桜の奇跡 作:海苔弁
部屋で夕飯を食べる紅蓮。傍にいた秋羅は、呆れながら彼を見て、注意した。
「あんまし入れ込むと、詰まるぞ」
『昼食ってねぇんだから、腹減って死にそうなんだよ』
「ヘイヘイ、そうですか」
「慌てて食べなくても、誰も取らないよ」
『うるせぇ!』
「怒鳴らなくていいから、早く食え!」
三人が騒ぐ中、紫苑は紅蓮のベッドで秋羅が剥いた林檎を食べていた。
「何騒いでんだ?お前等」
「あ、幸人」
「ママ!」
幸人の後ろにいた保奈美の元へ、奈々は駆け寄り抱き着いた。
「明日の朝、入り江へ行く」
「入り江?」
「海坊主の住処があるかもしれないんでね。
あるのは4箇所。村を中心として、森を抜けた先に2箇所。浅瀬を超えた先に1箇所と、洞窟を抜けた先に1箇所」
「随分転々としてるな」
「入り江だからな。
浅瀬の所には、俺が行く。洞窟には秋羅と奈々。森の先には、紫苑と保奈美だ」
「分かった。
紫苑、エル連れてっていいか?」
「うん。大丈夫」
「アタシ、ママと一緒がいい」
「奈々、我が儘は言わないで。
明日は、秋羅さんの言うことをしっかり聞きなさい」
「……」
「いいわね。奈々」
「……はい」
翌朝……
獣道を歩く紫苑と保奈美。
後ろを歩く保奈美を気にしながら、紫苑は獣道を紅蓮と歩いていた。
「……紅蓮、先行って」
『あぁ』
後ろの方でへばっていた保奈美の元へ、紫苑は駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
「平気。ごめんなさいね……こういう道に、慣れてない者だから」
「……」
「紫苑は、慣れてるのね?」
「ずっと森に住んでたから」
「森に住む前は?」
「え?」
「森に住む前は、どこに住んでいたの?」
「……知らない……
目が覚めたら、森にいたから」
「目が覚めたら?
じゃあ、眠る前は?」
「……覚えてない」
「……じゃあ、ご両親は」
「……」
「酷い親ね。あなたを捨てるなんて」
「……クセニ」
「?」
「何も知らないくせに、二人のことを決めつけないで!!」
地面に氷の槍を放ちながら、紫苑は保奈美の方を振り向き睨んだ。
だがすぐに、彼女はハッとし目を反らすようにして、前を向くとそのまま歩き出した。
(何でこんな、胸が締め付けられるんだ……
分かんない……
親のこと何て、何も覚えてないのに……
何も知らないのに……何で)
「キャア!!」
保奈美の悲鳴に、紫苑は振り返り彼女の元へ駆け戻った。
戻ってくると、保奈美の周りに二頭の白狼がいた。傍へ行くと、白狼は紫苑に気付き駆け寄り擦り寄った。
「白狼達は、何もしないよ」
「いきなり出て来たから、ちょっとビックリしちゃって……
で、この子達は何で私の周りを?」
「迷子かと思ったみたい……
早く入り江に行こう」
「そうね」
微笑むと保奈美は立ち上がり、先に歩き出した紫苑の後を歩いて行った。
森を抜けると、そこは海が広がっていた。
「ここなの?」
「えぇ。
こっちの方は私が合図を送るから、もう一つの方をお願いできる?」
「うん。
紅蓮、行こう」
先に来ていた紅蓮の背中へ乗ると、紫苑は再び森へ入った。
森をしばらく駆けて行くと、森を抜けそこは浜辺だった。浜辺を走って行き紫苑達は入り江へと着いた。
『ここか……』
「敵はいない……」
『とりあえず、合図を送っとけ』
「うん。そうする」
紅蓮から降り、腰に着けていたバックから銃を取り出した紫苑は、銃口を空に向けた時だった。
「はーい、ストップ」
「!?」
何者かに腕を掴まれた紫苑は、声を聞きすぐに振り返った。そこにいたのは、カウボーイハットを被った男だった。
「……だ、誰?」
「フゥー。何とか、見つかりましたね。
そんで、この子誰です?」
「会議で言ってた月影の所にいる半妖だ」
「半妖……えー!?」
「は、離して!!」
暴れ出そうとした紫苑を、男は関節技を使い動きを封じた。そして、手から銃を奪いそれを海へ放り投げた。
「困るんだよ……ここで、この場所を教えちゃ」
「離して!」
傍にいた紅蓮は、唸りだし男に襲い掛かった。だが、男はそれをものともせず、噛み付いた腕を上げ紅蓮の腹に、蹴りを入れた。蹴り飛ばされた彼は、木に体をぶつけ気を失った。
「紅蓮!!」
「躾のなってねぇ犬だな」
「あれ、黒狼ですよ」
「犬には違いないだろ?」
「まぁ、そうですけど」
「紅蓮!!紅蓮!!
