桜の奇跡   作:海苔弁

53 / 228
幸人達が家に着いたのは、夕方頃だった。家が見えた時、紅蓮は何かの気配を感じたかのようにして、ジッと家の方を見つめていた。


家に着き、エルを小屋へと戻す紫苑を隣に、紅蓮は家の方をずっと気にしていた。


「……やっぱ、あいつ来てるの?」

『みたいだ』

「紫苑!中入るぞぉ!」


秋羅に呼ばれ、紫苑は彼等の元へと駆けていった。そして幸人が、玄関の戸を開けた時だった。


尋ね人

『久し振りー!!元気だったぁ!?』

 

 

そう言いながらそれは、秋羅達を払い避け後ろにいる紫苑に抱き着いた。眠いのか嫌なのか微妙な表情を浮かべた彼女に、それは頬摺りした。

 

 

『心配しちゃったよぉ!

 

姉君から、君が人にさらわれたって聞いて!

 

 

紅蓮はしっかり、この子を守ってるみたいだね。良かった』

 

「……誰だ?こいつ」

 

 

「紫苑の知り合いらしい。

 

お前達が帰ってくる数日前に来たんだよ」

 

 

そう説明ながら、キッチンにいた暗輝は幸人の前へ姿を現した。

 

 

「知り合い?

 

 

紫苑、本当に知り」

『紫苑?

 

 

それは、この子の名か?』

 

「一応な」

 

『なら、僕も。

 

紫苑って呼ばせて貰うよ!』

 

「……天狐は?」

 

『今日は僕だけ。

 

姉君は、忙しくて森から離れられないよ』

 

「……そろそろ離して。

 

苦しい」

 

 

離れようとする紫苑だが、彼は嫌がる彼女を離そうとはしなかった。それを見た紅蓮は、軽く溜息を吐きそして彼の頭に、空手チョップを食らわせた。

 

 

『離さねぇか!!いい加減!』

 

『紅蓮君、相変わらず容赦ない……』

 

 

 

淹れられたお茶を、彼は啜っていた。その間に、暗輝は用事があると言い、帰って行った。

 

 

『ハァ~、お茶が美味しい』

 

「で、誰なんだ?お前は」

 

『僕は北西の森に住んでいる、妖狐……

 

名を地狐(チコ)という』

 

「北西の森って、確か紫苑の」

 

『生まれ故郷と言ってもいいかもね。

 

僕は、そこから来たんだ』

 

「……まさか、迎えにとか?」

 

『それは無い。

 

姉君から、様子を見てくるようにと言われて、ここへ来ただけだ』

 

 

そう言いながら、隣に座る紫苑の頭を撫でた。

 

 

「皆は元気?」

 

『元気だよ。

 

と言うより、元気過ぎて最近腰が』

 

「爺か!!」

 

『爺で何が悪い。

 

僕はこう見えて、400歳は超えている』

 

「……嘘ぉ!?」

 

「秋羅、驚き過ぎだ」

 

「だって、どう見ても……どう見ても、俺と歳変わらねぇじゃん!!」

 

『妖怪だからね。

 

見た目は自由自在に操れるんだよ……?

 

 

紫苑、ちょっと顔見せて』

 

 

眠いのか目を擦っていた紫苑は、顔を地狐に向けた。彼は彼女の頬を手で抑えながら、目や目の周り口回りに額を見た。

 

 

『……今、眠い?』

 

「うん……少し」

 

『それじゃあ、これを飲みなさい』

 

 

そう言ってバックから、小さな瓶を紫苑に渡した。

 

 

「何だ?それ」

 

『森で作った、特別な薬』

 

 

紫苑は瓶の蓋を開けると、中に入っていた液体を飲んだ。苦いのか、彼女は嫌な顔をしながら咳き込んだ。

 

 

「苦い……」

 

『良薬口に苦しってね。

 

一晩寝れば、明日には元通りになるよ。

 

 

紅蓮も、あとでこの薬飲みなさい』

 

『ヘーイ』

 

 

その時、外からエルの鳴き声が聞こえ、紫苑は紅蓮と共に外へ出て行った。

 

 

『あの鳥は……』

 

「西洋妖怪のグリフォンです」

 

『グリフォン。

 

色んなものに、懐かれるねぇ』

 

「で?

