桜の奇跡   作:海苔弁

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場内を歩く梗介達……

見えた渡り廊下に、梗介は安堵の溜息を吐き駆け出そうとした時だった。


“ドーン”


突然渡り廊下の屋根が壊れた……土煙からムクッと起き上がる妖怪に、彼等は素早く武器を構えた。


土煙から姿を現したのは、右腕が鋭い鎌のような物が生え伸びた、葵だった。


「あ、葵さん!?」
「師匠!!」

「な、何で?!」


考えている内に、葵は咆哮を上げると手に妖力を溜め、それを敬達目掛けて投げ飛ばした。彼等は素早く避けると、各々の攻撃を放った。

だが、彼等の攻撃は全て弾き返され、その攻撃と共に妖怪化した葵は、時雨目掛けて鋭い鎌を振り下ろしてきた。


「師匠!!」

「どうなってるんだ……

何で、葵さんが妖怪に……」

「だぁー!!頭が混乱するぅー!!」

「皆は先に行って!

師匠は何とかここで、食い止めるから!」

「だとさ、兵士さん」

「そ、そそ、それ、それじゃあ……行」
「危ない!!」


向こうの廊下から、放たれてきた妖力玉にいち早く気付いた火那瑪は、梗介を押し倒し避けさせた。


前を向くと、そこにいたのは妖怪化した保奈美、創一郞、翠、迦楼羅の四人だった。


「先生!?」
「ママ!!」

「どうなってんだよ!!一体!」

「同じ質問をいちいちするな!!」

「先輩~!!

どこに行ったんですか~!!」


15年前の事故

園庭へ向かう秋羅達……

 

 

その時、どこからか激しい銃声が響いてきた。

 

 

「自棄に騒がしいわね」

 

「……凄まじい妖気が、漂っている」

 

(……この妖気、どこかで……)

 

 

その時、壁が破壊され中から銃を持った陽介が転がり出てきた。

 

 

「陽介さん!?何で……!!」

 

 

壁から出て来る、一匹の妖怪……竜のような容姿に翼を動かし、二本脚でそこに立っていた。

 

 

「妖怪……」

 

「……幸…人?」

 

 

そう呟く秋羅の声に、その妖怪は鳴き声を発した。秋羅は構えていた槍を降ろし、歩み寄ろうとした。次の瞬間、妖怪は口から妖力の光線を吐き出した。

 

 

「月影!」

 

 

すぐに避けようとしなかった秋羅を、梨白は襟を引っ張り光線を避けさせた。光線をは石壁を突き破り海を真っ二つに割りながら、近くの無人島の山を破壊した。

 

 

「凄い威力……」

 

「貴様等、早く逃げろ!!」

 

「逃げろって言われても……!?」

 

 

突如アリサの背後から、何者かの攻撃が通過した。すぐに振り返ると、そこには左腕が変形したマリウスと、右脚から鋭い鎌を生やした花琳が、立っていた。

 

 

「……せ、先生……」

「先生……」

 

「下がれ!貴様等には、まだ早い!」

 

 

襲ってきた三頭に、陽介は容赦なく銃弾を放った。

 

 

「陽介さん!これって」

 

「さっき聞こえた雄叫びに共鳴して、幸人含む祓い屋全員が妖怪化した!」

 

「全員が……」

 

「妖怪化……」

 

「な、何でそんな事が!?」

 

「他の部下からの情報だと、ぬらりひょんのクローンが、園庭に現れたらしい。

 

そこへ向かう途中、この様だ」

 

「園庭って……

 

紫苑達は?!」

 

「分からん。

 

ましてや、無事かどうかも」

 

「……」

 

「敵は三体……

 

アリサ」

 

「分かっているわ。

 

秋羅、ここは私達が食い止めますから、先に行って下さい」

 

「え?けど」

 

「とっとと行け」

 

 

後ろへ下がり、先に行こうとした瞬間、妖怪化した幸人が飛び彼の前に立ち道を塞いだ。

 

 

「……やはりか……

 

 

幸人もだが、他の奴等も全く俺等に興味を示さず、代わりに自身の弟子達にはああやって、興味を示している」

 

「他の奴等って……」

 

「暗輝達からの連絡で、去って行く奴等を追い駆けたら、合流地点である渡り廊下にいた弟子達を襲ったらしい」

 

「……」

 

 

唸り声を上げ、秋羅を睨む幸人……咆哮を上げると、幸人は手に妖気を纏い、地面を蹴り秋羅目掛けて拳を振るった。

 

自身に当たる寸前に、秋羅は槍で受け止め踏ん張り幸人を見つめた。

 

 

「……目ぇ、覚ましやがれ!!馬鹿師匠!!」

 

 

手に気孔を溜めると、秋羅はそれを幸人の脇腹に当て攻撃した。もろに食らった彼は、脇腹を手で抑えながら鳴き声を発すと、鋭く尖った爪で秋羅の腕を刺した。

 

刺してきた爪を掴み、秋羅は幸人の肩に槍を突き刺した。

 

 

「秋ちゃーん!!幸くーん!!」

 

 

その声と共に、何かが幸人の首に突き刺さった。彼は項垂れる様にして、秋羅の前で倒れた。

 

 

「何とか間に合った!」

 

「だ、大地さん!?(何か、秋ちゃんって呼ばれた気が……)」

 

「薬効いて良かった!効かなかったら、どうしようかと思った!」

 

「薬って……」

 

「特性麻酔薬!

