桜の奇跡   作:海苔弁

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早朝……町長の家に集まる大人達。その中に、ソファーに座り泣き喚く女性がいた。

そこへ、幸人と秋羅がやって来た。現れた二人に、泣いていた女性の他、その場にいた大人達が寄って集って、口々に言い出した。


「娘は!!うちの娘はどこに行ったんですか!?」

「息子は!!」

「子供達は無事なんですよね!?」

「こ、こちらとしてもまだ検討中でして……」

(うちだって、大事な仲間さらわれてんだ)


騒ぐ大人達。その中、さらわれていなかった子供が、何気に窓の外を見た。

広場に辿り着く一匹の黒い狼と、それに乗った人影が見えた。


「ねぇ!誰か来たよ!」

「?


!!紫苑!紅蓮!」

「何か抱えてるぞ!」


二人はすぐに外へ飛び出した。


紅蓮から降りた紫苑は、一緒に乗っていた二人の子供に手を貸し下ろした。降りた子供はぐずりながら、辺りをキョロキョロ見ると、町長の家から出て来た親を見つけるなり、泣きながら駆け寄り抱き着いた。


「さらわれたはずの子供が、戻って来るなんて……」

「き、奇跡だ!」


妖怪の研究者

「あれ?

 

何の騒ぎ?」

 

 

その声に、喜びを分かち合っていた人々は、皆声の方を振り向いた。声の主を見た紅蓮は、突如唸り声を上げながら攻撃態勢を取った。

 

振り向いた場所にいたのは、無造作に伸びた髪にヨレヨレの白衣を着た男だった。

 

 

「こ、児玉さん……」

 

「どうしたの?皆集まって」

 

「さらわれた子供が、帰ってきたんです!」

 

「フーン……?

 

 

へー、黒大狼ですか。珍しいですね」

 

 

寄ってきた児玉に、紅蓮は今にも噛み付きそうな表情をしており、傍にいた紫苑は慌てて紅蓮を抑えた。

 

 

「アンタが、飼い主かい?」

 

「……」

 

「アンタも珍しいね。

 

白髪に赤い目なんて」

 

 

手を伸ばしてきた児玉に、牙を向けていた紅蓮は、紫苑を飛び越え彼に襲い掛かった。

 

 

「紅蓮!!」

『去れ!!』

 

 

どこから聞こえた男の声……紫苑はすぐに紅蓮の元へ駆け寄り、顔を手で抑えながら自身の方に向けさせた。

 

 

「だ、大丈夫ですか?!」

 

「平気です。少し手を切っただけなので」

 

「……」

 

「児玉さん、後でお話お伺いしても、宜しいですか?」

 

「構いませんよ。

 

でも、その狼連れて来ないで下さいね。俺の家、結構散らかってるんで」

 

「分かりました」

 

 

切ったところから出た血を舐めながら、児玉はその場を去って行った。

 

 

「何だ?あいつ」

 

「分かりますでしょ?関わりたくない理由が」

 

「何となく分かった……

 

 

あ、そうだ。この町に病院とかありますか?」

 

「僕の家が病院です!」

 

「じゃあ、こいつの手当て頼むわ」

 

 

紫苑の首根っこを掴みながら、幸人は医者である男に渡そうとした。その瞬間、彼女は幸人の背中へ周り身を隠し、男を睨んだ。

 

 

「……すいません。

 

まだ、俺等以外の人に慣れて無くて」

 

「いえいえ、構いませんよ。

 

ついでに、その狼の怪我も診ましょう」

 

「お願いします」

 

 

 

診察台に座る紫苑。手当てをされている最中、彼女は興味津々に部屋を見ていた。

 

 

「はい。君の手当ては終わり。

 

次はその狼の怪我……あれ?」

 

 

先程まであった紅蓮の傷が、跡形も無く消え治っていた。診察台から降りた紫苑に紅蓮は尻尾を振りながら、彼女に擦り寄った。

 

 

「さっきまで、傷があったと思ったんだけど……」

 

「まぁ、気のせいでしょう」

 

「はぁ……」

 

「どうもありがとうございます」

 

「いえいえ。

 

それより、先程の児玉さんおかしな人でしょ?

 

皆は極力関わりたくないんですよ」

 

「彼は、どうしてここへ?」

 

「それが、噂なんですけど……

 

以前、ここに住んでいた人の子供じゃないかって話なんですよ」

 

「……え?!」

 

「昔ここには、児玉さんと同じような人が一人いたんです。

 

 

その人は、妖怪の研究をするとか言って、妻を連れてこの町を出たんです。

 

でも、結局帰って来なくてそのまま……」

 

「それ、いつの話ですか?」

 

「確か……30年くらい前ですよ」

 

「……」

 

 

病院から出た三人は、宿へと戻った。小屋に紅蓮を入れると紫苑は、秋羅達と共に宿の部屋へ戻った。

 

 

「そういや紫苑、お前どうやって森から出たんだ?」

 

「……蛍」

 

「え?蛍?」

 

「あの森入って、蛍捕まえて……そしたら、あいつ等見つけた。

 

