桜の奇跡 作:海苔弁
紫苑は物珍しそうに、海の近くを歩いていた。
「あ~あ……
何で、ここはこう暑いんだか……」
「知らねぇよ。んな事」
「異常気象で、この辺りの地域は少し暑いのよ」
金髪を簪で団子に纏めた女性が、お茶を飲みながら幸人達に話した。
「何でお前の依頼を、手伝わなきゃいけねぇんだか」
「だったら、こちらの請求」
「分かりました!!分かりました!!
手伝います!だからその紙引っ込めて!!」
浜辺を歩く紫苑と紅蓮とエル。彼等を見下ろすようにして、畦道を秋羅達は歩いていた。
「しっかし、海にまで妖怪が出るようになったとは」
「仕方ないわよ。そういう時代なんですもの」
「……あ!
紫苑!海に入るな!!」
そう叫びながら、秋羅は坂を駆け下り波際にいた紫苑の元へ駆けていった。
駆け寄ってきた秋羅を、紫苑はのらりくらりと避けた。駆けてきた彼は止まることが出来ずに、そのまま海に入ってしまった。
「何やってんだ?あいつは……」
「……あら、紫苑ちゃんも海に入りましたよ?」
「というか、投げられましたよね?あの変なものに」
「村に着いたら、すぐお風呂に入りましょうか」
祓い屋達の会議が終わってから数週間後……幸人は、金髪の女性と紺色の髪をツーサイドアップにした少女を、連れて帰ってきた。
『……どちら様?』
『依頼人プラス客だ』
『こんにちは』
穏やかに微笑む女性に、秋羅は思わず頬を赤くした。
『海に妖怪?』
『えぇ。南にある村からのご依頼で。
女だけでは、少し不安なのであなた方のお力をお借りしたいのですが』
『って言ってもなぁ……
こないだケレフトから帰ってきたばっかりだし……』
『断るというなら、こちらの請求』
『止めろ止めろ!!ここで出すな!!』
『幸人、お前何やったんだ?』
『な、何でもねぇ……気にすんな』
『……』
疑いの目を掛ける秋羅に、幸人はアタフタしながらぎこちない笑みを浮かべた。
『……酒?』
『!?』
起きてきた紫苑が、女性の背後に回り後ろに隠していた紙に書かれた文字を、声に出して読んだ。
『酒?
幸人、お前まさか』
『何でもねぇ!!
保奈美、依頼受けるから内容教えろ!』
『フフッ……初めから素直に聞けばいいのよ。
で、この子が例の紫苑?』
『まぁな』
『年はいくつ?』
『もう少しで15だと思う』
『あら。弟子の奈々と年は変わらないのね』
『アタシの方が、ずっとお姉さんだもん!!』
『はいはい。そうですね……
さて、ご依頼は承るという方向でよろしいでしょうか?』
『どうぞ……』
海が広がる村へと着いた幸人達。
秋羅と紫苑、奈々が宿のお風呂に入っている間、幸人達は村長宅で村長達と話をしていた。
「これが、この近海に出た妖怪の絵です」
村長が持ってきた絵には、黒い影が描かれていた。
「何ですか?この、黒いお化けは?」
「そいつが、私達の漁船を襲うんです。
幸い、まだ死人は出ていませんが……このままだと、この村はお終いなんです」
「……明日、船を出して頂けますか?
調査はその後で」
「は、はい……」
シャワー室でお湯を浴びる紫苑と奈々。蛇口を捻り、お湯を止めると奈々は、体にタオルを巻き出て来た。
同時に出て来た紫苑は、髪をタオルで拭きながら出て来た。
「……アンタ、少しは隠しなさいよ」
「隠す?何を?」
「……(重症だわ。この子)
?
