桜の奇跡 作:海苔弁
「な、何?あれ……ねぇ、ママ」
「……そんなの、私が知りたいくらいよ。
(何なの……
この途轍もない妖気は……今戦ったら、確実に負けるわ)」
(あいつって……あの時の)
それを見上げる紫苑……するとそれは歩み寄ると、彼女の頬を撫でた。
『また面倒な者が現れ出たか……
まぁ良い。ここで殺すまでだ』
『殺すというのは、どういう意味だ?
貴様の胸を、貫いていいということか?』
どこから出した刀で、それは妖怪の胸を刺した。妖怪は口から血を出し、抜こうと刀を掴むがビクともしなかった。
『……失せろ』
握っていた刀の手から、波動を放つと妖怪は消滅した。
跡形も無く消えた妖怪がいた場から、それは刀を下ろし消した。
「あの妖怪を……一瞬で」
「……あいつ。
おい金影、覚えてるか……会議で見た資料」
「資料?
確か、実験中のぬらりひょんが脱走したって」
「それだよ……
今、俺等の前にいるあいつは、本部で極秘に作られていた……
ぬらりひょんのクローンだ……」
振り返るぬらりひょん(クローン)……彼はゆっくりと紫苑の元へ歩み寄った。
見上げる紫苑の手を、ぬらりひょん(クローン)は握ろうと手を伸ばした。
その時、茂みから現れ出た者に、その手を止められた。
「あれって……」
『あなたはもう、ここの者じゃない……
去りなさい。この子は渡さないよ』
『……俺が、誰だか分かるのか?』
『今は知らない方がいい……
でも、時期に分かること』
『……何かあったら、また呼ぶがいい』
そう言うと、ぬらりひょん(クローン)は白い霧を起こして、その場から姿を消した。
その者は紫苑の方を向くと、彼女の額に人差し指を当てた。すると人差し指が光り出し、紫苑を包み込んだ。
『お休み……
目が覚めたら、元通りだよ』
額から指を離すと、紫苑は気が緩んだかのようにして、その場に倒れた。その者は、秋羅達の方を見ると微笑み姿を紅蓮に戻ると、彼もその場に倒れた。
彼等の元へ、秋羅達は駆け寄りすぐに村へと戻った。
夜……
ベッドで眠る紫苑……彼女の様子を見に来た秋羅は、異常が無いことを見ると、部屋の電気を消し隣の部屋へ行った。
「痛っ!!
頼む……もう少し、優しく」
「してます」
「ギャッ!!」
背中に出来た傷に、薬を塗る保奈美に幸人は涙ながらに訴え耐えていた。
「金影は相変わらず、容赦ねぇなぁ」
「あなたにも塗りますよ?
この薬」
「遠慮する」
「紫苑どうだった?秋羅……痛っ!!」
「……まだ眠ってる。
起きるの、いつになるか分かんねぇぞ」
「いい。傷が治り次第ここを立ち去る。
創一朗、撮ったよな?奴の写真」
「ばっちし」
「先生、ぬらりひょんのクローンって何ですか?」
「そのままの意味だ」
「本部が極秘にやってたって……
どうして、極秘だったの?」
「その実験事態が、禁止なんだよ」
薬を塗り終え、包帯を巻かれた幸人は言った。
「禁止なのに、何でやってたの?」
「お前の弟子、痛いとこ突いてくるな?」
「そういう年頃なのよ。
禁止でも、やりたくなる時とかってない?
