかな?」
「あ、はい」
「今は、お母さんの橙子さんが体を壊していてね。娘の紅葉ちゃんが仕事をしながら、お母さんの面倒を見てるって、聞いたけど」
「……そうですか」
「あの、知り合いか何か?」
「い、いえ……以前ここに住んでいた時に、世話になった友人からの言付けで」
誤魔化しながら秋羅はそう言った。
明け方……
幸人達がまだ眠っている中、秋羅は一人早く起きた。コートを羽織ると、部屋を出て行き外は出た。
彼が向かった先は、町の裏に作られた墓地だった。
そして、行き着いた場所は楓が生えた場所に立てられた、お墓だった。手に持っていた一輪の花を、秋羅は添えて墓に触れながら言った。
「……
久し振り……父さん」
それだけを言うと、秋羅は墓場から去って行った。
帰り際、橙色の二つに結った少女が、花束を持って秋羅と擦れ違った。彼女は何かを感じたのか、足を止め振り返り去って行く秋羅の背中を見た。
(……あの人……)
気にしつつも、少女は前を向き再び歩き出した。
墓地を出ると秋羅はその足で、ある場所へ行った……そこは出入り口付近で、“立ち入り禁止”と描かれた看板と柵が立てられた。
彼は柵を乗り越え、中へと入った。しばらく歩いて行くと、湖の傍で自分に気付いたのか、寝ていたエルが目を覚まし立ち上がり、寄ってきた秋羅に嘴を擦り寄せた。
エルの傍にいた紅蓮は、大きくあくびをすると体を伸ばし、秋羅の方へ歩み寄った。
『こんな朝早くから、どうしたんだ?』
「ちょっと行くところがあってな」
『……?
紫苑は?』
「まだベッドの中だ」
『……』
「俺より紫苑の方が良かったか?」
『……別に』
「起きたら行くように言っとくよ」
『言われなくとも、紫苑は来る』
「ハハハ……だな」
墓場へ着いた少女は、秋羅が添えた花を見て少し驚いていた。
添えられた花を手に取りながら、彼女は一瞬後ろを振り返った
「……まさか……
お兄ちゃん?」
その言葉に反応するかのようにして、微風が吹き彼女の髪と、首から下げていた橙色のペンダントが靡いた。