桜の奇跡 作:海苔弁
「はぁ~……お茶が美味しい」
「用件は何だ?」
「まぁまぁ幸人。
そう急かさない。しかし、また一段と冷え込んできたねぇ」
「話さんか!!」
「話す話す!
だから、殺さないで!」
風が出て来たのか、窓硝子を叩く音が響いた。その中、秋羅は時雨にココアを渡しながら、葵の言葉を繰り返した。
「竜の卵?」
「そう。
以前お世話になった、長の息子の竜也君覚えてるかな?」
「馬鹿息子?」
「……紫苑」
「事実じゃん」
「時雨まで……」
「で?その馬鹿息子がどうかしたのか?」
「……息子さんと一緒にいた竜が、卵を産んだんで是非孵化するところを見てほしいって、依頼が来たんだ」
「依頼というより、招待状じゃねぇか?」
「まぁ、そうだけど……
どうかな?一緒に来てくれるかな?」
「報酬は?」
「手数料だけで、お願い。
今回、招待と同然だから依頼料少ないんだ」
「……仕様が無い。
行ってやるか」
「助かるよ!
それじゃあ、早速行こう」
葵の技で、竜の里麓まで飛んだ幸人達。
雪山に着いた途端、強風と猛吹雪が吹き荒れていた。
「キャー!!」
「猛吹雪じゃねぇか!!」
「こないだ来た時は、こんなんじゃなかったぁ!!」
風で動けない秋羅達とは別に、紫苑は慣れた手付き筒を空に向けて、矢を放った。辺りに響く矢音……それに答えるかのようにして、遠くから狼達の遠吠えが聞こえた。
「何だ?」
「遠吠えが、どっからか聞こえてくるぞ」
「……こっちの方向に、里があるって」
「マジかよ」
「けど、ここで動かないと皆ここで凍死するぞ!」
「……秋羅!紫苑と一緒に行け!」
「紅蓮行くよ」
身を屈めていた紅蓮の背に、紫苑と秋羅は飛び乗った。紅蓮は鼻を動かすと遠吠えし、仲間達の声を聞き取ると走り出した。エルの背中に乗った幸人達は、エルを飛ばし紅蓮達の後をついて行った。
しばらく走っていると、どこからか別の鳴き声が響いた……
紫苑は吹雪く空を見上げた。すると、黒い影が彼女達を覆った。
「何だ?この影」
「……」
松明の灯りが見え、紅蓮達は麓へ着いた。中から二人の使いが駆け寄り、一礼すると幸人達を里の中へと誘導した。
「お!やっとご到着か!」
薄暗い部屋に案内された場には、竜也と彼の竜がいた。傍には、タオルに包まれ籠に入った竜の卵が置かれていた。
「あんな猛吹雪なんて、聞いてないんだけど!!」
「ごめんごめん!
今、猛吹雪だって事すっかり伝え忘れてたわ!ハハハ!」
「笑い事じゃねぇよ!」
「長、今ここでお前の馬鹿息子の脳天、撃ち抜いていいか?」
「いや、駄目に決まってるでしょ!!
何言ってんの!?幸人!」
「すいません……幸人の奴、最近機嫌悪くて」
すると、幸人の代わりとでも言うかのように、一緒に来ていたエルは竜也の後ろへ回ると、彼の頭を二三回突っ突いた。
「な、何だ!?いきなり!!」
「……エルの奴、紫苑に酷い事した奴等は突っ突くって習性がついたみたいだな?」
「その習性早く直して」
「直す気あるか?」
「無い」
「おい!!」
“ドーン”
突然揺れる部屋。竜也の竜は、籠を銜え守るように自身の傍へ置いた。
「な、何だ?」
「またあの竜だ……」
「あの竜って?」
「俺等に懐かない、野良竜!
ここ最近、里に攻撃してくるんだ……
つー訳で、依頼。
案内すっから、あの竜追い払ってくれ!」
「唐突に言うなよ!」
武器を持ち、幸人達は外へと出た。彼等を見つけてか宙を飛んでいた竜は、彼等の傍へと降り立ち咆哮した。
「……あれ?
紅蓮」
『間違いない』
降り立った竜は、真っ黒な鱗に身を包み、頭に金色の鬣を生やし、片方だけ開いた金色の目を光らせていた。
「黒い鱗に金色の鬣……
100年前にいたとされてる、伝説の竜だ」
「え?そうなのか?」
「あぁ。
100年前、この竜谷を作ったとされている伝説の竜だ。俺等人と手を取り合い助け合い、この地で生活をし生きていた。ところがある日、伝説の竜は人間の手によって連れ去られ、それ以降目撃されていない」
「マジかよ……」
「そんな竜が、何で今頃……って、紫苑ちゃん?」
武器をしまいながら、紫苑は紅蓮と共に竜に近付いた。助けに行こうとする時雨を、葵は止め彼女の様子を窺った。
竜は鳴き声を放つが、歩み寄ってくる紫苑を襲おうとはしなかった。近付き差し出してきた手に、竜は口を入れそして紫苑に甘えるようにして、擦り寄り頬を舐めた。
「……え?
あの伝説の竜、あの子の?」
「知らねぇ……」
舐めてくる竜の頬を撫でる紫苑の元へ、秋羅は駆け寄った。その時、駆け寄ってくる彼の姿を見た竜は、咆哮を上げ口から途轍もない妖力を集め、大きな玉へと成長させていった。
「秋羅!!来ないで!!」
「!?」
「紅蓮!お願い!」
『分かってる。
おら、こっから離れるぞ!』
人の姿となった紅蓮は、竜の背中へ乗った。紫苑は竜の頭を撫でると、竜から離れた。竜は翼を羽ばたかせて、そこから離れた。
離れていく竜を、秋羅は駆け寄り紫苑と一緒に見送りながら、口を開いた。
「あの竜、紫苑のか?」
「……一緒に暮らしてた奴の一人」
「……皆に話せるか?」
「うん……
それに、あいつの傍にいたい」
「え?」
「ネロ?
それが、あの竜の名前か?」
大広間に集まった幸人達は、紫苑の話を聞いていた。
「うん……
森に住んでた時、一緒に暮らしてた。
あいつ、人から酷い仕打ちを受けて、片目が見えない……見えない片目の代わりに、私が傍にいた」
「何で、この里を襲うようになったんだ?分かるか?」
「……助けを…求めてたのかも……」
「助け?」
「あいつも多分、卵を産んでる」
「!?」
「多分、食料だと思う。
あの猛吹雪じゃ、ろくな食べ物を見付けられない。
卵から孵化した子供に、与えなきゃいけない食べ物を確保出来なくて、それでこの里を攻撃したんだと思う。
攻撃すれば、人はどこかへ行く……その隙を狙って、食べ物を確保しようと」
「確かに……秋が終わる頃から、一気に酷くなったから」
「そんな早くから?」
「あぁ……食糧不足で、危うく俺達が餓死するところだった」
「ところだった?」
「依頼を受けて、僕等が食糧をここへ運んでいたんだ。定期的に」
「おかげで、何とか安泰してる。
けど、言い方悪いが……ネロのせいで、結構畑に影響が出てる」
「ネロは悪い奴じゃない。
本当に、困ってるだけで……」
「話聞けば分かるって。
子供持てば、是が非でも守りたいものだ」
「何一人前の事言っているんだ。偉そうに」
「う……親父!!」
「そのネロとやらの塒を、こちらでご用意させて貰う」
「え?いいのか?」
「竜は皆家族。
どんな竜であれ、ここにいる竜達と変わりはしない」