桜の奇跡   作:海苔弁

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ネロの寝床へと来た幸人は、ソッとカーテンを開け中を見た。


泣き疲れ眠った紫苑が、二つの卵を抱いて眠っていた。彼の姿に気付いた紅蓮は、警戒するネロの頬を撫でると、幸人を連れ部屋を離れた。


『森にいた頃も、あんな感じだった……


あいつ(翔)の声を聞いた途端怯えだして』

「……昔のことを、少しでも覚えていれば……」

『無茶言うな。

俺も紫苑も、昔のことは何も覚えちゃいない……



あ』

「ん?何かあるのか?」

『いや……あいつ、言ってたんだ。


『あいつの声聞くと、怖いところに連れて行かれそうで……』って』

「……紫苑は、もしかしたら翔と会ってるのかもな」

『森で会ってるはずだけど』

「森じゃない……記憶を無くす前に会ってるんだろう」

『……』

「推測に過ぎないが……

お前と紫苑は、元々別々の場所で暮らしていたんじゃないのか?」

『そんなはず……

だって、俺紫苑と一緒にいるのが当たり前で』
『泣かないで……』

『!?』


どこからか聞こえる声……辺りを見回すと、暗い世界に一カ所だけ光が差し込んでいた。そこには紫苑と瓜二つの姿をした少女と、彼女に凭れるようにして抱かれた男がいた。


『僕は……君の中で生きる……

何……君を好きになる人ぐらい、また現れますよ……


さぁ、お別れだよ……』

『きっと会える……


それまで、待っていてくれ……




必ず、迎えに行く』




「紅蓮!」

『!』


幸人の声で、我に返った紅蓮は彼の方を見た。


「大丈夫か?」

『あ、あぁ……』


砕ける鍵

「先輩方、発見!」

 

 

翔の声と共に、クナイ付きの網を投げられ、二人は壁に貼り付けられた。

 

 

「油断大敵ッスよ!

 

さぁてと、中にいる半妖を」

 

 

中に入ろうとした翔は、次の瞬間吹き飛ばされた。中から出て来たネロは、口から黒い煙を出しながら浮遊物に乗った翔を睨みそして咆哮を上げた。

 

 

「イヤッホー!!伝説の竜じゃねぇか!

 

 

俺、今回めっちゃツいてるー!」

 

『ネロ!!

 

クソ!この網が』

 

「燃やせ!」

 

『え?!けど』

 

「いいから、早くしろ!!」

 

『分かった』

 

 

指から火を出すと、紅蓮は網を燃やした。幸人は腕に火傷を負いながらも、素早く網から出るとネロの寝床へ行った。

 

ネロは幸人と入れ違いに、寝床から飛び立ち浮遊物に乗り逃げて行く翔を追い駆けていった。紅蓮はネロを追い掛け、そしてネロの背に飛び乗った。

 

 

「ネロ!!駄目!!

 

戻ってきて!!」

 

 

中にいた紫苑は、寝床から飛び出しネロを呼んだがネロは、戻っては来なかった。

 

 

「ネロ!!」

 

「紫苑、来い!」

 

「うん」

 

 

走り出した幸人に、紫苑はついて行った。

 

地下から上がってきた二人は、呼び掛ける秋羅達の声を無視して、外で待っていたエルの背中へと飛び乗った。エルはすぐに翼を羽ばたかせ、助走を付けるとそのまま空へと飛んだ。

 

 

エルは里を出て行き、晴れている空を飛びながらネロ達を探した。

 

 

「……!

 

エル、あの森に行って!」

 

 

 

紫苑が指差す方向に、エルは飛んでいった。高速で飛んでいくと、前方にネロ達を発見した。紫苑は乱れる息を整えながら、ネロの背中に飛び乗った。

 

 

「ネロ!止まって!ネロ!!」

 

 

「半妖ちゃん、捕獲!!」

 

 

ネロの背中に乗っていた紫苑を、翔は浮遊物から手を伸ばし彼女の服を掴み、そのまま里の方へ飛んでいった。

 

 

『紫苑!!』

 

「しまった!!」

 

 

浮遊物に乗った紫苑は、逃げ出そうとしたが手と体に縄で縛られ動きを封じられた。

 

 

「ふー。これで逃げられないだろう?」

 

「……」

 

「さぁてと、このまま俺の研究所にご案……?!」

 

 

突如目の前に現れたネロは、尻尾で彼の浮遊物飛ばした。操作不能になった浮遊物を、何とか操作しようとする翔を前に、紫苑は氷で手の縄を切ると素早く小太刀を抜き体に巻き付いた縄を切り、浮遊物から飛び降りた。

 

 

「嘘ぉ!?」

 

 

飛び降りた先には、ネロの手が有り彼女を受け止めると、里の方へ飛んでいった。

 

 

「逃がすわけには、行かないよ!

