桜の奇跡 作:海苔弁
「また降ってきた……」
「紫苑ちゃんの所に、毛布持ってた方がいいんじゃ」
「行きてぇけど、あの竜が攻撃してきたら」
「……」
階段を降りる秋羅……
ネロの寝床に着くと、深呼吸し意を決意した秋羅は、カーテンを静かに開けた。
ネロの胴に体を預けて眠る紫苑と、彼女の膝に頭を置き眠る紅蓮、卵の傍で眠るエル……
とりあえず一安心した秋羅は、音を立てぬよう忍び足で入り、眠る紫苑に毛布を掛けた。
(……紫苑といると、こいつ大人しいなぁ……)
気を緩め眠るネロの寝顔を見ながら、秋羅は立ち上がりまた忍び足で出て行った。
彼が出て行ったのを確認してか、ネロはスッと目を開けると、カーテンをしばらく見つめるとまた、目を閉じ眠りに入った。
“ドーン”
里に響く爆発音……それと共に、里中に煙が広がった。起きていた紫苑は、漂う煙を警戒しながら部屋の隅にあるだけの毛布を卵に包むと、氷で周りを固めた。
「これで、ここが発見されても大丈夫」
『だが時間の問題だ。
あんまり冷たくすると、産まれてこなくなる』
「だから、早く片付ける。
紅蓮はここでネロと一緒にいて。
エル、行くよ」
エルと共に、紫苑は部屋を出て行った。出て行こうとしたネロを、紅蓮は慌てて抑え頬を撫でた。
『大丈夫だ。
紫苑は強い。お前がよく分かってるだろ?』
外へと出た紫苑は、浮遊物に乗る翔達を見付けると、エルに乗り空を飛んだ。
下げていたマスクを上げると、紫苑は氷の槍を次々と作り出し、翔達の浮遊物を壊していった。
「うわっ!!」
「と、見せかけて!」
「唐辛子爆弾、発射」
仲間が放った赤い弾が、エルの顔に当たりエルは鳴き声を上げながら、錯乱した。
「エル!下に降りて!!」
首を触りながら、エルを落ち着かせ紫苑は地面へ飛び降りると、動けなくなったエルの元へ駆け寄った。
「半妖、ゲット!」
「させるか!」
寄ろうとした翔の前に、銃弾が通り過ぎ彼は体勢を崩し浮遊物の上で尻餅を着いた。
紫苑の元へ、幸人と葵が駆け寄った。葵は鏡から水を出すとエルの目に付いた唐辛子を、洗い流した。
「秋羅達は?」
「竜也さん達の所」
「こっちに来ていいの?」
「平気だよ。時雨達は強いから」
「そんじゃあお次は、唐辛子煙幕だ!!」
マスクをしたと同時に、翔は幸人達の元に煙玉を投げ落とした。玉から放たれた煙は、彼等の目と鼻を容赦なく襲い、彼等は咳き込み目を開けることが出来なくなった。
咳き込む紫苑の腕を、マスクをした翔は掴みこちらへ引こうとした時だった。響き渡る竜の鳴き声……その声に、翔は辺りを見回した。すると次の瞬間、どこからか黒い影が里を覆い、強風が吹き荒れた。風の影響で、煙が無くなり幸人達はゆっくりと目を開けた。
「……!?
紫苑!!
テメェ!!離れろ!!」
放ってきた銃弾を、翔は華麗に避けながら紫苑から離れた。目を擦る彼女の元へ、幸人は駆け寄り後ろへ隠すと、銃口を彼に向けた。
「そんな怖い顔しなさんな!
ほら、先輩の真似して作ったんですよ!大剣!」
背中に背負っていた鞘から、翔は大剣を抜き取り構えた。
「これで、俺もようやく妖怪退治が出来るっで訳ですよ!
いや~苦労しました!これ作るだけで、結構お金掛かりましたからね!」
「だったら、もう金必要ねぇだろう……」
「必要だよ。まだ……
退治だけじゃなく、あの実験の続きをしたいんでね」
「君はまだ、あの実験を……
何人死んだと思っているんですか!!あの実験で!!」
「さぁ。
数えてないからね……実験に死人は付き物だよ。先輩」
その言い方に、紫苑は恐怖を抱いたのかその場に座り込み体を震えさせ、耳を塞ぎ目を頑なに閉じた。その様子に、葵は心配しながら彼女に手を伸ばした。
「嫌だ!!」
葵の手を払い除けた紫苑は、怯えた目で彼を見た。
「紫苑……」
「葵!紫苑担いで、こっから離れろ!!」
「逃がさないよ!」
大剣を振り上げた翔は、幸人目掛けて振り下ろした。彼はすぐに跳び避け、銃口を向けると素早く撃った。
翔に続いて、二人の仲間が武器を持って葵達に攻撃してきた。傍にいたエルは、紫苑を守るようにして仲間に後ろ蹴りを食らわせた。
「何そんな向きになってんの?
その子、本部からの命令で買ったんスよね?」
「……」
「本部の資料、読ませて貰いましたよ。
今時珍しい、半妖の子供を祓い屋・月影が引き取ったって」
「だから何だ」
「じゃあ、本部関係である俺に引き取らせて貰ってもいいですか?
その子、俺の手で大地先輩の所に送りますんで!」
「嫌なこった。
誰が、テメェ等変人コンビにあいつを渡すか」
「じゃあ、事故で死亡って事でお願いします!」
後ろへ行くと、翔は大剣を振り下ろした。幸人は素早く避けると、煙玉を地面へ投げ煙を放った。視界を奪った隙に、彼は紫苑を抱え葵と共にその場を立ち去った。煙に紛れ、エルは飛び立ち彼等の後をついて行った。
煙を払った翔は、辺りを見回しながら彼等の姿が無くなったのを確認した。
「相変わらず、逃げ足が速いなぁ……
鬼の大剣さんは」
広間へと帰ってきた幸人達に、秋羅と時雨はすぐに駆け寄った。
「幸人、大丈夫か?!」
「平気だ……それより、紫苑を」
抱えていた紫苑を秋羅に渡そうとした時、彼女は幸人の手から離れるとそのまま部屋を飛び出した。
「紫苑!!」
「どうしたんだ……あいつ」
「……翔」
「?」
「彼の声を聞いてから、少し様子が……」
「……」
地下へ来た紫苑……ネロの寝床へと続く道を歩き、カーテンを上げると中へ入り、ネロの傍に座ると胴に顔を埋めた。
『紫苑、どうした?』
傍にいた紅蓮は、彼女の元に寄りながら声を掛けた。
『……紫苑?』
「……あいつの声、聞いた途端また」
『またって……』
「……怖い……
あいつの声聞くと、怖いところに連れて行かれそうで……」
『……』
「嫌だ……
行きたくない……行きたくない!」
紅蓮に抱き着きながら、紫苑は泣いた。狼から人の姿へとなった紅蓮は、彼女を慰めながら離さないように強く抱き締めた。
泣く紫苑の声に反応するかのようにして、彼女の手に着けていた、ブレスレットの妖魔石が淡く光った。
浮遊物に乗り、幸人達を探す翔……
「本当にまだ生きてたとはなぁ……
曾祖父さんの書いた通りの子供だ。
『長い白髪を一つ三つ編みに結い、赤い目を光らせた少女』
髪型は違うけど、髪と目は合ってるしここで捕まえて、大地先輩に渡せばまた実験が再開できる!
俺って、頭いい!」
満面に笑みを浮かべながら、翔は浮遊物を飛ばした。