桜の奇跡 作:海苔弁
「文句言わずに手綱を持て」
色とりどりの葉っぱが所々から落ちる中を、幸人を先頭に秋羅と紫苑は馬と紅蓮に乗って歩いていた。
紫苑が幸人達の家に来てから、一月が経とうとしたある日。
『人捜し?』
夕飯の支度をしていた秋羅は、キッチンから顔を出して内容を確認するかのように、幸人の言葉をオウム返しした。
『森一つ超えた所にある、小さな町の町長からの依頼だ。
詳しい内容は、着いてから話すって』
『俺も行く?』
『頼む。
紫苑、お前も一緒に来い』
『……』
『……紫苑!』
『!?』
『明日、遠出だ』
『……へ?』
道筋を歩く幸人達とは別に、紅蓮は森の中を自由に駆け、紫苑も二人の目から離れぬ範囲で移動しながら、紅蓮と共に森を駆けていた。
「首輪外された、飼い犬だな」
「したつもり無いんだが……」
森を抜けると、町が見えた。茂みから出て来た紅蓮は、木の枝に立っていた紫苑を見上げると、背を低くし彼女を背に乗せた。
「あそこか?」
「らしい。
あの町の……?!」
「幸人!!」
馬から下りようとした時、紅蓮が先に走り出し崖から降りてきた妖怪達を噛み殺していった。紅蓮の背中に乗っていた紫苑は、黒曜石の小太刀を振り回しながら、自身に襲ってくる妖怪達を、次々に切り裂いていった。
「……出る幕も無いな」
「俺等、全然仕事してねぇぞ」
数分後……町を歩く三人。宿を見つけると、そこの小屋に馬を入れ、柵を閉めた。共に入った紅蓮は寂しそうな声を上げながら、柵の隙間から鼻を突き出した。
「無理だぞ。
そいつを中に入れるのは」
「……」
「ほら、入るぞ」
紅蓮の鼻先を撫でると、紫苑は二人の後を渋々ついて行った。
「今夜はここで泊まって、明日この町の先に行く」
「依頼主がそこにいるのか?」
「そうだ。
行こうと思ったけど、客の所に着くのが夜になっちまうからな」
「どんだけ遠いんだよ……?
紫苑、どうかしたか?」
「……あれ」
木の下に立たれた看板に、数枚人捜しの紙が貼られていた。
「何だ?この貼り紙」
「どうやら、行方不明者みてぇだな」
「え?行方不明者?」
「この町、最近になって行方不明者が続出してるらしい。
至る所に、貼り紙が貼ってある」
「あ、本当だ」
「詳しい話を町長から聞いて、明日から仕事だ」
「了解!」
町長宅……ソファーに座る二人を傍らに、紫苑は物珍しそうに本棚を眺めていた。
「いやぁ、お待たせしました」
奥の部屋から出て来た、少し太めの体をした男は背広を着ながら、現れ立ち上がった二人と握手を交わした。
「遠い所、わざわざご足労頂きありがとうございます。
私(ワタクシ)が、この町の町長山川道流(ヤマガワミチル)と言います」
「祓い屋の月影幸人です。そして義弟の月影秋羅と新入りのしお……」
手で指した方向にいた紫苑は、本棚から一冊の本を引っ張り出し、床に座り込んで熱心に読んでいた。
「紫苑……」
「すいません……まだ、新入りな者で」
「構いませんよ。
そのくらいの年頃は、色々なことを知りたがり、興味を持つ時期です」
そう笑いながら、町長は優しく言った。
行方不明者の書類を二人に見せながら、町長は話した。
ここ数日、夜になると笛の音が聞こえ初めた。聞こえた翌日には、必ず子供がいなくなっていたと。
「その笛が聞こえ始めたのは、いつ頃から?」
「そうですねぇ……
聞こえるようになったのは、あの人がこの町に着てからのような気が」
「あの人?」
「妖怪を研究している人で……
この町にある磁気が妖怪に、とてもいい影響を受けているとか言って、町外れの家に住み着いてずっと研究を」
「……」
「今、その人って家にいますか?」
「恐らくいるかと…
すみません、何分不気味な人だったので、誰も関わりたくなくて」
「……」
「とりあえず、この行方不明者リストはこちらで預かります。
明日からでも、調査を開始します」
「よろしくお願いします」
「それでは。
紫苑!帰るぞ!」
幸人に呼ばれ、紫苑は読んでいた本を元の場所に戻し、先に出て行った彼等の元へ駆け寄り、町長の家を後にした。
夜……秋羅と紫苑が眠る中、幸人は一人ローテーブルに広げた資料を見ていた。
その時、外から笛の音色が聞こえてきた。寝ていた秋羅は、寝惚けた様子で起き上がり眠い目を擦った。
「笛の音?」
「らしいな……
?」
向かいのベッドで寝ていた紫苑が、ムクッと起き上がった。眠い目を擦りながら、ブーツを履くと部屋を出て行った。
「……あいつ、どこに行くんだ?」
「さぁ……
んな、呑気なこと言ってる場合じゃ無い!!
追い駆けるぞ!」
「え?
ち、ちょっと待…うわっ!!」
部屋から出た紫苑は、小屋に入ると柵を取り紅蓮を外へと出した。紅蓮は彼女に擦り寄り、そして背を低くし彼女を乗せると小屋から飛び出した。
「狼にも、この笛の音色聞こえてんのか?」
「わ、分からん……
とりあえず、追い駆けてみよう」
馬を出し、二人は乗ると彼女の後を追い駆けた。
町を出てしばらく行くと、真っ暗闇の森へ入って行った。幸人は提灯に明かりを点け道を照らし、森へ入った。
辺りを照らしながら、森の中を歩く幸人と秋羅。
自分達が今、どこを歩いているのかすら分からないくらい、辺りは闇に包まれていた。
「暗いな……」
「幸人、紫苑の姿見えてるか?」
「……」
「幸人?」
「……大変申しにくいが……」
「ま、まさか……」
「見失った」
「……」
「……
どうすんだよ!!帰れねぇぞ!!」
「元来た道を辿れば……あ」
後ろを振り返ると、来た道は真っ暗闇に包まれていた。
「戻れねぇよ!!」
「弱ったなぁ」
「……よし!
回れ右して、走るぞ!!」
「無謀なことをするな!!
って、幸人!!待て!!」
馬を走らせる二人……すると、前から一筋の光が差し込んだ。二人はその光目掛けて、一直線に突っ走った。
馬を止め辺りを見回した……
森から抜けたのか、そこは宿の前だった。
「いつの間に……」
「……!
幸人!あれ!」
秋羅が指差す方向に、目を向けると山から日が昇ってきていた。
「嘘だろ……あの森に入ってから、まだ数分しか経ってなかったはずなのに」
「どうなってんだ……」