例えば、師匠からこの部屋には入るなって言われているけど、気になって入ってしまったり。
禁術だからと言われているけど、つい使ってしまったとか」
「……」
「……この弟子三人、禁止って言われてること、相当やってるみたいよ?顔からして」
「秋羅!」
「敬!」
「いや、俺の場合は昔であって今はない……」
「お、俺も」
「奈々、あなたは?」
「……知らないもん!」
「それより、話の続き!」
「ハイハイ(お説教は、後ね)。
その禁止によって、色々なことが制限されてしまった……でも、研究者はそんなの関係ないのよ」
「関係ないって……」
「禁止事項があろうがなかろうが、無意味だ。
自分の実験を成し遂げたいが為に、禁止事項を破り仲間まで危険に晒す奴だっている」
「……まさか、そのぬらりひょんって……
その人達のせいで、作られたの?」
「ま、そうだろうな」
「どうやって?」
「おおかた、ぬらりひょんの血か肉体の一部が残ってたんだろう」
『君はまだ、知らない方がいい……
知れば、辛く悲しい記憶が蘇る』
目を開ける紅蓮……軽く頭を振ると、紫苑が眠るベッドに頭を置き彼女の腕の下に入れて、再び目を閉じた。
眠っている間、紫苑は夢を見ていた。
眠っていた紫苑は、スウッと目を開けた……
先に見えるのは、目元に黒い影が掛かった女性の顔。口元は微笑み、後ろで結っていた桜色の髪が、彼女の頬に当たっていた。すると隣から、白髪の男性と黒髪の男がヒョッコリと顔を覗かせて、紫苑を見ていた。覗く男性の垂れた髪を、紫苑は掴み強く引っ張った。男性は、苦笑いを浮かべながら、彼女の手を離そうとしていた。
なかなか離さない紫苑の頬を、男性は撫でて手が緩んだのを隙に、男性は髪を後ろへやると幼い紫苑を抱き上げた。
そこで、紫苑は目を覚ました。
ボーッと天井を見つめると、横を向いた。傍には紅蓮が静かに眠っていた。毛布を手にベッドから降りると、彼の元へ寄り胴に頭を乗せると、再び眠りに入った。
数日後……
「紫苑!起きてるか?」
部屋のドアを開けながら、秋羅は呼び掛けた。紫苑は毛布に包まって、眠っている紅蓮の胴に顔を埋めて眠っていた。
「……幸人ぉ!
紫苑の奴、まだ眠ってる!」
「お前が担いで来い!」
「んな、無茶苦茶な!」
ドアから離れた秋羅の声が遠退いていく中、紫苑はスッと目を開けた。
起き上がった紫苑と同じく紅蓮も目を覚まし、大きくあくびをすると彼女の頬に鼻を当て擦り寄った。そんな彼を紫苑は撫でると、彼に支えられながら立ち上がり、着替えた。
眠い目を擦りながら、紫苑は外へ出た。
「あ!紫苑、起きたのか?」
「さっき起きた……でも、まだ眠い」
眠そうにあくびをしていた紫苑だったが、創一朗達の姿を見た途端、秋羅の後ろへ素早く隠れた。
「あらあら。本当に嫌われたみたいね?
創一朗」
「ほっとけ」
すると、幸人の傍にいたエルが創一朗の後ろへ回ると、嘴で彼の頭を二三回突いた。
「こんんんんのぉぉお!!
人の頭、突きやがって!!」
「俺等が見逃しても、そいつ等は許したくないとさ」
「っ」
「先生、嫌われ」
敬が言おうとした瞬間、エルは容赦なく彼の頭を嘴で二三回突き、さらに後ろ足で土を振りかけると、何事も無かったかのように紫苑の元へ寄り、彼女を銜え勢い良く投げ、自身の背中へ乗せた。飛び出さぬよう、紅蓮は人の姿となりエルの手綱を手に取った。
「当分の間は、こいつ等に会わせない方がいいみたいだな?」
「会議以外で会うか」
「まぁ、確かに」
「写真は後で送っとくから、俺等はここで」
「また次の依頼があるんで!」
「誰もんな事聞いてねぇよ」
「とっとといなくなれ」
「さっさと行きなさい」
「本当俺等の扱い、酷いな!!お前等!」
砂を舞い上がらせて、創一朗達は姿を消した。
その頃の幸人宅に、ある人物が訪ねようと道を歩いていた。
その間、瞬火は来ていた暗輝と共に部屋の掃除をしていた。そして、呼び鈴が鳴った……掃除していた手を止め、瞬火はドアを開けた。
『……あの、どちら様ですか?』
『……北西の森の者なのですが。
こちらに、半妖の娘が引き取られているかと思われるのですが……ご在宅でしょうか?』
首に掛けていた鈴が、風に揺らぎ鳴った。被っていた笠を取った者の姿をみて、瞬火と暗輝は目を見開いて驚いた。
エルの背中で、眠る紫苑……
夢の中で、彼女はエルに乗りどこかを飛んでいた。だが、そこは空が透けて見える硝子張りになっている建物の中だった。
不思議な夢を見て、紫苑はスッと目を開けた。眠い目を擦りながら、彼女は体を起こした。
「あ、起きたか?紫苑」
「……ここは?」
「自宅に続く道」
「あと数キロ歩けば着く」
「……奈々達は?」
「三駅前で、依頼人がいるからって言ってそこで」
「……」
「まだ眠いか?」
「うん、少し……」
「相当妖力使ったみたいだな……
帰ったら、水輝さんに診て貰おうか」
「……」
「嫌な顔すんな!」