 

 

B班!攻撃開始!」

 

 

 

無線で連絡すると、森に潜んでいた仲間達が一斉に、ネロ達に攻撃を放った。攻撃を食らうネロは、鳴き声を放ちながら今にも落ちそうにしていた。

 

傍にいた幸人は、背負っていた筒から大型の銃を取り出すと、それを攻撃が放つ方向に向けて放った。弾は地に落ちると同時に爆発を起こし、そこにいた仲間達はすぐに攻撃の手を止めた。

 

 

里の裏口の森へと着いたネロは、そこへ倒れて着地した。

 

 

「ネロ!」

 

 

浅く息をするネロ……エルから降りた幸人は、ネロの体から出る血を見た。

 

 

(かなりの出血量……下手したら、死ぬぞ)

 

 

すると、倒れていたネロは何かの気配を感じたのか、口から血を流れ出しながら起き上がり咆哮を上げた。咆哮と共に、口から大量の血が流れ落ち血飛沫が、紫苑達の体に飛んだ。

 

 

「ネロ!動いちゃ駄目!」

 

『……奴が来る。

 

この命尽きようと、殺すまで!!』

 

「ネロ!!駄目!!

 

子供はどうするの!?ネロ!!」

 

 

「ここにいたか!」

 

 

煙を上げた浮遊物と共に、大剣を担いだ翔が地面に着地した。ネロは戦闘態勢に入り、体を動かした。その瞬間、傷口から大量の血が流れ落ちた。

 

 

「ネロ!動かないで!!」

 

「そうそう!動くと傷口開くぞぉ!」

 

「誰のせいで、こうなったと思ってんの!!」

 

「そう怒るなよ!

 

君等が大人しく、俺等と一緒に来れば何も攻撃しないって!」

 

「嘘吐き!!

 

 

そう言って、何度騙した!!」

 

「騙したぁ?

 

 

俺、君のことまだ一回も」

 

 

その時、翔の腰に着けていたメーターが、鳴り出した。共に、紫苑の周りに氷の槍が地面から、無数に伸びた。

 

 

「な、何だ!?

 

 

凄い妖力数値!!」

 

 

息を乱す紫苑……その時、手に着けていた妖魔石が割れた。そして、彼女の回りに妖気が吹き荒れネロから離れると、地面を凹ませて青い瞳を光らせながら、顔を上げ翔を睨んだ。

 

 

「妖力数値が、限界超えた!?

 

エラーだ!!先輩!どうなってるんですか?!この半妖!!

 

 

半妖で、ここまでの数値出したの、この子が初めてですよ!!」

 

 

 

彼女の妖気に、別の場所にいた地狐は顔を上げ空を見た。

 

 

『(まさか……)

 

 

姉君?

 

 

うん、感じてる……どうする?

 

 

分かった。そうするよ。

 

それから姉君……

 

 

僕からの提案だけど……もう彼女に、人と暮らすことは、無理だと思うよ。

 

 

これからは、僕等と暮らして奴を倒すべきだと思う』




小太刀を抜き、紫苑は自身の腕を切り血を出すと、その血をネロの致命傷に掛けた。すると、傷口は見る見るうちに回復し、ネロは落ち着きを取り戻したかのようにして、その場に倒れた。


「……傷口が、塞がってる……」


倒れたネロの塞がった傷口を見て、幸人は驚きの顔を隠せないでいた。


乱れる息を整えると、紫苑は翔を睨んだ。翔は少々怖じ気つきながらも、大剣を構えて彼女を見た。


「……お前みたいな野郎の血は、何故途絶えない?


あれだけのことをしときながら、何故?」

「残念だけど、お前が知っている奴は、俺の曾祖父さん。

恨むなら、曾祖父さんを」


言い掛けた翔を、紫苑は力任せに蹴り飛ばした。蹴られ飛ばされた彼は、木々を貫き大岩に体をぶつけた。構え持っていた大剣を、紫苑は折り砕くと彼に歩み寄った。


「曾祖父さんだろうと何だろうと、私はお前達を許さない……


私を苦しめ、私の大事な宝物を壊したお前達を……私は許さない」


蹲る翔に向かって、紫苑は小太刀を勢い良く振り下ろした。
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