桜の奇跡 作:海苔弁
見えた渡り廊下に、梗介は安堵の溜息を吐き駆け出そうとした時だった。
“ドーン”
突然渡り廊下の屋根が壊れた……土煙からムクッと起き上がる妖怪に、彼等は素早く武器を構えた。
土煙から姿を現したのは、右腕が鋭い鎌のような物が生え伸びた、葵だった。
「あ、葵さん!?」
「師匠!!」
「な、何で?!」
考えている内に、葵は咆哮を上げると手に妖力を溜め、それを敬達目掛けて投げ飛ばした。彼等は素早く避けると、各々の攻撃を放った。
だが、彼等の攻撃は全て弾き返され、その攻撃と共に妖怪化した葵は、時雨目掛けて鋭い鎌を振り下ろしてきた。
「師匠!!」
「どうなってるんだ……
何で、葵さんが妖怪に……」
「だぁー!!頭が混乱するぅー!!」
「皆は先に行って!
師匠は何とかここで、食い止めるから!」
「だとさ、兵士さん」
「そ、そそ、それ、それじゃあ……行」
「危ない!!」
向こうの廊下から、放たれてきた妖力玉にいち早く気付いた火那瑪は、梗介を押し倒し避けさせた。
前を向くと、そこにいたのは妖怪化した保奈美、創一郞、翠、迦楼羅の四人だった。
「先生!?」
「ママ!!」
「どうなってんだよ!!一体!」
「同じ質問をいちいちするな!!」
「先輩~!!
どこに行ったんですか~!!」
園庭へ向かう秋羅達……
その時、どこからか激しい銃声が響いてきた。
「自棄に騒がしいわね」
「……凄まじい妖気が、漂っている」
(……この妖気、どこかで……)
その時、壁が破壊され中から銃を持った陽介が転がり出てきた。
「陽介さん!?何で……!!」
壁から出て来る、一匹の妖怪……竜のような容姿に翼を動かし、二本脚でそこに立っていた。
「妖怪……」
「……幸…人?」
そう呟く秋羅の声に、その妖怪は鳴き声を発した。秋羅は構えていた槍を降ろし、歩み寄ろうとした。次の瞬間、妖怪は口から妖力の光線を吐き出した。
「月影!」
すぐに避けようとしなかった秋羅を、梨白は襟を引っ張り光線を避けさせた。光線をは石壁を突き破り海を真っ二つに割りながら、近くの無人島の山を破壊した。
「凄い威力……」
「貴様等、早く逃げろ!!」
「逃げろって言われても……!?」
突如アリサの背後から、何者かの攻撃が通過した。すぐに振り返ると、そこには左腕が変形したマリウスと、右脚から鋭い鎌を生やした花琳が、立っていた。
「……せ、先生……」
「先生……」
「下がれ!貴様等には、まだ早い!」
襲ってきた三頭に、陽介は容赦なく銃弾を放った。
「陽介さん!これって」
「さっき聞こえた雄叫びに共鳴して、幸人含む祓い屋全員が妖怪化した!」
「全員が……」
「妖怪化……」
「な、何でそんな事が!?」
「他の部下からの情報だと、ぬらりひょんのクローンが、園庭に現れたらしい。
そこへ向かう途中、この様だ」
「園庭って……
紫苑達は?!」
「分からん。
ましてや、無事かどうかも」
「……」
「敵は三体……
アリサ」
「分かっているわ。
秋羅、ここは私達が食い止めますから、先に行って下さい」
「え?けど」
「とっとと行け」
後ろへ下がり、先に行こうとした瞬間、妖怪化した幸人が飛び彼の前に立ち道を塞いだ。
「……やはりか……
幸人もだが、他の奴等も全く俺等に興味を示さず、代わりに自身の弟子達にはああやって、興味を示している」
「他の奴等って……」
「暗輝達からの連絡で、去って行く奴等を追い駆けたら、合流地点である渡り廊下にいた弟子達を襲ったらしい」
「……」
唸り声を上げ、秋羅を睨む幸人……咆哮を上げると、幸人は手に妖気を纏い、地面を蹴り秋羅目掛けて拳を振るった。
自身に当たる寸前に、秋羅は槍で受け止め踏ん張り幸人を見つめた。
「……目ぇ、覚ましやがれ!!馬鹿師匠!!」
手に気孔を溜めると、秋羅はそれを幸人の脇腹に当て攻撃した。もろに食らった彼は、脇腹を手で抑えながら鳴き声を発すと、鋭く尖った爪で秋羅の腕を刺した。
刺してきた爪を掴み、秋羅は幸人の肩に槍を突き刺した。
「秋ちゃーん!!幸くーん!!」
その声と共に、何かが幸人の首に突き刺さった。彼は項垂れる様にして、秋羅の前で倒れた。
「何とか間に合った!」
「だ、大地さん!?(何か、秋ちゃんって呼ばれた気が……)」
「薬効いて良かった!効かなかったら、どうしようかと思った!」
「薬って……」
「特性麻酔薬!
