桜の奇跡   作:海苔弁

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暗闇の中を歩く三人……


紫苑は腰に着けていた何かを手に取ると、被せていた布を取った。

それは、蛍が入った籠だかった。蛍はお尻を光らせながら、辺りを明るく照らした。


「蛍?」

「捕まえたやつか?」

「うん。

こっちだって」


一匹の蛍を外へ出すと、蛍は紫苑の周りを飛び回り、そして前へ飛んでいった。


「何だ?あの蛍」

「ついて来いって」


蛍を追い駆けるようにして、紅蓮は歩き出した。二人に続いて幸人と秋羅は歩き、彼等の後をついて行った。


蛍火

暗い森を歩いて行くと、向こうに一筋の光が射していた。その光に導かれるようにして、三人は森を抜けた。目の前には巨大樹とその傍に、小さな池が広がっていた。

 

 

「何だ……ここは」

 

 

『ここは、蛍の森』

 

 

透き通った声が聞こえてきた……すると、前を飛んでいた蛍が光に包まれ、人の姿へと変わった。

 

 

「……なるほど。

 

蛍が妖怪か」

 

『迷子がいたから、出口までの案内のつもりだったんだけど……

 

気になって、ついて来ちゃった』

 

 

和やかに言いながら、蛍は後ろから紫苑に抱き着いた。その時、後ろから笛の音が聞こえてきた。その音を聞いた紅蓮は、唸り声を上げながら攻撃態勢を取った。

 

 

『あいつを倒してくれないかな?

 

ここにいて、子供をここへ連れて来られるのは一番迷惑なんだ。

 

 

この場所は、僕等の楽園』

 

 

巨大樹から降りる一人の男……

 

蛍と月の光に照らされ現れたのは、面を着けた男だった。

 

 

「何だ?あいつ」

 

『子供の楽園に、大人はいらない』

 

 

宙から先の尖った枝を、仮面の男は幸人と秋羅に投げ飛ばした。二人は地面に転がり避け、紫苑に抱き着いていた蛍は、彼女を抱き上げて近くの木に飛び乗った。

 

 

「紫苑!!」

 

『あいつを倒したら、この子は返すよ』

 

「無茶苦茶な事言うな!

 

うわっ!」

 

 

尻餅を着いた秋羅を心配したのか、蛍に抱えられていた紫苑は落ち着かない様子で見ていた。

 

 

「結界を張るから、敵の気を引け!」

 

「分かった!」

 

 

腰に着けていたケースから、三本に別れた槍を取り出すとそれを組み立て、秋羅は仮面の男の注意を引き付けた。

 

その間に、幸人は10枚の札を宙に広げ、そして呪文を唱えた。

 

 

二人の戦い振りに見取れていた蛍に、後ろから忍び寄っていた紅蓮が飛び掛かった。彼はすぐに跳び避けたが、紫苑を離してしまい、その隙を狙い紅蓮は彼女を銜えて、地面へ降り立った。

 

 

紅蓮の口から降りた紫苑は、腰紐に挿していた黒曜石の小太刀を手に取ると、仮面の男に向かって飛び掛かった。

 

 

『……

 

君は、妖怪かな?』

 

 

その言葉に応えるかのようにして、紫苑は手から氷の刃を作り出し、仮面の男に向けて放った。その攻撃に続くようにして、紅蓮は男に飛び付き腕に噛み付いた。

 

 

「うわっ!!」

 

 

男の仮面が外れ、噛み付く紅蓮を殴り飛ばした。紅蓮は唸り声を上げながら、彼の方を向いた。倒れた男は、ゆっくりと立ち上がり、服についた泥を手で払った。

 

 

「やはり狼ですね。

 

僕の正体を、分かるなんて」

 

「こ、児玉……」

 

「全部、お前が原因か」

 

「正解。

 

ハーメルンの笛吹きって、ご存じですか?」

 

「知ってる。

 

確か、笛吹き男の話でハーメルンって町に大量発生した鼠を退治したのに、報酬を払ってくれない町人に怒りを覚え、笛を吹きその町の子供を連れて消えたって話だ」

 

