桜の奇跡 作:海苔弁
(……何がどうなってるんじゃ……
美麗、どこじゃ)
辺りに掛かっていた白い霧が、徐々に晴れてきた……蘭丸は霧の向こうにある、人影の元へ近付きそして目を見開いて、歩みを止め見つめた。
腰上まで長く真っ白な髪を伸ばした二十歳前後の女性が、血塗れになった黒髪の男を守るように立ち、ある一点を睨んでいた。
そこには、銃口を彼等に向ける奏歌の姿があった。
「……どうなってるの?
妖力が一気に上がったかと思ったら……あなたは、誰?」
「……
みれい……
伊吹……美麗……
それが……私の名前」
「……」
その時、獣の鳴き声が響いてきた……割れた硝子の天井から、二匹の竜が降り立った。そして二匹の背中から、天狐と地狐が降り美麗の元へ歩み寄った。
美麗は振り返り、二人を見つめた。
「……天狐……地狐」
『良かった……間に合った』
「……ひかるは?」
『まだだよ。
ほら、今は眠りなさい』
彼女の額にチョンと地狐は指を当てた。その瞬間、美麗は紅蓮と共に倒れた。意識を失った彼女の体に、天狐は手を当て妖気を吸い取った。すると、美麗の体は元の紫苑の体へと戻った。
『さてと……』
目付きを変え、二人は奏歌を睨んだ。
『君か……
麗桜を殺し、ひかるを殺したのは』
「人聞きの悪い言い方だね……
麗桜を殺ったのは、私の高祖父。そこで倒れている、彼を殺ったのは、曾祖父だ」
『その犯罪者の血を引いているのは、お前だ。
お前のせいで、妖界(アヤカシカイ)は乱れまくりだ。人を襲わなかった妖怪達は人を襲い、襲っていた妖怪はさらに酷くなり、人への被害は尋常ではない。
何故そうなったか、分かるか?
お前の先祖達が、ぬらりひょん……麗桜を殺したからだ!!』
妖力を全開にするかのようにして、妖気を放ち風を起こした二人。夥しい妖気に包まれた二人の背後から、9本と8本の尾が揺らいだ。
「……これが、俗に言う妖狐。
彼女は九尾かな?」
妖気が漂う中、紫苑の隣で倒れていた紅蓮はスッと目を開け、起き上がると炎を両手に溜め二人の前に立った。
『……紅蓮?』
『違う……』
『これ以上、美麗達が苦しむことはしないで欲しい。
するなら、今ここで君を殺してもいい』
(……凄い妖気だ。
今まで、感じたことのない……)
『ひかる、やめろ。
人になれなくなるぞ』
『なれなくなったて良い……
僕は……麗桜さんを殺した輩を、許したくはない』
徐々に大きくなる炎の拳……すると、今まで大人しくしていたぬらりひょん(クローン)が、彼の炎を消した。
『……』
『お前は……
我等の世界に、入ってくるな』
『……』
「紫苑!!」
駆け付けた秋羅は、柱を避けながら陽介と共に中へ入った。
「凄い氷の柱だ」
「多分、全部紫苑が出したやつだ」
「え?」
「アイツ、怒りの感情を感じた時に出すんです。
威嚇攻撃みたいに」
「そんな事が……
!?秋羅、伏せろ!」
突然飛んできた銃弾に、陽介は秋羅と共に地面に伏せた。顔を上げ、見た先にはぬらりひょん(クローン)と紅蓮、天狐達が立っていた。
「何で、地狐達が……(あの黒髪、確か紅蓮が人になった時の)」
「……!?
監察官!!」
柱に凭り掛かるようにして座り込んでいる、蘭丸の元へ駆け寄った。
『……また、邪魔が入った……』
『……』
黒い霧を漂わせながら、ぬらりひょん(クローン)はその場から姿を消した。消えると、紅蓮は倒れている紫苑の傍へ行き、彼女を抱き上げ温もりを感じるようにして抱き締めた。
そこへ、秋羅は駆け付け彼を不思議そうに見つめた。
「……お前、誰だ?」
『……月影か……
久し振りだね』
「……」
『君に会うのは、初めてか……
僕は、夜山晃(ヨヤマヒカル)。
美麗の家族だよ』
「みれいって……!?」
『そう……
この子の本当の名は、美麗……
夜山美麗……』
抱き締めた紫苑…美麗に目を向けながら、晃は秋羅に話した。
ぬらりひょん(クローン)が居なくなったことにより、場内に侵入していた妖怪達は、皆外へ出ていった。
妖怪化していた幸人達の体は、元の体へと戻った。戻ると、梗介は水輝と暗輝の指示に従いながら、彼等を医務室へと連れて行った。
夕方……
ベッドが並ぶ広間に、弟子達はいた。各々の前には、ベッドに横たわり眠る師達がいた。
部屋の隅には、落ち着きが無いエルと二匹の竜の頭を撫でる、地狐と天狐がいた。
場所は変わり、北の塔のある部屋……置かれていたベッドに、寝息を立て寝返りを打つ美麗に、傍にいた晃は毛布を掛け頭を一撫でした。
『当分は起きないよ。
彼女は僕が見ているから、君は皆の所へお帰り』
「……お前、本当に紅蓮か?」
『え?』
「いや、だって……
何か、普段と違うというか……」
