桜の奇跡   作:海苔弁

57 / 228
突然の爆発音……


すると、浮遊物に乗っていた仲間達が、一斉に落ちてきた。ハッとした男は、振り返り空を見上げた。


壊れ煙を上げる浮遊物に降り立ち、小太刀を握る紫苑……


「あ、あの小娘!!」

「こんな所にまで出て来んのかよ!!」

「全員、攻撃対象あいつに向けろ!!」

「させないよ!!」


呪文を唱える葵の声に反応するかのようにして、鏡が青く光り出しそこから大量の水が流れ出てきた。


「うわっ!水だ!」

「おい!上!」

「え?上……」


降りてきた紫苑に、見上げた男は顔を二回踏まれた。彼女は地面に降り立ったかと思うと、素早く崖から飛び降り、裏口からやって来た紅蓮の背中に飛び乗ると、別の所へと、移動してしまった。


「クソ!ちょこまか動きやがって!!」

「10秒やる……

こっから失せるか、この弾丸で脳天ぶち抜かれたいか選べ」

「一時退却!!


また来ますね……先輩」


笑みを溢しながら、男は仲間達と共に援軍が乗る浮遊物に跳び乗り、その場を去っていった。



去って行く敵を、紫苑は紅蓮と共に眺めていた。


『また来てやがったか……』

「森にはリル達がいるから、平気だと思う……」

『奴等が来てたから、ネロは場所を変えたのかもしれない』


密漁者

壊れた浮遊物を、幸人と葵は手に取り調べていた。

 

 

「……チッ。

 

こんな物作りやがって」

 

「相変わらずの変人だね。

 

 

彼といい大地といい、僕等の周りは変人ばかりだね」

 

「……やっぱり、一発お見舞いしとけばよかったか」

 

「コラ。そういう事言わない。

 

とりあえず、里に被害は無さそうだね」

 

「……」

 

「……

 

 

地獄の祓い屋」

 

「っ……」

 

「懐かしいね。その名前……」

 

「……昔のことに、いちいち触れるな。

 

 

ただ、あの野郎に言われるのだけはごめんだ」

 

「そうかい……」

 

「戻ろう。

 

あいつ等のこと、話さなきゃならねぇし」

 

「だね」

 

 

手に持っていた部品を捨て、二人は中へと入った。

 

 

中へ入ると、広間に集まっていた秋羅と時雨、竜也と長は入ってきた二人は戸を閉めながら、口を開いた。

 

 

「あの密猟者は、俺等祓い屋と妖討伐隊が目を付けてる組織だ」

 

「組織?あれが」

 

「闇市では、名を知らない者はいないほどの知名度。

 

名は“闇”。討伐隊本部の研究所にいるある男を中心として、動いている組織」

 

「本部にいる人間が、何で?」

 

「秋羅には以前話したと思うが、生きた血と引き替えに、口寄せの術を使うと妖怪を呼び出せるも方法があっただろ?」

 

「あぁ。

 

でも、あれは禁術だって」

 

「その他にも、禁術になったものはある。

 

 

その中で、人を使った実験があってね」

 

「人を使った実験?」

 

「多種多様の妖怪の血を、実験台である人間に注入して、妖怪の力を己のものにする……そういう実験があったんだ。

 

 

だけど、実験は大失敗。多くの犠牲者を出した。その後、実験は危険と判断され禁術になった」

 

「その実験のチームに加わっていた一人が、さっきの男……

 

 

名は、藤風翔(フジカゼショウ)」

 

「研究者が何で、密漁を?」

 

「知らねぇよ。

 

大方、金集めだろうな」

 

「……

 

 

そういえば、その藤風……何か、紫苑ちゃんのこと知ってるみたいでしたよね?」

 

「……確かに。

 

紫苑を見るなり『あ、あの小娘!!』

 

 

『こんな所にまで出て来んのかよ!!』って……」

 

 

 

「北西の森で、あいつ等を知らない奴はいない」

 

 

そう言いながら、紫苑は紅蓮と共に部屋に入ってきた。

 

 

「紫苑……」

 

「知らない奴はいないって……」

 

「森に住んでた頃から、あいつ等はよく森に来ては、仲間を獲ろうとしてた……」

 

『その度に、俺等黒狼と住んでる奴等で追い返していたけどな』

 

「だから、紫苑のことを知ってたのか」

 

『捕獲リストの中に、多分紫苑も入っている』

 

「まぁ、物珍しい者がすぐに、目を付けるからね……あの変人」

 

「あいつ等、蛇みたいにしつこいよ。

 

竜の卵、回収するまでここから離れないよ」

 

