桜の奇跡 作:海苔弁
「曾祖父ちゃん、ボケた?」
「ボケとらん!!
間違いない。この赤い目と白髪」
「曾祖父ちゃんだって白髪じゃん」
頭をぶつ鈍い音が、部屋に響き渡った。大きなタンコブを頭に作った梗介は、机に頭を伏せタンコブを手で抑えた。
「余計なこと言うからじゃ。
全く、調子こいた口の利き方は息子ソックリじゃ」
「祖父ちゃんは、この性格は曾祖父ちゃんに似たって言ってたよ」
「口答えするでない!!
で、どこまで話したっけ?」
「監察官が面倒を見ていた子が、赤い目と白髪だと」
「おぉ、そうだったそうだった。
儂がこの子の面倒を見ておったのは、入隊してから2年くらい経った頃だった」
自身が作った林檎パイを頬張る紫苑の頭を、蘭丸は撫でた。紫苑はそんな彼をお構いなしに、パイの次に剥かれていた林檎を食べた。
「よく食べるなぁ」
「紫苑の奴、林檎が好物みたいだからな。
家で林檎買うけど、すぐに無くなっちまう」
「昔と変わらぬな。
林檎が大好きで、よく話しておったわい。
森に生えてる林檎の木から林檎を採って、よく両親と晃さんの4人で林檎パイを作ったと」
「……今、何て?」
「4人で林檎パイを作ったと」
「その前」
「?
両親と晃さんの4人で林檎パイを作ったと」
「ひかる……幸人」
「その晃って方は、何者なんですか?」
「初代妖怪博士と言われておる男がおるじゃろ?
名は夜山晃。そいつじゃ」
「夜山晃……」
「あの妖怪博士に、家族いたんですか?」
「少々ややこしい話じゃ」
「……」
「美麗は、元々半妖と妖怪の間に産まれた子じゃった」
「みれいって?」
「……主等には、話しても良いじゃろう。
100年前、討伐隊が保護した……いや、無理矢理連れて来られた妖怪界の総大将・ぬらりひょんの子供。
その子の名が、美麗(ミレイ)……
夜山美麗(ヨヤマミレイ)と言う名じゃ」
「夜山……」
「美麗……」
「美麗と晃って、どういう人なの?」
林檎を食べながら、紫苑は蘭丸の方を向きながら質問した。
「晃さんについては、主等の曾祖母から話を聞いていただけで、どういう人だったかは何も」
「……」
「じゃあ、その美麗という子は?」
「本部に来た頃は、超がつくほどの暴れ様で……
儂の同僚と二つ上の先輩が、手と腕に凍傷を負ったと聞いた。
中へ入っても、大暴れして数名に噛み付いて怪我を負った。仕方なく、研究員は地下の西洋妖怪を閉じ込めておった牢屋へ、美麗を入れた。
それから数ヶ月後に、顔見知りである先輩……大空天花(オオゾラテンカ)さんが、彼女を迎えに行き、宥めながら自身の部屋に連れて行った」
「何で、天花って人には懐いてたんですか?」
「先輩は、晃さんの昔馴染みで親御さんが亡くなってから、ずっと気にしておった……
美麗の両親が亡くなった後も、まだ幼い彼女と晃さんを心配して、入隊した後ずっと気に掛けて家に通っておったんじゃ」
「彼女の両親は、何で死んだんだ?」
「確か……
まだ2歳の時に、父親であるぬらりひょんが上層部の手により、殺されてしまった」
「上層部の手によりって……」
「儂も詳しくは知らんが、何でも研究所の責任者がぬらりひょんを殺し、自身の研究所へ持って行ったと聞いておる。
彼が死んだことにより、妖怪界の秩序は乱れ妖怪達は暴れ出すようになり、最終的には人を襲うようになった」
「……」
「ぬらりひょんが亡くなってから1年後に、今度は母親が後を追うようにして、病気で亡くなった」
「母親が病気で……?
幸人、確か」
「言うな」
「?何じゃ?」
「あ、いやぁ……その……」
言い辛くする秋羅を見たのか、外で眠っていたエルは鳴き声を上げ、紫苑を呼んだ。
紫苑は、林檎を一つ手に取ると蘭丸の膝から降り、エルの元へ駆け寄りその場を離れた。
「……何つー、気の利くグリフォン」
「紫苑いなくなったんだから、とっとと言え」
「偉そうに命令するな。
紫苑が闇市の奴等に捕まったのは、北西の森。
紫苑は目が覚めたら、その森に住んでいたという状態だった」
「目が覚めたら?
どういう事じゃ?」
「一緒に暮らし、彼女の面倒を見ていた妖狐が言うには……
大きな町と二つの小さな村を滅ぼし、そこに住む人々を一人残らず殺したと。
その罪により、彼女は目が覚める前の記憶を封じたと」
「……」
「紫苑の父親は分かりませんが、母親は先程話した美麗の母親と同じく……病気で」
「父親は分からないとは、どういう事だ」
「妖狐が詳しく話してくれなかったんだよ。
事故で死んだとしか」
「本当か?
貴様は、大事な話の最中いつも寝ているから、信用できん」
「大事な話は起きてる」
「どうだか」
「テメェ……」
「弟子の前で、くだらん喧嘩をするでない!!」
「っ」
「っ」
「全く、いい歳をして」
(100歳超えの爺さんに、何怒られてんだか)
「なぁ曾祖父ちゃん。
その美麗って子は、今どうしてんの?」
「……
知らん」
「へ?」
「そんな昔のこと、忘れたわい」
「えぇ!!そりゃあ無いぜ!
本当は覚えてんだろ?曾祖父ちゃん!」
「覚えとらんことは覚えとらん!」
そう言って立ち上がった蘭丸は、テラスから庭へ出て行き、丁度空の散歩から帰ってきたエルの元へ行った。
自身に歩み寄ってくる蘭丸に、エルは甘えるようにして頭を彼に擦り寄せた。
「……エルが懐いてる。
何で?」
「そうじゃ……
言い忘れおったが、このグリフォン……100年前に本部の地下から脱走した、西洋妖怪の一匹じゃ」
「……ハァ!?」
「思い出すのぉ。
美麗は、良く地下に遊びに行ってはこのグリフォンを連れて、本部内にある園庭に連れて、飛び回っておったわい」
「エルの奴、そんな昔から生きてたのかよ」
「……紫苑がぬらりひょんの子供・美麗だとしたら、あいつに懐いて当然だな」
「じゃあ、紫苑の本当の名前は」
「確証は無いが……
恐らく、美麗だろう。
どういう訳か、本部から脱出後人々を殺しそして、妖狐達の力により記憶を封じられ、100年の眠りに付いた……
そんなところだろう」
「……」
人物紹介8
名前:雨宮蘭丸(アマミヤランマル)
年齢:128歳
容姿:長い白髪を耳下で結っている(若い頃は黒髪)。目の色は黒。
100歳超えとは思えないほどの、筋肉体。昔は妖討伐隊に入隊しており、数々の功績を残しその後引退した。現在は討伐隊の監察官をしている。
名前:雨宮梗介(アマミヤキョウスケ)
年齢:22歳
容姿:黒い癖っ毛を結い、いつも帽子を被っている。目の色は茶色。
蘭丸の曾孫。入隊したばかりでよくミスをする。今は見張り台として、陽介の下に就いている。