ねぇ、この肩の傷、何?」
「え?」
奈々が指差す左肩には、傷痕があった。
「何かが、掠ったって感じね……昔からあるの?」
「分かんない。
昔のこと、覚えてないから」
「フーン……(話したくないなら、いいか)
ほら、服着よ」
「うん……」
服を着て、紫苑達は外へ出た。外には既に上がった秋羅が、エルに水を与えていた。
「あれ?ママ達は?」
「村長の家(ママって……)。
依頼内容を、詳しく聞いてくるって」
「フーン……
あの、それ何なんですか?」
「え?」
奈々が指差した方には、紫苑に甘えるエルがいた。
「西洋の妖怪で、グリフォンっていうんだ」
「へー……
あなた達って、妖怪使いなの?」
「違う違う。幸人も俺もお前等と同じ、普通の祓い屋だ」
「……でも、あの子は……」
「紫苑は別。
けど、祓い屋としてはかなりの腕だぜ。
あ!幸人」
宿へと戻ってきた保奈美に、奈々は駆け寄り抱き着いた。抱き着いてきた彼女を、保奈美は優しく撫でながら笑みを浮かべた。
「母親みてぇだな?保奈美」
「母親みたいな者ですよ」
「ママはママだもん!」
「ヘイヘイ。そういう事にしときますよ」
「幸人、依頼は?」
「明日、船を出して貰う。
仕事はそっからだ。
あれ?紅蓮は?」
「あいつなら、何か用があるからって言ってどっか行っちまった」
「用って……こんな所に、何の用があんだ?」
「多分、ラルの所に行ってるんだと思う」
幸人の疑問に、紫苑はエルの嘴を撫でながら不意に答えた。
「ラル?」
「誰だ?そいつ」
「南全域に住む、白狼の長」
「白狼?
この地域は、白狼がいるのか?」
「うん。
白狼は黒狼と違って、人に手を貸しながら森と人を守ってる。逆に黒狼は人に手を貸さず、森だけを守ってる」
「へ~……
じゃあ、紅蓮はそのラルって奴の所へ挨拶に行ったのか?」
「多分」
「まぁ、そういう事ならいいや。
その内戻ってくるだろうし……風呂入って来る」
「あぁ」
「それじゃあ、私も。
変なこと、しないでね」
「しねぇよ。誰が婆の裸を」
「秋羅さん、こちらの請」
「見ませんよ!若々しいアンタの体なんか」
幸人の慌てっぷりを見て、保奈美はクスクスと笑いながら彼と一緒に、宿へと入った。
「何なんだ?あれ……」
「さぁ……」
翌朝……
船の帆を上げる漁師達。港に来た幸人達は、彼等の準備が終わるのを待っていた。
「まだなんですか?船」
「もうちょいだ……
紫苑、空からの索敵頼んだ」
「うん」
「え?紫苑、一緒じゃないの?」
「彼女には、空から妖怪を探して貰うの」
「見つけ次第、彩煙弾を放って貰うつもりだ」
「彩煙弾って……紫苑、銃とか使えるんですか?」
「今秋羅が教えて」
“バーン”
突然聞こえた銃声に、一同は手を止めた。
音がした方では、放った衝撃で地面に尻を着いた紫苑と、驚き腰を抜かした秋羅がそこにいた。
「何やってんだか……」
「あらあら。
皆さーん、先程の音は我々の実験なので、気にせず動いて下さい」
保奈美の言葉に、漁師達は止めていた手を動かし始めた。
数時間後……
幸人達が乗った船は、海へと出た。その近くを、紫苑はエルの背に乗り、海を見下ろしていた。
「とりあえず、出るポイントの所まで頼む」
「は、はい!」
「こんな静かな海に、妖怪が現れるなんて……」
「それだけ、妖怪が凶暴化したのよ。
ぬらりひょんが生きていた頃は、共に漁をして共に魚を捕っていたと、聞いたことがあるわ」
「そんなに偉い人だったの?
そのぬらりひょんって」
「えぇ。
全ての妖怪は、ぬらりひょんだけには頭が上がらなかったそうよ」
「……何で、死んだの?」
「残された資料によると、討伐隊関係の人に殺されたと記されているわ」
「……」
「普通に考えて、今起きてる事って昔の人の尻拭いだよな?俺等って」
「いつの時代もそうですよ」
空を見上げる保奈美……その時、空が揺らいだ。
ハッとした彼女は、奈々と秋羅を船の縁から離し手に持っていた錫杖を、海へ構えた。保奈美と同じく幸人も銃を持ち構え、秋羅に手で合図を送り槍を構えさせた。
「な、何?」
「奈々、あなたは中へ入ってなさい」
「嫌だ!ママの傍にいる!」
「奈々!」
“バーン”
人物紹介5
名前:金影保奈美(カネカゲホナミ)
年齢:34歳(見た目は20代後半)
容姿:金髪の髪を簪で纏めている。目は緑色。
いつも笑みを浮かべている。
体の所々が、変色している(身体には異状なし)
名前:金影奈々(カネカゲナナ)
年齢:15歳(紫苑と同期)
容姿:紺色の髪をツーサイドアップにしている。目の色は青。
幼く見えるせいか、背伸びをしたがる。