桜の奇跡 作:海苔弁
「……?」
雷に混じり、何かが聞こえた……紫苑は、隣の部屋へ行き机に伏せ眠る幸人を起こした。
「?何だ……どうかしたか」
「森から銃声が……」
「あ?」
“ドーン”
「……雷に混じって、銃声が聞こえるな」
「紅蓮と雷獣が」
“ドーン”
突然窓前に、稲妻が落ち爆音を放ち地面を焦がした。幸人は窓を開け、下を見た。地面は一部が黒くなっており、ハッと森の方を見ると等間隔に稲妻が落ちていた。
「……雷獣に何かあったのか」
「先に森行ってる!」
「紫苑、待て!」
幸人の言葉を無視して、紫苑は宿を飛び出し小屋へ行くと起きていたエルを出し、飛び乗ると紅蓮達の元へ急いだ。
空へ飛びだった紫苑を見ると、幸人は秋羅達を叩き起こし着替えると、森の方へ向かった。
洞穴近くに降り立つエルから、紫苑は飛び降り洞穴を見た。付近には、昨日町を襲った妖怪の群れが集まっており、洞穴から出て来た雷獣と紅蓮は、襲撃してくる妖怪達を反撃していた。
「紅蓮!雷獣!」
小太刀を手に、紫苑は茂みから飛び出し襲ってくる妖怪達を次々と倒していった。二匹の元へ近付く、紫苑は雷獣の傍へ駆け寄った。
『紫苑、主は下がっておれ』
「でも、お前目が」
『平気だ。においと気配で敵がどこにいるか分かる』
「けど」
『紫苑!!後ろ!!』
飛び掛かろうとした妖怪を、紫苑は小太刀で突き刺し倒すと、雷獣を後ろに紅蓮と共に立った。
唸る妖怪達……先頭に立っていた妖怪が、咆哮を上げるとそれに釣られて、鳴き声を放った。
「な、何?」
『……!!
紫苑、紅蓮!下がれ!!』
“ドーン”
森中に響く爆発音……獣道を走っていた幸人達は、その音に足を止めた。
「な、何?今の爆発音」
「あっちの方から聞こえて……って、確かこの方向には雷獣の洞穴が」
「……紫苑!!紅蓮!!」
駆け出した秋羅と幸人に、翠達は慌てて二人を追い駆けた。
黒い煙が上がる洞穴付近……倒れていた紫苑は、目を覚まし起き上がった。
「……!
雷獣!」
傍で倒れていた雷獣の元に、紫苑は駆け寄った。微かに息がある雷獣に、一安心した彼女を後ろから何者かが拘束した。
「すっかり忘れていたよ。
見覚えがあるかと思ったら、大空大佐の資料にあった半妖の子供じゃないか。君」
「離して!!」
「暴れない暴れない。
君は、我々が保護し本部へ連れて行く」
「本部って……
嫌だ!!行きたくない!!」
嫌がる紫苑を、拘束していた兵士が押し倒した。それを見た紅蓮は、彼女を押し倒した兵士目掛けて襲い掛かった。
襲ってくる紅蓮に続いて、目を覚ました妖怪達が一斉に攻撃をしてきた。
「総員戦闘開始!!」
持っていた銃を兵士達は、襲い掛かってくる妖怪達に向け引き金を引いた。
放つ弾を妖怪達は次々と避けていき、兵士から銃を奪い押し倒すと、腕や足、顔を噛み付いていった。
「な、何故我々に攻撃して、半妖に攻撃しないんだ!?
資料には、半妖を攻撃すると書いてあった!」
『なら教えてやろう。
雷獣の野郎の主である、美優が帰ってきたんだからな!!』
妖怪達の声に、雷獣の目がカッと開き雷を起こしながら、立ち上がると咆哮を上げた。
鳴り響く雷は、雨の如く森に落ちた。雷に兵士達は、叫び声を上げながら逃げ回った。
丁度そこへ、幸人と秋羅が辿り着き目の当たりにした光景に驚いていた。
『主等を追い出すが為に、一演技していたが……こうも騙されるとは、驚きだ』
『貴様等の衣服を見るだけで、我等のボスを殺めた奴に似ておる』
「え?」
(討伐隊の中に、犯人がいるって事か……)
雷が鳴り止んだ隙に、地面に伏せていた紫苑は顔を上げ辺りを見回しながら、起き上がり立ち上がると紅蓮の元へ駆け寄ろうとした時だった。
“バーン”
「!!」
「紫苑!!」
放たれた銃弾は、紫苑の脚を貫き木の幹に当たっていた。倒れた彼女は、出血する脚の傷口を手で抑えた。
「攻撃中止しろ!!子供に当たってるんだぞ!!」
「ここで妖怪達を倒さねば、また被害が出るんだぞ!」
『主等が出て行けば、町に攻撃などせん!』
目の見えない雷獣は、討伐隊の方を向くと特大の雷を隊へ落とした。
凄まじい音と光線に、彼等は目を瞑った。
ゆっくりと目を開ける秋羅と幸人……討伐隊の方に目を向けると、それはいた。
雷の光に包まれた人影が、討伐隊と妖怪の間に立っていた。
「……幸人、あれって」
「……」
雷の光はやがて色を付けた……桜色の髪を耳下で結い、赤い目をした女性。
『あ、主……』
『……去りなさい。
ここは、雷獣達の住処……人が入ってはならない領域です』
「……」
『去りなさい。早く』
落雷に怖じ気付いた兵士達は、一斉に去って行った。残っていた隊長は、瞬時に脇差を抜き動けなくなっていた紫苑目掛けて投げた。
彼女に当たる寸前に、人の姿となった紅蓮が飛んできた脇差を払い止めた。脇差は、紫苑の足下の地面へ突き刺さった。
『……消えなさい。あなたは』
その声と共に、雷獣が放った雷が隊長の体に当たった。丸焦げになった隊長は、体から煙を上げてそのまま倒れ死んだ。
「す、凄え……」
「……」
二人が呆気に取られている間に、雨が止んだ。
女性は、振り返ると地面に座り込んでいた紫苑の元へ歩み寄った。
寄ると、女性はしゃがみそして、紫苑を抱き寄せた。涙ぐみながら、女性は紫苑の頭を撫でた。
『ずっと…傍にいたからね……』
「……
ママ?」
『そう……私はあなた達のママよ』
寄ってきた紅蓮を、女性は抱き寄せた。そして、頭を撫でながら、彼女は雷獣達の方を向いた。
『ありがとう……ここを守っていてくれて』
『美優の頼みを聞かない奴は、ここにはいない』
『目が見えずとも、主の顔は分かる』
『雷獣……』
寄ってきた雷獣の頭を、美優は撫でた。すると、彼女の体が徐々に消えだした。
『……時間ね』
「ママ、どっか行くの?」
『大丈夫。ずっと傍にいるわ』
そう言うと、美優は紫苑と紅蓮の額に軽くキスをした。
『雷獣、またこの地をお願いね』
『無論だ』
『皆も』
『あぁ』
『じゃあね。
姿が見えなくても、ずっと傍にいるからね……』
美優が言ったその名に、幸人達は驚いた。
立ち上がった美優は、光の粒となりその場から消え去った。天へ昇る光の粒を、紅蓮と紫苑は消えるまで眺めた。
「……紅蓮」
『?』
「ママが言った名前って、私達の名前なのかな」
『……さぁな』
『じゃあね。
姿が見えなくても、ずっと傍にいるからね……
みれい……ひかる』