桜の奇跡   作:海苔弁

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夕方……


夕飯を食べ終えた紫苑は、ソファーの上で蘭丸の膝に頭を乗せて眠っていた。


「うわぁ…寝ちゃってるよ」

「昼間あれだけ遊んだからな」

「それに、数日も汽車に乗ってるんだ」

「まぁ、明日また長期間汽車に乗るがな」

「またかよ」

「乗りたくねぇ……」

「安心しろ。

ファーストクラスの席を用意した」

「わー、ありがてー」

「喜びの他に何か、悔しさも含まれているような気が」

「何じゃ?どっか行くのか?」

「本部で祓い屋の会議があって、そこで紫苑を元帥に会わせるんだよ」

「紫苑を本部へ連れて行くのか?」

「えぇ。

一応、他の祓い屋達にも彼女の存在を知って頂いた方がいいかと思いまして」

「祓い屋つっても、もう何人かは会ってんだよな」

「他会ってない人って、いるんですか?」

「外国の方で、祓い屋を努めている者が2名いて、その者達はまだ」

「まぁ、そいつ等も変人だからな」

「祓い屋って、変人の集まりなの?」

「……その会議、儂も行く」

「え?」

「陽介、元帥に連絡を入れておけ。

今回の会議、監察官も伺うと」

「勝手に決めていいのかよ!?」

「何故、監察官が行ってはいけないんじゃ?」

「いけなくは無いけど……」

「決まりじゃ」


妖討伐隊の本部

北東の海辺の町。町から少し行った先に橋が架かっており、その向こうには石の壁と巨大な要塞がそびえ建っていた。

 

 

 

数日汽車に揺られ、その町にやって来た幸人達は途中で会った暗輝達と共に、町のホテルで部屋を借り荷物を置いた。

 

 

「ったく、何でまたスーツなんだよ」

 

「お前みたいに、だらしない奴がいるからだ」

 

「うっ……」

 

(言われてやんの)

 

「文句言ってねぇで、とっとと着替えろ」

 

「お前はいいじゃねぇか。

 

着慣れた制服着ればいいんだからよ」

 

「貴様も、討伐隊に残っていれば、制服は着続けたぞ」

 

「誰が残るか。

 

あんな鎖で雁字搦めた所なんかに」

 

「……え?

 

幸人って、討伐隊の人だったの?」

 

「数年だけ。

 

その後、すぐに辞めたよ」

 

「その理由は」

 

「遅刻多過ぎたって話だ」

 

「自分から辞表届けだしたんだよ!」

 

 

ネクタイを締めながら、幸人達は部屋から出た。すると同じように、部屋から出てきた二組の客がいた。

 

 

「……おや?幸ひ」

「ユッキー!久し振り!」

 

「何でテメェ等がここにいるんだよ」

 

「葵さん、迦楼羅さん、お久し振りです」

 

「久し振り、秋羅」

 

「祓い屋は皆、このホテルに泊まることになっている」

 

「帰っていい?」

 

「何でそういう言い方するの!?」

 

「葵はともかく、テメェといたくないんだよ!」

 

「酷っ!!」

 

 

話ながら階段を降りていくと、ロビーには先に着替え終えた水輝が保奈美と先日会った翠が話していた。

 

 

「あら?幸人、あなたも来ていたんですね」

 

「こいつ(陽介)と来たからな」

 

「数日振りですね!先輩!」

 

「何だ?チビだから、ガキの制服着てくるんだと思ってた」

 

「迦楼羅先輩!!言って良い事と悪い事がありますよ!!」

 

「あれ?紫苑は?」

 

「シーちゃんなら、監察官と一緒に小屋にいるエルの所に行ってるよ」

 

「紫苑の奴、相当監察官のこと気に入ったみたいだな」

 

「まぁ、記憶が無くとも感覚と気持ちが落ち着くんだろうよ」

 

「落ち着くって?」

 

「どういう事?」

 

「追々話す」

 

 

 

 

ホテルの外にある、小屋の前で紫苑は中々檻に入らないエルの嘴を撫でていた。

 

 

「やれやれ。

 

檻に入りたがらないのは、昔からじゃな」

 

「家にいる時は、素直に入るよ」

 

「知っている場所じゃったり、信頼できる者がおれば、素直に入るんじゃ」

 

 

「曾祖父ちゃん!そろそろ行くぞー!」

 

「すぐ行く!」

 