蛍が道を教えてくれて、それで町に」

 

「戻ってきたと」

 

「うん」

 

「……

 

 

もしかしたら、子供がいなくなるのって」

 

「蛍と笛の音が関わってるのかもな」

 

「だとしたら、今夜も」

 

「聞こえる可能性は高い」

 

「……」

 

「とりあえず、お前等はここで大人しくしてろ。

 

俺はさっきの変人の所に行ってくる」

 

「わ、分かった」

 

 

必要な物を持ち、幸人は部屋を出て行った。それと同時に、紫苑は眠くなったのかあくびをしながら目を擦り、秋羅の服の裾を掴んだ。

 

 

「何だ?眠いか?」

 

「……ん」

 

「(そりゃあそうだよな……夜通し、起きてたんだから)

 

ほら、少し寝てろ」

 

 

そう言って、秋羅は紫苑を抱き上げベッドに寝かせた。布団を掛けると、彼女は3秒も経たない内に眠ってしまった。

 

 

(もう寝やがった。

 

 

しっかし、よく寝るなぁ……)

 

 

『去れ!!』

 

 

ふと思い出す声……秋羅は、何気に紫苑の前髪を上げるようにして撫でた。

 

 

「?

 

何だ?これ」

 

 

紫苑の額には、雪の結晶の模様が刻まれていた。

 

 

(……幸人が帰ってきたら、見せてみるか)

 

 

 

児玉の家に着き、家の扉を開ける幸人……中は本や書類で散らかっていた。

 

 

「あぁ、いらっしゃい」

 

 

床に散らばった書類を拾いながら、児玉は幸人の前に現れた。

 

 

「ごめんね。散らかってて。

 

何分、調べ物をする時この方が調べやすくて」

 

「その気持ち、少しは分かる」

 

「なら良かった。

 

あぁ、適当に座ってて」

 

「あ、あぁ(座ろうにも、座る場所が……)」

 

「で、話って何です?」

 

「……アンタは、何の研究をしてるんです?」

 

「妖怪ですよ。

 

 

町外れにある、森がありますよね?」

 

「え、えぇ」

 

「そこの森には、昔から蛍の妖怪がいると言われていて……

 

その研究のために、ここへ来たんです。

 

 

この町は、妖怪達には打って付けの場所ですから」

 

「……」

 

「あぁ、そうだ。

 

 

あのお嬢さんから、目を離さない方がいいですよ?」

 

「?

 

どういう意味だ?」

 

「彼女、妖怪でしょ?」

 

 

児玉の言葉に、幸人は頭の中が真っ白になった。彼は書物を広げながら、話を続けた。

 

 

「と言っても、あのお嬢さんは半分妖怪で半分人間。

 

今となっては、珍しい種類ですが……

 

 

大昔は、それなりにいたみたいですからね。人間と妖怪の子供が」

 

「……聞いたことがある。

 

 

妖怪が凶暴化したのは、役百年前。昔はそれまで凶暴では無く、人と共に暮らすことが出来たと」

 

「えぇ。

 

あなたも知っているでしょう?

 

 

夜山晃(ヨヤマヒカル)を」

 

「……」

 

「彼は、百年前に妖怪の辞書を手掛けた人だ。

 

言わば、初代妖怪博士」

 

「その男は、死んだとされているが……

 

百年前のある日、忽然と姿を消してそれ以降、誰も見ていない。

 

 

噂じゃ、妖怪に食われたと言われている」

 

「何だ……そこまで、知っているんですね。

 

 

すみません、もう帰って頂けますか?

 

調べ物したいんで」

 

 

そう言われ、幸人は児玉の家を出た。彼は道を歩きながら、先程の話を思い出した。

 

 

『彼女、妖怪でしょ?』

 

(……上の方からは、何も言われていないし聞かされていない。

 

そもそも、あいつが妖怪だという証拠が一切無い)

 

 

考え込みながら、幸人は宿へ戻り部屋に戻ってきた。

 

 

「幸人!話がある」

 

「?」

 

 

駆け寄ってきた秋羅に引っ張られ、幸人はベッドで眠っている紫苑の傍へ連れて来られた。

 

 

「紫苑がどうかしたのか?」

 

「ちょっと、これ見てくれ」

 

 

そう言って、秋羅は前髪を上げ彼女の額にある模様を見せた。

 

 

「……何だ?これ」

 

「さっき見つけたんだ。

 

これって」

 

「……詳しく調べねぇと分からねぇけど……

 

 

多分、呪印か何かだと思う」

 

「やっぱりか……

 

 

上から何か言われてるか?」

 

「特に。

 

保護しろとしか、言われてない」

 

「……

 

何者なんだ……紫苑って」

 

「俺が知りたいくらいだ」




夜……


皆が寝静まった頃……再び笛の音色が聞こえてきた。

仮眠を取っていた幸人を起こした秋羅は、彼と共に部屋を出て小屋へ行った。そこで待っていた紫苑と合流し、彼女を先頭に町外れにある森の中へ入った。
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