桜の奇跡   作:海苔弁

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12年振りの墓参り

翌日の昼過ぎ……

 

目的地の駅へ着いた幸人達は、汽車を降り荷物を持った。外へ出ると、丁度そこへエルが降り立ち、紫苑と紅蓮を下ろしていた。紅蓮は人から狼の姿へとなると、隣に降りた紫苑に擦り寄った。

 

 

「あれ?

 

何か、さっきそこにいた人が昨日俺の手を噛み付いた、狼の姿になったような」

 

「見たままだ」

 

「え?何……

 

お前、黒狼飼い慣らしてたの?」

 

「慣らしてんのは紫苑だ。

 

それより、さっさと行こうぜ。着くの夕方なんだろ?」

 

「そうだな。行くか!

 

火那瑪!行こう!」

 

「とっとと先歩いて下さい。あなたの隣を歩きたくないんで」

 

「幸人~!!」

 

「いい大人が泣くな!」

 

 

前でグスングスンと泣きながら歩く迦楼羅と、彼を呆れた目で見ながら歩く幸人。その後ろに師のだらしない姿を見て、火那瑪は軽く溜息を吐いた。

 

 

「お前んとこも、結構大変だろう?」

 

「はっきり言って、静かな日がありません」

 

「だろうな……」

 

「そちらはどうなんですか?」

 

「幸人は騒ぐ方じゃないからなぁ……

 

どちらかと言うと、だらしない。

 

俺と瞬火が掃除をしなければ、一週間でゴミ屋敷になること確定」

 

「……そちらもそちらで、苦労してるんですね。師には」

 

 

 

夕方……

 

 

「迷子になったぁ!!」

 

「阿呆!!」

 

 

森の中で立ち往生する迦楼羅を、幸人は殴り怒鳴った。辺りを見ても、同じ景色しか広がっておらず、彼等は完全に迷っていた。

 

 

「クソ……早く町に行かねぇと、野宿になるぞ」

 

「右か左かも分からないよ?」

 

「誰のせいで迷ったと思ってんだ!!」

 

「うわーん!幸人が怒る!

 

火那瑪、ヘルプ!」

 

「自分で処理して下さい!」

 

「友も冷たければ、弟子も冷たい」

 

「本当、昔から面倒な奴だ」

 

「……?

 

あの、お嬢さんがいないんですけど」

 

「え?

 

あ!エルの奴がいなくなってる!!」

 

「また持って行かれたな」

 

「俺等も持ってけよ……」

 

 

その時、空からエルが舞い降り、身を低くして鳴き声を放った。一同は見合いながらも、背中へ飛び乗った。全員を乗せると、エルは飛び立ち紫苑の元へ舞い降りた。

 

エルから降りた幸人に、ある方向を紫苑は指差した。明かりが灯る町が、目の前に広がっていた。

 

 

「わぉ!ケレフトの町だ!」

 

「でかしたぞ!紫苑」

 

「早く、市長さんのところへ行きましょう」

 

「だな!

 

でも、こいつ等どうする?いくら飼い主がいても、流石に町でこの妖怪を歩かせるのは……」

 

「だったら、町の奥にある湖に行くと良い」

 

「湖?」

 

「今は多分、町の奴等は出入り禁止になってるから、そいつがいても平気のはずだ」

 

「そうするか……」

 

「紅蓮、エルの傍にいて」

 

『分かった』

 

 

狼から人の姿へとなった紅蓮は、紫苑からエルの手綱を受け取ると、エルの背中へ乗り秋羅が指差す方向へ飛んでいった。

 

 

 

町へ入り、岡の上にある屋敷へ幸人達は入った。中から出てきた使用人に案内された部屋で、彼等は腰を下ろした。

 

 

町長が来るまでの間、火那瑪は壁に飾られた歴代の町長達の写真を眺めていた。

 

その中に、気になる人物がいた。

 

 

「……秋羅さん」

 

「ん?

 

何だ?」

 

「この人、あなたに似てませんか?」

 

「……」

 

 

飾られた写真に写っていたのは、黒い目に赤茶色の髪を

オールバックにした男だった。その姿を見た秋羅は、顔を下げると、首に巻いていたスカーフで顔を隠した。

 

 

「お待たせしました」

 

 

中へ入ってきた市長は、背広を整えながら幸人達の前に立ち話した。

 

 

「夕方頃に着くとお伺いしていたので……」

 

「こいつが道に迷ったもんで」

 

「すいません……」

 

「町までの道は、結構入り組んでいるんで、迷う人もいますから」

 

「はぁ……」

 

「今日はもう遅いですし、話は明日でよろしいでしょうか?」

 

「構いません」

 

「では、お部屋の方へ案内します」

 

 

「あの、一つ聞いていいですか?」

 

 

今まで黙っていた秋羅が口を開き、町長に話し掛けた。

 

 

「……葉月家って、今はどうしていますか?」

 

「葉月?

 

あぁ……もしかして、紅葉ちゃん達のところかな?」

 

「あ、はい」

 

「今は、お母さんの橙子さんが体を壊していてね。娘の紅葉ちゃんが仕事をしながら、お母さんの面倒を見てるって、聞いたけど」

 

「……そうですか」

 

「あの、知り合いか何か?」

 

「い、いえ……以前ここに住んでいた時に、世話になった友人からの言付けで」

 

 

誤魔化しながら秋羅はそう言った。

 

 

 

明け方……

 

 

幸人達がまだ眠っている中、秋羅は一人早く起きた。コートを羽織ると、部屋を出て行き外は出た。

 

彼が向かった先は、町の裏に作られた墓地だった。

 

 

そして、行き着いた場所は楓が生えた場所に立てられた、お墓だった。手に持っていた一輪の花を、秋羅は添えて墓に触れながら言った。

 

 

「……

 

 

久し振り……父さん」

 

 

それだけを言うと、秋羅は墓場から去って行った。

 

帰り際、橙色の二つに結った少女が、花束を持って秋羅と擦れ違った。彼女は何かを感じたのか、足を止め振り返り去って行く秋羅の背中を見た。

 

 

(……あの人……)

 

 

気にしつつも、少女は前を向き再び歩き出した。

 

 

墓地を出ると秋羅はその足で、ある場所へ行った……そこは出入り口付近で、“立ち入り禁止”と描かれた看板と柵が立てられた。

 

彼は柵を乗り越え、中へと入った。しばらく歩いて行くと、湖の傍で自分に気付いたのか、寝ていたエルが目を覚まし立ち上がり、寄ってきた秋羅に嘴を擦り寄せた。

 

エルの傍にいた紅蓮は、大きくあくびをすると体を伸ばし、秋羅の方へ歩み寄った。

 

 

『こんな朝早くから、どうしたんだ?』

 

「ちょっと行くところがあってな」

 

『……?

 

紫苑は?』

 

「まだベッドの中だ」

 

『……』

 

「俺より紫苑の方が良かったか?」

 

『……別に』

 

「起きたら行くように言っとくよ」

 

『言われなくとも、紫苑は来る』

 

「ハハハ……だな」




墓場へ着いた少女は、秋羅が添えた花を見て少し驚いていた。

添えられた花を手に取りながら、彼女は一瞬後ろを振り返った


「……まさか……




お兄ちゃん?」


その言葉に反応するかのようにして、微風が吹き彼女の髪と、首から下げていた橙色のペンダントが靡いた。
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