桜の奇跡   作:海苔弁

56 / 228
数時間後……


吹雪が止み、辺りに静けさが戻った頃に、ネロは竜の里付近に降り立った。

背中に乗っていた紅蓮は、二つの卵を手に持ってネロから飛び降りた。そこへ紫苑は駆け寄り、卵を一つ受け取りながら、ネロを誘導した。


長が用意してくれた寝床に着くなり、ネロは辺りを見回し紫苑しかいないことを確認すると、寝床に腰を下ろした。


「……紅蓮、ネロの傍にいて」

『分かった』

「また来るから」


ネロと紅蓮の頬を撫で、紫苑は寝床を離れた。


地獄の祓い屋

夜……

 

 

皆が寝静まった頃、ネロは眠りもせず辺りを警戒していた。

 

 

『……寝ないと、体に障るぞ』

 

 

傍で眠っていた紅蓮は、顔を上げながら言ったが、ネロは小さく鳴き声を上げ、辺りを見回した。

 

 

『……?』

 

 

下げていたカーテンを上げ、外から紫苑が入ってきた。

 

歩み寄ってくる彼女に、ネロは首を伸ばし擦り寄った。寄ってきたネロの頬を撫でながら、紫苑は傍に座り置かれていた卵を撫でた。

 

 

「……産まれるまで、傍にいるから」

 

 

そう言いながら、紫苑は目を閉じた。眠った彼女の頬を、ネロは舐め首を丸め眠りに入った。

 

 

 

明け方……

 

 

紫苑を探しに、秋羅は竜の寝床のカーテンを上げようとした。

 

 

『やめとけ。また攻撃されるぞ』

 

「……紅蓮。

 

起きてたのか?」

 

『さっきな』

 

 

カーテンを上げ、紅蓮は中を見た。首を下ろし寝ていたネロは、スッと目を開け紅蓮を見ると、再び眠りに付いた。傍では、卵と一緒に眠る紫苑がいた。

 

 

「あいつ、こんな所で寝てたのか……」

 

『夜に来て、そのまま』

 

「……

 

 

なぁ紅蓮」

 

『?』

 

「お前等、森に帰りたいか?」

 

『……』

 

「話聞いてると、森にとってお前等は必要な存在じゃないのか?」

 

『……

 

 

分かんねぇ……

 

 

俺も紫苑も、天狐のお情けであの森に置いて貰っていたようなものだ』

 

「……なぁ、天狐ってお前等にとってどんな奴なんだ?

 

地狐が来た時、紫苑の奴『天狐は?』って聞いてたけど」

 

『……母親っつーのか?

 

目が覚めてしばらくの間、ずっと天狐が俺等の面倒を見ててくれてたから』

 

「……あいつは、親を恋しがったことないのか?」

 

『別に……

 

俺等がいればいいって、あいつはいつも言ってた……

 

 

あの時だってそうだった……死んだ時、あいつは俺を求めて』

「紅蓮?」

 

『!』

 

「大丈夫か?」

 

『へ、平気だ……(何だ……変な記憶が……)

 

 

?』

 

 

突如、辺りを気にしだした紅蓮は、鼻を動かした。

 

 

「?どうかしたか?」

 

『……火薬のにおいがする』

 

「え?」

 

『ここを頼む!』

 

「紅蓮!」

 

 

狼の姿となり、紅蓮は裏口を抜け崖を駆け上って行った。

 

 

その直後だった……外を見回りに行っていた一部の仲間が、竜から降りるなり血相をかいて、長と竜也に何かを話していた。

 

 

騒がしい音に、ネロは目を開け頭を起こした。ネロの動きに、寝ていた紫苑はムクッと起き上がると眠い目を擦りながら、大あくびをした。

 

 

「ネロ、どうかした?」

 

『……』

 

「ネロ?」

 

『……敵』

 

「え?」

 

 

「紫苑!起きろ!」

 

 

入ってきた秋羅に、ネロは牙を向けて唸り声を出した。

 

 

(あ、ヤバっ……)

 

「この人は平気だよ。

 

どうかしたの?」

 

「すぐに大広間に来い!

