桜の奇跡 作:海苔弁
「秋羅さん!
何か、このグリフォンいきなり暴れ出して!!」
「さっきから落ち着きがなくて……」
火那瑪と敬から手綱を貰い、秋羅はエルを落ち着かせた。彼の姿を見たエルは、嘴を近寄らせ擦り寄せた。
「今は紫苑に会えない。少し大人しくしてろ」
その言葉を理解したのか、エルは秋羅の後ろへ行き彼に寄り添うようにして、床に座った。
「やはり、秋羅じゃないと駄目みたいですね」
「敬さんの場合は、突かれるのが目に見えてますからね」
「うるせぇな!!チビ!」
「これから大きくなるから、チビじゃないですぅ!!」
「子供相手に、大人げないぞ」
「本当に、祓い屋の弟子ですか?」
「正真正銘、土影の弟子だ!」
「騒いでるところ申し訳ないけど、そろそろ話してもいいかしら?」
ヒールの音と共に、奏歌と大地、翔、陽介と頭に包帯を巻いた蘭丸と彼を支えるようにして隣に立つ、梗介がいた。
「未だに目は覚まさないか……」
「そりゃあそうでしょうよ。
かなりの体力と霊力を使ったんだから。相当体に応えたはずよ」
「少なくとも、今目が覚めても二三日は寝てて貰わないと」
「そんな……」
「それより、話してくれませんか?
15年前の事故のこと」
「?」
「事故?」
「15年前、俺等弟子達と地狐達を除くここにいる人達は知ってますよね?
俺等の師匠達と一緒に、実験して失敗した。その結果何人か、死んでいる」
秋羅の迷いのない言葉に、奏歌は彼を見つめた。その隣で焦りを隠せない大地と驚くあまり、口をポッカリと開けた翔が彼女と秋羅を交互に見た。
「……あなた達には、何も話していないようね?その師匠達は」
「あぁ……」
「……良いわ。
教えてあげましょう。丁度、その当時現場にいた被害者と加害者達がいるんですから」
ポケットから出した煙草を取り、口に銜え火を点けながら奏歌は淡々と喋り出した。
「15年前、討伐隊は祓い屋にある実験台になってほしいと申し立てた」
「実験台って、どんな?」
「単に、妖怪から採取した血液を人の体内に入れ、妖力……人で言う霊力を上げるための実験だ。
マウス実験は成功していたから、次の段階である人になったわけだ」
「何故、師匠達が?
その当時の師匠達がやっても」
「15年前当時の祓い屋は、皆既に50を過ぎていた。
体力と霊力が明らかに、充分にない。
だから、未来を託すようにして、自分達の弟子達を捧げたんだ」
「……」
「当時、まだ祓い屋の弟子になったばかりだった幸人達からにとっちゃ、普段と変わらない大地の実験台にされて失敗して、死にはしないけど嫌な苦痛を味わうってだけのつもりだった。
私も暗輝も、あの時はそう思っていた……」
「集められた祓い屋は、計9人。
何の疑いもなく、実験に踏み込んだ」
「え?9人?」
「祓い屋って、確か8人のはずじゃ」
「……
亡くなったんだよ……
師弟共々」
「?!」
「元々、祓い屋は9人。
太陽系の星々にちなんで、出来たとされている。
月を司る祓い屋、月影。
水星を司る祓い屋、水影。
金星を司る祓い屋、金影。
火星を司る祓い屋、火影。
木星を司る祓い屋、木影。
土星を司る祓い屋、土影。
天王星を司る祓い屋、紅影。
海王星を司る祓い屋、海影。
そして……今は亡き祓い屋。
冥王星を司る祓い屋、冥影」
「冥影……
聞いたことねぇなぁ」
「私も……」
「もう15年も前のことだからね……
時代と共に、消えた祓い屋だから君等が知らなくて当然だよ」
「その冥影って、どういう人だったんですか?」
「師の名は、冥影刹那(メイカゲセツナ)。当時にして他の祓い屋より、一回り年上だった女性だ。
気難しい女でね。他の祓い屋達が手を焼いていた」
