桜の奇跡   作:海苔弁

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とある森の奥……木の枝に座っていたぬらりひょん(クローン)は、スッと目を開けた。


(懐かしい……


この妖気の元に行けば、俺が誰だか分かるかも)


立ち上がると、ぬらりひょん(クローン)はそこから飛び立った。


暴走

砕け散る大岩……間一髪避けた翔は、息を切らして地面に転がっていた。

 

 

「……何で避けるの?」

 

「し、死にたくないからに決まってんだろ!!」

 

「人を殺すのは平気のくせして、自分が死ぬのは嫌なんだ」

 

「あ、当たり前だろ!!」

 

「何が当たり前なの?

 

不死身を良い事に、私達を散々痛め付けたくせに!!」

 

 

氷の矢を作り出し、紫苑は翔の体に突き刺そうと振り下ろした。刺さる寸前、彼の前に何かが降り立ちその氷を受け止めた。

 

 

「!?」

 

『あ、あれは……』

 

 

靡く白髪……紫苑は、その姿を見た途端頭を抑えながら、後ろへ下がった。

 

 

『……また、会ったな』

 

「……」

 

「……ぬ、ぬらりひょんのクローン……

 

 

今日、俺本当にツいてる……と言うか、ラッキー過ぎて怖い!!」

 

 

叫ぶ翔を、ぬらりひょん(クローン)は蹴り飛ばした。飛んできた彼を、幸人は足で受け止め踏み付けた。

 

 

向かい合うぬらりひょん(クローン)と紫苑……

 

 

「……お前は、誰?」

 

『さぁな……俺にも分からない。

 

だが、貴様と俺は似ている』

 

「……」

 

 

紫苑の頬を撫でるぬらりひょん(クローン)……彼女は、突如襲ってきた頭痛に、頭を抑えながら彼の手を振り払い後ろへ下がると、叫び苦しみ出した。

 

 

「触るな!!

 

消えろ!!ここから、私の前から消えろ!!」

 

『……』

 

 

戸惑うぬらりひょん(クローン)……その時、浮遊物のエンジン音が聞こえてきた。ぬらりひょん(クローン)は、その音を聞くと素早くそこから離れ去った。

 

 

息を乱しながら、紫苑はその場に座り込んだ。紅蓮はすぐに駆け寄ろうとしたが、それを阻止するかのようにして彼女の周りから、氷の槍が無数に生えてきた。

 

 

『紫苑!!』

 

「ヤバいヤバい!!妖気が溢れてますよ!!」

 

「見りゃあ分かる!」

 

『テメェのせいで、紫苑がおかしくなったんだろうが!!責任取れ!!』

 

「そんな!俺じゃないっスよ!」

 

「ちょっと!

 

どうなってんのよ!!この妖気数値!?」

 

「エラー表示したから、来てみれば……」

 

 

紫苑の額から広がる模様は、ドンドン広がり彼女の体を浸食していった。

 

 

『紫苑!!』

 

 

手に炎を宿しながら、紅蓮は氷の槍を次々と溶かしていった。氷を全て溶かすと、彼は躊躇無く紫苑を抱き締めた。

 

 

「……」

 

『大丈夫だ……もう大丈夫』

 

「……」

 

 

紅蓮とは違う別の声が、紫苑の耳に届いた……広がっていた額の模様が、少し収まり紫苑は紅蓮に凭れ掛かるようにして、倒れ込んだ。

 

彼女を持ち上げると、紅蓮は幸人に手渡し、人から狼の姿になると紫苑から吸い取った妖気を全開に、巨大な炎の玉を作り出すとそれを翔達に放った。炎は彼等を囲うようにして広がり、その中に紅蓮は立ち口を開いた。

 

 

『その機械と共に、立ち去れ……焼かれたくなければな』

 

「立ち去ります!!立ち去ります!!

 

今回は引くぞ!!」

 

「竜の卵と半妖は?」

 

「そんなの、また今度!

 

ほら、早く行くよ!!」

 

 

先に逃げる翔を先頭に、仲間達は次々に去って行った。燃え盛る炎の消失と共に、紅蓮はその場に倒れた。残された幸人は、耳に着けていた無線で、秋羅達に連絡を入れた。

 

 

 

 

夕方……

 

 

各々の竜の卵から、一斉に赤ん坊が産まれた。鳴き声を上げる竜の子は、傍にいた母親と飼い主に擦り寄った。

 

竜也の卵も孵化し、子供を抱きかかえながら彼は、傍にいる母親の元へ子を置いた。母になった竜は、我が子を愛おしく舐めた。

 

 

「良かったなぁ!