 

長から話があるって」

 

「分かった」

 

「急げよ!(早く離れねぇと、食われる!)」

 

 

殺気立つネロに背を向けて、秋羅は逃げるようにしてその場を離れた。

 

 

見えなくなると、ネロは紫苑に顔を擦り寄せた。

 

 

「ここにいる人達は、皆味方だよ」

 

『……味方?』

 

「うん……味方。

 

また、来るね」

 

 

頬を撫でると、紫苑はコートを腕に通しながら外へ出て行った。

 

彼女を見送ったネロは、卵を見つめながら思い出した……

真夜中、泣きながら自分の元へやって来た紫苑。目から出る涙を舐め慰めると、彼女は鼻を啜りながら自分の体によじ登り、鬣に顔を埋めるとそのまま眠ってしまった。

 

 

(覚えてはいない……

 

だが、存在は覚えている)

 

 

首を下ろし、ネロは目を瞑った。

 

 

 

「密漁者?」

 

「それがこの近くの森に?」

 

「そうだ。

 

闇市では、竜は高く売れる。

 

卵だったら、1000万。

子供だったら、1億の値がつく」

 

「凄え……」

 

「紫苑はいくらで買ったんだい?」

 

「その辺りは、陽介に聞け」

 

「ブー……」

 

「師匠……」

 

「で、その密漁者がここに?」

 

「爆音を放って、飛び出してきた竜を生け捕りだ」

 

「どういう対策を?」

 

「一応、寝床に戻し各時竜の傍にいるように言った」

 

「お前はいいのか?」

 

「使いの奴を一人をやってる」

 

「じゃあ、紫苑ちゃんの竜は」

 

「今、エルが傍にいる」

 

「あれ?紅蓮は?」

 

「どっか行った」

 

「朝早く、火薬のにおいがするって言って、森の方に行っちまった」

 

「火薬?

 

 

まさか……」

 

 

紫苑が何か言い掛けた時だった……突然、爆発音が里全体に、響き渡った。

 

 

「な、何?!」

 

「大変です!!

 

里に、煙幕が撒かれて竜達が!!」

 

 

それを聞いて、幸人達はすぐさま外へと出た。

 

出た瞬間、外は煙が広がっていた。

 

 

「クソ!煙で前が!」

 

 

煙で目が眩んでいた時、その中から突如矢が飛んできた。彼等はすぐに、身を低くして矢を避けた。紫苑は氷で陣を描き中心に立った。

 

 

「悲しき風の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !」

 

 

陣から吹き荒れる風が、煙を払った。辺りが見えた幸人達は、目の前にいる浮遊物に乗った者達に目を向け、武器を構えた。

 

 

「ゲッ!まだ竜捕まえてない!」

 

「何だよ!

 

祓い屋がいるなんて、聞いてねぇぞ!」

 

「……へ~。

 

面白ぇ、祓い屋がいるぜ」

 

 

浮遊物を地面へ下ろし、そこから降りた者は顔に着けていたマスクとゴーグルを取りながら、彼等に歩み寄った。

 

 

「久し振りだな?

 

 

 

地獄の祓い屋、幸人」

 

「え?!」

 

「地獄の祓い屋って……」

 

「……」

 

「そんな怖い顔、しないで下さいって!

 

先輩方!」

 

「君みたいな人、二度と僕等の前に現れてほしくありませんでしたね」

 

「酷いなぁ。

 

何?まだ根に持ってるの?15年」

 

 

言い掛けた瞬間、幸人は銃弾を放った。弾は男の頬を掠り、浮遊物を壊した。

 

 

「その口、今から削ぎ落としてやる!!

 

葵!!」

 

「言われずとも!

 

 

時雨と秋羅は、竜也さん達の護衛を!」

 

「はい!」

「あぁ!

 

 

あれ?紫苑!紫苑!」

 

 

先程まで傍にいたはずの紫苑の姿が、消えていたことに気付いた秋羅は、辺りを見回しながら名を呼んだが、返事が無かった。

 

 

「あいつ、どこに……」

 

「もしかしたら、あの竜の所」

 

 

“ドーン”

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。