離して!!紅蓮が!!」
「少し黙ってろ」
手を離し紫苑を自身に向けさせると、腹に膝蹴りを食らわした。膝蹴りを食らった紫苑は、腹を抑えながらその場に蹲り倒れた。
「さぁて、こいつを離すか……」
そう言って、男は懐から栓がされた瓶を出し栓を外すと口を、海に向けた。すると瓶から海坊主が出て行き、海へ入るとそのまま大海原へと、出て行った。
「また襲わせるんですか?」
「まぁな。
そのガキ、見張ってろよ」
「ヘーイ。
縛っといていいですか?」
「逃げなきゃ、何してもいい」
「了解でーす」
その頃、洞窟の先にある入り江に秋羅達と一緒にいたエルは、鳴き声を上げ暴れ出した。
「ど、どうした!エル!
落ち着け!!」
暴れ出したエルの手綱を、秋羅は引っ張り大人しくさせようとした。
「落ち着け!エル!!
奈々、離れてろ」
「は、はい」
暴れるエルを、秋羅は引っ張り手綱を岩へ結んだ。エルは手綱を外そうと引っ張り、そして遠くへ響くようにして鳴き声を上げた。
「どうしたんです?!いきなり」
「分かんねぇ。こんなに暴れるのは初めてだ」
“ドーン”
突然爆発音が響いたかと思うと、入り江に満ちていた海が引いた。
「な、何?」
何事かと思い、秋羅は海が引いた場所へ行き、海を見た。そこには、海面から顔を出した海坊主が、海の水を吸い上げそして、自分達の方目掛けて放った。
それに気付いた秋羅はエルの手綱を外し、奈々を乗せ自身も乗るとエルは鳴き声を上げ、翼を羽ばたかせ上へと飛んだ。次の瞬間、海坊主が放った水は入り江を通り、洞窟から水が噴射してきた。
「危ねぇ……一歩間違えたら、巻き込まれてた」
「……エルは、これを伝えようとして」
「多分な。野生の勘だろう……」
秋羅はそう言いながら、エルの首を撫でた。
「さっきの海坊主、森の入り江の方からでしたよね?」
「森だったら、紫苑と」
「ママ……!!
秋羅さん、すぐにママの所に!!」
「分かってる。その前に幸人の所へ連絡を」
そう言って秋羅は銃の弾を入れ替え、銃口を空に向け煙弾を放った。
放つと秋羅は、エルを保奈美の所へ行かせた。
浅瀬に着いていた幸人は、空に広がっていた赤色の煙を見て、すぐにそこから離れ駆け出した。
「……?
そういや……森の方からは、確か煙弾は一発だけ……
もう一発は?(まさか、紫苑か保奈美に何かあったのか?)」
疑問に抱きながら、幸人は森の方へと急いだ。
「……」
目を覚ます紫苑……まだ痛む腹部を手で抑えようと、手を動かしたが動かすことが出来なかった。それに気付き、すぐに飛び起きた。
「あ、目覚めた。
少し、大人しくしてて貰うよ」
「……」
前で手を拘束され、口を布で縛られた紫苑は辺りを見回した。
辺りは木造の部屋で、中に木箱が数個積まれていた。
「先生からの命令だから、暴れたりしないでね……って言っても、縛ってるから逃げられるはずがないか」
「……」
「まぁ、変な真似さえしなければ、殺したりはしないから安心して」
そう言って、少年は部屋に置かれていた椅子に座り、紫苑を見た。彼を睨みながら、紫苑は妖気を放ち氷の柱を作り出した。
「凄え……本当に半妖なんだな?
でも」
“バーン”
「!」
顔スレスレを通過し、壁に銃弾が当たった。煙を上げる銃に、少年は息を吹き煙を消した。
「あんまし、反抗的だと怪我するからな?」
「……」