ファイルから出した一枚の写真を、奏歌は秋羅達に見せた。そこに写っているのは、灰色のボブカットに黒いサングラスを、頭に掛けた女性だった。
「……あの、これ本当に一回り年上の女性ですか?」
「本当だ。
年齢は、当時65歳……亡くなった歳も、同じだ」
「嘘……」
「ついでに教えとく。
月影の師は、56歳。
水影の師は、50歳。
金影の師は、52歳。
火影の師は、51歳。
木影の師は、54歳。
土影の師は、52歳。
紅影の師は、53歳。
海影の師は、55歳だ」
「全員50代って……
何か、凄えな」
「ママ達と同じように、皆顔見知りなの?」
「冥影と月影は昔馴染み。
紅影と海影は、血が繋がっていないが同じ一族の者。
後は皆、赤の他人だ」
「私達は、昔から因縁みたいなのがあったのね」
「……だな」
「話を戻そう。
冥影の弟子の名が、冥影愛(メイカゲアイ)。当時17歳。唯一、師の刹那が心を許した弟子だ」
そう言って、ファイルから出したもう一枚の写真を、奏歌は秋羅達に見せた。そこに写っているのは、若かりし頃の幸人の腕を掴み、笑顔を見せる橙色のミディアムヘアをサイドテールにした少女が写っていた。
「これが……」
「祓い屋の弟子……」
「あの……
何でこの写真、幸人が写ってるんですか?」
「凄い若い」
「愛は施設に居た頃から、幸人にゾッコンだったから」
「ゾッコン?」
「……って事は……」
「この愛って人は……」
「幸人の……恋人」
「正解」
「……嘘ぉ!!?」
「まぁ、驚くのも無理は無いか……
また話がズレた。戻すよ。
疑いもなく、実験に踏み込んだ彼等の体内に妖怪の血を投与した。
それから間もなくだった……彼等の体に異変が起きたのは」
「異変?」
「突然、何かに洗脳されたかのように暴れ出した……
すぐに拘束しようとしたが、間に合わなかった……幸人達の体は、見る見るうちに変わっていきやがて妖怪化した。
そして、1人が暴走した妖力を放ち研究所を爆破した……」
「!!」
「しばらくして、目が覚めた時……
泣いていたんだ……」
「泣いていた?」
「誰が?」
「……肉の塊を抱き締めた、幸人が……」
「肉の塊って……まさか」
「事故の被害者は、俺達6人の研究員と祓い屋9人とその弟子9人の計24人。
その内の死者は、3人。
前所長であり、俺と水輝の父親だった星空龍輝。
そして、冥影刹那とその愛弟子の愛の計3人」
「月影が抱き締めていたのは、DNA鑑定の結果冥影だった」
「っ!!」
「冥影は、妖力に耐えることが出来ずに体内で暴発させてしまい、想像を絶する姿になった。
そんな彼女を助けようと、冥影の師は爆破する前に彼女の元へ駆け寄った……それを止めようと、前所長は追い駆けた」
「そして、爆破に巻き込まれ3人とも死亡」
「この事故以降、祓い屋達は後遺症を患ってしまった」
「後遺症?何ですか?」
「霊力が増幅してしまう後遺症。
自分で抑えることが、出来なくなってしまったの……」
「まぁ、それを抑えるために薬を出したんだけどね」
「……」
「それから間もなくだった……
私と暗輝が、研究員を辞めたのは」
「……」
「……?」
話を聞いていた秋羅は自身の手に、何かが握る感覚があり、ふと手元を見た。幸人の手が自身の手を掴んでいた……そして、彼はゆっくりと目を開けた。
「幸人!!」
「……
また闇だけかと思ったが、今回は違って良かった」
「闇?」
「こっちの話だ」
「悪いけど、15年前の事話したよ」
「別にいい。
この会議終わった後、秋羅に話すつもりだった……多分、他の奴等もそうしただろうよ」
「……」
「さて、15年前の話はこれでいいでしょう。
次の話行くわよ」
「話?」
「単刀直入に言うわ。
紫苑事、夜山美麗を本部で保護させて貰うわよ」