『そうか……そういえば、そうだったね。
じゃあ、改めて。
僕は、夜山晃(ヨヤマヒカル)。美麗の義兄だった者だよ』
「……義兄って……
本当の兄妹じゃないのか?」
『まぁね、ちょっと複雑なんだよ……』
「……
お前が、紅蓮なら……お前の本体って言うのか?体は……」
『もう、100年経つかな。
僕は、もう今は亡き者だよ』
「……」
『死んだ当時、残った美麗が心配でね。
僕が死んだことと僕と過ごした日々の記憶を封じる代わりに、彼女の傍に置かせて貰ったんだよ』
「……その封じた記憶って……」
『……話したくない。
この記憶は、僕はもちろん……美麗にとって、辛く悲しい記憶だから』
「……」
どこか悲しい目で、晃は美麗の頭を撫でた。その様子に、秋羅は何も言えずふと周りを見て、ある物が目に留まった。
窓際の片隅に、置かれた机の上に飾ってあったボロボロのぬいぐるみを見るようにして、歩み寄った。
片耳と片目が取れかけ、白だったであろう部分は黒くなった、赤い首輪を着けた黒猫のぬいぐるみを秋羅はソッと、手に取り見つめた。
『それは、僕が美麗に送った誕生日プレゼント。
そんなになるまで、ずっと抱いていたんだね……彼女、美優さんが亡くなってから、心細くなって何か抱いていないと、寝られなくなってね』
「美優さん、やっぱり死んでたのか……」
『麗桜さんが亡くなった後、ショックで体を壊してね……
1年の療養の後に、そのまま……一人になった美麗を、僕が引き取ったんだ』
「麗桜?
誰ですか?」
『ぬらりひょんだよ』
「!?
じ、じゃあやっぱり……紫苑……
美麗は、ぬらりひょんの子供」
『正解。
彼女の本名は、伊吹美麗。
二人が死んだ後、僕が引き取ったから名字だけを変えて、今は夜山美麗』
「あの、引き取った時ってあなた何歳ですか?」
『確か、17だったかな?
ちなみに美麗は、3歳だよ』
「良く17で、そんな幼子引き取れたな!?」
『住んでた所、皆顔見知りだったからね』
「……」
その時、秋羅が持っていた無線が鳴り彼は無線に出た。しばらく話すと、無線を切り晃達の方に体を向けた。
「皆がいる、広間に戻ります。
それで……」
『大丈夫。ここは任せて』
「じゃあ、お願いします」
無線を手に、秋羅は部屋を出ていった。
二人っきりになった晃は、添い寝し彼女を抱き寄せ頭を撫でた。
(……美麗。
本当に……大きくなったね……)
人物紹介10
名前:伊吹麗桜(イブキリオ)
年齢:不明。現在故人。
容姿:腰下まで伸びた真っ白な髪を下ろしていた(妖怪化すると、後頭部が伸びそれを覆い隠すようにして、髪が逆立つ)。目の色は青。
説明:通称『魑魅魍魎の主・ぬらりひょん』。
美麗の父親であり、晃の義理の父親。
物静かだが、若干の子供心が残っており、少し好奇心旺盛。穏やかで心優しい性格な為、どの妖怪からも愛され、親しまれており彼を嫌う者はいなかった。また、地狐や天狐とは昔馴染みであり、親友であった。
名前:伊吹美優(イブキミユ:旧姓・弥勒院)
年齢:不明。現在故人。
容姿:桜色の腰まで伸びた髪を耳下で結っていた。目の色は赤。
説明:初代祓い屋。
美麗の母親であり、晃の義理の母親。
明るく清楚で、どこかのお姫様の様な女性だった。草花が好きで、中でも桜が一番のお気に入り。
精霊と妖怪の間に産まれた妖と普通の人間の間に産まれたが、産後すぐに母親が亡くなり、その数年後に父親も亡くなった。
半妖でありながら、父親の血を強く引いていたため、精霊達の力を借りての妖怪退治を得意としていた。その才能が認められ若くして、初代祓い屋となった。
名前:伊吹晃(イブキヒカル:又の名を、夜山晃)
年齢:享年不明。
容姿:短髪に横髪を胸下まで伸ばした黒髪(作業する際は、ハーフアップにしていた)。目の色は紅色。
説明:12歳の時に、実の両親を事故で亡くしてからずっと一人で生活していた。父親が妖怪研究家だった為、父が完成することができなかった妖怪図鑑を完成させ、後に妖怪博士と呼ばれるようになる。
名前:伊吹美麗(イブキミレイ:又の名を、夜山美麗)
年齢:115歳
容姿:腰まで伸びた真っ白な髪を、一つ三つ編みにしていた。目の色は赤。
説明:美優と麗桜の子供であり、ぬらりひょんの子供と呼ばれていた。物心つく前に、父親が死去。後に母親も病に倒れ、1年後死去。その後は周りに助けられながら、晃と穏やかな日々を過ごす。
好奇心旺盛な為、危険なことにすぐ首を突っ込む。産まれた頃から、精霊達を扱いさらに氷を自由自在に操ることができる。
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秋羅達と過ごしていた紫苑と彼女は、同一人物。