桜の奇跡 作:海苔弁
地面へ降りると奈々は、一足先に飛び降り保奈美に抱き着いた。彼女に続いて降りた秋羅は、彼女の元へ駆け寄った。
「この辺りから、海坊主が出現したんですけど……」
「私の所は何もなかったわ。
もしかしたら、紫苑の所かもしれない」
「紫苑の……
そういえば、保奈美さんは撃ったんですよね?煙弾」
「えぇ」
「……あの、紫苑の奴はどこへ?」
「もう一つの入り江の方へ……!
ちょっと待って……煙弾が見えたのは、幸人とあなたの煙弾だけよ」
「……まさか。
保奈美さん、ここで奈々と一緒に幸人が来るの待ってて下さい」
「え?」
「エル!紅蓮の所へ!急げ」
エルに飛び乗った秋羅は、エルを飛ばし空へと上がった。
森へと入り獣道を幸人は歩いていた。その時、茂みから白狼が一頭出て来た。幸人の周りを歩くと、ついて来いとでも言うかのように、彼を見ながら前を歩いた。
(……何だ?)
不思議に思い、幸人は白狼について行った。
白狼に釣られて辿り着いたのは、入り江だった。先に着いた白狼はある所へと駆け寄り、幸人を見た。
白狼の元へ行くと、そこにあったのは紫苑のバックとケースに入った小太刀がだった。傍には、弾が入った銃が一丁落ちていた。
「……何で、これがこんな所に」
「幸人ー!」
空から声がし、幸人は空を見上げた。空からエルが舞い降り、乗っていた秋羅が背から飛び降り彼の元へ駆け寄った。
「何で、幸人がここに?」
「そこにいる白狼に。
つか、何でお前が?」
「紫苑が気になって、ここへ……!
これ、あいつの」
「何故かここにあって……本人の姿が無い」
「どこ行ったんだ?
紫苑!紅蓮!どこだぁ!」
二人の名を呼ぶが、返事は無かった……その時、茂みが微かに動き、中から人の姿となり腹を抑えた紅蓮が、姿を現した。
「紅蓮!?どうした?!」
地面に膝を付いた彼の元へ、二人は駆け寄った。紅蓮は咳き込みながら、差し出してきた秋羅の手を掴み立ち上がろうとするが、足がふらつきその場に倒れた。
「おい、しっかりしろ!」
「何があった!?
紫苑は!」
『へ、変な奴等に……さ、さらわれ……ぐぅ!!』
「下手したら、肋筋イッてるぞ……」
「チッ……今、海坊主が海で暴れてるって言うのに」
『あいつ等だ……』
「え?」
『紫苑をさらった奴等が……海坊主を…瓶から、放って……』
「瓶から……
!!
まさか」
「幸人?」
「すぐに保奈美達と合流するぞ!」
「あ、あぁ」
(最悪だ……よりによって、あの野郎の手に紫苑を)
案内をした白狼の頭を一撫ですると、幸人はエルの背中へ乗り、秋羅も紅蓮を乗せ共に乗った。エルは翼を羽ばたかせ空へと飛び、保奈美達の元へ向かった。
保奈美達の元へ着いた幸人は、一足先に飛び降ると保奈美に耳打ちをして、秋羅達から離れた。ついて行こうとした奈々を、秋羅は慌てて引き留め少し待つよう説得した。
「え?あいつが!?」
「あぁ。
最悪な事に、紫苑がそいつに奪われた」
「そんな……でも何故?
あいつは、南西部担当なんじゃ」
「その辺りから依頼があったとしたら、不思議じゃない」
「……」
「とにかく、海坊主を封じることに専念しろ。
いいな?」
「待って。
紫苑ちゃんはどうするの?あの子、人質なんでしょ?」
「何とかする。
お前は、仕事を優先しろ」
「……」
去って行く幸人の背中が、一瞬若かった頃の彼の背中と重なって、保奈美の目に映った。
とある場所にある小屋へと入る男。地下へと続く扉を開けると、中へ入った。
「……あ、先生」
「ガキは?」
「大人しくしてますよ」
部屋の隅で、紫苑は顔を埋めて蹲っていた。男は彼女の元へ歩み寄り、頭を鷲掴みにすると無理矢理顔を上げさせた。
「ヒュー……獣みてぇな目付きだな」
「……」
「あんましからかわない方がいいですよ!
さっき、俺に攻撃しようとして氷の柱出したんで」
「けど、今は作ってねぇぞ」
「当たり前ですよ。
これで少し、脅したんですから」
「相変わらず、人を痛め付けるの好きだな?」
「いや、それほどでも!」
「さてと、移動するぞ」
「どこ行くんです?」
「月影達の所に決まってんだろ?
