桜の奇跡 作:海苔弁
そこへ、幸人と秋羅がやって来た。現れた二人に、泣いていた女性の他、その場にいた大人達が寄って集って、口々に言い出した。
「娘は!!うちの娘はどこに行ったんですか!?」
「息子は!!」
「子供達は無事なんですよね!?」
「こ、こちらとしてもまだ検討中でして……」
(うちだって、大事な仲間さらわれてんだ)
騒ぐ大人達。その中、さらわれていなかった子供が、何気に窓の外を見た。
広場に辿り着く一匹の黒い狼と、それに乗った人影が見えた。
「ねぇ!誰か来たよ!」
「?
!!紫苑!紅蓮!」
「何か抱えてるぞ!」
二人はすぐに外へ飛び出した。
紅蓮から降りた紫苑は、一緒に乗っていた二人の子供に手を貸し下ろした。降りた子供はぐずりながら、辺りをキョロキョロ見ると、町長の家から出て来た親を見つけるなり、泣きながら駆け寄り抱き着いた。
「さらわれたはずの子供が、戻って来るなんて……」
「き、奇跡だ!」
「あれ?
何の騒ぎ?」
その声に、喜びを分かち合っていた人々は、皆声の方を振り向いた。声の主を見た紅蓮は、突如唸り声を上げながら攻撃態勢を取った。
振り向いた場所にいたのは、無造作に伸びた髪にヨレヨレの白衣を着た男だった。
「こ、児玉さん……」
「どうしたの?皆集まって」
「さらわれた子供が、帰ってきたんです!」
「フーン……?
へー、黒大狼ですか。珍しいですね」
寄ってきた児玉に、紅蓮は今にも噛み付きそうな表情をしており、傍にいた紫苑は慌てて紅蓮を抑えた。
「アンタが、飼い主かい?」
「……」
「アンタも珍しいね。
白髪に赤い目なんて」
手を伸ばしてきた児玉に、牙を向けていた紅蓮は、紫苑を飛び越え彼に襲い掛かった。
「紅蓮!!」
『去れ!!』
どこから聞こえた男の声……紫苑はすぐに紅蓮の元へ駆け寄り、顔を手で抑えながら自身の方に向けさせた。
「だ、大丈夫ですか?!」
「平気です。少し手を切っただけなので」
「……」
「児玉さん、後でお話お伺いしても、宜しいですか?」
「構いませんよ。
でも、その狼連れて来ないで下さいね。俺の家、結構散らかってるんで」
「分かりました」
切ったところから出た血を舐めながら、児玉はその場を去って行った。
「何だ?あいつ」
「分かりますでしょ?関わりたくない理由が」
「何となく分かった……
あ、そうだ。この町に病院とかありますか?」
「僕の家が病院です!」
「じゃあ、こいつの手当て頼むわ」
紫苑の首根っこを掴みながら、幸人は医者である男に渡そうとした。その瞬間、彼女は幸人の背中へ周り身を隠し、男を睨んだ。
「……すいません。
まだ、俺等以外の人に慣れて無くて」
「いえいえ、構いませんよ。
ついでに、その狼の怪我も診ましょう」
「お願いします」
診察台に座る紫苑。手当てをされている最中、彼女は興味津々に部屋を見ていた。
「はい。君の手当ては終わり。
次はその狼の怪我……あれ?」
先程まであった紅蓮の傷が、跡形も無く消え治っていた。診察台から降りた紫苑に紅蓮は尻尾を振りながら、彼女に擦り寄った。
「さっきまで、傷があったと思ったんだけど……」
「まぁ、気のせいでしょう」
「はぁ……」
「どうもありがとうございます」
「いえいえ。
それより、先程の児玉さんおかしな人でしょ?