暗輝達にも渡したから、多分今頃は……」
「はぁ……」
「しっかし、まさか15年前の事故の後遺症がここで発動するとは」
「15年前の事故?」
「あれ?聞いてない?
幸君初めとする、祓い屋全員は15年前ある実験台になって貰ったの。
懐かしいなぁ!その当時、暗輝も水輝も一緒にいてさぁ!」
「ちょっと待って下さい!
え?水輝さん達、本部の人だったんですか?」
「そうだよ。
元、ここの研究員。かなりの優秀な人材でね!
以前の所長がまだ生きてたら、二人共やめなかったはずよ」
「以前の所長って……」
「二人の実のお父さん!
育てられないからって、二人は施設で育ったけど……何か、見るからに仲の良い親子って感じだったわね!」
「……」
楽しそうに話す大地の声が、段々と聞こえなくなっていった秋羅は、眠っている幸人を見つめた。
(実験台って……)
「でも、あの子は残念だったわね」
「あの子?」
「幸君のガールフレンド!
そんで、今はもう亡き祓い屋の一人……」
言い掛けた瞬間、背後から陽介が彼の頭に踵落としを食らわせた。
「全く、お喋りインコが」
「……」
「秋羅」
「?」
「詳しい話は、幸人本人から聞くといい。
今回のことで、もう話してくれるだろう」
「……俺、幸人のこと何も」
「勘違いするな
彼は、余計な心配を掛けたくなかったんだ……だから、何も言わなかった。それだけだ」
「……」
「さぁ、合流地点へ行こう。
大地、さっさと起きろ」
「……陽君、相変わらず……容赦ない」
頭を抑え、千鳥足で大地は花琳を担いだ陽介の後をついて行った。
後ろからマリウスを支え、アリサと共に梨白が歩き、彼等に続いて秋羅は槍をケースにしまい、幸人を支え歩いて行った。
その頃、梗介達は水輝と暗輝が放った麻酔針のおかげで、戦闘は終わっていた。
「し、死ぬかと思った……」
「先生、相変わらず手加減してくれない……」
「師匠達、何で妖怪になったんですか?」
「あ~、こっちもか」
「まぁ……
説明は後で」
「……」
「……!
先輩!」
立ち上がった梗介の目の先には、幸人達を担ぐ陽介達がいた。
「よぉ!無事か」
「当たり前だ。
貴様等とは、鍛え方が違う」
「ヘイヘイ……」
“ドーン”
「!?
な、何だ!?」
「……!?
先輩、あれ!!」
窓の外から見える、硝子を突き破り天へと伸びた氷の柱……
「何だ、あれは……」
「あそこって、確か園庭がある場所じゃ」
次の瞬間、秋羅は駆け出した。彼に続いて、陽介も駆け出した。
「先輩!?どこ行くんですか!?」
「そこで待機してろ!!」
「え?!」
『ったく、何で俺等が実験台になんなきゃいけねぇんだよ』
『だって、所長がそう言うから』
『所長中心の生活か?この研究所は』
『実際は、奏歌君中心だよ。
私は、彼女の実験を中心に動いているだけだから』
『しょ、所長!?』
『久し振りだね。幸人君、創一郞君』
『お久し振りです』
『相変わらず、お元気そうで』
『全然元気じゃないよ。
そろそろガタがきてね』
『何言ってんだよ!親父!』
『さっきまで、脱走した獣妖怪を追い駆けてたくせに』
『暗輝、水輝、少し黙ってて』
『ヘーイ』
『ハーイ』
『久し振りに、お父さんと研究できるから、嬉しいのよね?』
『べ、別にそんなんじゃ!』
『保奈美、からかうな!』
『ハイハイ』
『モテモテだな、親父さん』
『アハハハ……』
『幸人ー!』
『うわっ!』
『動物みてぇに、毎回飛び付くな。愛』
『そして、その被害に遭う幸人も、毎回無防備だね』
『飛び付くな!毎度毎度!!』
『いいじゃん!別に~!
祓い屋になってから、幸人全然会ってくれないんだもん!』
『仕方ねぇだろ。仕事があるんだから』
『月影って、結構依頼来てるわよね?
師匠から聞いたけど』
『月影が、厄介な依頼を受けるから依頼しやすいんだと』
『あのクソ爺のせいで、何度死にかけたことか』
『えー!幸人、死んじゃ嫌!』
『死なねぇよ』
『そうそう。
今回の実験は、死人は出ないから』
死人は……
出ないから……