 

何の用で来たんだ?」

 

『嫌だなぁ。

 

紫苑の様子を見に来ただけだって。連れて帰りはしないよ』

 

「そんじゃあ、聞きたいことがあるから質問に全部答えろ」

 

『いいよ。

 

但し、答えられる範囲が限られてるから、全部は無理だよ』

 

「それでもいい」

 

『じゃあ、どうぞ』

 

「紫苑の親はどこにいるんだ?」

 

『彼女の親は、もうこの世にはいないよ。

 

 

2歳の時に、父親が……事故死。

3歳の時に、母親が病死してね』

 

「そんな……

 

 

じ、じゃあ今まで誰が育てたんだ?」

 

『お兄さん……と言っても、血の繋がりは無いけど』

 

「その兄さん、今は?」

 

『……それは教えられない。

 

姉君から、口止めされているからね』

 

「そんじゃ次の質問。

 

なぜ、あいつに記憶が無いんだ?」

 

『記憶?』

 

「紫苑から聞くには、彼女は目が覚めた時にはもう、森の中にいたと言っていた。

 

 

目が覚める前の記憶が、何も無いと言っている……何故なんだ?」

 

『そうだねぇ……

 

 

罪を犯したから……とでも、言っておこうかな』

 

「罪?」

 

『紫苑は、数多くの人を殺した……

 

 

その罪によって、我等妖怪族から罰を与えた……

 

全ての記憶を消し、必要最低限の妖力を発揮できないよう、制御装置を着けた』

 

「制御装置?」

 

「何だ?それ?」

 

『……君等は、知っているかな?

 

 

 

 

妖魔石のことを』

 

「ようませき?

 

何だ?それ……幸人、何?」

 

「100年前にあったとされている魔石だ。

 

半妖の者が持つと、己の中に眠っている妖力を引き出すことが出来ると、言われていた」

 

「言われていた?

 

じゃあ、今は」

 

『今はもう、この世には無いもの……というより、人の前から姿を消したんだ』

 

「何で消したんだ?」

 

『総大将が亡くなったからだよ』

 

「……ぬらりひょんか」

 

『そう……君等、人が殺したせいで妖怪の秩序は、一気に崩れてしまった。

 

 

高貴の妖怪達は、自我を忘れることは無かったが、他の者は我を忘れ、人を襲うようになった……

 

まぁ、昔から妖怪は己の地を守るために、人を襲ったことはあった。だが、人を殺すところまで入ったことは無い』

 

「……」

 

『話が逸れたね。戻そう。

 

人の前からは消えたけど、妖怪達の前からまだ消えていないんだ』

 

 

そう言いながら、地狐は傍に置いていたバックから四角いケースを出し、蓋を開け中にある物を二人に見せた。

 

そこに入っていたのは、深海色の掌サイズの玉だった。

 

 

「凄え綺麗……」

 

『先程話した、妖魔石。

 

 

今は、我々妖狐が守っている』

 

「これって、確か紫苑が着けてるブレスレットに……」

 

『妖魔石には、二つの役割があるんだ。

 

 

一つは先程話したように、妖怪と半妖の妖力を最大限にまで引き出せる事が出来る。

 

もう一つは、封印術の鍵となり、封印しているその者の力を最低限までしか、妖力を発揮することが出来ない』

 

「封印術の鍵って……

 

まさか、紫苑は」

 

『額に雪の結晶の模様があったでしょ?

 

 

あれ、彼女の記憶を封じてるんだ。そして、彼女が着けてるブレスレットは、彼女の妖力を抑えているんだ。

 

けど、ブレスレットが外れたりした時は、一部の記憶だけが蘇り、それを糧に妖力を発揮して敵味方関係無しに殺していく』

 

「……」

 

『思い当たる節があるみたいだね』

 

「あるにある。

 

俺等はその光景を、三回見ている」

 

『だからか……

 

封印が解けて、力を解放した後って物凄く体力を消耗してるんだ。

 

眠くなるのは、その後遺症。眠り続けるのは、体力を戻すため』

 

「だから、ここ数日ずっと眠そうだったのか」

 

『そうだね。

 

でも、薬を飲んだからその内戻るよ』

 

「そっかぁ……

 

(あ、そうだ)なぁ、地狐」

 

『ん?』

 

「ひかるって誰だか分かるか?」

 

『ひかる?』

 

「紫苑が力を解放した時に、言ってたんだ……

 

ひかるの所に返せって」

 

『ひかる……

 

残念だけど、今は教えられない』

 

「え?教えられないって……」

 

『姉君から、口止めされているから。

 

そのひかるに関しては。

 

 

まぁ、教えられると言えば……ひかるは紫苑の知り合い。そこまでかな』

 

「……」




妖魔石……


100年前、半妖の妖力を抑えるまたは力を引き出す為の道具として、存在していた。

人が持っていても、意味は無いがアクセサリーとして扱っていた。

売れば、山三つは買えると言われている。


現在は、原石が無く唯一売られている物は、目が飛び出るほどの値段。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。