「分かっているよ」

 

 

心配そうにする紫苑の頭に、葵は手を置き微笑んだ。

 

その時、どこから竜の鳴き声が外から響いてきた。それと共に、民の悲鳴も聞こえてきた。幸人達は顔を見合わせると、慌てて外へ出た。

 

外には、寝床にいたネロが翼を羽ばたかせながら現れ、目の前にいる民に向かって、口に妖気を集め妖気玉を作り出した。

 

 

「ネロ!!駄目!!」

 

 

紫苑の声にネロは、妖気玉を消した。そして誰もいなくなった広場に降り立つと、駆け寄ってきた彼女に頭を下げ擦り寄った。

 

 

「何なんだ?あの竜……」

 

「俺が聞いた話だと、伝説の竜は人に懐くことは無かったって聞いたぞ」

 

「でも、あの伝説の竜紫苑ちゃんに懐いてますよ?」

 

「……」

 

 

紫苑に甘えるネロだったが、歩み寄ってきた幸人に牙を向けながら身構えた。紫苑は慌てて口を抑えて、寄ってきた彼の方を向いた。

 

 

「まだ警戒してるから、近付かない方が……」

 

「どうしていきなり、暴れたんだ?分かるか?」

 

「多分奴等のにおいだと思う。

 

いつも、ネロは真っ先に襲われてたから……

 

 

あ!駄目!この人は、何もしない」

 

 

幸人を襲おうと、紫苑の手を振り払おうとするネロを彼女は、鼻先を撫でながら宥めた。

 

その光景を見て、葵は幸人の元に歩み寄り小声で話した。

 

 

「ネロの傍から、紫苑を離さない方がいいみたいだね」

 

「だな……

 

 

紫苑」

 

「?」

 

「しばらく、そいつの傍にいろ」

 

「え?でも……」

 

「こっちは僕等で何とかするから。

 

君は、この竜の傍にいてあげなさい」

 

「……」

 

 

人の姿になった紅蓮は、ネロの長い首に飛び乗ると頭を撫でた。ネロは紫苑の頬を舐めると、翼を羽ばたかせて寝床へと帰った。入れ違いに、エルが寝床から飛び出し、紫苑の元へ降り立つと身を屈めた。

 

紫苑はチラッと振り返ったが、また前を向きエルに乗り、ネロの元へと行った。

 

 

「ここにいる間は、紫苑抜きで仕事するぞ」

 

「ヘーイ」

 

「え?いいの?

 

あのままで」

 

「あの竜は多分、紫苑がいないと僕等を襲うよ。

 

傍にいさせた方がいい」

 

 

 

ネロの傍に座る紫苑……膝に二つの卵を置き、包んでいた毛布で優しく撫でた。撫で終わると、再び毛布に包み籠に入れネロの傍に置いた。

 

 

ネロは紫苑と紅蓮を包むように、尻尾を回し眠った。眠ったネロの頭を撫でながら、紫苑は小声で歌った。その歌は、他場所で落ち着かなかった竜達の耳に響き、徐々に落ち着きを取り戻していった。

 

 

「何だ?この歌……」

 

「綺麗だけど……聞いたことない」

 

 

頭を撫でていた紫苑は、重くなっていた瞼を閉じネロの胴に体を預けて、眠ってしまった。眠った彼女の傍に、紅蓮は寄り垂れていた腕の間に頭を入れ、眠りに付いた。




とある洞窟……


「聞いてないよ!!あの小娘がいるなんて!」


浮遊物を整備しながら、仲間は翔に文句を言っていた。


「俺だって、知らねぇよ!

だいたい、何で先輩の元にあの小娘が……」

「そういや、闇市で噂になってたよね?

祓い屋が子供を買ったって」

「……それ、いつの話だよ」

「丁度一年前です。

結構話してましたよ。黒狼が一緒じゃなければ、売れた子供だったみたいですし」

「何で、祓い屋が子供を?」

「……そういえば……


直樹、確か本部からの情報あったよな?」

「……これ?」


棒付き飴を銜えながら、直樹は暗号化された資料を手渡した。翔は、字を読みながら数枚捲るとある部分を指差して、皆に見せた。


「『九月末、半妖の子供を祓い屋・月影が保護』

これだ!」

「半妖って……もう、絶滅したんじゃ」

「まだ生き残りがいたって事ね」

「……決まった!


竜の卵とこのガキ捕獲するぞ!」

「元からお前のリストに載ってるだろ?

あの小娘は」

「まぁな!(爺が残した資料が正しければ!)


整備が終わり次第、行くぞ!」

「了解」
「応」
「ハーイ」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。