 

暗輝達にも渡したから、多分今頃は……」

 

「はぁ……」

 

「しっかし、まさか15年前の事故の後遺症がここで発動するとは」

 

「15年前の事故?」

 

「あれ?聞いてない?

 

 

幸君初めとする、祓い屋全員は15年前ある実験台になって貰ったの。

 

懐かしいなぁ!その当時、暗輝も水輝も一緒にいてさぁ!」

 

「ちょっと待って下さい!

 

え?水輝さん達、本部の人だったんですか?」

 

「そうだよ。

 

元、ここの研究員。かなりの優秀な人材でね!

 

 

以前の所長がまだ生きてたら、二人共やめなかったはずよ」

 

「以前の所長って……」

 

「二人の実のお父さん!

 

育てられないからって、二人は施設で育ったけど……何か、見るからに仲の良い親子って感じだったわね!」

 

「……」

 

 

楽しそうに話す大地の声が、段々と聞こえなくなっていった秋羅は、眠っている幸人を見つめた。

 

 

(実験台って……)

 

 

「でも、あの子は残念だったわね」

 

「あの子?」

 

「幸君のガールフレンド!

 

そんで、今はもう亡き祓い屋の一人……」

 

 

言い掛けた瞬間、背後から陽介が彼の頭に踵落としを食らわせた。

 

 

「全く、お喋りインコが」

 

「……」

 

「秋羅」

 

「?」

 

「詳しい話は、幸人本人から聞くといい。

 

今回のことで、もう話してくれるだろう」

 

「……俺、幸人のこと何も」

 

「勘違いするな

 

彼は、余計な心配を掛けたくなかったんだ……だから、何も言わなかった。それだけだ」

 

「……」

 

「さぁ、合流地点へ行こう。

 

大地、さっさと起きろ」

 

「……陽君、相変わらず……容赦ない」

 

 

頭を抑え、千鳥足で大地は花琳を担いだ陽介の後をついて行った。

 

後ろからマリウスを支え、アリサと共に梨白が歩き、彼等に続いて秋羅は槍をケースにしまい、幸人を支え歩いて行った。

 

 

 

その頃、梗介達は水輝と暗輝が放った麻酔針のおかげで、戦闘は終わっていた。

 

 

「し、死ぬかと思った……」

 

「先生、相変わらず手加減してくれない……」

 

「師匠達、何で妖怪になったんですか?」

 

「あ~、こっちもか」

 

「まぁ……

 

 

説明は後で」

 

「……」

 

「……!

 

先輩!」

 

 

立ち上がった梗介の目の先には、幸人達を担ぐ陽介達がいた。

 

 

「よぉ!無事か」

 

「当たり前だ。

 

貴様等とは、鍛え方が違う」

 

「ヘイヘイ……」

 

 

“ドーン”

 

 

「!?

 

な、何だ!?」

 

「……!?

 

先輩、あれ!!」

 

 

窓の外から見える、硝子を突き破り天へと伸びた氷の柱……

 

 

「何だ、あれは……」

 

「あそこって、確か園庭がある場所じゃ」

 

 

次の瞬間、秋羅は駆け出した。彼に続いて、陽介も駆け出した。

 

 

「先輩!?どこ行くんですか!?」

 

「そこで待機してろ!!」

 

「え?!」




『ったく、何で俺等が実験台になんなきゃいけねぇんだよ』

『だって、所長がそう言うから』

『所長中心の生活か?この研究所は』

『実際は、奏歌君中心だよ。

私は、彼女の実験を中心に動いているだけだから』

『しょ、所長!?』

『久し振りだね。幸人君、創一郞君』

『お久し振りです』

『相変わらず、お元気そうで』

『全然元気じゃないよ。

そろそろガタがきてね』

『何言ってんだよ!親父!』

『さっきまで、脱走した獣妖怪を追い駆けてたくせに』

『暗輝、水輝、少し黙ってて』

『ヘーイ』
『ハーイ』

『久し振りに、お父さんと研究できるから、嬉しいのよね?』

『べ、別にそんなんじゃ!』

『保奈美、からかうな!』

『ハイハイ』

『モテモテだな、親父さん』

『アハハハ……』

『幸人ー!』

『うわっ!』

『動物みてぇに、毎回飛び付くな。愛』

『そして、その被害に遭う幸人も、毎回無防備だね』

『飛び付くな!毎度毎度!!』

『いいじゃん!別に~!

祓い屋になってから、幸人全然会ってくれないんだもん!』

『仕方ねぇだろ。仕事があるんだから』

『月影って、結構依頼来てるわよね?

師匠から聞いたけど』

『月影が、厄介な依頼を受けるから依頼しやすいんだと』

『あのクソ爺のせいで、何度死にかけたことか』

『えー!幸人、死んじゃ嫌!』

『死なねぇよ』

『そうそう。

今回の実験は、死人は出ないから』





死人は……




出ないから……
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