桜の奇跡   作:海苔弁

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昼過ぎだった……妖怪が町を襲いに来たのは。


町を歩いていた女性の悲鳴により、外に出ていた住民達は一斉に町中を逃げ回りだした。妖怪達は逃げ惑う人達を次々に襲い掛かった。


「火影(ヒカゲ)様!!妖怪が町を!!」

「すぐにやる!

火那瑪とお嬢ちゃんは、逃げ遅れた人達の誘導を頼む」

「分かりました」
「うん」

「幸人達は俺と一緒に、妖怪退治の方お願い!」

「応」


コートのフードを被り、紫苑は火那瑪と共に部屋を飛び出し外へ出ていった。


彼女に続いて、幸人達も外へ出ていき、見晴らしの良いところへ登ると、巻物を開きその上に手を置いた。


巻物に書かれていた文字が光り出し、それは帯のように伸び妖怪達を次々に攻撃していった。

幸人と迦楼羅は立ち上がると銃と杖を構え、襲い掛かってきた妖怪達を撃退していった。


「腕は落ちてないみたいだね!」

「当然だ!」


襲撃

街路を走る紫苑と火那瑪……その時、悲鳴が聞こえてきた。二人は足を止め、聞こえてきた方向に目を向けた。

 

妖怪に逃げ道を塞がれた親子……それを見た紫苑は、手に持っていた小太刀を持ち構え、一気に駆け出すと妖怪を切り裂いた。

 

 

「早く、逃げて!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

逃げていく親子を追い掛けようとする妖怪達を、紫苑は

火那瑪と共に次々に倒していった。

 

倒した妖怪の血で、紫苑は陣を描いた。

 

 

「悲しき氷の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !」

 

 

光り出した陣から、氷の吹雪が吹いた。紫苑は差し出した手から、数本の氷柱を作り出した。

 

 

「凍てつく氷の槍よ、貫け!」

 

 

それら全て一斉に放った。自身に襲い掛かってきた妖怪達の体に、氷の槍は次々に貫き倒していった。

 

 

「す、凄い……」

 

「……ねぇ」

 

「?」

 

「行こう」

 

「あ、あぁ」

 

 

妖怪の死体を跳び越え、二人は町を走り回った。

 

 

町を周り噴水がある広場へ着いた紫苑と火那瑪。そこには、妖怪の手により殺された人々の亡骸が、転がっていた。

 

 

「酷い……」

 

「……」

 

 

フラッシュバックで頭に蘇る記憶……いくつもの死体が転がる中、紫苑は一人立っていた。

 

 

「おい」

 

「!」

 

「大丈夫か?」

 

「……平気」

 

「……」

 

「……?

 

誰かいる」

 

「え?」

 

「あっちに……!!」

 

 

指差した方向には、ドアをこじ開ける妖怪がいた。紫苑は小太刀を手に、駆け出しその家に入った妖怪の急所に突き刺した。

 

中へ入り、紫苑は一つ一つの部屋を開け中を見た。

 

外が見える一室に、橙色の髪を二つに結った少女と彼女と同じ髪を耳下で結った女性がベッドの傍にいた。

 

 

「早く逃げて!」

 

「わ、私一人では母を動かせないんです!」

 

「俺が担いでいきます」

 

「……!

 

火那瑪!!後ろ!!」

 

 

後ろを振り返ると、そこには爪を構えた妖怪が勢い良く爪を振り下ろしてきた。

 

当たる寸前に、妖怪は前のめりに倒れた。後ろには、突き刺した槍を引き抜く秋羅がいた。

 

 

「秋羅さん!!」

 

「外にエルがいる!乗って、幸人達のところへ行くぞ!」

 

「あ、はい!」

 

 

ベッドから母親を下ろした少女は、火那瑪に手伝って貰い、母親を立たせると外へと出した。

 

出ると、辺りには妖怪達が集まっていた。

 

 

「囲まれてる!」

 

「そんな……」

 

「退路を開くから、紫苑はエルの背中にその2人を!」

 

