桜の奇跡 作:海苔弁
でも大丈夫。力が暴走した時、僕が必ず君を止めてみせるよ。
どんなに狂暴になっても、どんな形になっても……
君は僕の、たった一人の家族だから……
ボスの子供……
妖怪の口から出たその言葉を聞いた迦楼羅は、目を見開き驚きの顔を隠せないでいた。エルは地面へ降りると、秋羅を離し火那瑪達を下ろした。
「せ、先生……大丈夫ですか?」
「嘘だろう……
目の前にいんのかよ……ハハ」
「先生?」
「紫苑!!引け!!
お前、怪我してるんだぞ!!」
前へ出た秋羅は、紫苑に向かって叫んだ。彼女は目だけ秋羅に向けると、笑みを溢して言った。
「それが、お前等の望みじゃないの?」
「え……?!」
出来ていた傷口が、徐々に修復していった……そして、完全に治ると紫苑は小太刀を構え、地面を思いっ切り蹴り駆け出すと、目の前にいる妖怪の体へ登り、背中に小太刀を突き刺した。
手を緩めず、小太刀を抜くと妖怪の手が届く前に飛び降り、足を切り裂いた。
『ちょこまかと動きやがって!!』
動く紫苑を、手に掴んだ妖怪は彼女を地面へ叩き付けた。血反吐をした紫苑に、妖怪は押さえ付け大剣を突いてきた。
『心の臓を貫けば、例えボスのガキでも死ぬだろう!!
ここで、俺が殺してやる!死ね!!』
「紫苑!!」
胸に突き刺さる寸前に、茂みから人の姿となった紅蓮が紫苑の小太刀で大剣を、叩き切った。
「紅蓮!」
大剣は地面へ刺さり、紅蓮は紫苑を抑えている妖怪の手を突き刺し、力が緩んだ隙を狙い彼女を抱えて、その場から離れた。
浅く息をしていた紫苑は、紅蓮を見た……彼の姿が一瞬、自分が知っている男と重なって見えた。
「……生きてない」
『?』
「生きてない……
生きてない……」
「紫苑?」
意識朦朧としているのか、紫苑は無意識に涙を流しながら、小声でそう言った。そんな彼女を、紅蓮は抱き締め撫でた。
『大丈夫だよ……もう。
だから、安心して』
誰かが乗り移ったかのような声で、紅蓮は優しく言った。その声に紫苑は目を瞑り、眠りに入った。
彼女を地面へ寝かせると、紅蓮はエルが銜え持ってきた桜のブレスレットを受け取り、紫苑の手首に着けた。すると、ブレスレットは光りその光りに反応するかのようにして、紫苑の体を覆っていた額の模様が収まった。
丁度そこへ、幸人達が辿り着き、紅葉を下ろすと彼は迦楼羅達の元へ駆け寄った。
「幸人!」
「すぐに奴を封じる!
秋羅、火那瑪。お前等二人で奴の気を引け」
「はい!」
「応!