皆は極力関わりたくないんですよ」
「彼は、どうしてここへ?」
「それが、噂なんですけど……
以前、ここに住んでいた人の子供じゃないかって話なんですよ」
「……え?!」
「昔ここには、児玉さんと同じような人が一人いたんです。
その人は、妖怪の研究をするとか言って、妻を連れてこの町を出たんです。
でも、結局帰って来なくてそのまま……」
「それ、いつの話ですか?」
「確か……30年くらい前ですよ」
「……」
病院から出た三人は、宿へと戻った。小屋に紅蓮を入れると紫苑は、秋羅達と共に宿の部屋へ戻った。
「そういや紫苑、お前どうやって森から出たんだ?」
「……蛍」
「え?蛍?」
「あの森入って、蛍捕まえて……そしたら、あいつ等見つけた。
蛍が道を教えてくれて、それで町に」
「戻ってきたと」
「うん」
「……
もしかしたら、子供がいなくなるのって」
「蛍と笛の音が関わってるのかもな」
「だとしたら、今夜も」
「聞こえる可能性は高い」
「……」
「とりあえず、お前等はここで大人しくしてろ。
俺はさっきの変人の所に行ってくる」
「わ、分かった」
必要な物を持ち、幸人は部屋を出て行った。それと同時に、紫苑は眠くなったのかあくびをしながら目を擦り、秋羅の服の裾を掴んだ。
「何だ?眠いか?」
「……ん」
「(そりゃあそうだよな……夜通し、起きてたんだから)
ほら、少し寝てろ」
そう言って、秋羅は紫苑を抱き上げベッドに寝かせた。布団を掛けると、彼女は3秒も経たない内に眠ってしまった。
(もう寝やがった。
しっかし、よく寝るなぁ……)
『去れ!!』
ふと思い出す声……秋羅は、何気に紫苑の前髪を上げるようにして撫でた。
「?
何だ?これ」
紫苑の額には、雪の結晶の模様が刻まれていた。
(……幸人が帰ってきたら、見せてみるか)
児玉の家に着き、家の扉を開ける幸人……中は本や書類で散らかっていた。
「あぁ、いらっしゃい」
床に散らばった書類を拾いながら、児玉は幸人の前に現れた。
「ごめんね。散らかってて。
何分、調べ物をする時この方が調べやすくて」
「その気持ち、少しは分かる」
「なら良かった。
あぁ、適当に座ってて」
「あ、あぁ(座ろうにも、座る場所が……)」
「で、話って何です?」
「……アンタは、何の研究をしてるんです?」
「妖怪ですよ。
町外れにある、森がありますよね?」
「え、えぇ」
「そこの森には、昔から蛍の妖怪がいると言われていて……
その研究のために、ここへ来たんです。
この町は、妖怪達には打って付けの場所ですから」
「……」
「あぁ、そうだ。
あのお嬢さんから、目を離さない方がいいですよ?」
「?
どういう意味だ?」
「彼女、妖怪でしょ?」
児玉の言葉に、幸人は頭の中が真っ白になった。彼は書物を広げながら、話を続けた。
「と言っても、あのお嬢さんは半分妖怪で半分人間。
今となっては、珍しい種類ですが……
大昔は、それなりにいたみたいですからね。人間と妖怪の子供が」
「……聞いたことがある。
妖怪が凶暴化したのは、役百年前。昔はそれまで凶暴では無く、人と共に暮らすことが出来たと」
「えぇ。
あなたも知っているでしょう?
夜山晃(ヨヤマヒカル)を」
「……」
「彼は、百年前に妖怪の辞書を手掛けた人だ。
言わば、初代妖怪博士」
「その男は、死んだとされているが……
百年前のある日、忽然と姿を消してそれ以降、誰も見ていない。
噂じゃ、妖怪に食われたと言われている」
「何だ……そこまで、知っているんですね。
すみません、もう帰って頂けますか?
調べ物したいんで」
そう言われ、幸人は児玉の家を出た。彼は道を歩きながら、先程の話を思い出した。
『彼女、妖怪でしょ?』
(……上の方からは、何も言われていないし聞かされていない。
そもそも、あいつが妖怪だという証拠が一切無い)
考え込みながら、幸人は宿へ戻り部屋に戻ってきた。
「幸人!話がある」
「?」
駆け寄ってきた秋羅に引っ張られ、幸人はベッドで眠っている紫苑の傍へ連れて来られた。
「紫苑がどうかしたのか?」
「ちょっと、これ見てくれ」
そう言って、秋羅は前髪を上げ彼女の額にある模様を見せた。
「……何だ?これ」
「さっき見つけたんだ。
これって」
「……詳しく調べねぇと分からねぇけど……
多分、呪印か何かだと思う」
「やっぱりか……
上から何か言われてるか?」
「特に。
保護しろとしか、言われてない」
「……
何者なんだ……紫苑って」
「俺が知りたいくらいだ」
夜……
皆が寝静まった頃……再び笛の音色が聞こえてきた。
仮眠を取っていた幸人を起こした秋羅は、彼と共に部屋を出て小屋へ行った。そこで待っていた紫苑と合流し、彼女を先頭に町外れにある森の中へ入った。