「うん。

 

紅蓮!秋羅の援護に!」

 

 

崩れた瓦礫を跳び越え、紅蓮は姿を現すと秋羅の元へ駆け寄り、唸り声を上げた。

 

 

2人が食い止めている間に、紫苑はエルの背中へ親子を乗せると、最後に火那瑪を乗せた。

 

 

「しっかり掴まってて。

 

エル、行って!」

 

 

軽く腹を叩くと、エルはそれを合図に駆け出し飛び出した。エルを見届けると、紫苑は小太刀を手に自身に襲い掛かってきた妖怪達を、切り裂き秋羅達の元へ駆け寄った。

 

 

 

数時間後……一通り、妖怪達を倒した幸人達。生き残っていた妖怪達は、どこからか聞こえた鳴き声に反応し、彼等は町から去って行った。

 

 

(……あの鳴き声……まさか)

 

「秋羅、幸人達のところへ行こう」

 

「だな……」

 

 

槍をしまうと秋羅は、紫苑と共に紅蓮の背中へ乗りその場を去った。

 

 

 

避難所となっていた教会では、怪我人でいっぱいになっていた。

 

 

「尋常じゃないね。被害」

 

「みてぇだな……」

 

「火那瑪、市長さんに言って被害者リスト作って貰ってきて」

 

「はい」

 

 

火那瑪が外へ出ていき、しばらくした後だった。

 

外にいた住民が悲鳴を上げながら、駆けてきた紅蓮に銃口を向けたのは。

 

 

「く、来るな!!」

 

「待て!こいつは俺等の仲間だ!」

 

「う、嘘吐くな!!」

 

「駄目だ……今説明しても」

 

 

その悲鳴を聞きつけた幸人は、彼に中へ入るよう言うと二人の元へ歩み寄った。

 

 

「無事みたいだな」

 

「何とかな」

 

「エルは?」

 

「そこの木の下だ」

 

 

手綱を木に縛られていたエルは、駆け寄ろうと立ち上がり辺りをグルグルと回りながら、鳴き声を放った。エルの元へ、紫苑は駆け寄ると彼女に甘えるようにして、エルは額を擦り寄せた。

 

 

その様子にホッとしながら、秋羅と幸人は話した。

 

 

「被害状況は?」

 

「東側と南側はほぼ全滅」

 

「やっぱりか……

 

妖怪共が現れたのはその付近。そして、集中攻撃したのもこの中心」

 

「……昔と変わらないな」

 

「何かあるのかもな……この、東と南の地区に」

 

「……」

 

「とにかく、中へ入れ。詳しい話はそれからだ」

 

「分かった」

 

 

中へ入る二人を見て、紫苑は人の姿となっていた紅蓮に、エルを任せると彼等の後に続いて中へ入った。

 

 

中に入った紫苑の元へ、あの少女が駆け寄ってきた。

 

 

「さっきはありがとう!私達を助けてくれて」

 

「……別に」

 

「母親は?」

 

「今は落ち着いて……?」

 

 

秋羅を見つめる少女は、話すのを辞め不意にマントで隠していた左腕を手に取り、手に嵌めていたグローブを外した。

 

手の甲には、火傷の痕が残っていた……それを見た瞬間、少女は目を見開いて秋羅を見上げた。

 

 

「……颯人…お兄ちゃん?」

 

「……違う」

 

 

声を低くして、秋羅は少女から手を振り払い、下げていたマスクを上げると、奥にある部屋へ入った。その様子に、紫苑は首を傾げながら幸人を見上げた。彼はどこか悲しい目で、彼女の頭に手を置き微笑んだ。




『何で!!何で、あなたが生きていてあの人が生きていないの!?』

『私の前から、消えて頂戴!!』


堅い何かが何かを叩いた……悲痛な悲鳴が、暗い空間に響き渡った。

頭に包帯を巻きながら、暗い中を歩く一人の少年……その時、目の前に一筋の光が差し込んだ。






『……一緒に来ないか?』
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