桜の奇跡   作:海苔弁

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ゆっくりと近付く高波に、保奈美と創一朗は結界を張りそれを食い止めていた。


その時、森からあの妖怪が姿を現し不敵な笑みを浮かべると、見張っていた奈々と敬に攻撃を放った。

二人は素早く避け、敬は妖怪に銃口を向け弾を放った。放たれた弾を、妖怪の肩を掠ったが次の瞬間彼の肩に針が刺さった。


「痛!!」

「敬さん!」

「み、右腕が……(これじゃあ、銃が)」




その頃、幸人と紫苑は山の奥深くにある水源に来ていた。そこには、小さなそこの深い池が有りその中に、小さな社が建っていた。


「……こんな所に、社が」


着ていたポンチョを脱いだ紫苑は、池へ飛び込んだ。水の中を泳ぎ、社の戸を開けると紫苑は中にある台の上に水晶を置いた。


次の瞬間、水晶が光り出し辺りを包んだ。そしてそこから大量の水が噴水し、紫苑と幸人を巻き込み流れていった。


現れた者

揺れる地面……

 

 

食い止めていた波が低くなった……保奈美は創一朗と目を合わせると、結界を解除し飛んできたエルの背中へ飛び乗った。空へ飛ぶと、先程までいた場所に海が押し寄せた。

 

 

「フー、危なかったわ」

 

「何で俺だけ、ここなんだよ!!」

 

「背中に乗せたくないんですって」

 

「ふざけるな!!」

 

 

 

奈々達への攻撃の手を止めた妖怪は、押し寄せてきた海を見て、怒りの表情を浮かべた。

 

 

「やったぁ!海が戻ってきた!」

 

「あの人達、何かやったのか?」

 

 

そこへ茂みから飛び出した白狼は、急ブレーキをかけ止まった。背に乗っていた秋羅は、すぐに降りると海を眺めた。

 

 

「秋羅さん!見て下さい!

 

海が!」

 

「何がどうなってんだ……!

 

伏せろ!!」

 

 

傍にいた奈々と一緒に倒れた秋羅達の頭上を、巨大な針が通過した。顔を上げると、妖怪が容姿を変えて宙に浮いていた。

 

 

(な、何だ……姿が)

 

 

『この地を海に沈めようと思ったが、想定外の奴がいた』

 

「!?」

 

『我が名は濡れ女……

 

と言っても、それは人間が付けた名』

 

「ど、どうして海に沈めようとしたの!!

 

しかも、無関係な人まで!!」

 

『黙れ小娘。

 

ここで、死ね』

 

 

無数の針を、奈々目掛けて濡れ女は放った。当たる寸前に、秋羅は彼女の前に立ち槍で全ての針を弾き返した。

 

その時、エルが空から舞い降り地面に足を着ける際、足で掴んでいた創一朗を投げ、そして着地した。

 

 

「本当、俺の扱い雑だな」

 

「もう諦めなさい」

 

「ママ!!」

「先生!」

 

「後方に下がってなさい」

 

「え?」

 

「おい小僧!

 

テメェ、後ろに下がれ!」

 

「ハァ!?何で?!」

 

「こっからは、俺の出番だ」

 

「俺“等”でしょ。そこは」

 

 

そう言いながら、保奈美は折り畳んでいた錫杖を組み立て、創一朗は持っていた銃に弾を補充した。

 

その様子に、秋羅は後ろへと下がった。

 

 

「さぁ、ゲーム開始だ」

 

 

 

 

水の中……紫苑は目を覚ました。息を吐き泡を吹いた彼女は辺りを見回しながら、水面へ顔を出した。咳き込みながら、息を吸った。

 

 

「……滝壺だ……」

 

 

辺りを見て、紫苑は畔まで泳いだ。水から上がり、水が滴るスカートの裾を絞り、水を払うと辺りを見回した。

 

 

「……どこだろう」

 

「ガハッ!!」

 