「まさしく、その通り。

 

僕は、その笛吹き男の子供だから」

 

「?!」

 

「昔、あの町にはこんな夫婦がいました。

 

男は妖怪博士、女は薬剤師だった。

 

病が流行った際、女は懸命に町の人達を看病し、病気を治した。

 

 

ある日、妖怪がここへ侵入してきて、女に大怪我を負わせました。男は町の人達に助けを求めました。しかし、誰一人として助けてはくれませんでした。

 

何とか怪我は治ったものの、女の心は少し壊れてしまいました。男は女を連れて、この町を出て行きました。

 

やがて、その2人に子供が産まれました。しかし、産んで間もなく、女は心の病を再発してしまい亡くなってしまいました。

 

男はネジが外れたかのようにして、妖怪の研究に没頭しました。子育てをほったらかして。

 

子供が成人を迎えようとしたある日、男は病に掛かり寝込んでしまいました。子供は男のやっていることに興味を持ち、男の研究を手伝うようにして手を出しました。

 

 

そして二年前……

 

男……父は恨みと辛みの詰まったこの笛を完成させて、そのまま息を引き取りました」

 

「要は、親の復讐って事か」

 

「……別に僕は、ここの人達に何の恨みもありませんが。

 

しかし、僕等家族の時間を奪った人達の事は幼少期から恨んでいましたから。

 

母を殺し、父まで殺したあの人達を」

 

 

黒かった瞳が、突然赤くなった。そして、持っていた笛を再び吹き始めた。

 

 

『あー、また人が増えちゃう』

 

「……ねぇ」

 

『ん?』

 

「蛍の光、もっと頂戴」

 

『え?何する気?』

 

「いいから、早く。

 

さもないと」

 

 

指を鳴らすと、紅蓮が今にも噛み付きそうな表情で、唸り声を上げた。蛍は真っ青になりながらも、すぐに仲間達を呼び集めた。

 

 

紫苑はその光と共に、陣を描き中心に立った。

 

 

「悲しき花の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ」

 

 

光り出した陣から、花弁の吹雪が吹き荒れた。その花弁は男の頬を傷付け、痛みから彼は笛を地面に落とした。

 

 

「幸人!!今だ!」

 

「縛久羅仙久羅仙且主結願菩提羅且那!!」

 

 

10枚の札が光り出し、そこから白い光線が放たれ男の体を貫いた。その時、無数の蛍が光を放ち彼を包み込みだした。

 

 

『昔の記憶……忘れられた記憶を、蘇らせようとしてるんだよ。

 

可哀想な人だから』

 

 

『和善(ワタル)』

 

(ああ……

 

懐かしい、声が……)

 

『和善は私達以上に、幸せに生きてね。

 

お母さん、あなたの幸せだけを願ってるから』

 

(母さん……)

 

『お前は、自由に生きろ。

 

父さんと母さんは、自由に生けなかったから』

 

(自由……

 

あぁ、そうだ……

 

 

 

 

僕は)




翌朝……


町長から、報酬を受け取る幸人。報酬を確認しながら、彼は話した。


「児玉さんは今、妖気が抜けて昏睡状態になってますが、次期に目は覚まします。

完全に妖力は無くなっていますので、もう子供をさらうことはないと思います」

「……」

「何でも良いです。

彼に声を掛けて下さい。挨拶でも何でも。


そして、気に掛けて下さい。彼は……


善意を踏みにじって、あなた方に裏切られた夫婦の子供です」

「……充分、承知しています」

「では、また何かあったらご連絡を」


町長の家から出て行き、大門の所へ向かおうとした時だった。年老いた人達が、花やお菓子、果実を持って児玉の家へ向かっていた。後からついて来た子供に、幸人は質問した。すると子供は、嬉しそうに話した。


「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが話してたの!

あのおじさんのお父さんとお母さんに、命を助けて貰ったことがあるんだって!だから、今度は私達が助ける番だって!」


和やかに説明すると、子供は老人達の後を追い駆けていった。


その様子を見て、幸人は微笑を浮かべて、大門で待っている秋羅達と共に、町を後にした。
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