だいたい、今回の依頼はあの村の連中から魚を捕らせるなっていう内容だ。
その任務中に、あいつ等が邪魔してたんじゃこっちの任務が疎かになる」
「まぁ確かに」
「ガキ連れて、とっとと出るぞ」
「了解でーす。
さぁて、大人しくしてろよ。痛い目に遭いたくなきゃな」
「……」
小屋から出て来た少年は、紫苑の縛っていた手にロープを縛り、リードのように彼女を引っ張り先を歩く男の後をついて行った。
海坊主が見える浅瀬まで来た幸人達……保奈美はすぐに、地面に封印の陣を描いた。
そして陣が完成すると、幸人と手を合わせお経を唱え始めようとしたその時だった。
“バーン”
「!?」
「はーい、ストップ」
弾が放たれた方向を見ると、そこにいたのはカウボーイハットを被った男だった。
「……やっぱり、テメェか」
「会議ぶりだねぇ。月影」
「何故、あなたがここに?」
「普通に依頼でここに来てるだけだ。
テメェ等こそ、何でこんな所にいる?」
「こっちも依頼だ。
あれ、お前のか?」
「海坊主?そうだけど?」
「とっとと引っ込ませろ。
でなきゃ、こっちで封印するぞ」
「だから、それ困るんだよ。
こっちの依頼が、成功しねぇだろう?
どうしてもやるって言うなら、半妖の子供が死ぬぞ?」
そう言って、男は顎で合図を送った。後ろから銃口を頭に向けられた紫苑が、少年に腕を掴まれて出て来た。
「紫苑!」
「さぁ、ガキの命と引き替えに封印術をすぐに止めろ」
「相変わらず、汚ねぇ手を使うな?」
「お褒めの言葉をどうも」
笑みを浮かべる男……その時、空からエルが鳴きながら急降下し、背中に乗っていた秋羅は、二人を槍の束で攻撃した。
当たった攻撃に、手が緩んだ隙を狙い紫苑は少年の足を強く踏み付け、彼から離れた。頭を振った少年は銃口を紫苑に向けた。
だが次の瞬間、彼等の前に白大狼が紫苑を銜えて、通り過ぎそれに気を取られている内に、少年に後ろから紅蓮が飛び掛かり腕を噛み怪我をさせると、幸人の元へ駆け寄った。
「さぁ、どうする?
人質はもういない」
幸人の勝ち誇った顔とは裏腹に、男はニヤリと笑うと素早く銃口を向け、弾を放った。弾は秋羅の腕を掠り、海坊主の体を貫通した。
「秋羅!!」
掠った傷口から流れ出る血を止めようと、秋羅は手で抑え悲痛な声を上げた。
「さぁて、お次はそこのお嬢さんに」
「ひっ!」
「奈々!下がっていなさい!
幸人、今は落ち……!?」
幸人から夥しい霊力が、放たれた……そして、目を鋭く光らせると、手に持っていた銃口を男に向け弾を放った。避ける余裕もなく、弾は男の頬を掠り木の幹に当たった。
「なるほど……
地獄の祓い屋の登場って訳か?
敬!離れてろ!」
その声と共に、男は幸人に殴り飛ばされた。
「先生!!」
「そうこねぇとな!!月影!!」
着ていた上着を脱ぎ捨て、男は幸人に襲い掛かった。
白大狼に銜えられ、森の奥へと連れて来られた紫苑。降ろされた彼女は、辺りを警戒しながら口を縛っていた布を下へ降ろしロープを食い切った。
『平気か?』
「うん……ラル、ありがとう」
『どうって事は無い……』
「……何だろう、この凄い妖気」
『妖気の他に、人の霊力を感じる。
乗れ』
身を下げたラルに、紫苑は乗りその場を離れた。
森を抜けようとした時だった……突如、前に怒りに満ちた目をした幸人と、彼と戦い楽しそうな顔をした男が、通り過ぎた。
(幸人……何で……)
森を抜け、ラルから降りると紫苑は紅蓮達の元へ駆け寄った。
「紫苑!怪我は?」
「平気。
ねぇ、幸人の様子が」
「今行く……紅蓮、紫苑を頼んだ」
傷口を抑えていた布を取り、秋羅は森へ入った。彼がいなくなったと共に、敬は残った紫苑に向かって銃弾を放った。それをすぐに察知した紅蓮は、彼女を庇うようにして覆い被さった。弾は紅蓮の腹を掠り、彼は血を流しながら倒れた。
「紅蓮!!」
「やっぱ、的が定まらないなぁ……」
流れ出る紅蓮の血を見て、紫苑は息を乱しながら彼を睨んだ。
その時、凄まじい妖力が彼女から放たれ、それに耐えきれぬようにして、手首に着けていたブレスレットの鎖が切れた。鎖が取れたと共に、額の模様が体全体を覆い、紫苑は鋭く光る青い目を敬に向けた。