桜の奇跡 作:海苔弁
吹雪が止み、辺りに静けさが戻った頃に、ネロは竜の里付近に降り立った。
背中に乗っていた紅蓮は、二つの卵を手に持ってネロから飛び降りた。そこへ紫苑は駆け寄り、卵を一つ受け取りながら、ネロを誘導した。
長が用意してくれた寝床に着くなり、ネロは辺りを見回し紫苑しかいないことを確認すると、寝床に腰を下ろした。
「……紅蓮、ネロの傍にいて」
『分かった』
「また来るから」
ネロと紅蓮の頬を撫で、紫苑は寝床を離れた。
夜……
皆が寝静まった頃、ネロは眠りもせず辺りを警戒していた。
『……寝ないと、体に障るぞ』
傍で眠っていた紅蓮は、顔を上げながら言ったが、ネロは小さく鳴き声を上げ、辺りを見回した。
『……?』
下げていたカーテンを上げ、外から紫苑が入ってきた。
歩み寄ってくる彼女に、ネロは首を伸ばし擦り寄った。寄ってきたネロの頬を撫でながら、紫苑は傍に座り置かれていた卵を撫でた。
「……産まれるまで、傍にいるから」
そう言いながら、紫苑は目を閉じた。眠った彼女の頬を、ネロは舐め首を丸め眠りに入った。
明け方……
紫苑を探しに、秋羅は竜の寝床のカーテンを上げようとした。
『やめとけ。また攻撃されるぞ』
「……紅蓮。
起きてたのか?」
『さっきな』
カーテンを上げ、紅蓮は中を見た。首を下ろし寝ていたネロは、スッと目を開け紅蓮を見ると、再び眠りに付いた。傍では、卵と一緒に眠る紫苑がいた。
「あいつ、こんな所で寝てたのか……」
『夜に来て、そのまま』
「……
なぁ紅蓮」
『?』
「お前等、森に帰りたいか?」
『……』
「話聞いてると、森にとってお前等は必要な存在じゃないのか?」
『……
分かんねぇ……
俺も紫苑も、天狐のお情けであの森に置いて貰っていたようなものだ』
「……なぁ、天狐ってお前等にとってどんな奴なんだ?
地狐が来た時、紫苑の奴『天狐は?』って聞いてたけど」
『……母親っつーのか?
目が覚めてしばらくの間、ずっと天狐が俺等の面倒を見ててくれてたから』
「……あいつは、親を恋しがったことないのか?」
『別に……
俺等がいればいいって、あいつはいつも言ってた……
あの時だってそうだった……死んだ時、あいつは俺を求めて』
「紅蓮?」
『!』
「大丈夫か?」
『へ、平気だ……(何だ……変な記憶が……)
?』
突如、辺りを気にしだした紅蓮は、鼻を動かした。
「?どうかしたか?」
『……火薬のにおいがする』
「え?」
『ここを頼む!』
「紅蓮!」
狼の姿となり、紅蓮は裏口を抜け崖を駆け上って行った。
その直後だった……外を見回りに行っていた一部の仲間が、竜から降りるなり血相をかいて、長と竜也に何かを話していた。
騒がしい音に、ネロは目を開け頭を起こした。ネロの動きに、寝ていた紫苑はムクッと起き上がると眠い目を擦りながら、大あくびをした。
「ネロ、どうかした?」
『……』
「ネロ?」
『……敵』
「え?」
「紫苑!起きろ!」
入ってきた秋羅に、ネロは牙を向けて唸り声を出した。
(あ、ヤバっ……)
「この人は平気だよ。
どうかしたの?」
「すぐに大広間に来い!
長から話があるって」
「分かった」
「急げよ!(早く離れねぇと、食われる!)」
殺気立つネロに背を向けて、秋羅は逃げるようにしてその場を離れた。
見えなくなると、ネロは紫苑に顔を擦り寄せた。
「ここにいる人達は、皆味方だよ」
『……味方?』
「うん……味方。
また、来るね」
頬を撫でると、紫苑はコートを腕に通しながら外へ出て行った。
彼女を見送ったネロは、卵を見つめながら思い出した……
真夜中、泣きながら自分の元へやって来た紫苑。目から出る涙を舐め慰めると、彼女は鼻を啜りながら自分の体によじ登り、鬣に顔を埋めるとそのまま眠ってしまった。
(覚えてはいない……
だが、存在は覚えている)
首を下ろし、ネロは目を瞑った。
「密漁者?」
「それがこの近くの森に?」
「そうだ。
闇市では、竜は高く売れる。
卵だったら、1000万。
子供だったら、1億の値がつく」
「凄え……」
「紫苑はいくらで買ったんだい?」
「その辺りは、陽介に聞け」
「ブー……」
「師匠……」
「で、その密漁者がここに?」
「爆音を放って、飛び出してきた竜を生け捕りだ」
「どういう対策を?」
「一応、寝床に戻し各時竜の傍にいるように言った」
「お前はいいのか?」
「使いの奴を一人をやってる」
「じゃあ、紫苑ちゃんの竜は」
「今、エルが傍にいる」
「あれ?紅蓮は?」
「どっか行った」
「朝早く、火薬のにおいがするって言って、森の方に行っちまった」
「火薬?
まさか……」
紫苑が何か言い掛けた時だった……突然、爆発音が里全体に、響き渡った。
「な、何?!」
「大変です!!
里に、煙幕が撒かれて竜達が!!」
それを聞いて、幸人達はすぐさま外へと出た。
出た瞬間、外は煙が広がっていた。
「クソ!煙で前が!」
煙で目が眩んでいた時、その中から突如矢が飛んできた。彼等はすぐに、身を低くして矢を避けた。紫苑は氷で陣を描き中心に立った。
「悲しき風の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !」
陣から吹き荒れる風が、煙を払った。辺りが見えた幸人達は、目の前にいる浮遊物に乗った者達に目を向け、武器を構えた。
「ゲッ!まだ竜捕まえてない!」
「何だよ!
祓い屋がいるなんて、聞いてねぇぞ!」
「……へ~。
面白ぇ、祓い屋がいるぜ」
浮遊物を地面へ下ろし、そこから降りた者は顔に着けていたマスクとゴーグルを取りながら、彼等に歩み寄った。
「久し振りだな?
地獄の祓い屋、幸人」
「え?!」
「地獄の祓い屋って……」
「……」
「そんな怖い顔、しないで下さいって!
先輩方!」
「君みたいな人、二度と僕等の前に現れてほしくありませんでしたね」
「酷いなぁ。
何?まだ根に持ってるの?15年」
言い掛けた瞬間、幸人は銃弾を放った。弾は男の頬を掠り、浮遊物を壊した。
「その口、今から削ぎ落としてやる!!
葵!!」
「言われずとも!
時雨と秋羅は、竜也さん達の護衛を!」
「はい!」
「あぁ!
あれ?紫苑!紫苑!」
先程まで傍にいたはずの紫苑の姿が、消えていたことに気付いた秋羅は、辺りを見回しながら名を呼んだが、返事が無かった。
「あいつ、どこに……」
「もしかしたら、あの竜の所」
“ドーン”