桜の奇跡 作:海苔弁
茂みを抜けた先にいたのは、倒れた男に馬乗りになり銃口を向けていた。
「幸人!!止せ!!」
秋羅の声に、幸人は引き金を引こうとした手を止めた。
「お、俺平気だから……なぁ!
その銃、下ろして……」
「……」
振り向いた幸人は、秋羅を睨んだ。秋羅は怖じ気着けながらも、ゆっくりと歩み寄りそして幸人が握る銃を、自分の胸に当てた。
「下ろさねぇなら、今ここで俺の胸を撃て」
「……」
「どうした……撃てよ」
「……」
震える手で持っていた銃が、自然と離れた。顔を上げると、幸人は秋羅の頭に手を置き銃をしまった。
「撃つわけねぇだろう……バーカ」
「……馬鹿はどっちだ!」
軽く幸人の胸を殴りながら、秋羅は彼に凭り掛かり嬉し泣きをした。
木にぶつかり、口から血を出す敬。逃げようとした彼の足を、暴走した紫苑は凍り付けにした。
そして動けなくなった彼に向かって、紫苑は氷の刃を顔スレスレに突き刺した。
「お前がさっき、私にやったことだ。
次は外さない」
突き刺そうとした瞬間、追い駆けてきていた保奈美が、彼女の手を掴み止めた。
「止めなさい……戻れなくなるわよ!」
「戻る?何に?」
「……」
「同じ事をして、何が悪いの?
何でこいつがやったことは許せて、私は駄目なの?」
「あなたも、同じ道を歩みたいの?その人と」
「……」
見つめ合う二人の隙を狙い、敬は銃口を向け弾を放った。弾は、紫苑の肩を貫通し保奈美の頬を掠った。肩を撃たれた彼女は、肩を抑えながらその場に座り込んだ。
次の瞬間、紫苑の脳裏にある映像が流れた。
とある草原……そこに生えていた桜の花弁が散り、それらと共に傍にいた者が、自分の前から消えた。
「(何……これ……
分からない……分からない!!お前は、誰なの?!)
アアァァァァアアア!!」
頭を抑え、苦しみ出した紫苑。激しい頭痛の中、彼女は撃ってきた敬目掛けて、小太刀を振り下ろした。
振り下ろした先にあったのは、男の腕だった。彼と共に茂みから秋羅達が姿を現し、動揺していた紫苑はすぐに我に戻ると、彼等から離れ睨んだ。突き刺さった小太刀を抜いた男は、それで敬の氷を砕いた。
「先生!」
「ヘマするな!」
「すいません!!」
「あれがあのガキか?」
「あぁ。
言っとくが、資料にも書いた通り敵味方関係無しに攻撃してくるからな」
「どっちにしろ、俺等はもうあいつの敵だろう?」
「まぁ、そうだな」
二人が話す間、秋羅は保奈美の元へ歩み寄り質問した。
「あの人、誰なんですか?
全然、分かんないんですけど」
「彼は私達と同じ、祓い屋の一人……
土影創一朗(ツキカゲソウイチロウ)」
「祓い屋……
あれが祓い屋ですか!?」
「そうよ。
やり方は荒く汚いけど、れっきとした祓い屋よ」
「……信じられねぇ(って事は、あの敬って奴があいつの弟子?
うわ~……)」
手に氷の刃作り出した紫苑は、地面を勢い良く蹴りそして、幸人達に襲い掛かった。二人はすぐに避けると、創一朗は紫苑を海へ蹴り飛ばした。宙を舞った紫苑は、海の一部を凍らせその上に立った。
「わお、凄え」
「感心してる場合か!!
テメェが蹴ったせいで、離れちまったじゃねぇか!」
「悪い悪い」
二人が言い争っていた時、突如海に立っていた紫苑目掛けて、海坊主が攻撃をしてきた。
紫苑が張った氷は、粉々に砕けた。
「紫苑!!」
「保奈美!こいつと一緒に、封印術を完成させろ!!」
「分かったわ!」
「ヘーイ」
「秋羅は二人の援護だ!」
「了解!」
飛んできたエルの背中に、幸人は乗り空へと上がると海坊主目掛けて、銃弾を放った、海坊主は悲鳴を上げながら、海の触手を伸ばしエルを攻撃していった。エルは、飛んでくる攻撃を難なく避けていき、そして封印術が行われている場所へ誘導した。
「今だ!!」
秋羅の合図に、二人は手を合わせお経を唱え始めた。お経に反応するかのようにして、陣は光り出しそこから光りの触手が伸び、海坊主を拘束するとそのまま引っ張り、壺の中へと封じた。
一段落着いた保奈美達の元へ、エルは寄り幸人は背中から飛び降り、彼等の元へ歩み寄った。
「やれやれ。とんだ任務だった」
「そりゃこっちの台詞だ」
「……?