 

(あいつ等の所は、産まれたかな?)」

 

 

ネロの寝床の前で待つ秋羅達……目が覚めていた紫苑は、毛布に包んでいた二つの卵をずっと撫で続けていた。

 

 

「……もしかして、駄目なのかな……」

 

「縁起でもねぇ事言うな!」

 

「だって!」

 

「シッ!静かに」

 

「……」

 

 

撫でる紫苑……その時、卵がピクリと動いた。それに気付き、彼女は卵をネロの傍に置き少し離れた。

 

 

動き出した卵は、殻を破り二つ同時に孵化した。

 

 

「……産まれた」

 

 

卵から出て来た二匹の竜の子を、ネロは順番に舐めた。二匹は鳴き声を上げながら、ネロに寄り添った。内の一匹を、ネロは銜えると紫苑に見せるようにして手渡した。彼女は鳴く子供を撫でながら、傍にいた紅蓮に微笑んだ。

 

寝床にいた幸人は、それを見ると部屋を出て外で待っていた秋羅達に、微笑み頷いた。すぐに察した彼等は、歓声を堪えて、秋羅はガッツポーズをし時雨は小さく拍手した。

 

 

 

その頃、里に男女の二人が入ってきた。二人は門番をしていた人を無視して、里へずかずかと入って行くと、長の部屋へ入った。

 

 

「何者だ?」

 

『我が名は天狐。

 

北地域にある森全ての責任者だ。ここにいる、紫苑と紅蓮を引き取りに来た』

 

「……少し待たれよ」

 

 

その事は、ネロの寝床傍にいた幸人達に伝えられ、幸人と秋羅はすぐに、天狐達の元へと行った。

 

 

広間へ着き中に入ると、そこでは椅子に座る天狐と彼女の隣に立つ地狐がいた。

 

 

『やぁ、久し振りだね』

 

「地狐……って事は、そいつが」

 

『そう。噂の天狐。

 

僕の姉君』

 

『自己紹介は後回しだ。

 

紫苑と紅蓮をしばらくの間引き取るから、彼女達の元に案内しろ』

 

「え?何で?」

 

『妖魔石、割れただろ?』

 

「っ……」

 

『今の状態は、非常に危険だよ。

 

いつ、君等を襲ってもおかしくないんだからね』

 

「そんな……」

 

『安心しろ。

 

封印術と妖魔石が直り次第、そちらに返す』

 

「……」

 

 

無言で幸人は、二人を案内した。

 

 

ネロの寝床へ案内すると、幸人は声を掛けカーテンを軽く開けた。カーテンの音に、紫苑は振り返った。

 

天狐は紫苑を見るなり、彼女を抱き締め額に掛かっている前髪を上げた。

 

 

『かなり封印術が弱くなっているな……』

 

『相当妖力を使ったみたいだね。

 

かなり体力が消耗してる』

 

『当たり前だ。

 

 

紫苑を頼む』

 

『うん。

 

紫苑、おいで』

 

 

天狐と入れ替わり、地狐は紫苑を抱き上げた。彼に合わせて、ネロは子供を自身の背に乗せると、体を起こした。

 

 

『それじゃあ、治り次第幸人達の元へ送るよ』

 

「あぁ」

 

 

白い霧を放つと、地狐は紫苑達を連れてそこから姿を消した。一人置いていかれたエルは、鳴き声を放ちながら寝床を歩き回った。そんなエルを、秋羅は手綱を引き留め嘴を撫でながら宥めた。

 

 

「少しの間、留守番だ。

 

すぐ帰ってくるよ」




森へ帰ってきた天狐と地狐……水が浸る平らな岩に、地狐は紫苑を寝かせた。すると、水が光り出し彼女を包み込んだ。


『これで大丈夫だろう』

『だね……妖魔石をもってくるよ』

『頼んだ。

紅蓮、お前も少し休め』

『そのつもりだ』


狼の姿へとなると、紅蓮は茂みを越え池に着くと、人の姿となり畔に倒れ込み、半身だけを池に浸からせるとそのまま深い眠りに付いた。

すると、池から無数の蛍が飛び交いそして人の姿となると、眠る紫苑の元へ行き彼女の傍に座ると、頭を撫でた。


『……そんなにその子が大事か……』


天狐の言葉に、それは深く頷いた。その答えに、彼女は鼻で笑うとその場を去った。

傍にいたネロは、子供を寝かせると自身も眠りに付いた。








……何があっても、この子は守るよ。


そう、約束したんだから。
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