桜の奇跡 作:海苔弁
正確には、祓い屋かな。
怖い?全然。
私は、強いもの。妖怪は皆悪者だと言うけど、そうじゃない者もいる。
あなたもそうでしょ?私も……
一度、人なんて妖怪に滅ぼされちゃえばいいのよ。
そうすれば、差別なんて無いんだから……
森を歩く幸人一行……紫苑は、彼等を気にしながら紅蓮の背に乗り先を歩いていた。
「仮の名前が紫苑……へ~。結構良い名前じゃん」
「偽名がいくら良くとも、本名がな」
「見た感じ、『白』と書いて『ハク』って名前かもよ?」
「お前の髪が緑色だから、名前が翠って単純な名前じゃねぇだろう」
「人の名前馬鹿にしないでよ!!」
「騒ぐな、鬱陶しい」
坂の頂上へ、空から偵察していたエルは舞い降りると、紫苑の元へ駆け寄り、ある方向を見て鳴いた。
「どうした?何かあったか?」
「……何か、様子がおかしいみたい」
「え?」
「そういえば、この辺り確か初代祓い屋の式神がいるって噂があるわね」
「式神?」
「そう、式神。
本当かどうかは、分からないけど」
「……見てくる」
「え……危険だから、やめた方が良いよ!」
「前みたいに、怪我だったら町を襲ってきた理由が分かるかも知れない。
紅蓮、行こう」
紅蓮を走らせ、紫苑はエルと共に坂を下っていった。
「前みたいにって……何かあったの?」
「猿猴が人をさらった事件があって……調べに行ったら、仲間が怪我してただけでして」
「それを助けたって事か」
「まぁ」
「相変わらず、お人好しですね。先輩」
獣道を通り抜けると、そこには洞穴があった。紫苑は紅蓮から降りると、地面に落ちていた枝を拾いそこに火を点け、中を照らした。
『どうだ?何かあるか?』
「暗くてよく見えない。
幸人達呼んでくるから、エルと一緒にここにいて」
『……けど』
「すぐそこだし、近くに妖怪の気配は感じないから、平気だよ」
紅蓮の頭を撫でると、紫苑は獣道を戻っていった。
しばらくして、紫苑は幸人達を連れて洞穴へ戻ってきた。幸人は、紅蓮から松明を借りると、中を照らし見た。
「先輩、どうですか?」
「中を調べてくる。
お前等はここにいろ」
「分かった」
中へ入ろうとしたその時だった。
“ドーン”
突然、雷が鳴り響いた。すると、空ならポツポツと雨が降り出した。
「げっ!雨!」
「最悪~!」
「一旦中に入れ。
奥は俺が見てくるから、そこで大人しくしてろ」
「ヘーイ」
奥へ入って行く幸人を、秋羅は見送ると外を見た。激しく降る雨と共に、また激しく雷が鳴り響いた。
「凄い雷だな……?」
ゴロゴロと鳴り響く雷の音に、 紫苑は傍にいた紅蓮の胴に顔を少し埋めながら、外を見たが再び鳴った雷に身を縮込ませた。
「あ~らら……紫苑は森育ちだけど雷が苦手みたいだね」
「先生、一言余計です」
傍に駆け寄ってきた秋羅に、紫苑は大きな雷が鳴ったと同時に、飛び付いた。
怖がり震える紫苑を、彼は宥めるようにして撫でた。
「……何か、半妖って聞いてたからもっと妖怪みたいに活発な子かと思ってた」
「結構活発ですよ。
家にいる時なんか、近くの森に行って駆け回ってますから」
「そうは見えないけど……」
「秋羅!!来い!!」
奥から響く幸人の声に、秋羅は返事をしながら紫苑達と奥へ行った。
奥へ行くと、松明を立て何かに触れている幸人が見えた。彼が触れていたのは、長い尾と爪を持った傷だらけの獣だった。
「……幸人、それ」
「恐らく雷獣だ。
今外で鳴ってる雷は、こいつが鳴らしてるみたいだしな」
