桜の奇跡 作:海苔弁
宿の外で煙草を吸う幸人……すると宿から、翠が出て来た。
「あれ?
先輩、煙草止めたんじゃ」
「考え事すると、ついな」
「フーン」
「悪かったな。お前等の仕事奪っちゃまって」
「いいですよ!今回は、依頼料の半分貰えばそれで万事OK!」
「……相変わらず、明るいな」
「明るさだけが、取り柄なんで!
15年経ちますね……」
「……」
「あの当時、私まだ未熟だったからあんまり理解してなかったけど……
結構大変でしたよ。この火傷のせいで、先生が亡くなった後仕事が全く来なくなって……
あー!!暗くなる!
ダメダメ!暗くなっちゃ!」
「1人で何やってんだか……」
「そうだ!
ねぇ、紫苑は?」
「雷獣の所だ」
洞穴……
雷獣の胴に頭を乗せた紫苑は、眠っていた。起きていた雷獣は、彼女の頭を撫でるようにして、鼻を擦り寄せた。
『……傷の方は、平気みたいだな。
傷口は塞がってる……というか、傷痕が無い』
『自身の血を傷口に垂らすとは……美優にソックリだ』
『……なぁ、美優は本当に俺と紫苑の母親なのか?』
『さぁな……
しかし、半妖は不死身。美優とその子供が今生きていてもおかしくはない』
『不死身……』
『だが、不死身と言っても……致命傷を負ったり、病に掛かれば普通の人間と同じように、命は尽きる』
『じゃあ、重傷とかは平気って事か?』
『そうだな』
『……』
『……何を思い悩んでいる』
『美優が言った言葉……どうしても、気になって』
『……みれいとひかる。
これか?』
『……
俺と紫苑、ずっと森に住んでた。
だけど、最近思うんだ……俺、本当はこいつとは別の場所で暮らしてて、何だかの理由で一緒になったんじゃないかって』
『……某はそうは思わない』
『え?』
『主等は、ずっと昔から共にいたのだろう。
そして、それは今も変わらない』
『……』
『まぁ、主は以前とは違う姿のようだがな』
『違う姿?』
「紅蓮!」
洞穴に入ってきた秋羅は、ヒョッコリと顔を出しながら彼の名を呼んだ。
「そろそろ町出るぞ」
『分かった』
「紫苑のこと頼んだぞ」
『あぁ』
自身を睨む雷獣に怯え、秋羅はそそくさと洞穴を後にした。
『……睨まなくとも、あいつ等は平気だ』
『体に弾丸を入れられて以降、人を信用できなくなったんだ』
『……
目が見えないのに、よく人の気配とか分かるな?』
『気配とにおいだ』
『なるほどねぇ……』
「……」
話し声に紫苑は目を覚まし、眠い目を擦りながら起き上がった。
『起きたか』
「……」
『秋羅達が呼んでる。行くぞ』
「うん……
雷獣、また来るね」
『いつでも、某は主等のことを待っている』
雷獣の頭を撫で、紫苑は紅蓮と共に洞穴を出て行った。
見えないが、雷獣のその眼には二人の別の姿が映った。両脇に美優と彼女が恋をした妖怪、そしてその間に紫苑と人の姿になった紅蓮が手を繋ぎ歩いていた。
その光景に、雷獣は微笑を浮かべて二人を見送った。
汽車の中……
向かい座席に座る、幸人達。一人座っていた幸人は、席で横になり眠っており、向かいに座っていた秋羅も、手掛けに肘をつき頬杖をしながら、眠っていた。
彼の隣に座っていた紫苑は、壁に凭り掛かりながら窓の外をボーッと眺めていた。
「やれやれ……大口開けて、眠るとは全く警戒心無い男だ」
聞き覚えのある声に、紫苑は通路側を向いた。
そこにいたのは、私服姿の陽介だった。紫苑はすかさず、隣で眠っていた秋羅を起こした。
「……?どうかしたか?紫苑」
「あれ……」
「あれ?
……!?
よ、陽介さん!?」
一瞬にして目を覚ました秋羅は、立ち上がり彼を見た。
「な、何で?……」
「貴様等に会って貰いたい者がいてな」
「会って貰いたい?」
「そうだ……
それより、この馬鹿を早く起こせ」
大口開けて眠る幸人に、紫苑は飛び乗った。飛び乗った衝撃で、幸人は苦しみ声を上げながら、紫苑の頭に手を置き上半身を起こした。
「幸人、起きたか?」
「こ、この……起こし方…は……やめ…ろ」
「他の起こし方だと絶対起きないから、これで起こせって、暗輝言ってたよ」
「それ、俺も聞いたことあるぞ」
「こいつは、俺等の中でかなりの朝寝坊だったから、今の後輩達が飛び乗って、起こしてたんだ」
「朝弱いのは、昔からなのか……」
「……って、何でテメェがここにいんだよ!?」
「反応遅過ぎだ」
起きた幸人は、紫苑を抱き上げると秋羅に渡し、座席に座り直した。
「監察官?何でまた」
汽車に乗る前に買った昼食を食べながら、幸人は陽介の話を聞いた。
「お前は知らないと思うが、一週間後の議会に紫苑を連れて来いと、元帥から命令が下った」
「……ハァ!?」
突然の大声に、秋羅は飲んでいたお茶を吹き出し掛けた。
「何でまた!」
「元帥が直々に、彼女をこの目で見たいんだと」
「うわぁ……面倒臭そう」
「言っとくが、弟子達も来るようにとのことだ」
「え?俺も?」
「あと、変人双子もらしい」
「暗輝と水輝もかよ……」
「けど、何でその議会の前に、紫苑を監察官に見せるんですか?」
「監察官がかなりのご老体で、本部まで来るのが少々辛くてな。
だから、本部へ連れて行く前に、あの人に会わせたいんだ」
「監察官は、何で紫苑なんかに会いたいんですか?」
「俺が保護された紫苑のことを話したら、すぐにでも会いたいと血相かいてな」
「血相かいてって……」
「そういや、昔話してくれたな……
本部に、小さな子供がいて祖母さんと面倒を見ていたって」
「小さな子供?」
「……」
小さな子供……
その言葉に反応した紫苑は、顔を陽介の方に向けた。彼の顔に一瞬、女性の顔が重なって見えた。
「……」
『必ず、〇の所へ返すから。約束する』
『またいつか、会おうね』
不意に聞こえる女性の声……紫苑は、過ぎていく窓の外を眺めた。
とある屋敷の庭……
咲き誇る色とりどりの草花に、その屋敷の主であろう老人が水を撒いていた。
「曾祖父ちゃん!先輩、友達と合流したって!」
「おぉ、そうか」
「曾祖父ちゃん、また庭の手入れ?
昨日もやってたじゃん」
「手入れは毎日じゃ。
スマンが、そこにある鋏と籠取ってくれ」
「ハーイ……何か採るの?」
「ようやく実ったからのぉ。
林檎が。これで林檎パイが作れるわい」
「林檎パイ……(本当、乙女チック)」