桜の奇跡 作:海苔弁
「祓い屋の故郷?
何で、そこに?」
リビングのソファーに座っていた幸人に、秋羅は不思議そうに質問しながら、お茶を出した。
「紫苑のことについて、色々情報が集まってな。
その中に、気になる情報が入ったんだ。
西の山を一つ越えた先にある町に、亡くなった初代祓い屋の女性と、紫苑の容姿が少し似ているって」
「え?初代祓い屋?」
「俺等祓い屋は、ある一人の祓い屋から作り出された者だ。
その祓い屋の弟子達が、今の俺等の初代祓い屋達」
「へ~」
「と言うわけで、行くぞ」
「え?行くって?」
「西の都に。
とっとと準備しろ。紫苑にも言っておけ」
「唐突すぎだわ!!」
汽車で二晩過ごした幸人達は、ある町で降りた。
「北寄りだから、まだ少し雪が残ってるな」
「だな。
紫苑!先行くな!」
興味津々に先を歩く紫苑を、秋羅は呼び止めながら彼女の元へ駆け寄った。外で待っていた紅蓮は、駅から出て来た紫苑に気付くと、駆け寄ってきた彼女にエルの手綱を渡した。
「この駅からかなり歩いた場所に、宗の町があるらしい」
「前に言ってた、祓い屋達の故郷?」
「そうだ」
歩き出した幸人に続き、秋羅は紫苑達を先に行かせ、自身は二人の後ろを歩いた。
昼過ぎ……
目的地である宗の町に着いた幸人達は、早速宿を取った。宿帳に名前を記入している間、紫苑は傍にある馬小屋にエルを入れた。
「珍しいわね。西洋妖怪を飼ってるなんて」
後ろから聞こえた女性の声に、紫苑は驚き振り向いた。深い緑色の短髪に、青緑色の目をした女性が、エルを見ながら立っていた。
「……」
「この西洋妖怪、アンタが飼ってるの?」
「……うん」
「誰かから貰ったの?」
「……うん」
「……」
「紫苑!行くぞぉ!」
秋羅の声にハッとした紫苑は、すぐに女性から離れ玄関前にいた秋羅の元へ駆け寄り、そこを離れた。
道を歩き、石階段を上った先に大きな木の門があった。そこをくぐり抜け、中へ入ると中には大きな寺院が建てられていた。
「で、デケぇ……」
「流石、宗家」
「月影様」
声を掛けられ、振り向くとそこには巫女の格好をした女性がいた。
「お待ちしていました。
私は、この寺院の者です。
さぁ、どうぞ中へ」
管理人に誘導され、幸人達は寺院の中へ入った。
暗い廊下を歩き、ある一室へと案内された。中に入ると、そこには年老いた巫女が一人座っていた。
「こちらが、現在この寺院の巫女・静華様です」
(凄え婆だな……)
「ご連絡させて頂きました、月影祓い屋・幸人です」
「……例の子は、その女子か?」
「はい。紫苑」
秋羅の傍にいた紫苑に、幸人は手を差し出し彼女を自身の隣へ来させた。静華はゆっくりと立ち上がると、紫苑の元へ歩み寄った。寄ってきた彼女に、警戒した紫苑は幸人の後ろへ隠れ、ヒョッコリと顔を出した。
「余り、人に慣れていないようだな?」
「育ちが森なもんで」
「……
しかし、よう似とる。初代祓い屋である美優様に」
「みゆ?」
「弥勒院美優(ミロクインミユ)様。
かつて、この地にいた伝説の巫女であり初代祓い屋と呼ばれている女子です」
「その美優って巫女と紫苑が、そんなに似ているのか?」
「当時の写真だけなら、残っておられます。
私が見る限り、彼女の目元が美優様そっくりです」
スッと伸ばしてきた静華の手を、紫苑は怯え即座に幸人の後ろに身を隠した。
「……とりあえず、写真を」
そう言って静華は、傍にいた巫女を呼び持たせていた額縁を受け取り、写真を彼等に見せた。
「……!?」
そこに写っていたのは、桜色の長い髪を耳下で結った女性が微笑みを浮かべていた。
「幸人、こいつ……」
「……どうなってんだ……
あの、遺体とかは?」
「ありません」
「え…何で?
偉い奴なら、遺体はそのまま保存してるって聞いたことが……」
「無いんです。
初代祓い屋の遺体は……」
「え?」
「話によりますと……
美優様は、妖怪と恋に落ち妊ったと言われています。その後、一番弟子に全てを与えその妖怪と共に消えたと……
それ以降消息不明となり、今どこで何を……いえ、どこで亡くなったかも分かりません」
「……」
写真を眺める紫苑……微笑む美優の写真に触れると、ある言葉が頭に過ぎった。
「……
ママ」
「?!」
「?!」
その時、額に刻まれていた雪の結晶の柱が一つ消えた。それと共に、紫苑の頭からまるで封じられていた蓋が開いたかのように、次々と記憶が蘇っていった。
『〇〇』
『ほら、おいで』
『大丈夫。パパはすぐ帰ってくるわ』
『〇〇、死んでもあなたの傍を離れないからね』
無意識に流れる涙……紫苑はフッと意識を失い、その場に倒れた。
『紫苑!』
傍にいた紅蓮は、慌てて紫苑に駆け寄り抱き上げた。その時、彼にも次々と記憶が蘇っていった。
『私はもう長くないわ……
〇〇をお願いね』
『勝手なことばかり、あなたに頼んでごめんなさい。
でも、今頼れるのはあなたしかいないの』
『……〇、ありがとう……傍にいてくれて』
流れる涙……紅蓮は、我に返るとその涙を袖で拭くが、収まる気配が無かった。
「紅蓮、大丈夫か?」
『分かんねぇ……何か、涙が止まらなくて』
「すいません、今日の所は帰ります」
「またいつでも来なさい」
紫苑を抱え、幸人は秋羅達と共に寺院を後にした。
夜中……ベッドで寝ていた紫苑は、スッと目を開け起きた。ベッドを降り、靴を片手に紫苑は部屋を出た。
外へ出ると、紫苑は寺院へ入った。誰にも気付かれずに中へ入り、ある部屋の戸を開けた。
そこは、美優の写真がある部屋だった。棚に置かれていた彼女の写真を、紫苑は触れた。
(……お前は、私のママなの?)
写真に触れながら、紫苑は棚から写真を下ろし床に寝そべった。次第に重い瞼を閉じ、そのまま眠ってしまった。
北西のとある場所にそびえ立つ木……
『?』
その木に登っていた地狐は、蕾を見付けた。
『……姉君!
蕾が出来てるよ!』
下にいた天狐は、すぐに木を登り地狐の隣へ行き蕾を見た。
『ほら』
『本当だ……』
『どういう事?
この木は、彼等がいなくなったと共に咲かなくなったのに』
『……戻ってくるのかもな』
『え?』
『このまま、この木を見てろ。
この木が無くなったら、彼等は帰る場所を失う』
『了解』
木から降りた天狐は、その場を離れある場所へ行った。そこは、蔦が絡まった木の柵で囲まれた二階建ての家だった。門を開け中へ入ると、天狐は戸を開け中に入った。
中は、棚から落ちた本が床に散乱していた。天狐は中を見回ると、チェストの上に置かれていた写真立てを見た。
(……いつ帰ってくる?
美麗……晃)
写真に写っていたのは、美優によく似た女性とぬらりひょんクローンによく似た男、その間に黒髪の少年と少年に抱かれた白髪の少女が笑っていた。