「紅蓮、エルのことお願い」

 

『分かった』

 

 

手綱を紅蓮に渡し、紫苑は蘭丸と共に小屋を出た。エルは鳴き声を上げて、彼女を追い駆けようとし、その行為を紅蓮は止めた。

 

 

『すぐ帰ってくるから。大丈夫だ』

 

 

 

『ダメ……あそこへ行っては……』

 

 

 

『?』

 

 

どこからか聞こえた声に、紅蓮は辺りを見回した。小屋にいるのはエルと、檻の中に入った馬達と自分だけだった。

 

 

(……何だ?今の声……)

 

 

 

潮風が心地良く吹いた……門前で陽介達が話をしている最中、紫苑は奈々と共に橋の縁から身を乗り出し、海を見ていた。

 

 

「高ーい!

 

あ!船!

 

 

何か獲りに行くのかな?」

 

「魚じゃない?」

 

「そうかな?」

 

「あんまり乗り出すと、海に落ちるよ」

 

「平気!平気!」

 

 

そう言いながら、前のめりになった時手が滑り、奈々は縁から真っ逆様に落ちた。

 

傍にいた紫苑は、小太刀を橋の縁へ刺し彼女の足を掴み宙吊りになった。

 

 

いち早く2人の異変に気付いたのか、蘭丸は橋の縁の方を向いた。

 

 

「……紫苑?」

 

「蘭丸さん、どうかしました?」

 

「2人がおらん」

 

「え?

 

本当だ……」

 

「縁の方を見てくる」

 

「あ、俺も」

 

 

二人がいた場所へ行き、身を乗り出し下を見ると、橋の縁に小太刀を刺しそこに宙吊りになった紫苑と奈々がいた。

 

 

「紫苑!!奈々!!」

 

 

秋羅が呼び叫んだ直後、蘭丸は縁に手を掛け下へ降りると、紫苑の手首を掴み力任せに持ち上げ橋の上にいる秋羅に手渡した。

 

紫苑を地面に置くと、次に奈々を持ち上げ降ろした。

 

 

奈々の泣き声に、保奈美達は何事かと橋の縁へ駆け寄った。寄ってきた保奈美に、奈々は泣きながら抱き着いた。

 

 

「何があったんだ?」

 

「橋から落ち掛けたんだよ(重かったぁ……)」

 

「怪我は?!」

 

「見た所、怪我無いみたいです」

 

「全く、危機感のない子供じゃ」

 

「すみません……」

 

「あれ?曾祖父ちゃん、どこ行くんだ?」

 

「柱に刺さっておる、紫苑の小太刀を取りに行くだけじゃ」

 

 

そう言って、蘭丸は下へ降り刺さっている小太刀を抜き取った。

 

 

「……?

 

(この小太刀……

 

 

そうか……やはり、主が持っていたのか……

 

 

大将、ずっと傍にいたんですな……)」

 

 

小太刀を手に、縁を登り地面に降りると小太刀を紫苑に返した。

 

 

入城の許可を取れた幸人達は、中へと入った。

 

紫苑が最後に、中へ入った時だった……

 

 

『離して!!

 

帰るの!!帰るの!!』

 

 

どこからか聞こえた悲痛な叫び声に、紫苑は振り返り閉まっていく門を見た。

 

 

(……ここ……

 

 

何で……何で、こんなに胸が苦しいんだろう……)

 

 

「紫苑」

 

 

呼ばれた声に、紫苑はハッとし振り返った。そこにいたのは、蘭丸だった。

 

 

「どうかしたか?」

 

「……分かんないけど……

 

ここに来ちゃ、いけなかったような気がする」

 

「……大丈夫じゃ。

 

幸人達がおるんだから」

 

「……」

 

「さぁ、行こう」

 

 

差し伸ばし手を、紫苑は握り閉まった門を気にしながら、歩いて行った。




現在の祓い屋状況。


月影(ツキカゲ)……月影幸人。月影秋羅。

火影(ヒカゲ)……火影迦楼羅。火影火那瑪。

水影(ミズカゲ)……水影葵。水影時雨。

木影(コカゲ)……木影翠。木影邦立。

金影(カネカゲ)……金影保奈美。金影奈々。

土影(ツチカゲ)……土影創一郞。土影敬。

海影(ウミカゲ)……海影マリウス。海影アリサ。

紅影(ベニカゲ)……紅影花琳。紅影梨白。
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