エル!どこ行く!?」
高く飛んだエルは、そのまま海まで急降下し中へ潜った。しばらくして、紫苑を銜えて上がってきたエル。地面へ降りると、彼女を自身の前に寝かせ嘴で、突っ突き体を揺らした。
駆け寄ろうとした時だった……
奈々が見ていた傍で、紅蓮の体から青い炎が上がった……炎は人の姿となり、地面に落ちていたブレスレットを手に取り、横になっている紫苑の元へ歩み寄った。
「な、何だ……あれ」
「……」
「幸人、あれあの時の」
「あぁ……」
歩み寄ったそれは、横になる紫苑の前にしゃがみ、彼女の手にブレスレットを着けた。
するとブレスレットが光り、その光に反応するかのようにして、体に広がっていた模様が収まった。
それを見て、傍にいたそれは紫苑の頭を撫で、立ち上がるとエルの嘴を撫で、そしてそこから煙のように姿を消した。
「……」
目を覚ます紫苑……傍にいたエルは、嘴で彼女を突き擦り寄せた。寄ってきた嘴を、紫苑は撫でながら起き上がった。
「体は、大丈夫そうね」
「……海坊主は?」
「この通り、封印しましたよ」
創一朗と敬の姿を見た紫苑は、傍にいた幸人の後ろへ隠れ、二人を睨んだ。
「ありゃりゃ、嫌われちまったな」
「当たり前です。
普通に考えて、気を失わせるために腹に膝蹴り食らわせて、手を縛って口塞がれれば、その人を警戒しますよ」
「何で腹に膝蹴りを入れたことを、テメェが知ってんだよ」
「あなた、欲しい物を手に入れる時、いつも相手の腹に膝蹴りを入れてたじゃない」
「っ……」
その時、何かの気配を紫苑は感じ振り返った。
地へ降り立つ妖怪……その存在に、幸人達も気付きその妖怪を見た。
「何です?あの妖怪」
「……!
伏せて!!」
紫苑の声と同時に、妖怪は紫苑を攻撃した。すぐに避けた彼女は、地面に転がっていた小太刀を手に、襲ってきた妖怪に攻撃した。
「紫苑!!」
「何だ!?あの妖怪は!」
「知るか!
秋羅!保奈美と一緒に、紅蓮達の所に戻ってろ!!」
「わ、分かった!」
弾を追加した幸人は、銃を持って紫苑の後を追い彼に続いて創一朗も弾を追加しながら、ついて行った。
浅瀬に倒れた紫苑は、妖怪の攻撃を小太刀で受け止めた。
(つ、強い!)
その時、倒れていた地面が崩れ、紫苑は海の中へ沈んだ。慌てて海面に顔を出そうとしたが、妖怪が彼女の顔を押し出させないようにした。
(い、息が……)
全ての息を吐いた時だった……突然、妖怪が彼女から手を離した。そして、腕を掴まれ海面へ引きずり出された。
「ゲホ!ゲホッ!」
「フゥー……息はあるか」
「……!!」
掴まれていた創一朗の手に、紫苑は小太刀を突き刺そうとした。
「平気だ、紫苑」
「?」
「今は、俺がいる」
「……」
遠くから紫苑達を見る妖怪……不敵な笑みを浮かべると、スウッと姿を消した。
「何だったんだ?あの妖怪」
「紫苑の知り合いじゃ……ないよな?」
「あんなの、知らない」
「だよな。
さてと、一旦村に戻るか」
「そっちの村行って良いか?」
「別に構わないが、そっちの任務はいいのか?」
「報酬ケチって少ないから、こっちに移る」
「あっそ」
創一朗の手を振り払った紫苑は、幸人の元へ駆け寄り隠れ睨んだ。
「本当に嫌われたな、お前」
「ほっとけ」
人物紹介6
名前:土影創一郞(ツチカゲソウイチロウ)
年齢:34歳
容姿:焦げ茶色の天パ。普段カウボーイハットを被っている。目の色は黒。肩に火傷の痕がある。
名前:土影敬(ツチカゲケイ)
年齢:20歳
容姿:黄土色の髪に黄色の目をしている。基本チャラチャラしてる。