桜の奇跡 作:海苔弁
「もう少し、美優の話聞きたかったのに」
「……翠、付き合え」
「え?」
「お前等は、ここに残ってろ」
「あ、はい」
「何か調べるのか?」
「まぁな」
「私、調べるよりこっちの方が」
「つべこべ言わずに、さっさと来い」
そう言われながら、翠は幸人に担がれそのまま洞穴から出て行った。何やら騒がしい声が遠退く中、その声に邦立は目頭を抑えて軽く溜息を吐いた。
降り続ける雨……その中を木々に身を隠しながら、洞穴に近寄る数人の者が歩み寄ってきていた。
その気配に、紅蓮は気付くと耳を澄ませながら、出入り口付近へ寄った。
「紅蓮、どうかしたか?」
『……外に人がいる』
「え?」
「先生達がじゃないのか?」
「違う。
別の人達(何だろう……凄く怖い)」
「外の様子見てくる」
槍を組み立て、秋羅は外を警戒しながら外へと出た。すると、人の気配を感じ取ったのか紫苑の膝で眠っていた雷獣が、カッと目を開き唸り声を出しながら立ち上がった。
『動くな!傷口開くぞ!』
『あいつ等だけは、追い出さなねば……
あの方を殺した、あいつ等は』
「あいつ等?」
『あの方って……』
“バーン”
「?!」
「銃声!?」
外から聞こえた銃声に、紫苑はすぐに駆け上がり外へ出た。
「秋羅!」
「紫苑、下がれ!!」
紫苑を後ろに、秋羅は槍を構えて立った。目の前にいるのは、妖討伐隊の制服を着た数人の兵隊達が銃を構えて、秋羅の前に立っていた。
「まだ中にもいたのか……
さぁ、そこを退いて貰おう」
「さっきも言いましたけど、俺等は依頼によりここにいます。
師達がいない今、ここを離れられません」
「話の分からないガキだな……我々は妖討伐隊だ。
討伐隊の命は絶対。とっとと、そこを離れろ」
「無理です」
「聞き分けのないガキだ」
指を鳴らすと、それを合図に銃弾が放たれ紫苑の腕を掠った。
「紫苑!!」
「離れろ。そこにいる雷獣を、我々は駆除しに来たのだ」
「雷獣はこの森の守り神だ。
駆除するなら、町を襲った妖怪の群れをやれ!!」
「貴様に命令される筋合いは無い!」
兵士の一人が銃口を向けたその時、中から紅蓮が唸り声を上げながら飛び出し、紫苑の元へ駆け寄りつつ、彼等を睨んだ。
「こ、黒狼!?」
「何故黒狼が、ここに?!」
『人間共が、この森に何用だ』
牙を向け口に、炎の玉を溜めた紅蓮の傍に紫苑は寄った。
「そ、その洞穴の中に妖怪がいると」
『いたらどうする?
仲間を殺した瞬間、貴様等を焼き殺すぞ』
「焼き……殺す」
怖じ気付いたのか、兵士達は構えていた銃を次々と下ろしていった。
「怯むな!!お前等、それでも妖討伐隊の一員か!?」
「し、しかし」
「何、人の弟子に攻撃してんだ?」
茂みから出て来た幸人と翠の姿に、隊員達は一斉に敬礼した。
「幸人……」
「銃声の音が聞こえたから、来てみれば……
陽介先輩は?」
「今回の討伐には、来ていません!」
「何だ……来てないのか」
「あいつも色々忙しいからなぁ。
今回の討伐は、俺等祓い屋がやると伝えておけ」
「し、しかしそれでは」
「私達がアンタ等の任務を、引き受けるから!
さぁ、帰った帰った!」
「は、はい!」
「では失礼します!」
敬礼すると、兵士達はその場を去っていった。彼等を見届けながら幸人は、秋羅達の元へ歩み寄り、紫苑の前でしゃがみ腕の傷を見た。
「人に銃口向けるなって……ったく」
「あいつ等、討伐隊だって言ってたけど」
「町からの依頼で、あの雷獣を退治しろとの命令が下ってる」
「退治って……あいつ、目ぇ見えないんだよ!
人に悪さなんて」
「しないことは百も承知だ。
あいつの攻撃は、町を襲いに来た妖怪の群れと自身の身の安全の二択」
「話してるところ申し訳ないけど、そろそろ日が暮れるから宿に戻った方が先決かと」
そうこうしている内に、雨雲が空を覆いポツポツと雨が降り出した。
「降ってきた……」
「宿に戻るぞ」
「あぁ。紫苑!行くぞ」
後ろにいた紫苑に秋羅は声を掛けながら、先行く幸人達の後をついて行った。紫苑は、洞穴から出て来たエルの嘴を撫でながら、紅蓮の方を見た。
『心配すんな。あいつは俺が見てる』
「うん」
『エル、紫苑のこと頼むぞ』
紅蓮の問いに、エルは鳴き声を放ち返事をした。エルを連れて、紫苑は秋羅達の後を追い駆けていった。残った紅蓮は、黒狼から人の姿になると洞穴の奥へ行き、眠っている雷獣の傍に座った。
夜……
雨が激しく降り続ける外を、秋羅は窓越しに眺めていた。
「よく降るなぁ」
「そういや、この辺り雨が頻繁に降るって、町の人が言ってな」
「フーン……?
幸人、何調べてんだ?」
資料を見ていた幸人に、秋羅は歩み寄り広げていた一部の資料を手にしながら質問した。
「弥勒院美優についての資料だ。
さっき、寺院に行って取り寄せて貰ってな」
「……なぁ幸人」
「?」
「この人、以前見たぬらりひょんの妻に似てないか?
「それは俺も思った。
残ってる資料によると、美優には兄弟(姉妹)はいなかったらしい」
「100年前の人だったら、丁度ぬらりひょんが生きていた頃」
「……恋した妖怪は、もしかしたらぬらりひょんかもな」
「え?」
鞄から出したファイルから、生前のぬらりひょんの写真と、以前見たぬらりひょんの妻の写真と、残っていた美優の写真を並べた。
「……似てる……というか、似過ぎだ」
「このぬらりひょんの妻と美優が、同一人物かどうか陽介に調べて貰う」
二枚の写真を手に、幸人は部屋を出ていった。
大事な人が亡くなる日は、いつも雨が降っていた……
祖母が死んだ時も……
あの人が亡くなった時も……
いつも雨が降っていた。
あの日は、晴れていた……だから、一緒に森へ行った。
けど、次第に雲行きが怪しくなって、それを知らせようとあの人の元へ行った。
だが、あの人は帰らぬ人になっていた……
なぜ……
なぜ……
僕がいながら、あの人は……
あの人の墓の前で、初めて怒りを覚えた。
そして、決意した……
何があっても、残った二人は僕が必ず守るって……
必ず、この手で……