「!?」

 

 

水面から勢い良く顔を出した幸人は、咳き込みながら畔に上半身だけを上がらせた。

 

 

「何なんだよ……あれ……」

 

「幸人、平気?」

 

「あぁ、何とか……(マジで死ぬかと思った)

 

 

ここは?」

 

「滝壺」

 

「いや、見りゃ分かる」

 

「多分、ラル達の飲み場だと思う」

 

「そうか……とりあえず、秋羅達の所に戻ろう」

 

「うん」

 

 

上がった幸人は、地に足を着けた……その瞬間、激痛が走り紫苑を待たせ、座り込むと靴と靴下を脱いだ。足首に出来た傷口。そこから出る血で、足首は赤く染まり腫れていた。

 

 

「吹っ飛ばされた時に、どっかに当てたのか……痛!!」

 

「た、立てる?平気?」

 

「どうって事は無い……(見た感じ、骨は折ってねぇみたいだしな)」

 

「……?」

 

 

ざわつく茂みの音を聞いた紫苑は、ケースから小太刀の束を握り、幸人の前に立った。茂みから現れ出たのは、一匹の白狼だった。

 

 

「白狼?」

 

「水を飲みに来ただけだと思う。

 

あいつに頼んでみるから、少し待って」

 

 

小太刀の束から手を離しながら、紫苑は白狼の元へ駆け寄った。何かを言う彼女に、白狼は幸人の元へ駆け寄り身を屈んだ。

 

 

「乗っていいって。

 

それから、秋羅達の所が危険だって」

 

「なら、行くしかないか(保奈美達がいるから、何とかなると思うが)」

 

 

幸人が乗ると白狼はすぐに駆け出し、その後を紫苑は追い駆けていった。

 

 

 

 

秋羅達の所へ辿り着くと、幸人は銃口を妖怪に向け弾を放った。

 

弾は妖怪の胸を貫いた……胸から出る血を手で拭い、放たれた方向を向いた。

 

 

「幸人!」

 

「何であんな濡れてんだ?」

 

 

妖怪が幸人に気を取られている隙に、紫苑は背後から妖怪の背中に小太刀を突き刺した。

 

悲痛な叫び声を上げる妖怪から、紫苑は離れた。

 

 

『己ぇ……』

 

 

幸人の元へ駆け寄った紫苑に、妖怪は雄叫びを上げると無数の針を放った。

 

 

「紫苑!!幸人!!」

 

 

飛んできた針を、幸人は無理矢理立ち上がり傍にいた紫苑を自身の後ろへ行かせると、体全体に針を突き刺させた。

 

 

無言で倒れる幸人……彼の姿を、紫苑は呆然と見ていた。

 

 

「……

 

 

幸人?」

 

「……」

 

「幸人……

 

ねぇ……幸人…幸人!」

 

 

幸人の体を揺さぶりながら、紫苑は彼の名を呼んだ……その時、一瞬何かが過ぎった。

 

 

自身の前から消えた者……次の瞬間、紫苑は目から涙を流し出した。

 

 

「嫌だ……嫌だ……

 

 

死んじゃ……嫌だぁぁああ!!」

 

 

叫び声と共に、ブレスレットの石と額の模様が光り出し辺りに風を起こした。

 

 

「な、何だ!?」

 

「紫苑……幸人」

 

 

 

その時、紫苑達の辺り黒い煙が漂った。そして、そこから現れ出た……

 

 

長く伸びた真っ白な髪……下駄を鳴らしながら、それは煙から出て来た。

 

 

『……貴様か?

 

 

俺を呼んだのは』

 

「……誰?」

 

 

頬を伝う涙を浮かべた紫苑は、振り返りそれを見た。

 

 

 

それは、青き瞳で紫苑の顔をジッと見つめていた。




池に浸かる紅蓮……

何かの気配を感じたのか、目がスッと開いた。そして、姿を変えながら池から上がり茂みの中へと消えた。
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