「……」
「酷い傷……何かあったんですか?」
「分からん。
ただ、中に何かが入ってる」
「何かって?」
「それを今から取り出す」
「そんなグロテスクな事を」
「嫌なら、出てけ」
「アーン!手伝うから、ここにいさせて下さい!」
二人が騒いでいる時、雷獣は閉じていた目をスッと開けた。そして、鼻を動かしながら力を振り絞り立ち上がろうとしたが、思うように力が入らず立ち上がることが出来なかった。
「傷口が開くぞ!」
「いきなりどうしたんだ?」
『……ジ』
「?」
何かを察した紫苑は、雷獣の元へ寄った。寄ってきた彼女に反応したのか、顔を上げて灰色の光の無い目を向けた。
(こいつ、目が……)
雷獣の頬を、紫苑は優しく撫でた。雷獣は気持ち良さそうに喉を鳴らすと、力が抜けたのか倒れてしまった。
「あ、おい!」
「グダグダ言ってる場合じゃ無い。
やるぞ」
「分かった」
「え~」
「先生、文句言わない」
数時間後……
手当てを終えた雷獣は再び目を開けた。軽く頭を振ると、雷獣は起き上がりふらつきながら、傍にいる紫苑に頭を擦り寄せた。
「治療した私達より、そっちなの?」
「そう言うな」
『……主等人間に、礼は言いたくは無い』
「っ……」
『何年振りか……主の妖気を感じるのは』
「主?」
『残念だが、お前が甘えてる奴はお前の主じゃない』
『……』
その言葉に、雷獣は紫苑の胸元に顔を突っ込み何かを取ろうとした。彼女は服の下に入れていた黒曜石を取り出し、それを雷獣に近付けさせた。
雷獣は黒曜石のにおいを嗅ぎ、そして紫苑の体を嗅いだ。
『……確かに、少し違うようだな。
すまぬ。あまりにも似ていた者だから、主が帰ってきたのだと思っていたが……勘違いか』
「主って、誰?」
『そこの寺院におった、女子だ』
「名前は?」
『弥勒院美優……
某の主であるお方だ』
「初代祓い屋を知っているのか?」
『無論だ』
「じ、じゃあ初代祓い屋が今どこで、何をしてるか知ってる?」
『それは分からない。
主は、この森の主となり妖怪達から人を守れと言って、某をここへ放った』
『それ、いつの話だ?』
『かれこれ、100年以上くらい前だ。
半妖でありながら、ある妖怪に恋をして妊った。ここでは無い場所で産むと言って、某をここへ放ち、妖怪と共に去って行った』
「半妖って……
初代祓い屋は、半妖だったの?」
『如何にも。
人と妖怪の間に産まれたが、あまり良い扱いをされなかったらしい。
父親であった妖怪から、酷い仕打ちを受けておった。
限界だったのだろう……母親は、美優の目の前で父親を殺しそして、自身も死んだ』
「そんな……」
「美優はここを離れて、どこに行くとか聞いてるか?」
『詳しくは聞いていない。
ただ、北に住んでいる友人の元へ行くと言っていた』
「……」
「ねぇ、子供妊ってたんだよね?
その子供って、今はどうしてるとか分かる?」
『某が知りたいくらいだ……
少し寝かせてくれ』
そう言うと、雷獣は傍にいた紫苑の膝に頭を置き、目を閉じ眠ってしまった。
人物紹介7
名前:木影翠(コカゲミドリ)
年齢:32歳
容姿:深い緑色の短髪。右目にある火傷の痕を隠すように前髪を垂らしている。目の色は青緑色。
低身長のため、周りから未成年に見られることがしょっちゅう。
名前:木影邦立(コカゲクニタツ)
年齢:16歳
容姿:緑色の髪。目の色は黒。
師である翠が低身長のため、周りから兄妹又は親子と間違われる。