紅葉、お前は紫苑の傍にいろ!」
「う、うん!」
「紅蓮!エル!援護に回れ!」
槍を手に、狼姿となった紅蓮の背に、秋羅は跳び乗り槍を妖怪の足首を突いた。エルに乗った火那瑪は、弓を構え矢を妖怪の目に目掛けて放った。
倒れる妖怪……その時、地面が光りそこから、光の帯が生え妖怪の動きを封じた。
「いくぞ!迦楼羅!」
「アイアイサー!」
お経を唱える二人……妖怪は、封印されまいと暴れ出した。その攻撃が、紅葉達がいる場所へ飛んできた。
「紅葉!!」
『紫苑!!』
伏せた紅葉を背に、無意識に起き上がった紫苑は、妖怪の伸びてきた手を切り裂いた。
『ち、ちきしょー!!』
壺へと妖怪は封じられた。
立っていた紫苑は、地面へ倒れ彼女の元へ、紅蓮は駆け寄り人の姿になると抱き上げた。
「その子、大丈夫なの?お兄ちゃん」
「分かんねぇよ(別人みたいだった……
あの時の紫苑は)」
先程のことを思い出す秋羅……その間に、迦楼羅は幸人に妖怪が放った言葉を、伝えていた。その言葉を聞いた彼も迦楼羅と同じように、目を見開き驚いた顔をした。
「先生、取りあえず町へ戻りましょう」
「そうだね……」
「迦楼羅さん、大丈夫ですか?」
「いやぁ……久し振りなんでね……
こんなに、恐怖と興奮感じたの」
「……」
「全くだ……
あの事件以来だ」
「幸人?大丈夫か?」
「平気だ。
秋羅達は先に帰ってろ」
「あ、あぁ」
「火那瑪、お前も一緒に」
「分かりました」
エルの背中へ紅葉を乗せ、火那瑪を乗せると秋羅はエルの首を軽く叩いた。エルは鳴き声を上げると、翼を羽ばたかせ飛んでいった。
エルを見送ると秋羅は紅蓮から紫苑を受け取り、狼姿となった彼の背中へ乗ると、そのまま町へ向かった。
二人きりとなった幸人と迦楼羅は、その場に座った。
「聞いて、どう思った?」
「……不思議だな。
恐怖というより、興奮しかねぇよ」
「俺も同感だ」
「いるとは思わなかった……
あそこにいた時に聞いた話、覚えてるか?」
「……」
「ぬらりひょんの子供が現れた時……
再び、人と妖怪の戦いが起きる」
「戦いなんざ、とうの昔に始まってる」
「じゃあ、どっちにつくと思う?
人か妖怪……」
「……」
「討伐隊の奴等、何を考えてテメェに引き取らせたんだろうな?」
「知らねぇよ」
「……
多分、近い内にあるだろうな」
「だろうね。
これだけの妖気を放ってれば、あるに決まってる」
やがて日が暮れた……南区域と東区域を捨てたケレフトは、北と西区域に結界を張った。
一段落した秋羅は、外へ出て夕暮れに染まる空を見上げてた。
「颯人……」
聞き覚えのある声……秋羅はゆっくりと振り返った。
紅葉に支えられた母親が、目に涙を溜めて自身を見ていた。
「……か」
「颯人……こんなに大きくなって……」
「……っ」
歩み寄ってきた母親の頬を、秋羅は平手打ちした。
「何だよ……今頃……」
「お兄ちゃん……」
「散々人をゴミみたいに扱って、挙げ句の果てに捨てたくせして何だよ!!
それで、金に困ったからって俺を売ったのは誰だよ!!」
「……ご、ごめんなさい」
「謝って済む問題じゃねぇだろ!!」
泣き出す母親……秋羅は息を乱しながら、一筋の涙を流してその場を去った。彼の後を紅葉は追い駆け、手を握って引き留めた。
「待って!!
何であんな酷いこと言うの!?」
「……」
「お母さん、ずっと後悔してたんだよ!!
それで……それで体壊して」
「俺が知ったことか」
「お兄ちゃん!」
「自業自得だろ、そんなの。
俺はもう、アンタ等と関係は無い」
その言葉を聞いて、紅葉は秋羅から手を離した。
ぬらりひょんの子供。
妖怪の総大将・ぬらりひょん。彼には子供がいた。
討伐隊の本部に残っている資料には、写真はないが年齢は当時12歳だが、それは見た目だけ。中身は3歳から5歳児と同じ精神。
得意とする技は氷であり、自身に危機が及ぶと無意識に氷を放ち、相手を攻撃する。
連れてきた当初、2名の兵士が重傷を負った。一人は凍傷、もう一人は噛み付かれ手が血塗れになっていた。
異様な回復力の持ち主で傷を作っても、二三日あれば完治する。だが、痛みを感じるためやり過ぎには注意。